2話 オオカミくん
「お腹空いた! お腹空いた!」
「うーん、お腹が空いてるみたいだね。でもこのパン、スライムくんに食べさせようと思ったものだし……」
「変な所で持ち前の優しさ発揮しなくていいんだよ、何でもいいから食べさせて!」
「でもなぁ、パンの焦げって美味しいと思う人居るよね」
「今さらっと焦がしたって言わなかった? よく食べさせようと思ったね、てか丸焦げだよ!」
失礼だ、一番の出来が悪い奴を持って来たんだから僕を褒めて欲しい。焦げだって全身に広がってるだけで中身は無事な筈である。でも、一回も味見していない物を食べさせるのは抵抗があるな。
「気を反らせる物でも、そうだ。えいっ」
「何だあれ! 何だあれ!」
「木の枝なんか投げて……あ、狼が枝拾ってる! 本能かな」
よし、今の内だ。僕はあげようと思ったパンを割って中身を確かめる。特に問題はなさそうだ、やけに黒い気もするがご飯を貰って嫌な顔をする狼は居ないだろう。
「これ、少ないけど腹の足しにして」
「不味いけど有難う!」
「素直だなぁ……。もうぼくの事追ったりしないでくれよ」
「ご飯が喋ってる! 不気味だ!」
「ぼくはスライムだっての!」
実はスライムくんと狼って仲がいいんじゃないだろうか。捕食者と被食者の関係になりそうだから違うか。ともあれ、狼くんの問題は解決された。僕は残った何処からどう見ても焦げたパンに見える半分をスライムくんにあげる事にした。
「自信作だよ、ご賞味下され」
「折角だけど遠慮しておくね、旅のお供にとっておいたらいいんじゃないかな」
「それもそうだね、よっこいしょと」
「……ぼくを頭に乗せてどうするつもりだい」
それは勿論、一緒に旅に連れて行くつもりですけれど。事情を話してみれば、なんだと呆れ顔をされる。
「服を売ってさっさとそのばけつ取って貰えばいいじゃないか」
「だって、変な人に自分の服を売るのは抵抗が……」
「ばけつ被ってる変人に言われたくないだろうなぁ……」
失礼な、このバケツは外れないだけなんだよ。言いたい事も少しあったが、僕はスライムくんを頭に乗せて森の出口へと進む事にした。