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終末への想像力  作者: 小島 剛
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ピンピンコロリ

 「ピンピンコロリ」とか「アンチエイジング」とか「未病革命」といった、見た瞬間「無理」と断定せざるを得ない概念がまかり通るのである。

参議院議員の片山さつき氏は『みんなの介護』というWebページの「第10回 賢人論」というインタビュー記事の中で、


「今こそ、健康に長生きするということ、『ピンピンコロリ』というのはどういうことなのか?どうすれば、そこに持っていけるのか?と、真剣に考えなければいけないんです」

といっている。


そのための彼女の言うところの解決策がICT(インフォメーション アンド コミュニケーション テクノロジー)なのだという。


 内容はここでは詳述しない。


 私には、あまりにも実現不能すぎて、狂人のたわごとのようにしか思えないからである。

何しろ人間のあらゆる状態を「未病」ととらえ、健康な状態からいきなり死へと持っていくにはどうすればいいか、その方法を科学技術を用いて思いつけというのだ。

そこには、赤ちゃんの弱さも、病気の苦しみも、障害の不都合も、老いの衰えも想定されていない。

こう言われると人生は苦しくてしょうがなくなることは明白ではないか。

人生につきものの苦悩、苦痛、弱さ、衰え、醜さは一切片づけられ、憐れみや助力、同情、福祉、哀悼などはすべてせいぜい「インモラル」「甘え」「逸脱」などとラベリングされてしまう。

そんな社会は人間には耐えがたいとしか言いようがない。

だから現代日本は耐え難い社会なのであろう、片山さつき氏は『未病革命2030』という本も書いているそうだが、安倍首相も「ざっとそれを読んで」、「『すごく分かりやすい』『これがリアルなんだね』とご理解していただけましたよ」とのことである。




 なるほど、と思う。

だから、妊娠できないし、赤ちゃんは存在できなくなってくるし、病気でもあたかも健康であるかのように会社に行かねばならないし、障害年金はどんどん削られていくし、保育人材も介護人材も増えていかないし、老いても衰えないから現有世代には十分年金の受給できる可能性がない。

何しろ、こういう状態は「インモラル」「甘え」「逸脱」だから、世界から抹消すればいいのだ。

インフォメーション アンド コミュニケーション テクノロジーとはなんとすばらしい着想なのだろう。

至極リーズナブルなことだ…。




 私は賢人ではなくて愚人であると自覚しているから、自称「賢人」の中に愚かさを見るし、愚かとされている人の中に賢明さを見る。

600年前の室町時代人や2000年前の古代ユダヤ人のほうが、ある点では現代に生きるわれわれより賢いのであって、その「弱さ」「滅び」へのセンスこそ、現代人が忘却の彼方から引き戻して謙虚に学ぶ点なのではないだろうか。

 



 そんな昔の人間のたわごとは忘れてしまえとばかりに、しおれた花を踏みにじり、「わたしを憐れんでください」と千何百年このかた読み、語り、歌い上げてきた聖書の決まり文句などただの甘え、インモラルだ、と嘲笑と痛罵を浴びせるのが当世流なのかもしれない。

だが、我々は思い出さなければならない。




昔の人はもっと透徹した世界観を持っていたし、人生を正確に把握していたということを。



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