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自称・学園のアイドルはツインテールのツンデレで

 ラノベ主人公には幼なじみという存在が不可欠であるように思う。


 近所に住んでいる同い年の女の子が、毎朝起こしに来てくれるとまでは言わないけれど、小中高と同じ学校に通い、歯牙にもかけない間柄になることはラノベにおいては多々あるのだ。

 ならば逆説的に、幼なじみがいることで、自分はラノベ主人公であるともいえなくもないのではないか。


 という旨のことを星ヶ丘に語りかけていたら、


「あんたはえそらに幼なじみになってほしいの?」


 なんて言ってきやがった。


「そういうわけじゃないけど。そもそも幼なじみってなろうと思ってなれるわけじゃないだろ?」

「そりゃそうだ。てか頼まれてもえそらはあんたの幼なじみになる気はないし」


 彼女は顔をしかめると、イヤそうにそう吐き捨てた。


 星ヶ丘(ほしがおか)えそら。


 それがいま話してるクラスメートの名前だ。

 初めてその名前を知ったときは「ラノベのヒロインみたいな名前だ!」と興味をもったものだけど、そんなに可愛いものじゃなかった。

 なんせ、


「いい? あんたはえそらのファンなんだから。それ以上の関係を望んじゃだめよ」


 これだ。


 ラブコメには学園のアイドルというものがいる。

 学園で一番かわいい女の子に与えられる称号。たいていはファンクラブが発足していて、中には親衛隊まであるやつもいるのだから驚きだ。

 現実離れしている存在、ラノベの中だけの存在。

 だというのに、なにを血迷ったか、この星ヶ丘えそらは自分を学園のアイドルだと思い込んでいて、彼女の中では、俺は彼女のファンらしい。


「……はあ」

「なにため息ついてんの?」

「いや、しょせん俺はラノベ主人公にもなれないモブキャラだから。謎の転校生は来ないし、幼なじみはいないし、せいぜい自称学園のアイドルのファンがお似合いだよなあ、と思ってさ」

「光栄に思いなさい」

「そんなドヤ顔で言われましても」


 ちなみに、その学園のアイドルと二人きり、教室の片隅で語り合っているというのに周囲はまったく俺たちに関心を持っていない。

 おい、いいのか? アイドル独り占めしちゃってるぞ、……なんてな。

 星ヶ丘はツインテールを、さっ、とかき上げると(こいつ、高校生にもなってツインテールにしているのだ……っ!)、俺を見下しながら言う。


「そういえば昨日の転校生の件だけど、あんた日比野に、どうして転校生が来ないのか、ってずいぶん食いついてたわよね? あれってどうして?」

「えっ」


 突然、もっとも触れられたくないことに言及されてたじろいだ。

 星ヶ丘が言っているのは、昨日の「転校生不登校事件」のことだ。


「どうしてって……、それはその」


 口ごもる。


「もしかして、可愛い女の子に来てほしかったから、とか?」

「そ、そんなわけないだろ! 中学生男子かよ」


 ずばり図星だったけど、とっさに俺は否定した。

 

 ……のだけれど。

 それでもほんとうは心のうちで今すぐに叫びだしたかったほどに、昨日の事件は俺の心の奥に引っかかっていたりした。


『ちっくしょう!』って。

『どうして転校生は教室に来ないんだよ!』って。

『転校生が俺を学園ラブコメの主人公にしてくれるんじゃなかったのかよ!』って。


 だけど転校生に未練たらたらだなんて星ヶ丘にバレるのも恥ずかしいから、俺は何でもないふりをした。

 星ヶ丘は「ふうん」と興味なさそうに呟いて、


「それならいいんだけど。でももしそうだったら、えそら怒るから」

「いや、なんでだよ」


 転校生にかわいい女の子を求めるのは間違っていると言うのか。

 学校生活にささやかなラブコメを期待しようと俺の勝手だろ。

 抗議の意味も込めて星ヶ丘を半眼で見つめると、彼女はムッとした様子で、


「いい? あんたはえそらのファンなの。こんなにかわいい学園のアイドルが目の前にいるんだから、えそらだけを見てればいいのよ」

「……っ。……あのさ、前々から言おう言おうと思ってたけど、自分で自分こと可愛いっていうのやめた方がいいよ。あと、自分のことを『えそら』って名前で呼ぶのもやめた方がいい。性格悪く聞こえるから」

「でもえそらがかわいいのはほんとだしぃ。この学校で一番だしぃ」

「星ヶ丘って同姓の友達いないだろ、絶対そうだろ」

「えそらは学園のアイドルだから。えそらに友達がいないのはえそらが高嶺の花だからなの。女子はえそらに嫉妬しちゃうし、男子はえそらの親衛隊に阻まれて話しかけれないのよ。あんたとは違うわ」

「……ああそうかよ。勝手に言ってろ」


 ちなみに、

 星ヶ丘に親衛隊などいない。

 てか、こいつ休み時間のあいだずっと寝たふりしてるしな。


 この周りが見えていないお姫様に、俺はくぎを刺すつもりで軽口を叩くことにした。


「でも自称学園のアイドル様は余裕だな」

「なにがよ?」

「だってさ、もし転校生が教室に来て、その子がおまえ以上の美少女だったらどうするつもりなんだ? 転校生はとんでもなく美少女だぞ? 一瞬で学校中の話題をさらうぞ?」


 学園ラブコメのお決まりである。しかし星ヶ丘はそれを聞くと鼻で笑った。


「はっ、笑止。アイドルはね、外見だけじゃなくて中身が一番大切なのよ。ポッと出の転校生なんかに、えそらの代わりが務まるもんですか!」


 こ、こいつは……っ!

 この期に及んで自分の中身がいいと思ってるんのかよ!

 お前の長所は外見だろうが!


「はあ……」


 よっぽどそう言ってやりたかったけど、こぼれたのはため息が一つ。

 もはや、こいつには呆れを通り越して、いっそ尊敬を覚えるほどだった。


 思う。

 こいつの学園のアイドルなどという妄想は、いわゆる一つの武装なのだ。


 俺がラノベ主人公に憧れるように、彼女のそれも一種の中二病なんだろう。

 自分の考えた設定を、周囲に溶け込めない理由にする――


 ――学園ラブコメの主人公はいつも冴えなくてパッとしないやつだから。

 ――学園のアイドルは孤高の存在で、周りから一歩距離を置かれてるから。


 それは簡単に周囲に溶け込めてしまえるようなやつらからは理解されない行動だろうけど、俺には星ヶ丘の気持ちが分かるような気がした。


 まあ、星ヶ丘本人にしてみれば「わかってたまるかボケェ」って感じだろうけど。

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