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学園ラブコメ主人公はモノローグがお好き

 俺、伏屋タダヒトはライトノベルが好きだ。


 自分で言うのもなんだが、それはそれは正真正銘のラノベオタクで、高校に入った今となっては、教室であってもラノベをニヤニヤと読むし、Web小説であってもニヤニヤと読むし、なんであっても美少女が出てくるものはニヤニヤと読んだ。傍から見れば気色が悪いが、周りが見えなくなってしまうくらい、好きなものは好きなのだった。


 そんな限界ラノベオタクの俺も、生まれる前からラノベを読んでいたわけではない。

 きっかけは一冊のラノベ、たしか近所の図書館だった。


「わ、わ、わ、わ、わ」


 何気なく手にとってみて、何気なく開いてみた文庫本のそのページ。

 ()()を視界に収めたとたん、俺は年齢制限的ないけないものを目の当たりにしてしまったときのように、見ないようにしてもそれでもやっぱり見てしまうように、ただそのページのくぎ付けとなった。


 ――ライトノベル。


 通称をラノベとも略されるその小説群は、今どき珍しいピュアボーイであった中学二年生の俺にとって、少々刺激が強すぎたのだ。


「わ、わ、わ、わ、わ、うわあ……」


 ラノベには一般文芸には見られない特徴がある。これこそがラノベをラノベたらしめる要素であるのだが、つまりラノベには、


「女の子の絵だ……」


 挿絵があるのだ。

 しかも、その挿絵のなかにはエッチなものも珍しくなく、


「しかも、全裸だ……」


 俺には姉もいなければ妹もいない。女の子の裸というものをこのとき人生で初めて見た。

 たしかにそれはイラストであったけど、ましてや大事な部分はちゃんと隠れていたけれど、それでも俺は思った。


 ――これ、絶対エロ本だ。


 慌ててその文庫本を閉じて周囲をぶんぶんと見渡して、改めて人がいないことを確認してまたそのページを開くと、やっぱり全裸の美少女がそこにいて、


「……ごくり」


 公立の図書館の出来事である。

 公立の図書館にも十八禁コーナーはあるのだなあと、妙に感慨深げに思ったことを覚えている。


 ――読んでみようかな。


 ふと思った。

 そのラノベの表紙を見るとそこにはかわいい女の子のイラスト。それとタイトルがポップ調で書かれていて、俺はそのタイトルを口のなかでそっと呟いてみた。


「〈モブキャラ転校生さんと学園ラブコメ主人公な俺〉……タイトルながっ!」


 少なくとも、いままで読んできた小説のどれよりも長い。

 うーん、そういうものなのだろうか。まあいいや。

 はやる気持ちを抑えつつ、期待が一割、下心が九割で、俺は最初のページをめくった。


   ◇ ◇ ◇


 それからは一瞬だった。

 気が付くと日は落ちていて、図書館のなかは蛍光灯の白い光で照らされている。


「……ふう」


 ため息をひとつ。

 作者のあとがきまでじっくりと目を通したあと、名残惜しく思いながら文庫本を閉じる。

 目を瞑るとまぶたの裏で、今さっきまで活躍していた登場人物たちがいまだにぐるぐると動き回っていた。


 衝撃だった。


 別に文章がうまいわけじゃない。展開だって読んでいてご都合主義が気になった。

 恋愛小説とみるにはヒロインが主人公のことを簡単に好きになりすぎだし、その主人公にしたって冴えないただの男子高校生だった。

 これじゃあ小説というよりは漫画を文章にしたようなものだし、それにしても中学生の妄想が過ぎた。

 だけど。

 どこかで俺はこのふしぎな小説に、たまらなく惹かれていたんだ。


 ――冴えない男の子が、かわいい女の子たちに囲まれて賑やかな学校生活を送る。


 簡単にいえばそれだけの物語。だけどそれこそまさに俺が切望して、けれども諦めていた理想の学校生活そのものだった。

 勉強も運動も平凡で、自慢できる特技もなく、友達といえるものは本くらい。そんな俺の境遇が、この物語の主人公とぴったりと重なる。


 これは、俺のために書かれた小説だ。


 ライトノベルを読んでいるとき、俺は間違いなくその物語の主人公で、俺は物語の中でヒロインの女の子と出会って、いがみ合いながらも距離を縮めて、最終的には女の子の悩みを解決して、惚れられて……。


 気が付くと俺はラノベを読み漁るようになっていた。

 少しでも長い間、本の中でだけでも、ラノベ主人公になっていたかった。


 その思いは高校一年になっても変わらず、つまりは今も、俺はラノベ主人公に憧れている。

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