儚き乙女の視線の先
アマチュア民俗学者。
それが高校二年生という他に持っている僕の肩書きである。
ぜんぜん世に知られていないどころか、単に自称しているだけなのだけれど、僕はこの肩書きが気にいっている。
だってただのオタクって言うよりもかっこいいじゃない?
ちなみに、研究対象は今から半世紀前に流行ったネット小説だ。つまり僕のするフィールドワークのフィールドはもっぱら旧ネットワーク上にある。
ネット小説のなにが面白いって、冴えない主人公たちが異世界に転生して、無双するという設定が気にいっている。
それは現実世界における僕が単に冴えないやつで自己投影しているから、と言うわけではない。うん、ほんと。
祖父が昔はこう言う小説もあったんだぞう、なんて呟いていて、それをキッカケにウェブから探し出したら、案外ハマってしまった。
ただ、探し出すまでが大変だった。
僕たちのツールが新しすぎて、小説自体が移行していなかったのだ。
今では使われていないパソコンを起動して、ウェブ媒体を隅から隅まで舐め回すようにして探したのが功を奏した。一つ発掘したら芋づる式に出てきたのだ。中でも『小説家になろう』というサイトには小説の宝の山が眠っている。
母さんにはそんな昔の液晶なんて使って目を悪くするからやめなさい、なんて言うけど、ハマってしまったのだから仕方がない。
高校生の粘着力をなめないでもらいたい。
「ネット小説」なるものにハマって以来、僕は家の中ではアマチュア民俗学者で、学校では高校生だ。
僕はその点において、少し変わっていると言えるかもしれない。
でも、僕の変わっているところと言えばそれくらいで、僕自体は可でも不可でもない。
普通の高校に通っていて、図書委員をしていて、ほとんど遊びみたいなバスケ部に在籍していて、それなりに友達もいる。
彫りの深い顔立ちが外国人みたいだね、と言われることはあっても、言われるだけで決してモテない。
ほんと、どこにでもいる高校生だ。
なのに、ここ最近、僕の周りでは立て続けに変なことが起きている。
*
「ねえ、大木くん。消しゴム貸してくれない?」
隣の席に座っている桃井さんが、ちら、と上目遣いで僕をみる。
ちなみに僕の席は小説でお決まりの窓側の最後列だ。
くじ引きでそうなったわけだけど、実際に座ってみると何がいいのか分からない。
桃井さんはだから僕の唯一のお隣さんということになる。
人気者の桃井さんの隣になったことで、いろんな奴からやっかまれたけど、僕はいまいち彼女が苦手だ。
いや、別に彼女のことを嫌いだって言えるほどよく知っているわけでもないし、前は廊下で見かけるとなんか可愛いこがいるんだな、くらいに思っていた。
だけど、二年生になって同じクラスに上がってから気がついた。
彼女の周りってとっても騒がしい。
休み時間になると、入れ替わり立ち替わりで男どもが桃井さん目当てに押しかけてくる。
その口説き文句の気持ち悪いこと、悪いこと。
女の子なら嬉しいのかもしれないけど、同じ男からすると鳥肌が立ちそうなくらい気持ち悪い。
だって、ねえ。
君は俺にとっての薔薇だ、なんて僕は口が裂けても言えない。
ほんとにこいつら僕と同じ高校生か、と疑ってしまう。
僕の思い描いていた高校生の健全な恋とはかけ離れているのだ。
なんか粘着質。
なんかこわい。
僕が恋愛初心者だからってだけじゃないと思う。
その気持ち悪い取り巻きに、内心ドン引いていたら、ついでに桃井さんも苦手になってしまった。
きっと悪い子じゃないんだろうけど。
「はい、どうぞ」
だから会話も当たり障りのないものになってしまう。
桃井さんごめんなさい。
「わあ、ありがとう」
消しゴムくらいで、にっこお、と微笑んでくれる桃井さんはやっぱりかわいいんだけどね。
「どういたしまして」
ううん、さっきからチラチラこっちを振り返っている奴ら、こっち見るな。
*
「なあ、すぎる。さっき桃井さんと話してたろ。いいなあ」
「消しゴム貸しただけだって」
休み時間。
友達の栄太が腕を僕の首に絡ませて、いちゃもんを付けてくる。
会話をするだけでこうして話題になる桃井さんってやっぱりすごい。
「羨ましすぎる。ずるすぎる。なあ、すぎる、席変わってくれよ」
僕の名前を連呼している栄太は、桃井さんのファンなんだそうだ。
「そんなに好きなら、直接話しかけたらいいだろ」
桃井さんは、教卓で数学の先生と何かを話し込んでいる。とっても楽しそうだ。もしかしたら桃井さんは成績も優秀なのかもしれない。
「俺が? むりむり。むーりー。俺なんかじゃ無理に決まってんじゃん。見てるだけでいいんだよ」
テンションが高い。この照れ屋め。
桃井さんに話しかけるのはそんなにハードル高くないと思うけどなあ。取り巻きがいないときなら、彼女はそんなに悪い人じゃない。
まあ、でも、好きな人に話しかけるのをためらう気持ちは分かる。
恥ずかしいし、拒否されたらどしようって思ってしまうんだろう。
男子高校生って案外純情なんである。
かくいう僕にも話したことがないけれど、話してみたい人が一人いる。
同じクラスメイトの楠木さんだ。
背中まで伸ばした真っ黒な髪のせいか、その真っ白の肌のせいか、休み時間によく本を読んでいるせいか、彼女はとにかく浮世離れしている印象を与える。
なんていうか、小説風に言うなら貴族のご令嬢、といった風だ。実際、家は資産家らしいし。
だいたい、本なんて今時、ほとんどの人が読んでいない。みんな、電子書籍を読むからだ。本をわざわざ好んで読むのは、変わっているお金持ちくらいだろう。
彼女の存在は、高校の乱雑なクラスにはなんだか似合わないのだ。
それは僕だけじゃなくて、ほかの男子も思っていることで、彼女に積極的に話しかける男子を僕は知らない。
でも、きっと多くの人が彼女と話して見たいと思っていることだろう。
男子の友達はいないけど、楠木さんには女の子の友達がたくさんいるみたいだ。
よく女の子に囲まれている。
そして楠木さんは、誰にでもにこやかな桃井さんが、たぶん、唯一苦手にしている人でもある。
「なによ、あの子」
一度、そう呟いているのを聞いてしまった。
たぶん、授業がちょうど始まろうとしていたときだった。
周りに聞こえないように小声だったけど、隣に座っていた僕にはバッチリ聞こえた。
その可愛らしい声にこもっている怒りに僕はびっくりしてしまった。
桃井さんも怒りを外に出したりするらしい。
僕はそれを思い出すと思わず口元に笑いを浮かべてしまう。
まるで悪役のセリフみたいだからだ。
桃井さんがネット小説によく出てくる逆ハーもののゲームの主人公だったら、さしずめ楠木さんは主人公を阻止しようとする転生者だろう。
それにぴったりのセリフだ。
もちろん、ここは現実で、そんなわけはない。繰り返すけど、ここは現実なのだ。
それに、桃井さんと楠木さんが話しているのを見たことがない。
楠木さんは、桃井さんにまったく関心がなさそうだ。
きっと、桃井さんもたまたま虫の居所が悪かったのだろう。
*
放課後。
体育館で部活に勤しんでいた僕は、教室に水筒を忘れたことに気がついた。
友達からもらってもいいけど、水筒は部活がある限り明日も使うのだ。
だから、途中で抜け出して教室まで取りに行くことにした。
監督がとっとと戻ってこい、って怒鳴っている。
廊下の窓から見える空は、もう日が暮れかけていた。
こう言うのを青春っていうのかなあなんて考えていたから、教室の前にいる人影にすぐには気がつかなかった。
「あれ、大木くん?」
女の子らしく高い声。
「桃井さん」
取り巻きを誰も連れていない桃井さんなんて珍しい。
そんな僕の思いとは裏腹に桃井さんはにこりと微笑んだ。
地毛だという茶色がかったポニーテールが揺れる。
「こんな時間まで残っているなんてめずらしいね」
僕は足を止めようか、どうしようか迷って結局足を止めた。
「うん」
桃井さんがこくりと頷いて、下を向く。
どっちみち教室に入るのに、桃井さんに道を譲ってもらわなきゃいけない。
それを無視して前の扉から入るのもなんだか変だ。
「どうしたの?」
「あの、もしかしたら、大木くんに会えるかもって思ったから」
意外な言葉に僕はびっくりする。
「え、僕。ここに水筒取りに来ただけだけど」
なんでここまで来るってわかったんだろう。
「あのね」
なんだか鼻にかかったような声に体がむずむずする。
「あたし、大木くんと席隣じゃない?」
「うん。そうだね」
なんでそんな分かりきったことを言うんだろう。
「あたし、誤解されやすいからもしかして大木くんに嫌われているんじゃないかなって思って」
「そんなことないよ」
僕が桃井さんをどんな風に誤解すると言うんだろう。
「そっか。よかった」
僕の言葉に桃井さんは安心してくれたみたいだ。
ほっと息をつくと、奇想天外なこと僕に告げた。
「あのね、あたし、もっと大木くんと仲良くなりたいなって思っているの」
唐突な言葉に僕はどうしたらいいんだろうかと、ドギマギする。
よく分からないなりに、一応、僕は聞いてみた。
「もしかして、僕、今、告白されてる?」
あの人気者の桃井さんが?
いやいやそんなわけないだろう、と己を諌めたわけだけど、一応、確認しておくに越したことはないだろうと思ったのだ。
だけど、その対応がまずかったのかもしれない。
最高に無粋な言葉は桃井さんを傷つけてしまったようだった。
桃井さんはみるみるうちに顔を真っ赤に染めていって、
「え、え、ちがうから!」
とかなんとか言って走り去っていった。
なんだったんだろう。
とりあえず、明日謝ろう。
そう思った。
*
引き戸を開けて教室の中に入る。
夕日が教室に差し込んでいる。
窓際に制服の女子が一人、腰掛けて外を眺めていた。
楠木さんだ。
もしかして今の聞こえてたかな。
ちらりと思う。
やましいことではないけど。
「もしかして、今の聞こえていた?」
一応聞いてみる。
僕の言葉に楠木さんは振り返りもせずに言った。
「青春ね」
「やっぱり?」
後から思えば、これが僕と楠木さんのファーストコンタクトだったのだ。
でもその時の僕は、うわ、やべ、とか考えていたわけで、そんなことは頭になかった。
見られた。
よりによって楠木さんに。
困った僕は曖昧に笑う。
楠木さんもくすくすと笑い漏らした。
そうしてようやく僕に振り返る。
光に包まれた楠木さんは、まるで天使みたいだ。
「気にくわないわ」
しかし、静かでおしとやかだと思っていた楠木さんから、いきなり荒々しい言葉が出てきた。
なんとか会話を繋ごうと、僕は疑問を問いかける。
「え、桃井さんが?」
「ええ、そうよ」
楠木さんは臆面もなく肯定した。
楠木さんでも男の人にモテたいって思うんだ。
とっても意外だ。そんなことにまるで関心がないと思っていた。
たった三言の会話で、僕の中の楠木さんが塗り替えられる。
ところが楠木さんはため息をついた。
「違うわよ」
なんだか色っぽくて、どきりとする。
「え、なにが?」
「今、わたしも男の子にモテたいと思ってるのかな、とか考えたでしょう」
「え、そんなこと」
「ふうん?」
楠木さんがいたずらっぽく笑った。
「ねえ、君。わたし、前世の記憶があるの」
僕は驚いた。
突然、楠木さんが電波なことを言ったからではない。
いや、それもそうだけど、楠木さんが、つかつかと歩み寄ってきて、ずい、と上半身を僕の上半身に寄せてきたからだ。
「く、楠木さん?」
慌てて仰け反る僕をよそに、楠木さんはまるで猫のように目を細める。
「気がついているんでしょう?」
「な、なにに?」
「桃井が他と違うってことに。よく彼女のことを見ているじゃない」
それは半分ほんとで、半分うそだ。
桃井さんの机の先に楠木さんの机があるから、なんとなく見てしまっていただけだ。
楠木さんは何か誤解している。
「ええと、それは桃井さんも楠木さんと同じように転生者だってこと? それより、離れてよ」
あら、と楠木さんが目を丸めると、すっと僕から離れて机に座った。
「やっぱり。転生者って言葉を知っているのね。ええ、そうよ」
脚を組み、彼女は首を傾げた。
「それって、ええと、どこから?」
「どこ?」
「ええと、どの世界から」
「なに言ってるの」
「いやあ、ハハ」
僕も彼女に同じことを聞きたい。
「話を戻すわね。ここ最近起きている出来事、これ、とある乙女ゲームと呼ばれるものとまったく同じ舞台、構成、物語なのよ。この意味、分かるかしら?」
乙女ゲーム?
その呼び方をされるゲームを僕はよく知っている。
やっぱり僕の好きな小説によく出てくるからだ。
女性向けに発売された男性キャラクターを攻略していくゲームを指して「乙女ゲーム」と呼んだらしい。
つまり、それってどういうことだろう。
ここが乙女ゲーム?
そんなわけがない。ここがゲームの世界だなんて。
だって、こんなにも現実感で溢れているのに。
「ここがゲームの世界だなんて」
今度こそ楠木さんがはあ、って呆れた顔をした。
そんな顔をしなくても。
僕はけっこうショックを受けているんだけど。
「さっきからどうしたの」
「だって、ここがゲームの世界だって」
「そんなわけないじゃない」
「え、でも」
「わたしが今いる世界がゲームの世界ですって? 冗談じゃないわ。ここは前にいた世界と一緒のはずよ。よく似た歴史の別の世界って線も、ほぼないと確信できるわ。常識的に考えてありえないもの。わたしが言ったのは、起きている出来事がゲームと一緒ってだけ」
「どうしてそんなことが分かるの」
彼女が転生者なら、ここがどうして前にいた世界と一緒だって言い切れるんだろう。
そして意外と電波な楠木さんの常識ってなんだ。
「分かるわよ、そんなことぐらい」
彼女がフン、と鼻を鳴らす。
「じゃあ、そのゲームがこの出来事を予言していたってこと?」
「あいにく、長いわたしの人生でも予知能力者に会ったことはないわ」
「じゃあ、どう言うことなの?」
いつの間にか僕は楠木さんの話に引き込まれていた。
電波でも思考はロジカルらしい。
そのせいで怪しい話にはすこし、信憑性がある。
僕はもう、ポッキー一本分くらい、信じ始めている。
ところが、身を乗り出した僕と反対に楠木さんはがっかりしたようだ。
「わたし、あなたも転生者じゃないかと疑っていたのだけれど…ちがうみたいね」
そりゃそうだ。
僕はただの高校生なんだから。
「ええと、ごめんね」
ここで謝る僕はきっとヘタレだろう。
楠木さんはゆるゆると首を横にふる。
「いいの。わたしの見当違いなんだから。ごめんなさい、今のは忘れてちょうだい」
そう言うなり、机から降りると、自分の席に戻り、通学カバンを手にとった。
帰るつもりなのだ。
「ええ、まって、まって」
僕の脇をすり抜けようとする、彼女の手首を慌てて掴む。
「なにかしら?」
楠木さんが手を引こうとする。
行ってしまう。
僕は必死に言葉を紡いだ。
「ええと、楠木さんは桃井さんが自分の思い通りにさせるのを阻止するんでしょ? 協力するよ」
「なんで?」
楠木さんは心底不思議そうだ。
どうして僕が楠木さんに協力するかって?
決まっている。
「僕が楠木さんのことが気になっているからだよ!」
僕の言葉に楠木さんが目を見開いた。
大きな瞳が僕を見つめている。
「え…?」
「僕、前から楠木さんと話してみたいって思ってたんだ。ダメかな?」
あれ、これどこかで聞いた。
「桃井と同じことを言うのね」
ああ、桃井さんか。
楠木さんに指摘されて気がついた。
「でも、ほんとのことだ」
楠木さんが、じっと考え込む表情をした後、楠木さんの右手をつかんでいる僕の左手を指差した。
「とりあえず、離してもらえる?」
「あ、ごめんなさい」
楠木さんは袖を直すと、確認をするように僕に問いかけた。
「協力してくれるってほんとう?」
「うん」
「じゃあ、お願いしようかしら」
そう言って、僕に向けて微笑みかけた。
その笑顔に僕は頬がカッと熱くなるのを感じた。
「頼りにするわね、相棒さん」
「う、うん」
赤いだろう頬をごまかすために勢いよく頷く。
しかし、ここにきて僕は自分の勘違いを思い知ることになった。
「ところで…」
ちらりと楠木さんの目線が僕の胸元あたりを彷徨う。
ジャージの胸元には制服と違って、誰のものかわかるように名前が彫ってある。
どうやら楠木さんは僕の名前を覚えていないらしい。すこし、ざんねん。
「大木くん」
「うん、なに?」
「わたしがなんでって言ったのは、『なんで、わたしが桃井の目論見を阻止しなくてはいけないのか』ってことなんだけど」
どうやら楠木さんは意地が悪いらしい。
さっきの桃井さんよりもさらに顔を真っ赤にさせた僕を見て、彼女はくすくすと上品に笑った。
*
翌日。
楠木さんは僕の家に遊びにきた。
展開が早いなあ、と思うけど、べつにやらしいことができるわけでもない。しないけど。
「作戦会議」なるものをするのだそうだ。
「昨日言っていたことだけど…その、ゲームと同じことが起きているって。それって、つまり…」
一晩考えて見て、僕も思いついたことがある。
「誰かが仕組んだに決まってるじゃない。それなのに、桃井はどうして安穏としていられるのか疑問だったのだけれど…。彼女は本気でここをゲームだと思っているのね」
「多分、そうだと」
「だとしても冗談じゃないわ。あなたはともかく、彼女が世界を疑わずにいられるだなんてどうかしている」
彼女が僕のベッドに腰掛け、ジュースをストローで啜っている。
もちろん、僕はおとなしく床に座っている。
ほんとに楠木さんが僕の家に、しかも僕の部屋に遊びにきている。この事実をどうしたらいいか分からない。彼女の隠れファンが知ったら殺されてしまいそうだ。
でも、今ならそうされてもいいと思える。
「ねえ、大木くん」
「なあに、楠木さん」
「桃井は浮かれているように見える?」
桃井さんが浮かれている?
それは、どうだろう。
なにせ、僕はいろんな人に取り囲まれていない時の桃井さんをあんまり知らない。だから、何が常態なのか、わからない。
「さあ、どうだろう」
楠木さんは小首を傾げる。
「もしかして、彼女も非転生者なのかしら…」
ポツリと呟いたその言葉は、妙に不安そうで。
僕は必死に言葉を探す。
「で、でも、たしかに変わっていることはあるよね。いくら好きでも、あんな風に男子高校生が女の子を口説いたりしないと思う」
「…そう?」
「だから、もしかしたら桃井さんが、操っているの、かも…?」
尻切れになっている僕の言葉に、楠木さんは膝を抱えてくすくすと笑いを漏らした。
「なら、きっと桃井が知っているのは乙女ゲームの方ね。でも、わたしはそれを下書きにして書かれた小説も知っているの」
「それって?」
「きっと、首謀者はわたしに桃井を潰させたがっているのよ」
桃井さんに対して確証がなさそうだったのに、今度ははっきりと言い切った。
「なるほど。そう思う根拠があるんだね」
僕の問いに、楠木さんがすっくとベッドから立ち上がる。
そして、まるでワトソンに講釈を垂れるホームズのように自信ありげに、楠木さんが己を指差す。
「みてよ。完璧じゃない」
「ん?」
その指はたしかに楠木さんに向いている。
正確には、その顔に。
完璧?
たしかに楠木さんは可愛いけど。いやいやいや。
「わたし」
「わあ。自分で言い切った」
楠木さんは僕を見下ろしながら、グイグイと僕に顔を近づける。
長い髪が僕の頬に触れる。
「細い腕。長い脚。幼い整った顔」
「ええと…」
そうだね、とうっかり同意しかけた僕は、次の言葉に困惑した。
気まぐれな猫のように楠木さんがふい、とベッドに戻る。
「まるで、男性が理想とする少女そのものだわ」
「え?」
それは、誇るというより、どこかつまらなさそうな言い方だった。
「だから、少なくとも首謀者はわたしに何か役割を与えたがっているの。そう、思う」
その首謀者ってまるで神様みたいだ。
でも、楠木さんは神様に刃向かうつもりらしい。その横顔がそれを物語っている。
だから僕は彼女に言う。
「謎を解き明かしていくわけだね。楠木さん」
楠木さんは驚いたように目を見開いてから。
そうして、ニコリと笑う。
「一緒に、この世界の謎を解き明かしましょう。大木くん」
途中で飽きました。すみません。
ちなみにこの背後には壮大な真実が隠されている予定でした←
いつか気力が出たら続きを書こう、そうしよう