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Emergency Doctor 救命医  作者: さかき原 枝都は
Emaergency Doctor 救命医
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1-21Emaergency Doctor 救命医

秋島まどかはオペ室からICUへ移動された。

彼女の心電図モニターは規則正しい波形を描きその心臓が動いていることを証している。

まだ、彼女は麻酔から覚めていない。

そっとその顔を見つめる。

あの時発作を起こした時のあの彼女の顔とは印象が違うように見えた。

なんだろう、今まで彼女の周りを包み込んでいた重い影のようなものの感じが消え去っているように思える。

椅子に座りまどかちゃんの手に触れる

暖かい彼女の手のぬくもりが俺の手に伝わってくる。そしてその上にもう一つの暖かく感じる見えない手のぬくもりを感じた。

そのぬくもりはとても懐かしくそして……愛しいぬくもり。


「まどかちゃんは、諦めなかった。だから自分の未来をまた歩むことが出来るようになったのよ。


光一、貴方はどうするの?

立ち止まるにはもう十分じゃないの?

いつまで引きずってるの……

あなたももう……見えかけた光に向かいなさい。

それが私の願い……

愛してた光一……ううん、今も愛してる。ずっと、ずっとあなたの事を……愛している」


ふと見えかけたまゆみのその姿が俺の前から消えていく……

でも今までの様に寂しさは感じなかった。

むしろ何もかもが、俺のすべてが……そして心がとても暖かく感じる。


Broken Heart《壊れたハート》


俺の壊れたハートは少しづつ形を取り戻そうとしていた。



それから数日後の外来、糖尿病で膝に炎症を起こし入院していた佐々木さんが来院してきた。

診察が終わると佐々木さんは

「あの特別室の子、どうなっちゃったの?」

「まさか亡くなっちゃったとか……」ちょっと遠慮気味に訊く

「大丈夫ですよ。彼女は今大学病院に転院して順調に回復していますよ。最も前より手に負えないくらい元気ですよ」

「そう、それならいいんだけど……それとね、ちょっと聞いたんだけど……田辺先生、また大学病院に戻るて聞いたんだけど」

「………ええ、せっかく皆さんとも親しくなれたところなんですけどね。残念ですけど……」

「そっかぁ、やっぱり本当だったんだ。戻っちゃうんだ。そうよね、田辺先生はこんな古ぼけた病院にいるより大学病院にいる方がずっといいわよ。寂しくなるけど」

佐々木さんが言った古ぼけたという言葉に反応したんだろう。隣の診察ブースにいる三浦医師が咳ばらいをしたのが聞こえた。


「ここは、この病院は物凄くいい病院ですよ。大学病院にはない素晴らしいものを患者さんに提供できる病院です。大学病院は大学病院としての役割がありあります。でもこの病院の様に患者さんと一緒にその病気に向かうことはありません。

この病院は患者さんと医師、そして看護師とみんなが一つになって患者さんに最もよい治療とケアを考えそして治療に向けています。佐々木さんがここまで回復できたのも佐々木さんが病気に向き合う姿勢をちゃんと向けてくれたし、それをサポートするこの病院のスタッフのおかげだと僕は思っています」


「そぉお、まぁ、私もこの病院嫌いなわけじゃないしね」

「ありがとうございます。次の診察からは三浦先生に引き継いでいただきますのでこれからも頑張ってくださいね」

「そうなの。それで田辺先生は大学病院に戻って何をするの?」


「僕は……救命医です」


◇◇


エマージェンシーコールが鳴る。

「こちら北部レスキュー、交通事故による負傷者2名の受け入れを要請いたします。35歳男性、意識無し、左側頭部より出血あり、バイタル血圧110、76.心拍68.もう一名は28歳女性、意識あり腹部より痛みを訴えていますバイタル……」

「了解しました。受け入れます」


「おい、次の搬送者が来るぞ。田辺そっちの方はどうだ」

「後もう少しで止血部位を結紮出来ます」

「わかった。それが終わったらすぐにオペ室に移動だ」

「了解!」


「どうですか田辺先生は」

「常見准教授……いや常見教授」

俺はまた北部医科大学救命センターに戻った

「田辺、何か吹っ切れた感じですね。でもあんなことがあったのにあいつはここまでよく戻ってこれたと思いますよ」

「そうですか。あちらに派遣したのは無駄では無かったということでしたんでしょうね」

「いや無駄というより彼は成長しましたよ。医師として、そして人間としても。こんなことを言ってはいけないのかもしれませんが……」

「なんだね」

「いや、あいつ、今の田辺を見ていると「石見下まゆみ先生」の姿をよく思い出してしまうんですよ」

「そうですか。まゆみ君をね……」

常見教授は懐かしむように患者に向かう俺の姿を眺めていたそうだ。

「ところで常見教授、城環越へのご栄転おめでとうございます」

「ああ、ありがとう」

「あちらでは外科の総括執務教授職、もう院長と同等じゃないですか」

「いや、雑務だけが増える職務だよ。僕は今でもメスを握っていたいんだがね」

「ははは、それはご勘弁を。常見教授がメスを握られると他の外科医がいらなくなりますよ」

「君もおべっかが上手だね」

「ところでやっぱり田辺もお連れになられるんですか?」

「ああ、そのつもりだが、何かあるのかね」

「こちらとしては、田辺が抜けるのは痛手ですよ。何せ即戦力ですし、腕や判断力も今は一番いい状態です」

「そうか、でも彼はここに居るべきじゃない。彼はここからもう一つ上の世界に飛び込んでもらわないといけないからね。それにフェロー達もここは十分に戦力になっている。だから彼の穴をこれから成長をさせねばならない医師に頑張ってもらわないといけないと思うんだが」

「手厳しいなぁ。流石鬼の外科医常見教授のお言葉ですね」

「それでは」と言い残し次に搬送されてきた患者に彼は向かっていった。



まゆみ君……見ているかね。

彼の姿を、そしてこの救命センターのスタッフの姿を。

かつて君がここで活躍していた場所を……


私は今この風景をしっかりとこの目に焼き付けているよ。

君のいないこの救命センターの姿を

僕は君を利用した。

いや今思えば、僕は君に利用されていたのかもしれないね。

まゆみ君。君が僕の前に現れたから僕は君を利用した。そして君は僕の医師としての知識と技術を利用した。

罪として思えば僕が君に行った事の方が罪は重い。

そして君は僕に難題を残しこの世を去り僕の前から消え失せた。

僕はね、本当は君に礼を言いたかったんだよ。いや君の医師として君の人生に対して礼……いや謝罪をしなければいけないと思っていたんだ。

でも君は一枚僕より上手だったね。


あんな約束を僕に課せるとは……


僕はこの大学病院という組織の中で上を目指すよ。最後まで……昇り詰めることのできるところまで僕は上るつもりだよ。


そして君との約束を果たすために、田辺君をこの北部から連れ出す。


でも、僕はいつも思うんだよ。君は本当にそれでいいのかってね。

でも今となってはそれが君と彼、田辺先生にとっては最良の選択かもしれない。


そう思うことが、そう信じる事が君への謝罪となるのなら……



「ふぅ、今日も一日終わったよまゆみ」

俺はまゆみがいた、まゆみが最後……搬送されたこの北部救命センターで患者と向き合う日々を送ることになった。

北部に戻る前、俺はある恐怖感を持った。またまゆみのあの最後の光景にとらわれるのではないかと……

血まみれになり、搬送され、俺の手の中で息をひきとったまゆみ。

その光景が俺を支配してしまうのではないかという恐怖感。

しかし、その恐怖感は沸いてこなかった。沸く?いや、恐怖感というものは己の中にあるもの。重症の患者を目の前にしたとき、患者の命をこの世界にとどめなければならないという使命感が俺を奮い立たせた。

ラウンジで熱いコヒーをいっぱい飲んだ後、秋島まどかの病室を訪ねた。

静かにドアを開けカーテンで仕切られた彼女のベッドの傍に近づき

「まどかちゃん」と声をかけた

彼女はベッドのライトを点灯させ本を読んでいた。

「田辺先生」

俺の姿を見る彼女の笑みは優しく柔らかい。

「今終わったの?」

「ああ」

「そう、お疲れ様」

「ありがとう。調子はどうだい」

「順調よ」

「うん、その笑顔見るとよくわかるよ」

「………ば、馬鹿」

彼女の頬は少し赤みを帯び始めた。

そして、「そうそう、最近ねパパとママが一緒によく来るのよ。どうしたもんでしょうね。なんだか二人を見ているこっちが何だか恥ずかしくなってきちゃんだけど」

「ははは、そりゃよかったじゃないか」

「まぁ、また二人がもとに戻ることはないと思うんだけど……でも……何となく嬉しい」

「うん、そうだね」

「ねぇ、た、田辺先生は……その、まゆみ先生一筋なの?」

「ふぅ、さぁどうかな?まゆみが俺を放してくれそうにもないからな」

「あら、田辺先生がまゆみ先生を放すんじゃなくてまゆみ先生が放してくれないの?」

「そうなんだよ。困ったことにな」

そう言って笑って見せた。

「そっかぁ、うん、それはわかるわ。だってまゆみ先生、彼氏の事本当に愛してるっていてっていたもの。それが田辺先生だったなんてね。私にしたらちょっと残念」

「どうしてさ」

「だってまゆみ先生くらいの美人のお医者さんだよ。もっとかっこいい人かと思っていたんだもの」

「それは残念でした。でも正真正銘、俺はまゆみの彼氏でまゆみは俺の彼女。これは絶対に覆せない事実だよ」

「はいはい、わかりました。全くもうパパもママもそして田辺先生も私に当てつけ氏に来てるんじゃないの。私だってそのうちかっこいい立派な彼氏見つけて見せつけてやるんだから。その時になってやきもちやいたって遅いんだからね」

「やきもちって……」

「もう、鈍感!鈍感田辺……消灯時間過ぎてるわよ私寝るからもう帰って」

「わかったよ。それだけ話せるんだったら十分だ!それじゃ、お休み」

「お休み……」

毛布をかぶったままぼっそりとまどかちゃんは言った。

そしてそっと彼女の部屋を後にした。


それから2週間後、秋島まどかは北部医科大学病院を退院した。

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