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Emergency Doctor 救命医  作者: さかき原 枝都は
Emaergency Doctor 救命医
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1-18Emaergency Doctor 救命医

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人は死を迎えればすべてが終わる。そう思う……誰しもがそう思っているだろう。

でも実際は違っていた。


俺は俺の生涯一番大切だと思う人を2人も失っている。

お袋、そして石見下まゆみ


二人は俺に最後の別れを言わずにあっという間にこの世を去り、俺の前からその姿を消し去った。


確かに二人の人生はそこで終わってしまっただろう。だが二人の思いはしっかりと俺の中に今も生き続けている。


お袋は最後に本当に、自分が俺に捧げることができる最高の笑顔が出来ることを誇りに思い、その最高の笑顔を俺に残し旅立った。

そして、あのおふくろの笑顔は石見下まゆみという俺にとってかけがえのない女性にめぐり合わせてくれた。


まゆみは、自分のすべてを残りの時間、限りあるまでにこの俺にまゆみが持つものをすべて残してくれた。


そのまゆみの残したノートは今や俺の人生の糧となり、そしていつも俺の隣にはあのまゆみのくったくのない笑顔のまま寄り添ってくれている。


大切な人がこの世を去るということは残された側にとっては我が身を切り刻むより心がそして精神の痛みを感じずにいられない。しかし、その大切な人がこの世を去った時に残された思いはずっと心の中に生き続けて行く。


まゆみが搬送され、この俺の前でその息を引取った時、俺はその事だけにとらわれ、自分に課せられたまゆみの思いに気が付くことさえできない状態だった。


なぜ、まゆみは俺にあのノートを託したのか……

初めはまだ駆け出しの外科医の俺のためを思い作りあげ残してくれたもだと思っていた。だが、それは俺の勝手な思い込みにしか過ぎなかった。


まゆみがあのノートを残してくれた本当の理由……それに気が付かせてくれたのが、あの特別室のベッドで自分の迎えうつ死という現実を秒単位で受け止めていた少女


そう「秋島まどか」彼女から俺は、まゆみが残してくれたノートの本当の意味を知ることができた。


俺は秋島まどかに出会うために、城環越からあの市病院へ向かわされたのだろう。



「た・な・べ・先生」


特別室のドアを開けるな否や秋島まどかは意味ありげに俺の名をしかもくりっとしたあの瞳で見つめながら呼ぶようになった。


「あのさぁ、まどかちゃん。お願いだから俺のこと呼ぶとき一文字づつ区切って呼ぶのやめようよ」


「あらどうして、いいじゃない私がどう呼ぼうと勝手じゃないの?」


「いや、……な、何となくさぁ、恥ずかしいんだよね。一文字づつ区切られると」


「ふーぅん、そうなんだ。もしかして、前にもそうやって呼ばれたことあるからそうなんじゃないの?」


「えーーーっと」

俺はその問いをはぐらかそうとしたが


「わかった。事故でなくなった彼女さんがそう呼んでいたんでしょ」


彼女の胸に聴診器を当てようとした手が一瞬止まった。


まゆみもよく俺の事を呼ぶとき「た・な・べ・君」なんて呼んでいたのを思い出した。


俺の手が一瞬止まったのを彼女は見逃さなかった。


「図星!当たちゃったのね」

「まぁね」

「ふーん、そっかぁ。私と同じように呼ぶ人前にいたんだぁ」


俺には彼女が何を意味してそんなことを言っているのかその時は気にも……いやわ分からないと言うべきだろう。


今思えばかなり鈍感だった。彼女にしてみれば俺の存在は物凄く特別な存在になっていたんだということを………


かと思えば


「遅い!田辺!。今何時だと思ってんのよ。あんたはちゃんといつも決まった時間に私の所に来なきゃダメなの!」


かなり機嫌悪し……の時もしばしば。


だがそんなとき、彼女は物凄く自分の気持ちに向き合うのに力を注いでいる時だということを俺は知る。


もうじき自分は死ぬ。たとえドナー待ちの状態であっても現順位は第3位。


たとえ移植ネットワークに心臓が移管されても適応できる範囲もある。しかも毎日のように日常的にドナーが発生するわけでもない。


まして、今の彼女の状態は一刻の猶予もない状態であることは変わりはない。

今彼女の心臓がまだ動いていること自体奇跡に近い状態でもあるのだから……


そして彼女が機嫌悪いあと必ず容体は悪化する。

そのたびに俺はいち早く彼女の元に駆け付ける。


胸が締め付けられるように痛みが走り、自呼吸も弱くなる。


もうだめか!三浦医師や父親である松村病院長も深刻な表情を隠し切れないでいる。

でも彼女はそんな時でも


「何みんなそんなに深刻な顔してんの」


と、酸素マスクをしながら虚ろな目で俺たちをみつめながら、自分はこんなの普通だよ。と言いかけるように俺たちに向かい言い放つ。


俺はそんな彼女に

「ご、ごめん……」とだけしか言ってやることができなかった。


彼女、秋島まどかを担当して早くも3か月の月日がながれていた。


その間移植ネットワークにドナー提供者より心臓が移管された連絡を受ける。

だが彼女には該当せず、他の患者へその心臓は提供された。


それにより秋島まどかの移植ネットワークでの移植順位は第3位から第2位へと1ランク上がったが、状況的には何の変りもしないことを意味している。


死を見つめ、その死に向かい時を刻み自分の姿とその存在を確かめるように秋島まどかは毎日を過ごしている。


そんな彼女が唯一心を開いてくれているのが俺であることを秋島まどかが口にしたことがあった。


その日は日常勤務が終わった後、彼女の特別室に顔をのぞかせた時だった。


「どうしたの田辺先生、もうあなたの勤務時間終わったんじゃないの?」


「まぁね、ここでの仕事もだいぶ慣れたから少し余裕も出たんでまどかちゃんの顔でも見てから帰ろかなって思ってね」


「あら、随分と私の事心配してるじゃない?」


「そりゃそうさ、何せこの病院のお姫さまなんだからな」


「お姫様ねぇ、本当はそんなことこれっぽっちも思っていないくせに。ただのもう時期死ぬワガママ娘にしか思っていないくせに」


「そんなことはないよ。まどかちゃんはすごいと思う。しっかりと自分の病気に向き合いそれに恐れを出さず周りのみんなに物凄く気遣いをしてくれるいい子だと俺は思っているよ」


「ほんとうに?」

「ああ、保証するよ」

「じゃ、私のこの心臓直してよ」


「……んっ」


さらりとこんなこと言う彼女に俺はすでに押され気味。


「あはは、田辺先生困った顔している」


「ご、ごめん」

「謝るの?」


「今の俺の技量じゃまどかちゃんの心臓を直すことは悔しいけどできない」


「心臓移植の経験は?」


「あるわけないだろ……まだ駆け出しの外科医なんだから第一助手につく事すら難しいよ」


「でも勉強はしてるんでしょ」


「まぁね、経験としてはないけど、術式のいくつかはノートに書かれていたから目は通しているけど」


「ノート?」

俺は思わずまゆみのノートの事を口に出してしまった。


「ねぇ、ノートって何?田辺先生が自分でまとめたノート?でも変ね、目は通したからなんて言わないわよね。自分で書いたノートだったら」


鋭いところをつく子だ。俺は仕方なくまゆみのあのノートをカバンから取り出し一冊を彼女に渡した。


「このノートは亡くなった俺の彼女……大切な人が俺のこれからのために残してくれたものなんだ」


彼女はそのノートを見開き中に書かれていることを食い入るように読み始めた。


「まどかちゃんには難しいかのしれないな。医療用の専門用語がほとんどだし、主に外科的処置についての事がメインだけど、内科的な所見や治療なんかにもまたがっているからね」


「ちょっと黙っててくれる」


秋島まどかはまゆみが記載したノートの内容が手に取るかの様に読みあさっている。


彼女には医学の知識があるのかもしれない。それも彼女の年では得ることができないほどの豊富な知識があの頭脳の中に刻み込まれているように思えた。


「すごいよ、このノートに書かれていること物凄くわかりやっすくて、しかも幅広く応用が利くように工夫されている。多分物凄い量の論文や専門の医学書を網羅していると思う」


「こりゃまいったな。医師免許を持つ医者より詳しそうだね」


「そりゃそうでしょ、ただベッドで寝ているだけの生活だもん。それに自分の病気について調べたかったからいろんな医学書も読んだし、ネットでも検索してるし……論文や臨床のデータも調べたわ。自分の事なんだから」


そして、最後のページに書かれていた名前を彼女が目にしたとき

秋島まどかは、俺の瞳をしっかりと見つめ


「田辺先生……ううん、田辺光一さん。このノートを残した本当の意味」


「あなたは……知ってるの?」


その言葉の後、秋島まどかは発作を発症させた。

今までで一番重篤な発作を……


それからだった、俺は病院に泊まり込むようになったのは……



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