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第六話 やっと、起きたんですね

 ベッドを降りる瞬間ほどいやになる時間はない。

 寝ぼけ眼はまだ目をつぶっていろと催促してくるし、きょう一日つらい日が待ちわびているということに気づき心が暗くなる。

 ただ、布団にもぐったからと言って、夢なんてここ数年見ていないのだが。

 夢、そう。あれは夢ではない。

 じゃあ、この毛布の感触は――?

 ***

 かかっていた布を跳ね飛ばす。

 あたりを見回す。そこは木ででき小屋の中のようであった。

 しかし、あのおばあさんのいた家ではないようだ。だって窓があるし、日光が僕を照らしている。

 ベットの横に剣が立てかけられているのを見て、安心する。

 そんななか、黒い髪の女の子が本から目をそらして僕の目を見る。

「やっと、起きたんですね」

 僕はびっくりして目を見開く。恐る恐る頷く。

「ここは……?」

「ここは、カンヴィ村という場所です。知っていますか?」

 僕は首を振る。

「そうですか。あの、毛皮のコートといい、どこから来たんですか?」

「……雪山から」

「雪山……? そんなものは、近くにはありませんけど」

「……ねえ、ほかに女の子がいなかった?」

「いえ、あなた一人でした」

 リースさんがいない。ずっと手をつないでいたはずなのに……

 体が冷たい中の、あの手先の温かさを思い出す。しかし今はもう、ない。

 その前髪の少し長い黒い髪の女の子の姿を見る。

 手を半分覆うほどの白い無地の長袖は豊かな胸が強調されている。咄嗟に目をそらしてしまった。

 ひざには毛布が敷かれており、その上には本が一つ置いてある。

 彼女が前髪を横にずらす。

「悪いところはありませんか?」

 綺麗な笑みがそこにはあった。

「夜あんなところで眠っていたらオークに襲われていたところでしたよ……その剣と、格好からして冒険者の方のようですね。その靴も擦れてますし、その大きな剣と言い、色々な冒険をしてきたんですよね?」

 自分の靴を見る。それは昔自分が通学に使っていた靴だった。

 僕は少し遠くを見ながら言う。

「そうでもない。最近だよ、冒険に出たのは。むしろ始まってないかも」

 そういうと、彼女は少しがっかりしたような表情をする。

 でも、もう一度剣を見直して、表情を変える。

「いろいろと事情があるみたいですね……よかったら話を聞かせてくれませんか?」

 隠しておくべき事柄か、と思ったが冒険者という職業が一般的なようだし、隠しておく方がだめかもしれない。

 おそらく、伝説的な話を所望しているのだろう。だったら、話してあげることにするか。

 ざっと話す。突然雪山に放り出され、おばあさんに出会い、龍と戦い、そして剣――

***

「そんなことが……まさに冒険の始まりっていう感じですね」

ざっと話し終わると、彼女は目を光り輝かせながら言った。

「もっといろいろな冒険の話が聞けると期待してたので、残念ですけど」

「ごめんね」

「でも、今から始まる物語に出会えたのは幸運です」

 にっこりと笑う。美しい笑顔だった。

「……ところで、君の名前は?」

「あっはい。私はエリシャ・ボーダーといいます。あなたは……」

 やはり、英語圏的な名前なのか。ならば、それに倣って答える。

「僕は、ソーヤ・ニオ。……よろしく」

「ソーヤさん。よろしくお願いしますね」

 ***

 川からここまで運びベットで寝かせてくれたというお父さんにお礼を言うと、しばらくここにいてもいいと言われた。その優しさに何度もお礼を言い、その間しばらく働かせてもらうことになった。

「これも神の思し召しでしょう。冒険者が行き倒れるのもよくあることだという。君もゆっくりやすみなさい」

 おまけにご飯も食べさせてもらった。台所には火のついてないろうそくの間に十字架が飾ってあるのが見える。まるで神棚みたいだ。

 そういえばお父さんは首に十字架をぶら下げていた。信心深いのだろう。とりあえず神様にお礼を言っておくことにした。

 そのあとお父さんは鍬を持ってどこかに出かけて行った。畑を耕しに行くそうだ。

 二人で並んで歩く。身長差を見るとあちらの方が少し背が高い。……悲しいなあ。

「それじゃあ、村を案内してあげますね。……これからしばらくこの村にいた後、どうするつもりですか?」

「町に行って、冒険者にでも」

 あと、適当にこの世界がどのような仕組みなのかを把握しておく必要がある。やることは満載だ。

 肩が固まっているのに気づいて、息を吐く。新しい世界に緊張してばかりだ。

「それじゃあ、案内しますね」

 エリシャさんは手を後ろに組んで歩き出す。

 僕はあたりを見回す。

 風が草と土の匂いを運ぶ。その嗅ぎなれない匂いに、僕は別の世界に来てしまったんだと改めて思わされる。

 胸のざわめきを押えながら、僕は体を前に出した。

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