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第五話 また、一緒に

 目が覚めると、そこは洞窟の中だった。

「ソーヤ君……! 大丈夫!?」

 目の前にいたのはリースさん。

「ここは……?」

「火口の中にあった横穴よ。なんとか引っ張ってここまで連れてきたけど……手元の剣だけは絶対話さなかったのね」

 手元の剣を落としかけ、慌てて持ち直す。

 純白の鱗が照りかえす。神々しい剣だった。

 体に異常なだるさがある。体の節々が痛み、再び立ち上がる事すらままならない。

 息を吸って吐いてを繰り返し、何とか落ち着こうとする。あの必殺技のせいだろうか。

「ところであの詠唱は何だったの?」

「聞えてたの?」

「うん」

「……わかんない」

 べつに、何かをしようとしたつもりはなかった。あの時は頭の中に言うべき言葉が流れ込んできて、そして自然と口が動いたのだった。

 なんだか、剣に言わされた感じがする。

「言わされた、ね……」

 今思い出すと非常に恥ずかしい。顔の温度が上がり始める。よくもあんなこと言えたな……まあかっこよくて楽しかったからいいけど。

「今思えばあんなの恥ずかしいだけよね」

 くすりと笑うリースさん。ちょっとやめて、いま恥ずかしがってるんだから。

「大丈夫? 立てる?」

 差し出された手を取り、引っ張られたその力を借りてなんとか立ち上がる。

 足がふらふらで肩を貸してもらわなければ前に出すことすらできない。剣を杖にして一歩一歩踏みしめて歩く。

 ともかく僕は……ドラゴンを倒した。それもこれもすべてこの剣とリースさんと――僕の勇気の賜物だろう。ちょっとできすぎな気もしなくもないけど。

 あれだけ頑張って何もしていないとは言い張れない。僕だって頑張ったといえる戦いだったのではないだろうか。

 そしてこの剣。この剣がなければ僕らは勝てなかった。

 皮肉にもドラゴンは自らの力としたはずの龍の加護によって負けたのだ。

 はぁ。

「疲れた」

「お疲れ様」

 ようやくその実感がわいてきて、体の感覚が戻ってくる。

「おめでとう。やったんだよ私たち……いいとこは全部ソーヤ君に取られちゃったけどね」

 にやりと笑いながら言われる。ごめんなさいね。

 顔がほころんでくる。彼女の右肩をつかんで、ほんのりと喜びを伝えた。

「とっても嬉しそう」

 だって、嬉しいからね。

 二人で互いの笑顔を見合い、声を出して笑いあった。

「……感慨に浸るのはともかく、ちょっとこの辺りやばいかも……火口にあんなに火を入れちゃったんだから、もしかしたら噴火しちゃうかもね」

「そ、そうかも……」

「まだ、ゴールじゃないわ。行きましょう」

 このあたりの山、どうなっちゃうんだろうか。お婆さんはどうなる?

 ・・・…でも、時間はない。あの家に戻ることも許されない。

 なら、進むしかない。

***

 ドラゴンがさっきまでいた空間の奥に、水がたまっている。

 池のふちに座り込み、水の奥を見る。

「ここ以外に出口らしきものはないわね」

 奥のほうに流れはあるみたいだし、池の下のほうに大きな空洞がありそうだ。

 この先に泳いでいけと?

「ねえ、ソーヤ君。あっちの世界で私を見つけたら……また、一緒に冒険しようね」

 ? 一緒に行くんじゃ……

「つなぎの世界の冒険は終わって、ここからが本当の冒険の始まり――どれだけ先に苦難が待っていようと、立ち止まっちゃだめよ。十分に休んだでしょう?」

 十分に休んだって……ああ、あっちの世界での話か。

 そうだ。僕はさぼり続けてきた。逃げ続けてきた。

「そうだね、進まないと何も始まらないよね」

「じゃあ行きましょう。……つめたそうだけど、えいっ」

 彼女は池の中に飛び込んだ――僕の手をつかんだまま。

「うわっ!」

 ジャバリと僕の体が池に沈む。つめたっ!

 黒い池の底をずぶずぶと沈んでいく。真っ暗な世界と冷たい水。しばらく沈むと、先に進める通路があった。

 手の先につながれた手と、水の流れのままに体が流される。

 抵抗するまもなく奥に進んでいく。

 やがて目の前に光が見え――そして僕は意識を失った。

 ***

「はぁ、こんな朝から水を汲んで来いだなんて……まだあの本読み終わってないのに」

 黒い前髪で目を少しだけ隠し、後ろ髪を背中に大きく垂らした女の子が森を歩いていた。

「少しづつでいいから体を鍛えていかないとですね。いつかは都市に行くって決めてるんですから」

 朝露が彼女の髪の毛を濡らす。

「冷たっ……あれ?」

 間もなく川につくというところで、彼女は川に見慣れないものがあることに気づく。

 そこにいたのは――川の浅瀬に流れ着ついていたのは、片手に剣を持ち、毛皮の服を着た少年であった。

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