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第八話

改稿 12/2




2018 2/6

不審者が宿に侵入するという事件はあったが、それも過去の事。

不審者二人は早朝に警吏に突き出し、今回の事件では不審者以外に負傷者なし。何かを盗まれたということもなく、二、三日噂に流されて消えていった。

私達やと女将さんは警吏の人に事情を聞かれたが、隠し立てせずに素直にあった事を話した。それからは平穏無事に日常を過ごしている。とはいえ、私が暴れたのにだれも来なかったことについて気になったので女将さんから聞き出しのだが、やはり眠り薬が混入されていたようだ。犯人は少し前から雇っていた異国出身の従業員で、事件が起きた頃には姿をくらましていたらしい。

今回の事件の影響で多少宿の客足が減ったようだけど、立地がいい為かすぐに立て直したようだ。女将さんの人柄もあるのだろう。

まあ、それはそれとして、私はシャナンとヴィーと一緒にザッシュの許に向っている。

ヴァジュラ経由で伝えられたのだが、渡す物があるから来いとの事。一体なんだろうか、渡すものって。

暇なときに自分で宿にお酒を飲みに来てるんだから、その時にでも渡せばいいのに。

二人の後ろについて歩いていたけど、なんとなく二人の間に入って手を繋ぐ。


「ちょっ・・・」

「リイナ?」

「ふふん」


周囲の人から見たら姉妹が仲良く手を繋いで歩いているように見えるのかな?すれ違う人が微笑ましい光景を見たというような表情をしている。

私達の見た目は全然違うけどね。強いて言うなら義理の三姉妹だろうか。




宿を出てしばらく大通りを歩き、目的の屋敷に着いた。

流石に町の領主が住む屋敷なだけあって、結構立派な屋敷だ。住みたいかと言われたら特に住みたいとは思わない。私が住んでた場所はもっと立派だったたし。

ドアノックを叩いて出てきた中年女性の使用人の案内で、ザッシュの居る部屋へと向う。

案内された部屋は執務室のようで、中ではザッシュが羽ペンを動かしていた。

ザッシュは私達が来ると羽ペンを置き、肩を鳴らす。


「よし、来たな。適当に腰掛けてくれ、今から用意するからな。おい、アレを持って来ておいてくれ」


ザッシュは案内してくれた女性使用人に指示を出すと、棚を漁りだす。

私達は適当なソファーに座り、テーブルの上においてあるお茶菓子を食べて待つことにする。


しばらくして、ザッシュは棚を漁るのを止めるとテーブルの上に数枚の資料を置く。


「もぐもぐ・・・なにこれ?」

「この前起きた誘拐未遂騒動の調書の写しだ。結果としてはリイナが阻止したわけだが、狙いはヴァイシャって話しだ。だろうとは思ってたが、相変わらず狙われてんなぁヴァイシャ」

「そう、ですね。誘拐犯は頼まれてやったと答えたのでしょう?」


ヴァイシャの質問にザッシュは頷いて答える。


「結構な報酬に釣られてやったらしいぞ。わざわざ高額の報酬で雇った割には、計画は杜撰で何がやりたいのかむしろ分からんがな」


ヴァイシャとヴァジュラ、二人にはやっぱり何かあるみたいだ。最初に思ったけど、私のようなイレギュラーを除けば亜人が同族から離れる事は無いから。シャナンはいろいろあって同族のところに居れないらしいけど。

それとヴァイシャとヴァジュラの事情は、ザッシュも知ってるみたいだ。一体二人にどんな事情があるんだろうか?


「ヴァイシャにとってはもう何度目か分からないと思うが、これからもヴァイシャとヴァジュラについて行く気があるなら、リイナもシャナンも危ないだろうな。だからちょっとした役立つ物でもやろうと思って呼んだんだ。感謝しろよ?」

「ザッシュ、前俺に渡したような変なのじゃないだろうな・・・?」


ザッシュはシャナンの言葉をスルーして、何時の間にやら外に控えていた使用人さんから包みを受け取り、それをテーブルの上に広げる。


「ま、いろいろとあるが、ヴァイシャとリイナはこれを使え」

「なんですか、これ?」

「俺の古い知り合いが作った失敗作だけどよ、通信機っていう遠く離れた奴と会話ができる道具だ」

「通信機?それって、結構すごいのでは?」


通信機自体は科学が進めば普通に出現するだろうけど、今の技術ではまだまだだろう。そんな中で通信が出来るというだけでもかなりのアドバンテージだ。


「失敗作って言っただろ?欠点としては、五秒しか相互に会話ができない上にもう一度使うには半日魔力を貯める必要があるって話しだ。この時点で魔法士にしか使えねぇ。魔石でも魔力を貯めることは出来るらしいが、魔石十個で五秒だ。わりに合わん。幾ら国を跨いで会話が出来るにしてもな、魔法士ぐらいにしか扱うことが出来ない道具なんだよ。だが、お前らには有用な物だ。俺には必要ないしな」

「なるほどなるほど。確かに失敗作だね」


コストが性能のわりに合わないんだね。でも、確かに私達なら十分使える。仮に何かあっても五秒あれば伝えられることもあるし。

その後もいろいろと見せられ説明を受けて渡されたけど、もしかして在庫処理のつもりじゃなかろうか?

ザッシュの聞いてみたところ、視線を逸らされた。やっぱり在庫処理だ、これ・・・。


いろいろと貰ったものを渡された袋に詰め込む。私が貰ったのは、通信機と魔道具のナイフ五本、魔道具の短剣だ。魔道具ではあるけど、火が出たり、水が出たりと微妙な事しか出来ないナイフと短剣である。

シャナンもヴァイシャもいろいろと貰ったけど、用途は微妙。無いよりはいい程度の物だった。


「ま、こんなものだな。これだけあれば何時か使える役に立つときが来るだろうよ。特にリイナとシャナンは、二人について行くなら巻き込まれるのは間違いないしな」

「そういえば、ザッシュはヴィーとヴァジュラの事情を知ってるの?」


ヴァイシャ達について行くことが前提として話しが進んでるようだし、ある程度は事情を知っておきたいんだけど。別に今すぐ知る必要はあるとも思えないけど、せっかくだし。


「俺は成り行きで関わっちまったからな。まあ、知りたいならヴァジュラかヴァイシャに直接聞け。俺から言えるのは、国家が絡みの事情だからな、知ったら引き返すことはできねぇぞ。二人について行くなら、いずれ知るだろうことだからな、覚悟しておいた方が良い」

「リイナ、シャナン・・・」


国家絡みとなると、少し慎重に考えたほうがいいかもしれないけど、ヴァイシャは命の恩人だし、友達だからできる限りヴァイシャの力にはなりたいとは思う。

そもそも、一応私の肩書きって貴族の家の子共だし、不用意に国家絡みの問題に踏み入って良いものなのか・・・別にいいかも?既に巻き込まれてるし、何かあってヴァイシャが傷つくのも嫌だし。問題は何かあっても自己責任であることと、その事に覚悟を持つことができるかという事か。


「私はついて行くよ。ヴィーやシャナンと一緒に居たいしね。大抵のことならどうにかなるよ、たぶん」


結局の所は友達と一緒に居たいんだよ。思い出を作りたいんだよ。これから何が起きるのかは分からないけど、友達は大切にしたい。

実際のところ、なるようにしかならないんだよ現実って奴は。私はそれを実体験で思い知ってるから。だから悔いは無いようにしたいよね。


「俺は帰る場所もないし、二人には恩があるからリイナと同じ答えだよ」

「そうか。そうか・・・ま、お前らが決めたんなら俺はこれ以上言わねえよ。自分で決めてついて行くほうが、成り行きでついて行くよりかはいいからな。せっかくだ、これを餞別として持ってけ」


ザッシュは懐から何かを取り出して私達三人に放り投げた。

飛んできた物をキャッチして見てみると、宝石の原石のような綺麗な石だった。

シャナンは窓の光に当てたりして観察している。


「これは・・・絆石?どうしてこんなのを持ってるんだ?」

「傭兵の間じゃあ、これはある種のお守りでな。仲が良い奴同士や大事な人が居ればそういった奴と石を交換し合う。そうすれば災難に見舞われても石が身代わりになるっていう、いわば願掛けの石だ」


じっくり見てみても、単なる綺麗な石だ。でも、この世界だと特別な力があるわけだし、あながち効果はあるかもしれない。


「はじめて知りました。でも、絆石は魔石の原石と言われている物です。頂いてもよろしいのですか?」

「餞別って言っただろ。構わず貰っとけ。シャナンなら加工の道具を持ってるだろうからな、加工して身につけられるようにしておけ」

「ありがとうザッシュ」


石はポケットに入れる。小さな物だし、包みにまとめるとふとした拍子に落としてなくしそうだ。

加工しろって言われたけど、どんな物にしようかな?装飾品がいいよね。


「俺からの用事はこれだけだ。俺は仕事に戻るから、用事が無いなら日が暮れる前に帰れよ」


ザッシュは机の上においてあったベルを鳴らすと、若い使用人が部屋にやってきた。

私達も他に用事があるわけでもないし、使用人についていって屋敷を後にする。

その後はヴァイシャの用事で薬種商の店に行き、続いてシャナンの用事で雑貨屋と鍛冶場に向った。

鍛冶場では装飾に使えそうな物を幾らか融通してもらい、日が暮れる前だったので宿へと帰った。

ずっと屋敷で育ち、屋敷から出て町に出たのは数えるほど。少し前までは養生のために宿で安静にしてたから、今回初めてまともに町を回ることが出来た。

ヴィーから薬種商の店で雑多にある薬の元となる草花について教えてもらい、雑貨店や鍛冶場ではシャナンが対応している間に目新しい物や目を惹くものが多くあった。

意図したことではなかったが、友達と遊び歩く楽しい一日となり、とても満足である。


シャナンとヴァイシャは食べ歩きでお腹一杯になっていたようだけど、私はきっちり宿でお昼を食べた。私が満腹になったところで私達三人は部屋に集まり、ザッシュから貰った絆石を身につけられるような装飾品にするための加工をシャナンから教わりつつ、三人で装飾品作りを行う。

慣れないことで時間は掛かったが、日が変わる前に三人とも作り終えた。


「で、できたぁ・・・。うぅ、眠いよぉ」


普段はもう寝てる時間に起きてるから、余計に眠たい。まだ日付は変わってないけど、今日は少し寝坊しそうだ。

出来たばかりのブレスレットを手に持ったまま、ヴァイシャの膝の上に倒れる。


「私も出来ましたし、もう寝ましょうか。油も少ないですしね」


ヴァイシャは灯明を見て言う。

灯明の油や蝋燭がこの世界の主な光源ではあるけど、使いすぎればお金が掛かる。灯明油自体は蝋燭に比べたら安いけど、無駄使いするほど安くは無い。


「そだね。一緒に寝よ・・・シャナンも」

「は?いや、俺は隣で部屋取ってるし・・・」

「むー、喜びを分かち合おうよー。絆を深めなくちゃ」

「というわけです。諦めましょうね、シャナン」

「ヴァイシャはいいのか、ヴァイシャは。・・・はあ、仕方ない」


私とヴァイシャが特に気にする様子が無いことで、シャナンが諦めたように項垂れた。


「じゃあ、私は真ん中ー」


流石に三人で同じベッドに入ると少し狭かったが、子供なのでどうにか眠れる。私はヴァイシャとシャナンの間に挟まれた形でベッドの中に入る。

私は腕に作ったブレスレットを着け、シャナンは作った髪留めを着け、ヴァイシャはアンクレットとして足首に着けている。


「ふぇへへ・・・お揃い」


シャナンとヴィーの二人の体温を感じながら、心地よい眠気に身を任せて眠りに着いた。


     ◇     ◇     ◇


ウラマンシュ王国の東沿岸にある漁村。

白衣を着た男性は妙に静かな漁村に近い海岸を歩いていた。


「ふむ、この時期ならば漁を行っているはず・・・それなのに活気がないとは。奇妙ですが、もう少しばかり歩いて場所を決めるとしましょう」


いつの間にか癖になっている独り言を呟きながら、海岸に沿って景色を眺めながら歩いて行く。


しばらく歩いていると、浅瀬に日の光で反射する何かが見えた。少し気になって浅瀬へと入り反射している物を拾う。


「これは、短剣?なぜこんな物が浅瀬に・・・」

「お、おじさんダメ!」


背後から子共の声が聞こえて振り返ると、男の子と女の子が走り寄っていた。男の子は女の子をとめようと追いかけて来てるようで、女の子の名前を叫んで走っていたが、女の子は止まらずに駆け寄ってくる。

しかし、砂浜に足を取られると「わきゃっ」と小さく悲鳴をあげて転がるようにして転んだ。

短剣を懐にしまい、走って女の子の許に向う。


「う、うわあああぁん」

「はぁ、はぁ、だ、だから走るなって、お前ドジなんだから・・・」

「おお、額が・・・少々待っててください。まずは砂を洗い流して」


女の子の額に大きな切り傷が出来ており、手持ちの水で砂と血を簡単に洗い流すと、消毒用のお酒と薬を塗り、包帯を巻く。


「さて、これで治療は良いでしょう。貝殻で切ってしまったようですが、浅い傷でしたので数日で傷は塞がるでしょう」

「うぅ、ありがとう、おじさん」


女の子は恥ずかしいのか、少し顔を赤らめて俯き加減にお礼を言う。

男の子は女の子が大丈夫そうなのを見て、頭を下げる。


「ありがとうおじさん。おじさんはこの辺りじゃ見かけない服装だけど、薬を持って足し医者なのか?」

「いいや、旅の絵師だよ。旅をしてる関係でいろいろと持ってるけどね。君たちは近くの漁村の子達かな?普段は海岸はこんな静かなのかい?」

「いや、今は漁が禁止されてて。向こうの海岸で塩を作ったり海草を干したりしてるよ」

「漁が禁止?別に今の時期に漁が禁止される理由は無いとは思うけどね・・・」

「それは、」


男の子が少し躊躇うように口を濁すが、代わりに女の子が顔を上げて言う。


「入っちゃだめなの!海に攫われちゃう!」

「入っちゃダメ、攫われる?・・・海で攫われるというと津波か、いや津波で禁漁というのも。海難事故?」

「お爺ちゃんも海に攫われちゃった・・・」

「えぇっと、少し前から漁から帰らない船が現れて・・・うちの爺さんも親父と一緒に漁師をやってたんだけど、五日前に・・・親父だけは昨日浜に流れ着いているのが見つかって今も眠ってる。今日までに村の漁師が二十人も消えて、三日前に領主からの指示で海に出ることが禁止されたんだ。でも、漁に関係無く消えた人も現れて、不用意に外にでないようにしてるんだ」


女の子の要領の得ない説明を補足するように男の子が説明をしてくれた。たどたどしい説明ではあったが、大体の事情は飲み込むことができた。

おかしな状況になっているようだ。


「それにしては君たちは外にいるようですね?」

「それは、親父が帰ってきたみたいに爺さんも帰ってくるかもと思って・・・」

「なるほど。ですが、不穏な状況で子共二人となると危ないですよ。今日のところは帰りなさい。私はしばらく海岸に居るつもりなので、誰か見つければ村に知らせに行きますよ」

「え、でも一人だと危ないよ?」

「いえいえ、これでも自衛の手段を抱えていましてね。それに足には自信があります。なので、さ、早く帰りなさい」

「分かった。見つかったらよろしく。それと、宿が無いなら家に酔ってくれれば一宿くらいなら大丈夫だと思うから」

「それはありがたい。よろしくお願いします」

「ばいばいおじさん」


二人の子供は小走りに漁村の方へと帰っていく。

二人を見送り、白衣の男は度々立ち止まっては海を眺め、紙にペンを走らせ、海岸を歩いていく。


リイナ視点の他に幾つか別視点を進ませようかと思います。正直、リイナの視点はあまり深く事件などに突っ込まないので、情報が不足してこれからの話しで分かりにくい部分が現れると思ったからです。これまでにイシナ視点などは書きましたが、進ませる別視点はリイナとあまり接点の無いキャラの視点で話が進むので、わかりやすいかと思います。

今回は白衣の旅絵師視点です。

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