第四話
少し短めでした(過去形)
なんとなく主人公が年相応に退行している気がするけども、気にしない。
改稿しました。なので文量が増え、多少表現が変わっています。
2018 1/8
建国暦713年11月18日
ムルカ王国において、南部の交通の要衝となっている古い町イシス。
国内でも屈指の河川に面し、河川舟運の最大の拠点であり、また東西南北に位置する町や要地の中央に位置するため、多くの人が行き交い古くから栄えてきた。
そんなイシスの町の宿屋のとある一室。
その部屋は簡素な内装ながら綺麗に整えられている。
部屋の中にある二つのベッドの内一つには全身が傷ついた白銀の髪を持つ幼女が眠っていた。
治療はされているが、時折白銀の幼女は苦しそうに、泣き、呻き、叫び声を上げる。
その幼女の眠るベッドの傍らで、褐色肌の少女が看病をしていた。
日が傾き、徐々に暗くなりゆく部屋を机の上のランプが薄く照らす。
ベッドの上で苦しげに眠る幼女が流す汗を拭き取りながら、褐色肌の少女は頬を撫でながら優しく囁く。
「――――。――――――――。―――――。」
しばらくして、苦しさげな呻き声は消え、穏やかな寝息へと落ち着きを取り戻した。
頬を何か暖かい物が撫でる。感触からして頬を撫でてるのは誰かの手だ。誰の手かは分からないが柔らかく、暖かい。不思議と安心できる。
薄く目を開き、誰が私に触れているのか確認しようとするが、ぼやけてよく見えない。
手はしばらく私の頬を撫でていたが、離れようとする。
誰?嫌だ、離れないで。
心寂しさを埋めるために、両手で手を探そうとしていると上から声が聞こえる。
「目が覚めましたか。薬を用意するので、手は解かせてもらいますね」
知らない声だ。丁寧な言葉で、声から察するに少女のようだ。
少女は私の目元をお湯で湿らせた柔らかい布で拭うと、優しく私の握る。少し、安心した。
少ししたら焦点が定まったので、声の主を探す。
「・・・だ、れ?」
目が掠れて輪郭がおぼろげだが、少女の背中が見える。少女に声を掛けようと口を開くと、激しい痛みが喉に走る。深く息を吸おうとするとさらに鋭い痛みが走り、激しく咳が出る。
「力を抜いて、力まないようにしてください。お薬を飲ませますので、少し口を開いてくださいね」
少女はそう言うと、私に薬を飲ませる。
薬が口の中に入ると、苦味と青臭さが広がる。
「んんぅ・・・はぁっ・・・」
薬はとても不味いけど、喉の痛みが少し和らいだ気がする。とはいえ、悶絶するほどには不味い。
しばらく不味さで悶絶していたが、そうしているうちに視界が回復したので少女の顔がはっきりと見えた。
・・・誰だろうか?とても可愛い少女だ。
褐色の肌に肩まである栗毛。顔の造作はとても整っており、紫色の目がとても綺麗だ。幼さが残る少女にしては大人びた印象を感じる。年の頃は見た目から十代前半だろう。
じーっと観察するように見る私に動じず、少女は手に持った箱から幾つか道具を取り出す。
「あぁ、その薬は不味いと思いますが、濃縮して効能を高めています。お水などでお口なおししたいと思うかもしれませんが、三十分ほど待ってくださいね」
少女の言葉を聞いて、涙が出てきた。
口の中のこれ、まだ続くんだ・・・。
箱から取り出した道具で、少女は私の診察を終えると、机の上においてあった水差しからコップに水を注ぎ、何かを混ぜると私に飲ませてくれた。
「・・・おぉ?」
「お口直しです。此方の薬は飲みやすくしてありますので。それで、診察の結果ですが・・・」
少女の診断では、足以外は順調に回復しているらしい。しかし、足は回復の具合から見て、早くて一月。長くて二月は掛かるらしい。それに回復しても足の機能が低下するかもしれないらしい。それくらいのダメージが足に加えられたのだ。少女が言うには、普通は一生歩けなくなるくらいの怪我らしいく、少し呆れていたが。それは私の回復力が優れているからとしか言い様が無い。
少女は話を終えると、水差しと共に置かれていた器を手に取る。
「食欲は如何ですか?三日も眠り続けていたので、消化のいいお粥にしたのですが、食べられますか?」
三日も眠り続けていた?うわぁ・・・実際にそんなことあるんだなぁ。
正直、あまりお腹はすいていないけど、そこまで量は多くない。今は早く体力を取り戻すことに専念するべきだろう。
そう思って頷く。
「分かりました。では、私がたべさせますから口を開いてください」
「あーん・・・」
少女はお粥を一匙掬って口元に運んでくれたので、少し食べる。しばらく置かれていただろうに、暖かい。まだ寒くはないけど、冷めていそうなものだけど・・・不思議だ。
味は薄味だけど、あっさりとしていておいしい。
森の中では保存を優先していたから塩味が濃いものばかり食べていた。けど、薄味のほうが好きだから丁度いい味付け。
食欲はあまり無かったが、美味しい食事に夢中になって食べる。だが、すぐになくなってしまう。名残惜しいので匙を舐めていると、少女がクスクスと笑っていた。
むっとして少女を睨むと、少女は空になった器を机に置く。
「すみません、悪気はないですよ。むしろ、食欲があってよかったと思っています。もう少しもらっていた方が良かったですね・・・下に下りてお代わりを貰ってきましょうか?」
首を振って答える。今だに少しだけど現実味が無い。十分な量を食べた。それよりも、誰かと一緒にいてほしい。そうでないと、これは夢で、実はまだ森を彷徨っているのでないかと、考えてしまう。誰かが一緒に居るから、現実味を感じられる。だから今はほんの少しの間であっても一人でいるより、誰でもいいから一緒に居たい。
それにしても、この少女は誰だろうか?じっと顔を見つめる。
「・・・ああ、そういえば自己紹介をしていませんでした。はじめまして、私はヴァイシャです。私の他に二人居るのですが、二人の紹介はまた今度にしましょう。食事を終えましたし、もうすぐ薬の作用で眠くなってくるはずですから」
少女、ヴァイシャが言うように少し眠くなってきた。
三日も眠ってたのにね。
ヴァイシャはお粥の入っていた器を机に置くと、私が横になるのを助け、毛布を肩までかける。
「次に目覚めたらいろいろと説明します。なので今はゆっくりと眠ってください。それでは、私は失礼しますね」
「ぇ、ま、って!げほっごほっ!」
ヴァイシャは立ち上がろうとするが、手を伸ばして服の裾を握る。しかし咄嗟に呼び止めようと声を出したために、喉に痛みが走り咳が出る。その間でも裾を強く握り続ける。
ヴァイシャはすぐに水をコップに注ぐとを飲ませてくれた。冷たい水を飲んで少し喉が落ち着くと、両手でヴァイシャの服の裾を握る。何処かに行かないでほしいと目で訴えかけながら。
私の訴えが届いたのか、ヴァイシャは椅子に戻ると優しく私の手を握る。
「・・・分かりました。一緒にいます、だから泣かないでください」
ヴァイシャは私の目の端にたまった涙を拭うと、私の頭を撫でる。
「落ち着くまで、眠るまでずっと一緒にいます。だから安心して眠ってください」
優しく落ち着いた声音と暖かい手で少し落ち着く。本当に誰かが居てくれるという実感があり、いつの間にか張っていた緊張がほぐれて一気に眠気に襲われる。
重くなった瞼でヴァイシャの輪郭がぼやけて少し不安が沸き起こる。
「おやすみなさい」
だが、眠る前に聞こえたヴァイシャの声で不安は吹き飛んだ。誰かがいてくれるというだけで強い安心感がある。
おやすみ・・・なさい。
目が覚めてしばらくぼーっと天井を見上げていると、扉が叩かれる音が聞こえる。
扉の方に視線を向けると、ヴァイシャが入ってきた。
「目が覚めましたか。おはようございます。体調はどうですか?」
まだ喉が痛いということを手振りで伝える。
「そうですか。後で診察します。先に手と足の状態を確認するので、少し痛いとは思いますが我慢してくださいね」
私が頷くのを見てからヴァイシャは私の手足に巻かれていた包帯を解いていく。包帯が解かれ、露わになった自分の手足に息を呑む。
両手には肘に至るまで無数の切り傷と擦り傷、青あざがある。這って移動する際に負ってしまったのだろう。しかし、私自身の治癒力の高さに加えて治療した人の腕の高さもあるのだろうが、治り始めている。これぐらいなら痕も残らないと思う。
だが、問題は足だ。足は見るも無残な事になっていた。というのも、火傷と裂傷が酷い。私の治癒力をもってしても綺麗に治りそうにない傷がたくさん出来ている。これでよく出血死しなかったと思うレベルだ。
私でも目を逸らしたくなるような傷でも、ヴァイシャは丁寧に処理を施していく。そうしてテキパキと両手足の治療を終え、包帯を巻きなおすと、机に置いてある洗面器にで手を洗い、鞄から薬箱を取り出す。
「手の方はあと三日もすれば包帯を巻かなくてもいいでしょう。足の方は三日程様子を見て、今使っている薬の効果を確かめますが、効き目が弱いようでしたら強い薬に変えて観察しようと思います。喉を見るので、口を開いてもらっていいですか?」
ヴァイシャに助けてもらい体を起こすと、大きく口を開く。
ヴァイシャは手袋をはめると、手早く喉を見る。
一通り終えると、薬箱から飴玉のようなものを取り出す。
「喉ですが、酷い炎症を起こしているのでこれを」
薬箱から一つ薬を出し、私の口の中に入れる。
「炎症に効く薬草の飴です。少し辛いですが、舐めていてくださいね。誤って飲み込まないように気をつけてください。最後に、他に異常がないか診察をするので、服を脱がせます」
え?と思ううちにヴァイシャは薬箱から指輪の様な物を人差し指につけると、あっさりと服を脱がされる。そして指輪をつけた人差し指で心臓の辺りから全身をなぞる様に触れていく。本当に触れる程度でなぞるので、くすぐったいのをじっと我慢していると、肺の辺りで指が止まる。
恥ずかしいのとくすぐったいのが合わさって目を閉じていたが、気になって目を開けると、ヴァイシャの人差し指についている指輪が赤く光っていた。
「・・・肺炎を起こしかけているようですね。食後に肺炎の薬を用意しておきます」
そう言うと人差し指を離し、クローゼットから白い貫頭衣を取り出すと、私の着ていた服の変わりに着せ始める。
その最中、指輪が気になって触れようとすると止められる。
「使用中に干渉を受けると危険なので、触れないでください。知りたいというのならば、体調が整った後に説明しますから」
ヴァイシャによって白い貫頭衣を着替えさせられ終えると、誰かが扉をノックする。ヴァイシャが答えて扉を開くと、黒髪の少女が扉の前に居た。少女は持っていたお盆をヴァイシャに渡すと、私をチラリと見て去っていく。
「シャナンが朝食を持ってきてくれました。まだ飴は溶けきっていませんね?」
頷いて答える。さっきの子はシャナンっていうのか、覚えておこう。
ヴァイシャはお盆を机の上に置く。
「昨日と同じくお粥のようですが、熱いので暫くお話でもして冷ましておきましょう。私達が何者なのかを知っておいた方がいいでしょうし、説明しますがよろしいですか?」
一応、私は子爵家の令嬢であまり外に出たことのない世間知らずだけども、死に掛けの傷だらけの子供を助けてくれるほど豊かな世界では無いことは知っている。しかも私は亜人だ。その上で助けたのは何か目的があってのことではないか?とは微かに思っていた。一応、私子爵令嬢だし。説明してくれるというならありがたい。
頷いて答える。
「分かりました。私の名前は昨日名乗ったので省かせていただきますが、さっき朝食を届けてくれた子はシャナンと言います。それともう一人、私とシャナンの保護者でヴァジュラという男性が居ます。瞳や髪を見ていただければ分かると思いますが、私もシャナンも亜人です」
亜人という言葉にまじまじとヴァイシャの瞳を見る。そういえば人間に紫色の目を持つ者は出ない。
亜人も人間も人という括りに入るが、亜人か人間かを見極める基準として、髪と瞳の色がある。人間には髪は黒髪、茶髪、金髪の三つ、瞳の色は黒色、茶色、金色の三つしか現れない。それ以外の色の髪か瞳が現れる者は皆亜人なのだ。私のように白銀の髪と紅色の目を持っていれば一目で亜人と分かる。
ぱっと見た限りでは瞳の色でしか見分けることが出来ないヴァイシャもさっきのシャナンも亜人とは分からないだろう。私もシャナンが亜人ということは気づかなかった。一瞬しか姿を見てないのもある。
しかし亜人が自分の住む場所から離れているというのもおかしな話だ。亜人は基本的に自分のコミュニティから外れることは少なく、自分の仲間と一緒に行動することが多いはずだ。しかも、シャナンとヴァイシャは違う種族の亜人のはず。三人の関係がいまいちよく分からない。
「私の義父は私と同じですが、シャナンは違います。あの子はいろいろと事情があって故郷にいられなくなったので、私達と一緒にいるのですよ」
ヴァイシャは私の内心の疑問に気づいたように答える。心が読めるのかな?と思いドキリとしたが、そのまま話を続ける。
「私達はこの町に父が受けた依頼のために来ましたが、町に向う途中で貴女を見つけました。傷だらけでしたが、幸いにして町から近かったので宿を取り、治療しているというわけです」
傷だらけの子供を見捨てるのは良心の呵責が、という理由で理解できる。それで私の怪我が酷いから治療したということも分かる。でも、治療なら町である以上診療所があるはずだし、わざわざ私を宿で一部屋取ってまで治療することでもない。それもヴァイシャがさっき言っていたことを考えると、私の治療に十日以上一部屋借りることになる。見ず知らずの子供に、ましてや亜人である私に対してこれほど親切にしてくれると、なんというか、不安になる。そんなにお金と手間を掛けてまで私を助けてどうしようというのか・・・。
私が不安と警戒心を露わにしたことに気がついたのか、困った様子で話しだす。
「貴女を助ける最大の理由は首筋にある痣です。位置的に自分で確認できないでしょうし、何時頃できたのかは今は聞くこともできませんからね」
ヴァイシャは私の首筋に軽く触れる。
「この痣も理由ではあります。ですが、私は助けたいと思ったから助けました。その事に嘘偽りはありませんよ」
ヴァイシャの言う痣があるであろう場所に触れていたが、ゆっくりと私の体を倒して毛布をかける。
「それでは、私は薬を調薬してきますね。ゆっくりと休んでください」
そういい残して机の上を片付けると、水の入った器を持って部屋から出て行ていった。
痣って、なんだろ?
◇ ◇ ◆
隣国ウラマンシュ王国が宣戦布告後、電撃的に国境を突破したことから始まった両国間の戦争からおよそ一ヶ月、トール領にまで攻め入ってきた敵から逃げ、どうにかアレス領へとたどり着いた。
息子のクリスは娘であるリーナ侍女を勤めているクロエと共にすでに領館へとたどり着いている。
森で散らばっていた兵たちは兵舎で休ませて領館へ赴く。
領館の前には少し挙動不審気味な見知った女性が立っていた。
女性はイシナに気づくと走り寄って来る。
「イシナじゃない、どうしたの?ベルドはまだ戻ってきてないけど・・・」
エリウ男爵家当主、ルル・エリウ。トール領の北に位置するエリウ領を領している。なので昔から親交があり、年上なのでイシナにとって姉のような人だ。
館の前でうろちょろしていたのはなぜだろうかと思いつつ、事情を話す。
「ルル、久しぶり。トール領に進軍してきた敵の戦力が多かったから、一度退いて態勢を整えに来たの。お義兄様に貸していた兵が戻りしだい、戻るつもり」
「・・・なるほどね。敵は四路に進軍してきたようだけど、中央の二路、北側は国境を突破時よりも兵数が少ないようだから、どうしたのかと思ってたけど本隊は南に針路を取ってたのね。でも、ベルドに兵を貸していたけど、兵がまったく居ないわけじゃないでしょ?他はどうしたの?」
「大半は既に占領された地域に伏せてる。今は各自遅延妨害を行ってると思う」
「ストルスはどうしたの?」
ストルス・カーリ。カーリ男爵家の当主。カーリ領はトール領のやや北西に位置し、カーリ領はエリウ領を制圧しなければ行けないのでまだ戦火に巻き込まれてない。なのでストルスには援軍を要請していた。
「援軍を要請したけど、数に物を言わせて同時に防衛拠点や町を制圧してきて、足の速い部隊でトールの町を攻撃しにきた。今は夫がトールの町に篭ってるけど、どうなるか分からない。私達が此処に来る前に一部の兵は北側に待機させてストルスと合流するようには指示しておいたけど・・・」
「攻めてきた兵数はどれくらいなの?」
「たぶん、五万くらい。ストルスの援軍と再編した私達の部隊で夫が堪えている間に挟撃するつもりだけど、流石に数が多い」
「それなら私の方からも予備戦力を援軍に向わせるわ。あの筋肉親父だけでも中央は持ちこたえれそう出しね」
「ありがとう」
ルルにお礼を言う。
ルルの援軍を加えればおそらく総勢で六千になる。まだ数に不安はあるが、反攻時には最初の勢いは失われ、疲弊している頃だろう。十分勝機はある。
ルルから援軍を貰うとルルの側が危うくなるかもしれないが、ルルの言う筋肉親父、グランツ侯爵が居ればどうにかなるだろう。白鬼ではなく、人間ではあるが勇猛な人だ。指揮統率にも長けている。元々グランツ侯爵はもし白鬼が反旗を翻したときの抑えを担う人だから、戦に長じている。
「別にいいわよ。イシナの方が大変だからね。でも、少し変ね・・・」
ルルは腕を組んで考え出す。
「今までウラマンシュ王国は何度も攻めてきたけど、此処まで大きな軍事行動は無かったし、殆ど国境近くで撃退してきた。今回初めてトール領まで攻めることが出来たのに、重要拠点を一気に制圧するなんて、地理が分かってるような振る舞いね。どう思う?」
ルルの考えももっともだと思う。私達もおかしいとは思っていた。
「でも、ルル。奴らが敵に協力しているかもしれない。敵の敵は味方とも言うし」
「でもねぇ・・・あいつらはウラマンシュ王国側にとっても厄介なはずよね。元々邪教扱いで、特に弾圧が強かったのはウラマンシュ王国だった。それなのに今更手を組むのもおかしな話よ。別に目的でもあるのかしら?」
「目的・・・両者が手を組んで得をすること?」
「そういう事ね。でも、あいつらと手を組む奴なんて全員俗物的な奴らばっかだったし、納得できる理由が思いつかないのだけど・・・」
イシナとルルは暫く考え込むが、イシナは頭を振る。
「今こんなことを考えていも思いつかない。目の前のことに集中しよう」
「ええ、そうね。それはそうと、さっき息子のクリス君は見たけど、リイナちゃんはどうしたの?見てないのよね。今も一緒に居ないし、どこかで待たせてるの?」
「・・・森で、追っ手に追いつかれたときに、河に、流され、て・・・」
「えぇ!?ちょ、ちょっと大変じゃない!ああ、泣かないで・・・」
ルルは慌ててイシナを宥めて、館の中へと連れて行った。