第十三話
2018 3/2
遺跡地下の”屍人”及び巨人の掃討が終わり、地下の完全制圧が完了した。
重傷者は町に送られ、残りの動ける人員で地下から”屍人”と巨人を運び出し、焼いて魔石を取り出していく。”屍人”は数が多く、巨人はヴァイシャが燃やし尽くした一体を除く三体を倒すために塩酸を使ったらしく、巨人は後回しにして”屍人”を優先して運び出しが進んでいる。
私とヴァイシャ、手伝いに来たシャナンは運び出しは重労働であるため、運び出されてきた”屍人”を燃やす火の維持をしている。火力の調整と”屍人”が燃え尽きた時に出てくる灰や魔石を運び出したりしているが、数が多いせいで作業が中々進まない。
また焼いている時に立ち昇る臭いで吐き気を催す。
「・・・うっぷ」
「リイナ吐くなよ、吐くにしても向こう行けよ?」
「シャナンが優しくなぁい・・・なにさ、この作業。臭いし、煤だらけになるし、べたつくし、それで取れるのが魔石って・・・割に合ってないよね?」
「魔石は需要によって価格が変わるものですから、場合によりますね。見た限りでは取れる魔石の純度が高いので、価値は高い物ですよ。といっても、これだけの”屍人”を焼くには一週間はかかりそうですが・・・」
一週間と聞いて帰りたくなった。
かなり臭いも染み付いてしまってるからこの臭いも落としたいし、倒すよりも後始末の方が大変って酷くない?
「まあ二人はいいよ。明日には帰れるんだから。俺は暫く此処に残って調査の手伝いだし、しかも火葬の手伝いもやらされるし・・・」
「えーっと、泣くんなら私の胸を貸してあげようか?」
「煙のせいだし・・・」
半分泣いているシャナンの頭を撫でて慰める。
臭いきついし、残って手伝いなんて嫌だろうね。一日二日戦ったり、今みたいに焼いたりしてた私とヴァイシャでもかなり臭いが染み付いているというのに、長い時間地下に潜ったり焼いたりしてたら当分の間臭いが染み付いてしまうだろう。地下はスプラッタな上に暗いしね。早く帰れるように祈っておこう。
「お義父さんも暫く残るのでしょうか?」
「残るんじゃない?今はリイナが居るし、報酬は今回手に入る魔石も加わるって聞いたから、最低限全ての魔石の回収と遺跡の安全の確保が出来るまでは依頼は続くと思うよ」
「じゃあ最低一週間は依頼は続くって事だねー」
この一週間の間にヴァイシャから中級魔法くらいは教えてもらおうか。流石に対人魔法というだけ合って魔力と体力の消耗は少なかったけど、威力が弱い。人相手だったら十分だろうけど、”屍人”だったら中級魔法くらいの規模が必要だ。
後はザッシュから貰った剣を使いやすい長さに出来ないかザッシュに聞いてみよう。”屍人”とたたかって思ったけど、長すぎる。短すぎるとリーチが足りないし、自分の成長も考えて丁度良い長さを見極めねば。
「こら、そこの三人。手が止まってるわよ」
「あ、シャーナ。ちゃんと火の様子は見てるよ?」
「既に”屍人”燃え尽きてるわよ。ほら、魔石も転がり落ちてる」
シャーナは火鉢を使って灰の中に転がっていた石を引き寄せると、箸を使って器用に水桶に入れる。
水桶からじゅわっという水が蒸発する音が出て冷えた魔石をシャナンに渡す。
「どうかしらその魔石は」
「んー、三位くらい」
「お、あたりの魔石ね!」
三位とは魔石の格。第十位が最低ランクで、最上位ランクは第一位。つまり出てきた魔石は高位ランクの魔石となる。シャーナはシャナンの評価を聞いてホクホク顔でその魔石を懐におさめる。
「あ!魔石泥棒はだめだよ!」
「泥棒じゃないわよ、補填しているだけ。今回持って来てた魔石は全て使ったから補填しないと赤字になっちゃからね。報酬は魔石も含めて貰える話だったし。貴方たちも幾つか確保しておいた方がいいわよ。魔石の三割が徴収されるみたいだからね。高位ランクの魔石を持ってかれちゃ頑張った甲斐が無いもの、こういう機会に自分の取り分を手に入れるのは大切よ」
「ご忠告ありがとうございます。ですが既に幾つか確保してありますので、大丈夫ですよ」
ヴァイシャは手元の巾着袋を開いてみせると、中には十三個の魔石が入っていた。
「流石ヴァジュラの子共ね。抜け目が無いわ」
「褒め言葉として受け取っておきます。シャーナさんは何時まで残られるのですか?」
「私は元々”屍人”討伐の依頼で此処にいるわけだから、依頼自体は終了しているのよね。報酬が支払われるまでは此処に残って手伝いがてら魔石の補填でもしているわ」
「だったらシャナンの事を見ていてもらえますか?私達は明日には町に戻ることになっているので」
「そうねぇ・・・だったら魔石一つで手を打つわ」
「分かりました。どうぞ」
ヴァイシャは袋から魔石を一つ取り出すとシャーナに渡す。
シャーナは渡された魔石をいろいろな角度から見、ニッコリと笑う。
「これで契約は成立ね。シャナン君のことは任せない。よろしくね、シャナン君」
「・・・えーっと、よろしく」
シャナンはおずおずと頷く。ヴァジュラも残るとはいえシャナン一人を残していくのは心配だったけど、多少見知った人が一緒に居てくれるなら安心だろうか?
シャーナも火の見張りに加わり、他愛の無い話しをしながらその日は過ぎた。
翌日、荷車に乗って私とヴァイシャはグレイも含めた先の戦いの負傷者達と共に町へと戻る。
何事も無く町にたどり着き、グレイ達にお礼を言って宿を目指す。
ちょっと宿の女将さんに用事があるらしく、私達にグレイも同行している。
ふとグレイの肩にまかれている包帯を見て思い出す。
「グレイは肩の傷大丈夫?」
「状態は良い。きちんと手当てを受けなければいけないがな」
「それはよかったです。あの場では消毒と止血くらいしか出来ませんでしたし、状態が良ければ後遺症が残るなどは無いでしょう」
「適切な治療のお蔭だろう、ありがとうな」
グレイは幼子にするようにヴァイシャの頭に手を乗せて撫でる。ヴァイシャは驚いたのか俯くが、表情を見ると心なしか嬉しそうだ。
少し気に喰わないのでグレイの足を踏む。
道中でちょっとしたことがあったが宿にたどり着く。
「はいはーい、あ、おかえりー。ってグレイさん?」
「サフィ?」
「サフィ何してるの?」
宿について出迎えてくれたのはサフィだった。サフィはなぜかエプロンを着て料理を運んでいる。
「私は暇だからお手伝いをしてるだけだよー。それより、ヴァイシャさんとリイナちゃんは分かるけど、グレイさんはどうしたの?」
「ザッシュさんから女将への預かり物を持ってきた。女将は居るか?」
「女将さんは今用事で居ないよ。あたしが預かっておこうか?」
「では頼む。ところでサフィよ、お前勉強放り出してここに来てないよな?」
「え!?いやいやそんな事無いよ?あ!グレイさん怪我してるじゃん!早く戻って治療受けたほうがいいよ!あたし配膳の途中だから早く戻りなよ!」
サフィは一瞬慌てた様子を見せたが、目敏くグレイが怪我をしているのを見て取るとザッシュが女将さんへ宛てた包みを奪い取り、さっと立ち去る。
「まったく・・・誰に似たやら。では俺はここで失礼させてもらう」
「はい、お疲れ様でした」
「ばいばーい」
グレイは呆れた様子で立ち去るサフィを見送り、一つ溜息をついて宿を立ち去って行った。グレイはザッシュの私兵だからザッシュの娘であるサフィとは交流があるのだろう。
サフィの後を目で追ってみると、宿の賑やかさが急に耳に入る。この宿でお世話になってまだあまり時間は経っていないが、短い間離れていただけで妙な懐かしさを感じてしまう。
無意識に張っていた緊張が解ける。
「なんか、お腹すいた・・・」
「丁度良いので昼食にしましょうか」
厨房に戻ろうとするサフィを捕まえて、昼食を頼むと席に着いてヴァイシャとお話をして昼食を待つ。
遺跡での戦いから約十日。シャナンもヴァジュラも戻り、ヴァジュラの仕事が終了したため旅立つことになる。ヴァジュラは戻ってきたときには既に次の依頼は見つけており、隊商の護衛だそうだ。ここムルカ王国イシスの町から西へ南へと進み、ヤールカ連合王国の境の町までの護衛をするらしい。
当然ヴァイシャやシャナンも共に行き、私もまたブランシュ王国へと向う行商人に手紙を託して三人について行く。
出立する日は早く起き、イシスの町でお世話になった人達にお礼を言って回ってからヴァジュラ達と隊商についてイシスの町を発った。
◇ ◇ ◇
故郷を出てヴァジュラとヴァイシャについて行っておよそ半年が経った。
ヴァジュラとヴァイシャの二人は各地を転々としており、ヴァイシャは道中や薬種店で得た薬草で薬を作って売り、ヴァジュラは口入屋で護衛や用心棒をして路銀を稼いでいる。
二人と違い、お金を手に入れられるような特技は無いが、器用な性質だったためできる範囲で二人の手伝いをしていた。
レオクルタス王国の鉱山街で二人の仕事が一段落して、ヴァイシャは薬に関する書籍を読み、ヴァジュラは武器の手入れをするなどして休んでいる。シャナンも趣味の手芸をして時間を潰していたが、二人の肌が目に入ってふと思った。
「そういえば二人はなんの亜人なんだ?」
「私達ですか?」
シャナンの問い掛けにヴァイシャは呼んでいた本を閉じて小首を傾げ、ヴァジュラは無言でシャナンを見る。
ヴァジュラもヴァイシャも栗色の髪と紫色の瞳を持つため亜人であることは間違いない。おそらく褐色の肌も彼らの種族の特徴だろう。髪と瞳以外にも肌の色が共通な亜人は存在する。シャナンの種族である雪女も白い肌をは共通していることだ。
シャナンは中央山脈に住んでいた。中央山脈は気候が複雑であり、中央山脈に住む亜人達はそれぞれ交流があった。聞いた話では中央山脈にはほぼ全種族の亜人が住んでおり、特に雪女の種族は多種族との交流が盛んであったために多くの亜人をしっている。だが、二人の種族は知っている亜人の特徴に合致しないものだ。
「二人の種族は俺は知らないから、少し気になったけど、聞いちゃダメだった?」
「いえ、私はハーフでお義父さんは先祖返りなので、自分達の種族の事を良く分かっていないのです。特に私は母親が亜人でしたが別れたのはまだ幼いうちでしたし、種族名と幾つかの特徴しかしらないのです。黒砂という種族、知っていますか?」
「黒砂は確か最古の亜人種の一種って話しは聞いた事あるな。特徴とかはよく知らない」
「そうですか・・・」
「待て、黒砂が最古の亜人種という話しは誰から聞いた?」
「中央山脈で行商を生業にしている亜人種の人からだよ。鬻鳥っていう亜人なんだけど、中央山脈の各地に住む亜人の下に訪れて商売をするから、亜人に詳しいんだよ」
鬻鳥は雪以外に何も無い故郷の地に食料を初めとして様々な物を売りに来てくれる生命線のような存在だった。人間や亜人の間で商いをしているため、来る度に友達と一緒に話しをせがんでいたので外の世界や亜人について詳しくなった。
「その鬻鳥という亜人は人間の町にも来るのか?」
「うん、来る。中央山脈の出入り口に近い町に来るらしいよ」
「なるほど、そうなると・・・」
ヴァジュラは紙を取り出して何か書き出していく。こうなってはヴァジュラに何を聞いても反応はしない。ヴァイシャを見ても首を振り、結局分かったのは黒砂という種族名だけだった。




