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その5 ハイキング

「・・・トイレに行きたいな」


午前1時。


健太は突然目が覚めた。


原因は、トイレに行きたいという生理現象からだ。


「・・・みんな寝てるよね」


健太は、誰にも気づかれないようにドアを開けて、閉めた。




「しかし、こんな時間に起きちゃうと、眠れなくなっちゃうよなぁ〜」


とか、ぶつぶつ呟きながら、健太はトイレへと入っていった。


(バタン)


「・・・やっぱり誰もいないよね」


トイレに入った健太の第一声はそれだった。


やはり、誰もいなかったと健太は認識した。


ところが。


「いや、オレがいるぜ〜」


聞こえるはずのない場所から声が聞こえてきた。


「ええ!吉行!?どうやってここに!?さっきまで寝てたよね?」


そう。そこにいたのは吉行だった。


そして、健太の問いに吉行は答える。


「いやぁ、忍法、変わり身の術というやつ?」


「・・・忍者?」


お風呂でもやっていた突っ込みを、再び健太はした。


「ところで、そこで何をやってるの?」


「何って、用を足しているんだけど?」


「いや、中からカチャカチャって音が・・・」


吉行は、普通に用を足しているだけと言ったが、健太の耳には、なにやらキーボードを


打つような音が聞こえていた。


「ああこれ?これはな、ちょっとエ○ゲ作ってる所なんだ」


「・・・ゲーム?」


「ああ。何か、無性に作りたくなってな」


吉行は、さも当然と言ったように答える。


「・・・もっと他に場所はなかったの?」


「いや、ここならばれないからさ」


「だったら、押入れとかでも大丈夫だと思うけど・・・」


「はっ!」


どうやら吉行は、押入れという案には行き着かなかったらしい。


健太の言葉を聞いて、素直に驚いて見せたからだ。


「オレ、戻るわ」


「うん。そうした方がいいと思う。くれぐれも、先生には見つかんないようにね」


「オレをなめんじゃねぇよ!!」


と、吉行は自信を持って言って、トイレを出た直後。


「・・・ちょっと来い」


「せ、先生・・・」


外川にまんまと見つかってしまった。


「・・・すみません!!」


(ダダダダダ)


「あっ!お、おい!!」


吉行は、猛烈な勢いで走り去っていった。


「・・・まぁ、これくらいにしといてやるか」


「追わなくていいんですか?」


「まぁな。さすがにあれを取り上げるのは一苦労だし」


「それもそうですよね・・・」


少し会話を交わした後、外川も自分の部屋へと戻った。


「・・・先生も大変だなぁ〜」


と言ってトイレを出た直後のことだった。


「あ・・・」


「・・・かなえさん?」


トイレから出た直後だったらしいかなえと偶然にもであった。




午前6時30分。


起床時間となった。


「ふわぁ〜あ」


健太は大きなあくびをする。


「・・・結局昨日はあんまり寝られなかったような気がするな〜」


話は5時間前に戻る。




「あ・・・」


「・・・かなえさん?」


「け、健太君?」


トイレから出て偶然にも出会ってしまった2人は、とりあえず多少の会話を交わし始めた。


「かなえさんも、こんな時間に起きちゃったの?」


「うん。なんだか急に目が覚めちゃって・・・」


「とりあえず、戻ろっか?」


「あ・・・ちょっと待って、健太君」


かなえは、健太を呼び止める。


その声に反応したように健太は、動かしていた足を止めた。


「どうしたの?かなえさん」


「あの・・・早乙女さんって、どんな方なのですか?」


「え?愛のこと?」


(・・・コク)


健太の問いに、愛は無言で頷いた。


「愛は・・・幼稚園から中学校までずっと同じクラスだったんだ。いわゆる、幼馴染って


やつかな?」


「そう、なのですか?」


「うん。そうだけど・・・それがどうしたの?」


「あ、いや、何でも、ないの・・・」


かなえは頬を赤くしてそう答えた。


「じゃ、じゃあ、私、戻るから・・・」


「あ、ちょっと・・・行っちゃった」


健太はかなえを呼び止めたが、恥ずかしそうに手で顔を隠しながら走り去ってしまった。


「・・・どうしちゃったんだろう、かなえさん」




そして、現在に至るわけである。


「吉行〜、もう朝だよ〜」


健太は、未だに睡眠中の吉行を起こそうとしている。


が、次の瞬間。


「う〜ん、むにゃむにゃ。いちゃいちゃパラダイスだぜ〜」


という吉行の寝言により、


(ブチッ)


健太の中の何かが切れた。


「吉行ー!!」


「ぐはぁ!!」


吉行の悲鳴は、この宿の隅から隅まで伝わったという。




そして2時間後。


朝食を済ました後、健太たちはハイキングに出かけることとなった。


昼ごはんに関しては、宿のほうでお弁当を作ってくれたものらしい。


「で、何でオレの頬はこんなにも真っ赤なんだろう?」


「さぁね」


山道を歩きながらの吉行の質問を、健太は露骨に無視した。


「おい。オレの質問くらい答えろよ」


「いや、答えたよ」


「あれで答えたことになると思ってるのかよ!!」


「まぁまぁ二人とも」


何故か仲裁役となっている大貴は、二人の喧嘩(というよりも、吉行の一方的な怒り?)


を止めようとしていた。


「ほぉ〜。なかなか見ごたえのある少年じゃないか。大貴というやつは」


「そうかな〜?特に普通だと思うけど・・・」


「あなたは、健太一筋だもんね」


「い、いや・・・そんなにでも・・・」


美奈の指摘に、かなえは思わず黙り込んでしまう。


その間は、肯定の意を表すものとは、かなえは気づいていない。


なお、このハイキングだけは両校合同のものではない。


なので、現在この場には、愛とかはいないはず。


「あいつめ〜」


はずなのだが・・・。


「あんな子がいるというのに、愛ちゃんまで・・・!!」


長くて太い木の後ろに隠れているのは、直樹だった。


どうやらこっそり抜け出して、健太を尾行しに来たらしい。


しかし、これはどう考えてもストーキングにしか見えない。


一歩間違えると犯罪になってしまうのも必至である。


そんなことはお構いなしに、直樹はさらに言葉を紡ぐ。


「しかし、この旅行も終わってしまえば、健太はいなくなる」


直樹の口元は、少しばかり緩んでいた。


「まぁせいぜい今の幸せを楽しんでいるがよい」


なんか、悪役めいた言葉を放ち、直樹はさらにストー・・・いや、尾行を続けた。




「ところで健太。なんだかさっきから後ろから視線を感じるのだが、気のせいか?」


「うん。たぶん気のせいだと思うよ」


その視線が、直樹の物であるということは、当然健太たちは知らない。


「なぁ健太。相当歩いたんじゃないのか?」


「そうだね。後ちょっとで頂上じゃないかな?」


「やっと頂上につくんですね」


「いよいよね〜」


上から順に、吉行、健太、かなえ、ミサの順番で発せられた。


「お、おい!ちょっとあれ!!」


ここで突然、大貴の叫び声が聞こえてきた。


「え?」


健太たちがその声に反応して後ろを振り向くと、そこには・・・。


「グオォォォ!!」


大きな大きなクマさんがいたわけで・・・。


「く、クマだ!!」


「間違いなくクマだ!!」


「どこからどう見てもクマだ!!」


「地球が自転をやめたとしてもクマだ!!」


「いや、なんかもう意味わかんなくなってるから」


クラスメートによる膨大な量のボケを、健太はその一言でぶった切った。


健太と大貴以外の人達は、もうパニック状態だ。


いきなり熊が登場して、驚くなというほうが難しいものだ。


本来ならば、一番落ち着いていなければならない外川も、


「みみみみみ皆!おおおおおおおおおお落ち着いて!!」


「あんたが一番落ち着けよ」


と、大貴に突っ込みを入れられる始末だった。


「け、健太君!危ない!!」


「え?」


かなえの叫び声に、健太はゆっくり後ろを振り向いた。


そこには、今にも腕を頭上に下ろそうとしている熊一頭。


「や、やべぇ!」


「け、健太!!」


次の瞬間。


(ドカッバキッドコッ)


「・・・」


その場にいた人全員は、そこで一体何が起こったのかまったく分からなかった。


それほどの、一瞬の出来事だった。


一体何が起こったのかというと、


「ふぅ。危なかった」


なんと健太一人で、熊を撃退することに成功したのだった。


しかも、生身で。


「す、すげぇ・・・」


あまりにも現実離れ(?)した光景に、クラスメートの誰かがそう呟いた。


「さ、さぁ。早く行こうか」


「は、はい」


外川の声につられて、他の生徒達も再び山頂を目指すために登りはじめた。


その際に熊の横を通り過ぎることとなったのだが、気絶しているようで、動く様子は


まるでなかった。


「や、やっぱり凄いぜ」


木陰でその様子を見守っていた直樹は、小さな声でそう呟くのだった。




「さぁ着いたぞ」


「おお〜」


生徒達の感嘆の声と共に姿を現したのは、自然を優雅に視界に映し出してくれる山頂だった。


「さぁ皆。ここで昼食といこうか」


「はぁ〜い」


外川の合図で、皆が思い通りの人達と並んで食事をとろうとシートを広げる。


その中には、まだ誰とも知り合うことの出来ていない人が何人か、ぽつんと一人で食事を


とる人の姿も見られる。


そんな様子を見て、外川が、


「ほら、もっと固まって食べるようにな〜」


と叫んではみた。


そのおかげもあってか、何人かの人は、軍団の中に人を招いたりもしていた。


更に外川は言う。


「そういえば、この弁当にはある伝説があるんだ」


いかにも胡散臭いことを言いますよという風に、外川はその言葉を口にした。


「何のことですか?」


大貴が尋ねる。


「この弁当にはな、実は全員中身が微妙に違う風に作られているんだ」


「え?そうなんですか?」


と言って、周りでは、自分の弁当箱と、他人のを比べっこする風景が映し出された。


確かに、鳥のから揚げがあるはずの部分が、野菜炒めが入っている人もいたり、何故か


サイコロステーキが投入されている当たり弁当も入っていた。


「あ、ずりーよお前」


という声まで聞こえてくるほどだった。


「まだ話は終わってないぞー」


騒ぎだした生徒達をなだめるように、外川は更に話を続けた。


「しかしだな、この弁当の中には、実は、ペアになるように中身がまったく同じという弁当が


 存在することがあるらしんだ、というより、あるんだ」


「それはつまり何を?」


今度は吉行が尋ねた。


すると外川は、笑顔でこう言った。


「その弁当の中身が同じだったペアは、必ず結ばれるという伝説、もとい伝統があるんだ」


(ピキーン!)


女子の目が一気に光り、男子の目も同様に光った。


「現に、その伝統にのっとって結婚にまで繋がっている人達も何人か、というより今のところ


 全組結婚しているなぁ」


その外川の一言がとどめとなり、彼らは一気に行動を始めた。


「うわっ!」


クラスメートたちの行動は早かった。


彼らはあっという間に健太たちを取り囲み、弁当の中身を聞き始めた。


おもな犠牲者は、健太・大貴・かなえの3人。


そんな彼らの様子を見ていた外川は、


「いやぁ〜青春だね〜」


と一言吐いた。


「こんな歪んだ青春を好んでいるのかあんたは」


誰かが外川にそう突っ込んだが、外川はまったく気にしない様子だった。




「つ、疲れた・・・」


健太たちがクラスメートから解放されたのは随分時間がたってからのことだった。


かなえも大貴も、いろいろと疲れてしまっていた。


そんな彼らに、


「お〜い、こっちこいよ〜」


という吉行の声が降り注いだ。


健太たちは、吉行の声が聞こえた方へと歩みを進める。


そこはクラスメートたちから少し離れたところだった。


そこに、吉行と美奈とミサの3人がスタンバイをしていた。


弁当の蓋は、まだ開けていない。


「いやぁ〜倉本がさ、相沢たちを待ってるって言うから」


どうやらミサが、健太たちが来るのを待っていたようだ。


「わざわざ待ってなくてもよかったのにな」


「まぁそう言うなって大貴」


健太は、吉行たちの座っているところにシートを広げ始める。


同じようにかなえもまた、美奈とミサの隣にシートを広げた。


「さて、お3方も来ましたところで、そろそろ昼食といきますか?」


「まぁ、もうすぐ下山の時間だろうと思うから、早く済まさなきゃだけどね」


「それではみなさんご一緒に・・・」


「私がどうかした?」


吉行が『いただきます』と続けようとしたところで、美奈が即座に反応した。


「いや、今のはお前の名前を呼んだわけじゃねぇから」


大貴がそうやって付け加えておいた。


「え〜ごほん!それでは改めまして・・・」


「「「「「「いただきま〜す」」」」」」


6人が声を合わせて、食事の時間は始まった。


だが、弁当箱を開ける気配は見当たらなかった。


「弁当の中身を公開するのは、ある意味このハイキングの通過儀礼みたいなものよね」


「いや、そういうわけではないと思うけど・・・」


美奈の言葉に健太が突っ込みをいれた。


「とにかく、蓋を閉めてちゃ飯くえねぇし、早く弁当箱開けようぜ」


「本邦初公開!これがオレの弁当の中身だー!!」


なんだか奇妙なセリフを言いながら、吉行は思い切り弁当箱を開ける。


同時に、健太たちも弁当箱を開けた。


「おお!」


「あっ」


「え?」


「うわぁ〜お!!」


「う、うそ!!」


「まじで?」


ずいぶんと奇跡的な出来事が発生した。


それはどんなことなのかというと、ぶっちゃけ中身が同じだった組がここで誕生したのだ。


しかも2組。


1組目は、予想はしていたのだろうが、健太とかなえ。


そしてもう1組は・・・。


「んな!お、オレかよ・・・」


「そして、よりにもよって私とはね」


なんと大貴と美奈のペアだったのだ。


「まぁなんというか・・・予想内の出来事ってか?」


「美奈たちのことも予想してたの?」


「それは正直言って無理でした」


吉行は、ミサの追及にとうとうボロを出した。


しばらくの間、健太たちはいろいろ談話をしながら食事の時間を過ごした。




そして数分後。


健太達は食事を終えて、下山をした。


無事に下山した所で、外川が直樹が混じっていることに気がついて、直樹は説教を


喰らっていた。


「ですから、道に迷ってしまっただけなんですって」


直樹は必死に抵抗をしていた。




ハイキングも無事に終了し、夜がやってきた。


「いやぁ〜一時はどうなるかと思ったけど、健太のおかげで無事に帰れてよかったよかった」


「まぁ、あの時は本当にびっくりしたけどな」


部屋にいる健太達は、先ほどの山での出来事について話していた。


「ところでよ、あの弁当って、誰か中身が同じだったって奴、いなかったのか?」


恐らくは、みんなが気にしていることなのだろう。


昼食時に外川が言っていたお弁当の伝説が、本当に当たるのかどうかは別として、とりあえず


中身が同じだった人というのはいたのかを、どうやら気にしているらしい。


「ああ、いたぜ」


「よ、吉行!」


「ほ、本当かよ」


即座に吉行が答えたため、声を荒げてしまった健太。


そして、クラスメート達が、先を話せと言わんばかりの目で、吉行を見ていた。


「では話そうか。あの時、弁当の中身が一緒だったのは・・・」


「一緒だったのは・・・」


(ジャガジャガジャガジャガ)


バックにこんな効果音が似合いそうな雰囲気の中、吉行が天井に意味もなく右手人差し指を


指して、語ろうとしたその瞬間。


「え〜来い!!」


という外川からの招集命令がやって来た。


「がはぁ!」


「ほっ」


吉行が勢いよくずっこけた所を見て、何故か健太はほっとしてしまった。




「以上で、ミーティングを終わりにします」


外川によるミーティング終了の合図を聞いた生徒達の多くは、風呂場に足を向けていた。


先日、あんな事件があったことなどまるで覚えている様子もなかった。


「まぁ、忘れて正解だろうな」


「主犯格は吉行でしょ」


大広間の出口に向かいながら、健太と吉行は話をしている。


と、その時だった。


「おい」


健太のまわりには、いつの間にかあの人達が囲んでいた。


ご存じ愛ちゃん愛好会のみなさんだ。


「おいおい、健太も変なのにモテるみたいだな」


「これはどう考えても違うでしょ!!」


健太は、吉行の天然ッぷり(?)に向かって突っ込みを入れる。


その間にも、ジリジリと間合いを詰めてくる愛好会のみなさん。


もはや絶体絶命と言った所で、救世主がやって来た。


「健太に近寄らないで!!」


救世主がやって来た?


「って愛!?」


思わぬ人物の登場に驚く健太を、さらに驚かせる人物が現れる。


「健太君から離れてください!!」


「ってかなえさんまで!?」


そう。


何故かかなえまでもが健太のガードをしていたのだ。


本人達にしてみれば、健太を守っているように思えるのだが、これが逆効果になることは


知らなかった。


「そうか・・・お前はそこまで優柔不断だったのか」


「この女たらしめ!!」


「ええ!?そ、それは誤解だよ!!」


「問答無用!!」


「え〜!?またこの展開なの〜!!」


こうして健太は再び追いかけられる羽目となってしまったのであった。


こんな感じで二日目も終わり、健太達は無事に次の日に帰宅したのだった。



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