その4 夜の戦い
そして10分後。
「ではこれから、相馬高校と里川高校合同のミーティングを行います」
外川司会のミーティングが始まった。生徒達は、体育座りの格好で外川の話を聞いている。
「えっとまずは、注意事項をいくつか話したいと思います。まず1つ目は、互いの高校の部屋
に入ることなのですが、本当なら極力やめて頂きたいのですが、こればかりはどうしようも
ないので、自由に出入りすることを認めます。女子が男子の部屋に入ったり、男子が女子の
部屋に入ったりすることは、夜の10時以降を除きまして、自由といたしましょう」
この言葉を聞いた瞬間、多くの男子生徒たちの心の中には、『よっしゃ〜』という声が
あったはず。
「・・・」
そんな中、どこか上の空で聞いているのは、健太である。健太は、先ほど愛が言おうとした
その言葉について考えていた。
そんなことを考えているうちに、
「・・・本当に、何だったんだろう?」
という言葉が漏れてしまう。その言葉に、
「ん?どうした健太?」
間髪なく吉行が尋ねてきたので、健太も間髪入れずに、
「何でもないよ」
と答えた。そしてまた、思考に移る。
その間にも、外川の話は続く。
「2つ目は喧嘩をしないこと。当たり前のことなのだが、毎年喧嘩をすることがあってな。
ちょっとしたことが理由で喧嘩に至り、残念ながらお亡くなりになられた生徒さんも
いるから、みんなも気をつけるようにしてくれ」
一体、どれほど大きな喧嘩が起きたのだろう。これのことに関しては、外川は言わなかった。
「そして3つ目は、これは男子への注意だが、女子にちょっかいを出さないこと。まぁ逆も
存在するわけなのだが、例えば、女子風呂を男子が覗くとか言うような典型的なことはしな
いように」
「先生こそしないでくださいよ」
「吉行、後でオレのところへ来い」
吉行は、どうやら外川の気を触れてしまったようだ。外川は、険しい顔をして吉行に
そう言った。
「ほ〜い」
こんなときでも、究極のKYである吉行は、そんな気の抜けた返事しか出来ないのだった。
「はぁ。これだから吉行は・・・」
健太は、今まで考えていたことを忘れて、いや、今まで考えていたことに終止符を打ち、
そう言った。
「まぁ考えるだけ無駄だね。今はこのことについては何も考えないことにしよう」
いずれ、その時が来るまでは、そのことに関して考える必要もないだろう。
そう考えたのだった。
「では、今後の予定について説明します」
と、これまた長い説明があったので、少し省略をして、重要な部分だけを言うと、
この後は風呂の時間なのだそうだ。
このオリエンテーション旅行の風呂は、両校関係なく入ることになっている。恐らくは、
時間を省略する為なのだろう。まぁ、この時間こそが、両校の壁を越えた厚き友情が
生まれる時なのだが。
「では解散です。これから1時間を風呂の時間として、その時間内だったら、いつ入っても
構いません」
「それは良かった」
美奈がそんなことを呟いた。一体何を考えたのだろうか?
「じゃあ、風呂行くか健太」
「え?あ、う、うん」
健太は立ち上がり、その場から離れようとした。
「け、健太・・・君?」
かなえは、健太に向かって何かを話したかった様子だが、結局話しかけられなかった。
何故なら・・・。
「健太〜!」
「うわっ!愛!!」
そう、愛が来たからだ。ちなみに、今の驚きは健太。そして、愛がいきなり、
「え?ちょ、ちょっと・・・!」
健太に抱きつこうとして、目の前にいる吉行に抱きついてしまった。
「おお早乙女!そんなにオレのことが・・・」
「そんなわけないでしょ!!」
(ビッタ〜ン!!)
もの凄いビンタ音が、部屋の中に響き渡る。その音に、部屋に戻ろうとした生徒がびっくり
して、こちらを振り向いてきた。
「ていうか、早く先生のところへ行きなよ」
「おおそうだったな。じゃあ風呂に行くのは少し待っててくんねぇか?」
「うん、別にいいけど・・・」
「よっしゃ!じゃあ待っとけ!!5分で帰ってくるからな!!」
(ダダダダダダ)
吉行は走って消えた。
「やっと2人きりになったね」
「いや、なに雰囲気を作ってるの?それに・・・って、うわっ!」
今度こそ、愛は健太に抱きついた。
「ねぇ、ちょっと散歩しよ♪」
愛は妙にご機嫌だった。
「いや、僕は別に構わないんだけど・・・この人達が許さないかと・・・」
健太と愛を取り囲むようにして、里川高校1年生による、『愛ちゃん愛好会』のみなさんが
並んでいる。
「おい、どこの誰だか知らないが・・・愛ちゃんに手を出すなー!!」
「うわぁ〜!何で〜!!」
(ダダダダダダダダダ)
健太は、愛ちゃん愛好会のみなさんに追われた。ちなみに、愛好会メンバーは、50人くらい
いるので、相当な人数となる。
「てめぇ!待ちやがれ!!」
「待てって言われて待つ人なんかいないよー!!」
怒りの声が聞こえてくる。そんな中直樹は、愛に寄り添って、
「愛ちゃんは、僕が守るから」
と、自分の中で一番カッコイイ顔をして愛にそう言った。だが、
「も〜う、直樹君の、馬鹿ー!!」
(バッシ〜ン!)
吉行のものよりも強烈なビンタ炸裂!!
「ぐはっ!」
そして直樹は、そのままぶっ倒れた。そんな直樹を見ようともせずに、愛は健太達を
追いかけていった。
「健太君、大丈夫かな・・・?」
かなえは、そんな人達が立ち去った後、静かに立ち去っていった。
しばらくして、風呂の時間となる。先程、5分で来ると言った吉行は、まだ戻って来ては
いない。まだ5分は経っていないのだが。
「さすがに5分で帰ってくるのは、無理だよね」
そう呟いたその時だった。
(バン!)
突如、ドアが開かれて、
「おまたせっ!」
吉行が現れた。時間にして、ジャスト5分。
「す、凄い・・・本当に5分できた・・・」
「じゃあ風呂に行くぞー!」
「おー!!」
「よっしゃー!!!!」
「・・・なんだか、やけに気合入っているね」
風呂の時間になると聞いて、なぜか盛り上がりを見せる吉行たち(健太は除く)。まぁ、
気合が入っているのはこちらの4人だけではないわけなのだが。
「よし大貴、行くぞ!」
「まぁ、風呂に行く事自体は別にいいけど」
大貴の部屋でも、同様な騒ぎが起きていた。無論、大貴は除く。
このほかの2部屋でも、結構な騒ぎが聞こえてくる。隣の女子の部屋にまで聞こえないの
だろうか?
「・・・なんか、混みそうだから、後で入るね」
健太はとりあえず、1人部屋に残こることにした。そして、この判断は正しかったのである。
一方、女子側にも何か考えがあるみたいで、
「美奈、本当にこれを持ってきた意味ってあるの?」
「うん。これがこの学校に伝わる伝統らしいよ。この前、先輩っぽい人から聞いた」
「ぽい人って・・・」
美奈の情報網は、入学してわずかなのに、かなりの広さを誇っているみたいだ。もう先輩から
いろんな話を聞き出していたらしい。同じ頃、愛のいる部屋でも、
「こんなの持ってきて意味あるの〜?」
「当たり前じゃない!!」
とクラスメートに言われている愛。愛の手にも、ある物の姿があった。それが何なのかは後の
お楽しみ。
「あ、でも今は混んじゃいそうだから、私は後で入るね」
と、愛も健太同様に、部屋の中で待つことにした。同じ頃、かなえは廊下を歩いていた。
すると、ある事に気づく。
「あっ、いけない。部屋に着替えを忘れちゃった」
「あら。そう」
どうやら着替えをかばんの中に入れっぱなしらしい。
「私、一旦部屋に戻って、美奈たちが帰ってきてから入るね」
「分かった。ラジャー!」
2回も肯定を示す言葉を使う意味が分からないが、とりあえず分かったようだ。
そして吉行たちは風呂に入る。
「あれ?渡辺。お前も狙いに来たのか?」
「いや別に俺は・・・」
「はっはっはー!恥ずかしがるこたぁねぇって!!」
「は、はぁ・・・」
大貴は吉行の様子に多少呆れる。しかしこの2人の仲は、結構いいらしい。
「なぁ吉行。本当にいいのかな?」
「ああいいぜ。この手のことはオレに任せな」
「おお〜」
周りにいる男子からの感嘆の声が聞こえてくる。
「この日の為に先輩からアドバイスをもらったぜ!!」
「おお〜!!」
感嘆の声はさらに大きくなる。
「じゃあ行くぞ!!」
「よっしゃー!!」
(ガラッ)
勢いよく風呂場の扉を開けたところ、
「な、なんだよこれ・・・」
軽く300人は入れるような風呂がそこにはあった。それだけあって、洗い場の数も
並じゃない。
「ここの宿って、風呂に金使いすぎだろ・・・」
「どこぞのホテルにある金の風呂並に金かけてるよな、これ」
「ああ、そうだな・・・」
中にいる男子達は、皆同様に驚いている。しかし、その中には健太の姿はもちろん、
何故か直樹の姿までなかった。
ここで、吉行があることに気づく。
「だが待てよ・・・これだけこっちが広いということは・・・」
その後の言葉を続けるように、ある男子生徒が言う。
「向こうも多勢じゃん!!」
「よっしゃー!!」
さらに声は大きくなっていく。
「よ〜し、確かこことここと・・・」
吉行は、どんどん竹の柵の弱い部分を探していく。どうやらこの風呂の柵は、竹のようだ。
「よし、順番に見てこう」
「おおー!!」
吉行たちは、順番にという言葉を完全無視したように群がっている。
「・・・アホか」
1人大貴は湯船に静かに浸かっている。
「・・・まぁ、ちょっとやりたくないよね、あれは」
大貴に話しかける男子生徒。
「落ち着けっての!!」
誰かの叫び声が聞こえてきたその時だった。
(ガラガラガッシャン!!)
突如竹の柵すべてが、男子風呂の方へとぶっ倒れてきた。
「うわぁ!」
当然、柵の周りにいた男子は、下敷きとなってしまう。
「あんたたち、のぞきはよくないわね」
美奈が先陣を切ってそう言う。その言葉に、数名の女子が、
「そうよそうよ」
と同意をしている。よく見ると、女子は皆水着を着用していた。
「な、なに!?」
「こ、こんなの先輩も話してなかったぞ!!」
吉行がかなりの動揺の色を浮かべていた。
その吉行に釣られてか、他の男子も顔面蒼白になっていた。
「当然でしょ。男の先輩は、女の先輩を恐れて言えなかったのよ。言ったら殺されるからね」
美奈の口元が妙に光っているのは気のせいなのだろうか。そして、ミサと美奈はこう言った。
「もとはと言えば、あんた達が覗こうとしたのが原因なんだから」
「その柵はあんた達が片付けてよね」
「そんなことしたくねぇよ」
吉行は、最後の反撃をしたが、
「でないと殺すわよ?」
ミサの殺気が籠った言葉によって、あっさりと打ち砕かれてしまったらしく、
「・・・はい」
とうとう負けてしまったのである。
「それと、片付けが終わったら、すぐに風呂から出なさい」
「ええ!?」
これには、さすがに反対してみたのだが、
「殺されたいの?」
の言葉で打ち砕かれた。
「へぇ〜い・・・」
吉行たちは、しぶしぶ竹の柵を片付け始めた。そんな様子を見て、
「自業自得だな」
大貴はそう呟いていた。
一方その頃。
「そろそろいい頃かな」
健太は風呂の準備を済ませて、風呂に行こうとした。すると、
(ガチャッ)
ナイスタイミングで吉行たちが帰ってきた。
「あれ?早いんだね」
健太は、吉行たちの意外なまでの早さに少し驚いてそう言った。
「まぁな。いろいろあってな・・・。それより、早く風呂に入ってこいよ。今なら
空いてるぞ」
「分かった。じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃ〜い」
吉行たち4人は、声を揃えて健太を送り出した。そして、
「はぁ〜」
と溜息をつくと、そのまま寝転んだ。
5分くらい経って、健太は風呂の中へと入っていった。
(ガラッ)
「うわっ、空いているというより、誰もいないような気が・・・」
脱衣所には、服が入っているかごが1つしかなかった。その服は大貴の物なのだが、
「お、木村か」
大貴も先に風呂を上がってしまい、健太1人となった。
「とりあえず、入るか」
健太は、風呂に入る為に服を脱ぎ、風呂場の扉を開けて、まず一言。
「うわ、広い・・・」
誰もが口にするような一言を漏らし、それから、
「こんなに広くしなくてもいいんじゃないのかな?ここ、混浴?」
そう言葉を続けた。すると、後ろから、
「ガラッとな」
という声が聞こえてきた。その人物も、
「広い・・・」
と一言漏らしていた。そして、
「あれ?健太じゃねぇか」
と、健太に話しかけてきた。
「あれ?もしかして・・・」
「お前も今風呂なのか?」
「うん、そうだけど。直樹」
そう、今風呂に入ってきたのは直樹だったのだ。直樹もまた、あの時間帯に風呂に行くのを
やめたみたいだ。
風呂の中だと言うのに、直樹は律儀にもめがねをかけていた。
「風呂の中なんだから、めがねくらいはずしたら?」
「いや、いいんだ。これがオレのポリシーだから」
「は、はぁ・・・」
直樹の意味不明な発言により、健太は溜息交じりの声を出してしまう。と、ここで直樹が突然
話を切り出してきた。
「ところで、お前に2つ質問したいことがある」
「何?」
「とりあえず1つ目は・・・」
直樹は、少しだけ躊躇って、風呂場全体を見回し、
「この風呂、どうしてこんなに広いんだ?」
と尋ねた。恐らくは、この風呂に入った人の誰もが思いつく質問だろう。もちろん健太も
このことについては突っ込んでいる。
「さぁ・・・。僕だって知りたいよ」
とりあえず健太も答えは分からないので、そう返す。
「200人は楽に入るよな」
「うん・・・ていうか、これだけ広い風呂に、僕達以外誰も入っていないってことは、
もしかして、もう全員風呂に入っちゃってるってことだよね」
「そうなるよな・・・」
ここで、この風呂に関する話は終わる。そして、直樹が第2の質問を聞いて来る。
「2つ目は・・・愛ちゃんについてどう思ってる?」
「・・・はい?」
直樹のその質問に、健太は唖然としてしまった。
そんな中、
(ガラガラ)
隣の女子風呂にも、誰かが入ってきた。
「ふぅ〜」
黒髪のツインテールは、今はロングヘアーとなっている。
パッチリとした瞳は健在だ。そう、彼女は愛である。
「それにしても・・・このお風呂広すぎね〜」
そう愛が呟いたときだった。
(ガラッ)
また誰かが入ってくるような音がした。と同時に、
「うわぁ〜、広い・・・」
という感嘆な言葉までついてきた。金髪のロングヘアーの少女は、かなえである。
「あ・・・」
かなえは、愛の存在に気づき、
「こんにちは」
と挨拶をする。愛からもこんにちはと返ってきた。そして、先ほどの出来事を思い出した
かなえは、
「あ、あの〜、もしかして、健太君のお知り合いですか?」
と質問をしてみた。
すると愛は笑顔で、
「そうだよ〜。私は早乙女愛」
と答える。自分の名前を添えて。
「私は、相沢かなえです。愛さんは、健太君の友達ですか?」
「うん。ていうか、幼馴染なの。って、どうしてこんな質問を?」
幼馴染と公表した後で、どうしてこんな質問をしてきたのかを尋ねる愛に対してかなえは、
「えっと、さっきのホールでの出来事を思い出したので・・・」
と、正直に答える。
「あ〜あのこと・・・。見てた?」
「はい、全部」
「全部って、私が健太に抱きついた所とかも・・・?」
「はい」
その言葉を聞いた愛は、顔が少しだけ赤くなった。恥ずかしいのだろう。
しかし、あんなに人がいたのに、逆に見ている人がいないと言うのは、
かなりと言っていいほど奇跡に近いのである。
現に、何人かの女子は、嫉妬の目で愛を見ていたし、健太に対しては、愛ちゃん愛好会の
みなさんが睨み付けていて、最終的には健太を追いかける所まで発展している。
「それで思ったんですけど・・・」
「ん?何?」
「健太君について、どう思っていますか?」
「え?」
「だから、愛ちゃんについてどう思ってるかって聞いてるんだよ」
「どうって言われても・・・」
健太は悩んでしまう。
健太にとっての愛は、大切な友達であって、それ以上でも、それ以下でもないからだ。
「・・・幼馴染、それも、凄く大切な友達かな」
「・・・本当に、友達までなのか?」
「え?」
「本当にそこまでなのかと聞いてるんだよ!!」
突然、直樹が叫びだした。
「うわっ!」
そのあまりの剣幕に、健太は思わず後ずさりをしてしまった。
「なぁ、正直に答えてくれよ・・・」
「いや、正直に答えた結果なんだけど」
「オレは、愛ちゃんのことが好きだ」
「いや、言わなくても十分理解してるから」
直樹の言葉に、ただ相槌を打つだけの健太だった。
「う〜んとね、私の、大切な人かな?」
愛はかなえの問いにそう答えた。
「・・・何か、あったのですか?」
かなえはまた愛に質問する。
愛も、かなえの質問にきちんと答える。
「・・・中学生の時までそんな気持ちを考えたこともなかった」
愛は、かなえに昔話をし始めた。
「中学生の時に、私、不良の人達に誘拐されたの」
「!」
「突然のことだった。いきなり後ろから口を塞がれて、そのまま車の中に押し込まれた。
一瞬何が起きたのか分からなかった。でも、車でどこかへ運ばれてた途中で、健太と
すれ違ったの。私は急いで健太に助けを求めた。携帯電話にメールを送ったの。しばらく
して、車はどこかの倉庫についたの。そこで私は、鎖に繋がれて、服を脱がされそうに
なったの」
「・・・」
愛の話は、予想以上に重い話だった。
かなえは、愛の言葉を一言も漏らさないように聞き取る。
「そんな時、健太が助けにきてくれた。襲い掛かってくる不良をなぎ倒して、私を救ってくれ
た。それからかな。私が健太に好意を持つようになったのは」
「・・・そんな事があったのですか」
かなえたちがそんな話をしていたその時だった。
(バン!)
突然、竹の柵が崩壊し、何者かが姿を現した。
「うわっ!」
その音に、当然健太達も気づく。
「な、何者だ!」
直樹が不審者を迎え入れるような口調でそう尋ねる。
その何者かはこう答えた。
「私?私はね、あんた達の担・・・」
「ヤンクミじゃないでしょ」
健太にズバッときられる。
「私よ、美奈よ」
竹の柵の中から現れてきたのは、美奈だった。
ちゃんと服は着ていた。
「私、この人知らないんだけど・・・」
愛はまだ一度も美奈に会っていないので、知らなくて当然だった。
「ていうか、どうやってその柵の中に入ったの・・・」
健太はそう尋ねたが、
「まぁいいじゃないそんなの」
の一言で流された。
「では私はこれで失礼しようかしら。11時に私の部屋に来なさいよ」
「いや、消灯時間過ぎてるし・・・」
「大丈夫よ。大人の事情で12時に・・・」
「ならないから」
「まぁいいわ。せいぜいNow Lifeを楽しむがいいわ」
直訳すれば、今の生活である。
「おーほっほっほ〜!」
(ドロン)
どっかの悪役のような声をあげ、美奈はどこかへ消えた。
「・・・忍者?」
この後、健太たちはすぐに風呂を出たという。
「ていうか、今の英文ってあってるのか?」
直樹はそう呟いた。