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その2 いろいろあるわけですよ

自己紹介の時間が終わり、先生が年間行事予定表を配布した。


「何だろ、これ?オリエンテーション旅行?」


1週間後に、オリエンテーション旅行という1年生全員で行く行事があるらしい。


「なぁなぁ健太、これを見てみろよ」


吉行が後ろを向いて健太に話しかけてきた。


「分かってるよ。このオリエンテーション旅行のことでしょ」


「ちげぇ〜よ。ここだよここ」


「ん?」


健太は、吉行が指差した場所を見て、驚いた。


「え?な、何これ?」


「だろ。驚いただろ」


どうやら吉行も驚いたようだ。健太と吉行が見たのは、11月11日に行われる『犬の散歩大会』


という行事だった。犬の日だからだろうか。


「どういう大会なのかな?これ」


思わずかなえもこの一言。


「ふっふっふ。面白そうじゃない」


美奈はそう言った。やはり変なものには共感を持つ少女らしい。


「え〜、それでは来週からのオリエンテーション旅行について説明をしたいと思います」


教室内は少しざわついている。それを収めようと先生が、


「ほれ、静かにせんか」


と言おうとしたが、『か』のところで突然言葉を詰まらせた。


「あれ、どうしたんですか先生?」


「先生?」


多数の生徒は驚いている。すると、『バンッ!』という大きな音をたてて、若い男の人が入っ


てきた。


「見つけたぞ!不審者め!!」


「え?」


その一言に、教室にいた生徒の誰もが驚いた。自分達の担任に対して不審者と断言する若い男


性。彼らにとって、その男性の方が不審者である。


「あの〜、この人は先生なのでは?」


「しかも、ここのクラスの担任ではないんですか?」


大貴と健太はそう言った。1−Bの皆もその言葉に同意した。


「1年B組の担任は、僕、外川です!」


「ばんなそかな!!」


思わず吉行は、どこかで聞いたことあるような叫び声をあげた。


「じゃあ、この人は一体誰なんですか?」


かなえが聞く。すると、さっきまで担任だった老人からこう返事が返ってきた。


「わしの名前は谷村任太郎。脱獄犯じゃ」


老人がこうあっさりと返してくるものだから、一同は、


「は?」


という返事をするしかなかった。


「何で・・・?」


と思わず健太も口にしてしまった。クラス中が唖然としていて、寒い空気が流れる中、


「きゃっ!」


という女の子の悲鳴により、北極が、一気にハワイとなった。


「な、なに!?」


自称、1−B担任の外川は叫んだ。


「あ、相沢さん!?」


クラスの誰かもそう叫んだ。そう、先ほどの叫び声はかなえのものだったのだ。


「へぇ〜。あいつ、相沢って言うんだ〜」


「先生、今はそんなふざけたことを言っている場合じゃないですよ。ていうか、何でこの学校


 に脱獄犯が来るんですか?それに、この学校の管理体制はそうとう杜撰ですね」


健太は、外川と老人と、この学校の管理体制に文句を言った。


「おお、すまん」


外川は謝った。かなえにナイフを突きつけた状態の老人は、


「そりゃあ、死ぬ前にこの学校を見たかったからじゃ」


と答えた。


「は?」


また一同は声を揃えてそう言った。


「その前に、まずアンタは何の罪で捕まったんだ?」


吉行が恐れもなく尋ねてきた。すると老人は、笑顔で、


「腹が減っていたあまりにパンを盗んでしまったんじゃ」


と答えた。ちなみに、パンは100円相当。


「・・・アホか!!」


大貴は吠えた。かつてない程吠えた。


「こいつ、完全に狂ってるというか、馬鹿だな」


「うん、そうだね」


吉行の言う言葉に、健太は納得した。


もうどうでもいいような空気が流れている中、


「その子から離れろ!!」


「ふん、若造。離れろと言われて素直に離れる愚か者などおらんぞ」


犯人と警察の様な会話をする老人と外川。そして、


「(誰でもいいから、助けて!)」


というかなえの純粋な心の中。そんな中、突然老人がドアの方へと足をゆっくりと進め始め


た。無論、かなえは人質に取ったまま。


「ど、どこへ行く気だ!?」


「決まっておろう。外国へ高飛びじゃ。そうじゃな〜、イタリア辺りにかな?もちろん、この


 子は連れていくぞい」


「え?」


かなえは、なにやらかつてない程の恐れを感じているらしい。目がパッチリとしてしまってい


る。


「おい!馬鹿な真似はやめろ!!」


外川がそう叫ぶ。廊下にその声が響く。別に馬鹿な真似はしていない。


「もう遅いぞ、若造」


老人はそう言うと、また一歩ずつドアの方へと歩みを進めた。そんなスピードでは、逃げ切れ


るわけがないというのに、かなえを人質に取ったまま、一歩、一歩とドアの方へと歩みを進め


ている。そして、


(ガラッ)


と、完全に外へ出ようとしたその時だった。


(スパ〜ン!!)


「ぐっ!」


(ドサッ)


老人の後頭部辺りから棒みたいのが降って来て、直撃した。そして後ろには、ほうきを手に持


って立っている健太の姿があった。


「おお!さすがは健太!!俺の指示通りに・・・」


「あんたは何もしてないでしょ」


(ぺチッ)


と、吉行は美奈に頭を軽く叩かれた。その様子は誰にも見られていなかったわけなのだが。


「やったー!!」


「カッコイイ!木村君!!」


「やるじゃん!お前!!」


などと、健太を中心としてクラスは大盛り上がり。


「お前、凄いぜ、凄すぎるぜ!」


大貴が健太を褒める。


「いや別に大したことはしてないけど・・・」


いや、充分にしているはずだ。


「よかったら、俺と友達になってくれないか?」


突然の友達になってくれの言葉に健太は、


「僕でよかったら、いいけど」


と、快く承諾した。こうして、何故か発生した脱獄犯による、校内立てこもり事件は幕を閉じ


たのであったのだが、一つ疑問が残る。


「でも何故わざわざこのB組を狙って来たんだろう・・・?」


一人考えこむ健太であった。




その後、警察の人がやってきて、無事に老人の身柄は引き取られた。1−B組は、ホームルー


ムを再開することにした。


「というわけで、入学して早々いろいろあったが、改めて紹介する!このクラスの担任となっ


 た外川だ!皆、よろしく!」


外川は、年齢は20代前半で、体育会系なのか、筋肉が結構がっちりとしている。なのに、担


当教科は国語なのだと言う。


「自己紹介は・・・時間がないから後でよし。ではまずは・・・」


「先生」


健太が挙手する。


「なんだ?えっと・・・木村?」


「はい。この、犬の散歩大会って、一体どんな行事何ですか?」


恐らくは、教室にいる人全員が気にしていたことだと思われる質問を健太はした。


「ああ。その行事は、ただ犬の散歩をするだけの大会だ。ちなみに、1位には賞品もあるぞ」


「なんで賞品があるんだよ」


大貴はそう突っ込みを入れていたが、誰にも聞かれてはいない。


「じゃあ、来週のオリエンテーション旅行について説明するぞ」


外川が、オリエンテーション旅行について話始めた。長いので大切な部分だけをまとめるが、


このオリエンテーション旅行という行事は、この学校の伝統行事らしく、新しく顔を合わせた生徒達が多


いために、お互いの顔を早く覚える為の、要は親睦会みたいな行事だ。


泊まる場所は、山梨県にある山中湖。


グループは、とりあえず出席番号順で5人ずつ。ちなみにこのクラスは、男子20名で女


子20名の計40名となっているので、きっちりと分けられる。無論、女子と男子は別グルー


プである。


部屋は、そのグループ毎に割り振られることとなる。


「まぁ、早く友達を作ってもらう為に、学校側が仕掛けた行事ってことだ」


「そんなこと言っていいのかよ」


誰かがそう呟いたが、とりあえずここは無視することにしよう。


「山中湖か・・・。一体どんなところなんだろう?」


健太の心の中は、山中湖のことでいっぱいだった。


「ちなみにこの旅行は、他の高校も1校来ている。この高校とのオリエンテーション旅行は、


 すでに伝統と化している。くれぐれも迷惑なことだけはしないように」


外川は、少し声を張り上げてそう言った。


「外川」


美奈が外川を呼び捨てにして手を挙げた。


「お前は、中川だったな。先生を呼び捨てにするな!」


「その学校って、どこなんだ?」


外川の意見を完全無視して、美奈は質問を続けた。


「え?どこの学校かって・・・?」


今回は観念したのか、外川は質問に答える。


「えっと確か・・・里川高校とか言ったな」


「え?」


外川の言った高校の名前を聞いて、健太は少し驚いた。


「何だって?」


吉行も同様に驚く。


「ん?どうした?木村に海田」


もうこの2人の名前だけは完全に覚えたようだ。


「いえ、何でもないです」


2人は同時に言った。


「そうか・・・残念だな」


一体何を期待していたのだろうか?


「では、今日のところはこれにて終了。号令はいいから早く帰れよな。また明日!」


と言って、外川は教室を後にした。


「・・・なぁ健太。ちょっと屋上に行こうぜ」


「うん、分かった」


と、屋上に行こうとしたのだが、


「ねぇ木村君!住所教えて!」


「誕生日は?」


「血液型は?」


「好きな子のタイプは?」


など、健太は、女子による取材を受けていた。


「あーえっとー、とりあえずまた今度ね」


と言って、とりあえず健太は、女子達の間をすり抜けてドアの方へと向かった。


「あっ、待って木村君!」


女子達は、健太を追いかけようとしたが、タイミングよく吉行がドアを閉めた為に、勢いよく


女子達はドアに激突した。取材者達で群がっていた場所が、一気に事故現場へと姿を変えてい


た。


「ああ、行っちゃった」


その中には、美奈の姿もあった。


「まぁいいわ。抑えている男の子No.2の渡辺君もいるから・・・っていない!?」


教室にいるはずの大貴も、いつの間にか帰っていた。


「帰るの早いな〜」


見知らぬ男子生徒がそう呟いていた。




「まさか黒川高校と一緒とはな」


屋上に上り、健太と吉行は話をしている。


「いや、里川高校だよ。下の4つの点はつけなくていいんだよ」


健太は、吉行の細かいボケも見逃さない。


「里川っていうと、あいつがいるところじゃなかったっけ?」


「ああ。幼稚園からの幼馴染だった『早乙女愛』がいるところだね」


「ところが、俺達がこの相馬高校に入学したときに、親の都合とか言って引越したおかげで、


 里川高校に行っちゃったんだよな!くそー!!なかなかいい感じだったのに!!」


吉行は一人、南の方角を向いて吠える。


「・・・いや、吉行と愛は付き合ってないでしょ」


「そこはのってくれよ〜」


「はぁ」


吉行の発言に、健太は少し息を吐いた。


「久しぶりに会えるんだなぁ〜」


「そうだね。結構可愛かったしね」


「結構じゃない!凄くだぞ!何せ早乙女は、俺らの学年の中で一番モテたんだからな!」


吉行は、やや早口で、やや強めにそう言った。まるで、何かに取り付かれたように。


「・・・吉行、もしかして、愛のことが好きだったのか?」


「え!いや、あの、その・・・そういうわけじゃ・・・」


顔を赤くする。そんな吉行を見て健太は少し呆れる。


「・・・まぁいいや。とにかく僕は帰るよ」


屋上を後にしようとした健太だったが、


(ガシッ)


と、袖を吉行に掴まれた。


「待ってくれ!俺を見捨てないでくれ!!」


「いや、別に見捨ててるわけじゃ・・・」


何がなにやら戸惑うしかない健太。と、その時だった。


「そこの人!」


という、大きな声がした。


「え?」


2人声を揃える。その先にいた人物は・・・。


「この子が困ってるでしょ!いじめはやめなさい!!」


見たこともない人だった。入学式のときにも見なかった顔なので、恐らくは上級生なのだろう。


「いや、俺は別にいじめてなんか・・・」


吉行が反論を述べようとしたが、


「ほら!とっとと離れる!!」


(ドン)


と、突き放されてしまった。


「あの・・・あなたは一体・・・?」


健太はその女性に尋ねる。その女性は、茶色くて長い髪の毛を風になびかせて、


「私は、真鍋瑞穂、高校2年生で生徒会副会長よ」


とだけ答えた。




「何か、ひどい目にあったぜ」


吉行は、愚痴をこぼしながら帰り道を歩く。


「まぁまぁ。もう済んだことなんだし」


「まさかあそこで生徒会の副会長さんが来るとはな〜。ちょっと考えてなかったぜ」


「まぁ・・・。まさかのことだよね」


時刻にして12時。もうお昼の時間帯だ。


「いいよなぁ〜お前は。帰りが遅くても誰にも怒られないし」


「まぁ、1人暮らしだからね」


そう、健太は今、アパートで1人暮らしをしているのである。家からでは遠い学校に行くとい


うことで、両親が家賃を払ってくれて、ちょっとした自由があるのだ。もちろん、自炊生活


だ。


「とにかく、1週間後が楽しみだな」


「そうだね」


話は、オリエンテーション旅行についてのことに変わる。


「何か持ってくる?」


「何かって?」


「ゲームとか」


結構リアルな話である。


「いや、別に持ってこないけど。そもそもゲーム自体持ってないし」


「ああそうだったっけ。俺のゲームでよかったら貸してやろっか?」


「いいよ。どうせやる暇なさそうだし」


そして、歩いているうちに、健太のアパートの前まで来た。


「それじゃまた明日」


「また明日」


吉行と別れて、健太はアパートの自室へと入っていった。


(ガチャリ)


「ただいま〜」


誰もいない空間へとそんな挨拶をする。


(ドサッ)


とりあえず健太は、荷物を置く。


「そうだ。昼ごはんの買い物に行かないと」


何度も言うが、健太の家は1人暮らしなので、食事も自分で済ませなければならないのであ


る。


「それじゃ、行ってくるか」


(ガチャッ)


ドアを開ける。周りに誰もいないことを確認し、


(パタン)


と、扉を閉めた。




「さて、カップめんでも買おうかな」


手持ちは1000円。しかし、カップめんは100円くらいで済む代物だ。


「節約はしないとね」


結局、カップめん1個に、1000mlの水を持ち、レジを抜けた。


「ありがとうございました〜」


店員がそう言うのを聞きながら、レジ袋を片手にスーパーを出た。と、その時に、


「あ、健太君」


「か、かなえさん?」


偶然かなえと出会ったのである。


「こ、こんな所でなにしてるの?」


とりあえず健太は、落ち着きない手を落ち着かせてかなえにそう問う。


「昼のおかずを買いにちょっとそこのスーパーまで」


「・・・ああ、あのスーパー」


かなえが指差した先には、先ほどまで健太がいたスーパーがあった。


「健太君は?」


「へ?僕・・・。僕も昼の買い物に」


ちょっと慌てた様子で健太はそう答えた。


「・・・」


しばしの沈黙が続く。そして、その沈黙を破ったのが、


「・・・あ、あの!」


かなえのこの一言だった。


「は、はい!?」


いきなりそう言われたから、健太は思わず気の抜けた返事をしてしまった。


「・・・さっきは助けてくれてどうもありがとうございました」


「さっき?・・・ああ、あのこと?いやいや、たいしたことはしてないよ僕は」


先ほども述べたが、たいしたことをしているのは健太だ。


「それで・・・もしよければでいいんですけど・・・、今度、何かお礼をさせては頂けないで


 しょうか」


「お礼?別にいいけど・・・」


「そうですか!よかった〜」


かなえは、健太が承諾の言葉を言うと同時に、喜びの笑みを浮かべた。


「健太君の好きな場所ってどこですか?」


「え?・・・美術館かな?」


「じゃあ、来月になってしまうんですけど、ピカソの展覧会に行きませんか?」


「展覧会?うん、いいよ」


突然の申し込みに健太は多少驚いたが、とりあえず了承した。すると、


「じゃあ、来月の一番最初の日曜日に学校の門の前で待ってますね!」


「え?あ、ちょっと・・・行っちゃった」


かなえは、機嫌よさそうに、健太の家とは反対側の方へと走っていった。


「来月の日曜日、か」


健太は、一回そう呟いて自分の家へと帰っていった。


そして、1週間後。オリエンテーション旅行の日がやってきた。




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