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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
1章:王城狂想曲
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見舞って



 例の祝賀会から五日たった。

 なんだかんだで穏やかな日々が続いていたのだが、ある知らせが舞い込んできた。


 マルク・グリーベル。白薔薇騎士団第一副団長。

 温厚な性格で、メガネをつけた参謀といった印象を与える彼だが、実際は真っ先に戦場に駆け込む根っからの戦闘狂らしい。騎士らしからぬ戦いぶりに「騎士じゃなくて戦士だな」とまで言われるのだが、彼の弱点はストレスにとことん弱いことである。


 そんな彼が、血を吐いて倒れた。


 初めてその知らせを聞いた時、「とうとう胃に穴があいたか……」と若干遠い目をしてしまったものだ。彼は常にストレスと戦っていた。いやもう、魔物よりもストレスのほうが恐ろしい。

 そんな彼に、特製の薬と見舞いの品を届けに行こうと医務室へと向かっていた。

 彼は有名な騎士の家系生まれで、貴族ではあるらしい。が、騎士寮住まいで、療養は城内の医務室でするとのことだ。

 医師団とは関係良好なため、医務室に入る際、軽く挨拶をして中へ入ると、ベッドで辛そうにしているグリーベルがいた。

「グリーベル殿、お久しぶりです。お加減はいかがでしょうか」

「……シクザール殿?」

 痩せこけた頬と真っ白な顔。綺麗だった黒髪はすっかりボサボサで、儚げな銀の瞳は生気が感じられない。いったい何があったんだと問い詰めたくなるような病人ぶりに、さすがに心配が増した。

「ええと……医師団の仕事を奪うのもアレなので、魔導師団は特に派遣する予定はありませんが、必要とあればいつでもお呼び下さい。あと、こちらは個人的な見舞いの品です」

 起き上がろうとするグリーベルを抑え、枕元に季節の果物が詰まった籠と魔法具、あと特製の薬を置いておく。

「すみません……わざわざ見舞いに……」

「いえ、お気になさらず。いつもご迷惑をおかけしてますから」

 魔法具を袋から取り出してグリーベルに見せる。小さな巾着に魔力を込めた石、魔石が入っているお守りだ。

「健康祈願・病気平癒のお守りです。私のお手製ですから効果は保証しますよ」

 実際、私の作ったお守りは希少価値がついて出回っている。貴族がこぞって買おうとしているらしいが、どうにか少量を街にも流していた。ぶっちゃけ、流通していないのは作るのが面倒だから数が少ない、というのが真相である。

 するとなぜかグリーベルは頬を僅かに赤らめた。熱も出てきたのだろうか。

「ありがとうございます。大切にしますね」

 どうやら喜んでもらえたようだ。素直にお礼を言われるとこちらも嬉しい。

 仮面はつけているが笑顔を彼に向けるとなぜか顔をそらされた。何か気に障ることをしただろうか。彼に嫌われると少しばかり悲しい。

「あまりいてもお邪魔でしょうし私はこの辺で……」

「えっ、あ、その……もう少しお話しませんか?」

 気を使って退室しようとしたら引き止められた。暇だから話し相手が欲しいのだろうか。

「私は特に用事もないので構いませんが……お体に障りませんか?」

「ええ、食事は制限されてますけど、会話は特に問題ありませんから」

「そうですか。それではどんなお話を――」

 すると、私めがけて何かが飛んできたのを察知し、咄嗟に身を守る結界を張った。結界に阻まれて投げつけられた「それ」はぱさっと音を立てて床に落ちた。

「なんでお前がここにいる……!」

 その憎々しげな声と鋭い眼光。一番会いたくない人物と遭遇してしまった。

(あー……タイミング悪いなぁ)

 投げられたものはどうやら見舞いの花束。せっかくの花が台無しである。

「出て行け魔導師。グリーベルさんの気分を害する」

 今まさにグリーベルの胃を悪化させている元凶が低い声で言う。

「あの、ヴィンフリート……彼は私の見舞いに来てくれたお客様だよ? そういうことを――」

「グリーベルさんは黙っててください」

 先輩の言葉を切って捨てやがった。

 グリーベルは「ああ……胃が……胃がぁ……」と呟いている。かなり深刻な悪化の兆しが見えた気がした。

「相変わらず弁えない小僧ですね。まあ、グリーベル殿の体調に免じて、私は帰ります。グリーベル殿、失礼します」

「二度と顔を見せるな!!」

 去り際に何か投げられた気がしたが、結界を張ったので当たることはない。

 ……ちなみに、私のほうが年下なんだけどなぁ。

 医務室を出て、堂々と城内の回廊を使って研究室へと向かう。その間、騎士たちからやたら好奇の目を向けられていることに気づき、聞き耳を立ててみた。


「…………がグリーベル殿……」

「……あの魔導師…………だってさ……」


 ああ、もしかしなくても交友があるだけで噂になっているのか。

 グリーベル殿は親魔導師というわけでもない中立派だ。ただ、私とやりとりしているせいで嫌魔導師派の騎士からよく思われていないのかもしれない。

 だとすると大変申し訳なくなってきた。

(自分の言動はよく考えないとなぁ……)

 今度、落ち着いたら内密にお詫びの手紙でも書いておこう。そう、心に誓った。





胃痛と戦う魔導師と副騎士団長。

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