睨まれて
秘密の庭で謎の騎士と出会った、次の日。
騎士団の帰還を喜び、玉座の前に騎士たちが立ち並ぶ。王は嬉しそうに彼らにねぎらいの言葉をかけた。
その隣にはつまらなさそうに……もちろん顔には出さないが内心に浮かんでいるのが一部の人間にはわかるエーリヒがいた。
報告会は結界内に魔物を持ち込んだ不届きな商人の制圧。結界から出て、魔物の住処があると噂の森へと討伐に。そんなところだった。
なお、結界も万能ではないということを覚えていて欲しい。魔物自身の意思で結界内に入るのは相当知性のある強力な魔物でない限り不可能だ。他国をも凌ぐこの国の結界はそれだけの自信がある。
しかし、例えば人間が魔物を檻に捕らえて結界内に入ろうとすると、結界は働かず、内側に魔物が入り込めてしまうのだ。趣味の悪い貴族や金持ちなどは商人から魔物を買って、秘密の遊びをしているとか、していないとか。
結界内の平和はもちろんだが、結界付近、商人たちも通る街道の安全確保のためにも、騎士団の遠征は必要不可欠だ。と、いうことになっていて、魔導師団は実質王城で研究ばかりである。一時期、新魔法開発をしすぎたせいで、医師団の仕事を奪いかけたからか、騎士団からは「魔導師団は城の平和を云々」と色々難癖つけられ、遠征をするには至っていない。
元々、騎士団と魔導師団の仲の悪さは常識レベルだ。何かあれば末端たちすら取っ組み合いの喧嘩を始め、上は上で嫌味の応酬。心休まることがない。
ちなみに、私たち魔導師団は脇で同席している。その反対側には大臣たちや一部の貴族たち。色々な思惑が飛び交っているだろうこの空間で、私は仮面に触れる。
素顔を出せないのは息苦しいがこれも仕方ない。
すると、なぜか鋭い視線を感じて顔をあげた。どこからだろうか、とある人物と目があった。
赤毛……そして茶色の瞳。凛々しい騎士の青年は見覚えがあるどころか――
(あ、あぁぁぁぁぁ~!?)
思わず変な声が出かかるが必死にそれを飲み込んで、隣にいるダズに耳打ちした。
「……ダズにーさん。あの、あそこの……白百合騎士団長殿の隣にいる赤毛の騎士……」
「ん? ああ、あれは白百合騎士団の新第二副団長、ヴィンフリート・クリューガーだな。なんでも異例の配属で、団長直々の推薦、遠征中に就任。期待の新鋭だと」
白百合騎士団は最近まで二人いるうちの一人の副団長位が空席だった。そのあたりの事情は知らないがどうやらこの城にきたのも最近という新顔というわけだ。それにしたって例外的すぎる就任だ。もっと手続きとか色々あるだろうに。
(……厄介な奴に顔を見られたなぁ……)
普通なら甘い恋のロマンスの一つでも始まるだろうけど、そんなことはない。
というか、仮面をつけているならわかるはずもない。髪も結っているため、昨日のおろした状態とは印象がだいぶ違うし、フードのせいで髪はそれほど目立たないのだ。それじゃあなぜ彼がこんなにも睨んでくるのか。理由はわからない。
彼、ヴィンフリートはどうやら今回の遠征で大手柄を立てたようで、近いうちに特別に報奨が与えられるそうだ。なかなかの実力者であるのは違いない。そもそもいきなり副団長就任なんて実力があるか貴族の坊ちゃんのどちらかだろう。だが、彼は貴族ではないはずだ。とするとやっぱり実力だ。
さて、これからまた忙しくなりそうだ……。
私は敵意のこもったヴィンフリートの鋭い視線に耐えながら、遠征の報告会が早く終われと、念じ続けていた。
しかし、忘れていた。一番厄介な、夜に行われる祝賀会というものを。
胃痛はまだまだ。




