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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
3章騎士と魔導師の行進曲
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戦うことになったらしい



 目を覚ますと既に夕刻になっていた。

 殿下との例のお茶会騒動の後、色々考えたいことがあって休暇を取ることにしたのだ。

 そのせいで長く寝すぎた。生活リズムが狂ってしまう。連日徹夜したときよりはマシだろうが。

「……18時か……」

 今日は確か騎士団の授与式があったはず。魔導師には関係ないし時間的にはとっくに終わっているだろうから気にすることはないだろうが、なんとなく嫌な予感がした。

 寝癖がなかなか直らず、諦めて仮面とフードをかぶり、研究所へ向かった。ご飯食べよう。

 魔導師の食堂に顔を出すと、数人が食事を取ろうとしているのが見えた。その中に、ダズもいる。

「お、エル。もしかして今起きたのか?」

「うん……」

 魔導師の食堂は魔導師自ら調理をする場所で、騎士の食堂と違ってコックがいるわけではない。恐らくダズの手作りだろう。

「まだ残ってるぞ。食うか?」

「食べるー」

 食事途中のダズが立ち上がり、更に具沢山のスープを盛っていく。サラダとパンもつけてくれたがこんなにもらっていいのか。

「何話してたの?」

「たいしたことは……」

「ああ、そういえば知ってるか?」

 魔導師の一人、ヘルマンが思い出したように口を開く。

「今日、騎士団の授与式があっただろう?」

「あー、そういやあったね。あのムカツク新米副団長の報奨のやつだろ?」

 カールが相槌を打ちながらパンをちぎる。スープに浸して柔らかくなったパンを頬張り、飲み込むと言葉を続ける。

「何かあったのか?」

「その副団長のクリューガーとかいうやつが殿下にとんでもないことを言ったらしい」

「えー? とんでもないこと? まあ、でもひどいなら私にも話来るだろうしたいしたことじゃ――」

 笑い飛ばしてヘルマンの続きを促すと、無表情でヘルマンは言った。


「殿下の愛人を自分に下賜しろって言ったらしい」


「吐きそう」


 血を。

 想像を絶する馬鹿だあいつ。

「……殿下に愛人? 陛下じゃなくてか?」

 ダズが怪訝そうに聞き返す。確かにそうだ。まだ婚約者もいない殿下に愛人なんていたか? すくなくとも自分は知らない。

「なんか、殿下は自分のお気に入りの娼婦をあの騎士が寵姫だと勘違いしたとかなんとか言ってたらしいぞ」

 娼婦……?

「殿下もお盛んだねぇ。の、割には令嬢や婚姻の噂は全くなし。どうするおつもりなんだか」

 カールの言葉に頭が痛くなる。娼婦とかで確かにそういう経験はしてるけど、本命はいない……というか多分私だろうしなぁ。いい相手早く見つけてくれないかな。

「エルさん、顔色悪いけど大丈夫です?」

「正直内蔵が口から出そう……」

「吐きそう、といえば、その発言のあと、グリーベル副団長が吐血して運ばれたらしい」

 あの野郎、グリーベルさんの心労を増やしやがって……。

 頭痛がしてきた。自分の身にもなにか降りかかりそうで怖い。

「それにしても……殿下、私にすら教えないお気に入りの娼婦がいるなんて……」

「エルさんがしらないなんて相当ですね」

 カールも言うとおり相当のことだ。今まで何がしたいのかよくわからないが事後にわざわざ呼びつけてどんな娼婦とヤってたかまで説明されて正直困っていたくらいなのに。まさか本命? 私に言わないその子が本命なのか。

「まあどちらにせよ、殿下の噂に尾ひれが付いて回ること間違いないだろうな。ついでに、あの馬鹿騎士も悪評がばらまかれるだろうよ。いや、俺が広める」

「自分に正直なのはいいけどヘルマン、自重しようか」

 意図的に広めるのはやめてくれ。本人に難癖つけられたらかなわない。

「そんなことをしても、自分の格を落とすだけだよ。低俗」

「……まあ、エルがいうなら」

 そんな話をしていると、食堂の扉が勢いよく開かれる。

 全員、振り返ってみると、憂鬱というか、今にも死にそうな顔色をしたテオバルトがいた。

「テオバルト? お前どうした、こんなところまで」

 ダズが驚いたように立ち上がる。そうか、二人は友人だったっけ。

「……俺もう仕事辞めたい」

「だ、大丈夫か?」

 辞めたくても辞めさせてもらえないだろうから大変だな、テオバルトは。

「……シグザール様、殿下からの指令書です」

 そう言ってテオが封をしてある便箋を渡してくる。あれ、直接呼ばないなんて珍しい。

「なんで指令書?」

「貴方を直接呼んで来なかったら困るからだと」

 ああ……殿下もあのこと気にしてるのかな……あれ以来会ってないし。確かに気まずいしあんまり顔を合わせたくないけど一応呼ばれたらさすがに用事は聞くのに。

「あと二人で会ったらまたいじめたくなるからだそうで」

 あの人反省しねぇなぁ。

 呆れつつ中身を確認すると明日のことに関する命令だった。


『明日の午後3時、剣闘場にくるように。そして、ヴィンフリート・クリューガーと戦え』


 剣闘場? あいつと戦え?

 なぜそうなったんだろう。ここに至る過程を教えて欲しい。が、聞きに行くのも気まずいしなぁ。

「なんでクリューガーと戦うの?」

 用を済ませたとばかりに退出しようとするテオを引き止めて聞くが、テオの表情は引きつっている。

「理由を聞かれたら答えるなと言われているので……」

「はあ……」

 よくわかんないなぁ。

 ……ん? もしかして――

「例の愛人だか娼婦のが原因?」

 先ほど食事中に話ていたことがきっかけだったりするのだろうか。まあもしそうだとしてもなぜ自分とあいつが戦うのかよくわからないけど。

「……まあ、詳しくは明日に殿下に聞いてください……」

「テオ、お前顔色悪いけど本当に大丈夫か?」

 ダズが心配そうにテオの肩に手を置く。しかし「まだやることあるから……」と言って物憂げな後ろ姿を見せてテオは去っていった。


「んでんで?」

 面白そう、といった声でカールが指令書を読む。特別難しいことは書いてないし何も追加情報はないと思うんだけど。

「いやー、これ公開でやるのかね? 場所が剣闘場だし」

「さあ……?」

「俺絶対見に行きますわー」

「別に来なくていいよ」

 茶化す気しか感じられない。

「いやぁ、だってねぇ?」

 意味ありげにカールはヘルマンに視線を向ける。ヘルマンはくだらないといったふうに首に手を当てる。

「副騎士団長と魔導師団の誇り、我が国の大魔導師の対戦なんて有象無象どもが食いつくだろうな。勝敗の結果によってまた違うだろうが」

 それはつまり、魔導師と騎士の代表が戦うということに等しい、ということだ。

 ただでさえ険悪な両陣営。今までの小競り合いの喧嘩とは違う、公で正式に一戦交えてしまえばもうそれは――。


「……殿下はなんのつもりなんだ……」


 胃がキリキリしてきた。そういえば勝敗について書いてないけどこれは勝つのが当然だと殿下は思っているんだろうか。

 私が勝ったら魔導師がさらに評価され騎士の威厳がだだ下がり。逆恨みに騎士が今まで以上に喧嘩をふっかけてくるかもしれない……。ヴィンフリートが勝ったら調子に乗った騎士ども……特に嫌魔導師派がここぞとばかりに魔導師排斥を求めてくるかもしれない……。

 うわぁ、めんどくせぇ。

 これ今殿下に理由とか諸々聞いたほうがいいのかな……。

 しかし、頭に浮かぶのは先日の殿下のギラギラとした目。またあんなことになったら――考えるのはやめよう。

 思考停止は素晴らしい。流されて何が悪い。

 色々重なったせいか、何もかもが嫌で投げ出したくなってしまう。けれど、テオが辞められないように、私に選ぶ権利なんて最初からないのだ。

 ああ、もう、嫌になる。殿下のことも、自分のことも、全部。


 とりあえず、沈んだ気分を紛らわせようと食べかけだった食事を口にして、食欲が失せていたことに気づき、半分は無理やり口にして私室へと戻った。




根暗エル。そろそろ女の子書きたくなってくる病。

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