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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
3章騎士と魔導師の行進曲
44/48

馬鹿にされたらしい(テオバルト視点)

テオバルトの視点。前話の後のできごと。





 俺にどうしろって言うんだ。

 先ほど、突然怒り出した彼女のことが頭から離れない。

 昔のことをほじくりかえされてうっかり口調が戻ってしまったが本来、干渉しないように心がけている。踏み込んでしまえば、もう戻れなくなる。

 ……なら、嫌いと言い切ってしまえばよかったのに、本人を前にしたら言えなくなったのは本当に情けないことだと思う。

 あのあと、殿下は一時間ほどで戻ってきた。やけにイライラした様子で夕食は軽いものでいいと言って部屋にこもってしまった。

 殿下は部屋で夕食をとる際は俺とテアナくらいしかそばに寄せない。そのため、一度テアナを呼びに行く必要がある。

 食事のことを料理人に伝え、ほかの使用人に一旦引き継いで一度殿下付きの使用人が住まう宿舎に向かう。

 テアナの雇用は特殊なため、ほかの使用人も彼女の存在を知らない者がいる。俺の部屋の隣、何かあったらすぐに二人で動けるようらしいがはっきり言ってこいつと近くはやめてほしかった。

 ノックしても反応はない。いつも通り勝手に開ける。

「おい」

 自室でゴロゴロしているテアナに声をかける。が、振り向くどころか反応すらしないで殿下から頂いた菓子を貪っている。

「おい、聞いてるのか、テアナ」


『チッ、なんだようっせーなヘタレ』


 乱暴に書きなぐられたノートの文面に思わず頭を抱える。喋らないと思えばこれだ。

「わざわざ舌打ち部分を文字に起こす必要などないだろう!!」

『お前には必要だと思った。悪いか? お坊ちゃんよぉ』

「お前本当に教育が必要のようだな……!!」

 完全に嘲笑うような態度にぐっと拳を握り締める。いい加減にしろよ、この女。

「エーリヒ様が放っておけというから我慢していたが……もう許さん!」

『んなことでいちいちキレてないでエル様に告白でもしてこいよ』

 ピシリ、と自分が石になったかのように硬直する。汗がダラダラと流れ落ち、ごまかせないレベルまでに血の気が引いていく感覚。

「な、なん、なななな」

『どーせ本人以外にバレバレの癖に嫌いになろうとするその馬鹿みてぇな根性に腹立つ。告白して振られるくらいしろよ。男だろ』

「お前に指図されるいわれなどない! だいたいなんでお前はいつも人を見下したような――」

『で、なんの用?』

 ふてぶてしい態度にぶん殴ってやりたくなるが我慢しろ……俺……耐えろ……。

「エーリヒ様の夕食準備だ。今日はお部屋でとられるそうなのでお前もこい」

『あーはいはい。そういうことは事前に言ってくれませんかねぇ』

 ベッドに投げ捨ててあるメイド服を掴んでじっとこちらを見る。

 ……ああ、着替えるから出てけってことか。


『ムッツリスケベ』


 デカデカとノートにそう書かれたのを見せつけられ苛立ちが最高潮に達する。

「早く着替えろ!!」

 ノートを床に叩きつけ部屋から出る。くそ、なんて日だ。エーリヒ様は機嫌が悪いし、彼女は泣きそうだし、テアナはよく喋る(?)しで疲れる。

 しばらくして、着替えたテアナが出てくる。揃って厨房に向かうとあと少しでできるとのことでしばらく待たせてもらうことにした。

 立ったまま料理を待っているとテアナが服の裾を引っ張ってくる。こういう仕草だけなら可愛らしいんだが――


『エル様、殿下に食われてた?』


 筆談するとこれだ。しかも表情が基本無表情なので温度差に困惑する。もう少し表情で感情を出せ。

「……俺が途中で声かけたから未遂」

『なんだよ、乱入して三人でヤるくらいしろよな』

「今俺はお前を解雇する書類が欲しい」

 なんでこいつ雇ってしまったんだ、殿下。口がきけないからっていうのはまあわからなくもないが性根がクズすぎるだろう。ああ、そうか……雇う時こいつ読み書きできなかったんだっけ……。

『だいたい、お前も告白しないなら殿下の邪魔すんなよ。邪魔するだけ邪魔してさ』

「邪魔したかったわけじゃない……!」

 陛下からの呼び出しを無下にはできない。あとで殿下が不機嫌になろうともあれは仕方なかった。

『ふーん。めんどくさいね。ま、エル様も大概だけどさ』

「お前は誰の味方なんだよ……」

『ボクは面白い方の味方』

 しれっと言う(書く)テアナにこいつ何様なんだと思いながら厨房へと視線を向ける。まだかな……。

『だいたいボクからしてみればくだらないわ。ごちゃごちゃ理由つけて進展しないあの二人が悪い』

「……殿下はともかく進展を望んではいないだろう、あの人は」

 どこで聞いている人間が居るかわからないため、できるだけあの人の部分を小声で返しながら料理を待つ。早く来い。

『ま、停滞を望むのは勝手だけど、時間は待ってくれないからね。いずれ碌でもないことになるにちげぇねえ』

「……お前の言いたいこともわかるが、俺たちにどうしようもないだろう」

『あるよ。エル様に想い人ができりゃいいんだよ』

「俺にはなぜそうなるのかがわからない」

『だってそうすりゃ殿下にしろ、エル様にしろ、動くだろ』

「……そううまくいくもんか」

 あの兄妹だぞ。絶対余計こじれるだけだ。

 ……彼女の想い人の候補に、どうせ俺は含まれないしな。

『だーかーらー、お前がしゃしゃり出ればいいじゃんって話』

「俺はまだ死にたくない」

 あの人に逆らうなんて俺には無理だ。

『だからお前はヘタレなんだよ』

「俺だけじゃないと思うけどな」

 ダズみたいに割り切って彼女の幸せを願っているのはヘタレに入るのだろうか。いや、あいつも殿下を恐れてるしヘタレに違いない。そうだ、今決めた。あいつもヘタレだ。

『誰かいねぇかなぁ。現状をぶっ壊す勇者』

 テアナがそう書いた途端、料理人がワゴンにエーリヒ様の食事を乗せて声をかける。くだらない会話は打ち切られたが、答えははっきりしている。

 そんなのは勇者じゃなくて愚者だ。勇気じゃない、蛮勇だ。


 俺は愚者になれない。






テアナはエーリヒのお気に入りだけどエーリヒも扱いに困ってる。

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