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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
3章騎士と魔導師の行進曲
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煽られているらしい

久しぶりにちょっと兄が気持ち悪いです。注意。




 グリーベル殿の見舞いの後、研究室に戻ったがとりあえずすることがなく、どうしたものかと考えていると、最近例の庭に顔を出していないことを思い出し、裏道へと向かう。

 ふと、嫌な予感というかもしかして……という感じがして魔法で女モノの服に着替えた。よし、念のため念のため。

 庭へと足を踏み入れると精霊の気配がない。


「あっ! 久しぶり!」


 いたよ、ヴィンフリート・クリューガー。

 思わず頭を抱えそうになるのをぐっと堪えて笑顔を取り繕う。大丈夫、どこから入ってきたのかは見られてないはず。扉に隠蔽魔法をかけておいて正解だった。

 まるで懐いている犬のように駆け寄ってくるヴィンフリートに若干イラつきつつも声をかける。

「久しぶりね。元気だった?」

「ああ! ここ最近、来ても君がいないから少し寂しかったけど……」

 私はお前に会いたくないから来なかったんだよ。

 こちらの気持ちなんて全く気づく様子もないヴィンフリート。脳内お花畑ってやつか……。

「そうだ、色々聞きたいことがあったんだ」

 聞きたいこと……やべぇ、言い訳全然考えてなかった。

「えっと、名前、教えて欲しいなって……あ、俺ヴィンフリート。こう見えても白百合騎士団の副団長なんだ」

 知ってる。

「名前……私に名前なんてないから好きに呼んで」

 苦しすぎる言い訳だけどなにかしら偽名を言おうと思っても特に浮かばなかった。くそ、こういうときアドリブが効かないのはダメだな私。

「えっと、じゃあ、カナリア、とか? 綺麗な金髪だし、可愛らしいからぴったりだと思う」


 あ、やばい、吐きそう。


 なぜこいつは女に愛玩鳥を命名するのか。全くを持って理解できない。

「そ、それでいいわよ」

 若干震えそうな声になっていて焦ったが仕方ないだろう。こんなの言われたら。

「じゃあ、カナリア! 俺と一緒に城下町に出てみないか?」

 お前何言ってんの?

 うっかり声に出しそうになるがダメだ、抑えろ自分。

「普段どこにいるかわからないけど、城から出たことないだろ? 俺が抱えて壁乗り越えてやるから!」

 うーん、はっ倒したい。

 けどあくまで今は大人しい娘を演じねば。ボロが出てシクザールだと万が一バレたら大変なことになる。

「……そ、それはできないわ。私は外に出たらいけないんだもの」

 一昨日城下町で屋台のチュロス食ったばかりだけど。

「どうしてなんだ?」

「それは言えないわ。お願い、本来はあなたがここに来てしまったことがありえないことなの」

 だから二度と来んな。

「そうか……」

 悲しげに顔を俯けるヴィンフリート。捨てられた子犬かお前は。

「じゃ、じゃあ! 今度俺がうまいモノ買ってくるから! 今度、報奨ももらえるし、なんだったら欲しいものがあれば……」

 いや、来なくていいって。

「ホント? 気持ちだけでも受け取っておくわ」

 それと同時に17時を知らせる鐘の音が響く。

「おっと……もうこんな時間か。俺、もう戻らなきゃ!」

 そう言うとヴィンフリートは相変わらず驚異的な身体能力で壁を乗り越え、姿を消した。ホント、なんであいつここに入れるんだろう……。

 ふと、壁に目をやると上着が置きっぱなしであることに気づく。あいつのだろうけどどうしよう。まあ、置いておけばそのうち回収するか。


「終わった?」


 慌てて振り返るとそこには笑顔だがどこか苛立っている殿下がいた。

「い、いつから!?」

「ヴィンフリート・クリューガーが壁を超えたあたりから。もっと正確に言えばヴィンフリートが君を誘うあたりから」

 今来たばっかりかと思ったら結構最初から居た……。

「なんとなく来てみたらあいつがいるから入らないで様子を見てたんだよ」

「ああ、なるほど……」

 殿下の部屋の方角へ繋がる通路は隠蔽魔法で隠されている。ヴィンフリートでも気づけないだろう。

「で、あいつ、殺していいかな? カナリアちゃん」

「殿下、わざとなのはわかりますがその呼び方やめてください……」

 マジギレとからかいが同伴している。

「はっ、調子に乗った副団長如きが生意気なんだよ、ほんと」

 殿下は苛立ちながらも私の肩を抱きながら殿下の部屋方面に繋がる通路がある場所へと誘導する。

「ま、丁度いいや。話もあったし、こっちきて」

「は、はあ……」

 ふと、殿下が振り返って壁の淵あたりを見る。釣られて私もそこに視線を向けるがなにもない。

「どうかしました?」

「……なんでもないよ」

 急かすように背中を押され、なんだか壁のことが気になりつつも殿下に従って殿下の部屋へと向かった。








 やっぱり行かなきゃよかった。

「んー、髪型は今日はシンプルなのでいいか。あれつけたいし」

 ここは殿下の私室……のすぐ隣にある雑務室だ。なぜか女物の服や化粧道具や宝石類が置いてある。何をするのかは説明するまでもないだろう。

「テアナ、そっちの髪飾り取って」

 喋れないから当然だが侍女のテアナは青い宝石の施された繊細な細工の髪飾りを手に取ってエーリヒ殿下に手渡す。

 そして殿下はそれを喜々として私の髪につけて言う。

「かわいいなぁかわいいなぁ。やっぱり取り寄せた甲斐があったよ。このドレスと合うと思ってさ」

「そうですか……」

 着せ替え人形になるってわかってたらついていかなかった。いや、最近まともっぽかったから忘れていたのだ。つまり自分が悪い。

 問題のドレスだがこう、どっちかというと幼く見えそうな水色ベースの可愛いフリル装飾がついたものだ。いや、合うっちゃ合うけど16歳でこれはどうなんだろう……。贔屓目で見ても14歳くらいまでが許される領域だと思う。しかしながら自分のサイズピッタリ。これは作らせたんだろうけど……なんだろう、殿下の趣味がたまにわからなくなる。

 鏡に映る自分を見てはぁ、とため息をつく。こんなことをされても嬉しくないし、正直困る。

「あのですね……こういったことは愛人でも作って――」

「テアナ、化粧は任せた。僕はその間に向こうでテオに指示してくる」

 こくりとテアナが頷き、殿下が席を立つ。そうですか、私の話は無視か。

 まあ、16歳、次期国王で愛人ってのもどうなんだろう……。どっちかというと正妃候補をそろそろ決めるべき次期だろうしなぁ。

『エル様』

「ん? 何、テアナ」

 テアナが拙い字で語りかけてくる。読み書きで意思疎通を行うのに字が汚いのはどうなんだろうと毎回思うがエーリヒ殿下はそのへん放任というか、表で働かせてるわけじゃないし、気に留めていないようだ。

『いい加減諦めてエーリヒ様の腰振り人形になっちまえばいいと思うでやんすよ』

「君喋るとほんっとひどいね!?」

 基本的に筆談でも最低限の会話しかしないテアナだが、たまに会話らしい会話をすると口は悪いし言ってることがひどいしで喋れなくて正解だったなって失礼ながら思ってしまう。黙っていればそこそこ見栄えのいい大人しげな雰囲気を持つ少女だというのに。あれ、そういえば何歳だろう。

『ボクには理解できねぇっすね。いいじゃないすか。殿下は確かに下劣で鬼畜で最低最悪の男ですけど地位と顔だけはいいし』

「君それ主に対してひどくない?」

『3日に1回は本人に言ってるんだけど笑って頭叩かれます』

「寛大なんだか適当なんだかわからないな相変わらず……」

 ふざけたやりとりをしながらテアナは突然悩むような素振りを見せ、ノートに何やら長文を書き連ねている。

『大丈夫っすよ。ああ見えて殿下、娼婦との経験はそこそこ多いですから下手くそってことはないでしょうし、そもそも実際ヤっても痛いのは最初だけっす。あとは男に適当におべっか振りまいて適当にかわいこぶっておけば男も勝手に自尊心が満たされ、女も男の機嫌が取れていいことづくめでさ。だいたい野郎なんて単純な生き物で下半身に脳みそがあるんすよ。男ってぇのは性欲と所有欲と自尊心だけいっちょまえなんすから』

「あんまり君に命令したくないんだけどしばらくそういうことで話ふらないでくれるかな……」

 ついていけない。

 すると、テアナは困ったように肩をすくめて化粧道具を手に取る。

『んじゃまあ、化粧するんでちょっと動かないでくだせぇ』

「あと言葉遣いもそろそろ直そう?」

 テアナは頷くことなく白粉を顔に塗りたくっていく。まあ彼女も仕事だし止めろと言っても止めてくれないだろうから大人しくしていよう。

 しばらくぼんやりと座っていると肩をトントンと叩かれ、テアナがノートをこちらへ見せてくる。

『終わりました』

「ああ、早いね……」

 鏡を改めて見ると、まあ目の下のクマとかが隠されており、見られる顔にはなっている。厚化粧ではないからかそこまでガラリと印象が変わった気はしない。

『ま、エル様がエーリヒ様とヤる気になったらいつでもお声かけくだせぇ。準備はしっかりしますから』

「一生そんなことはないと思うから準備しなくていいよ」

『残念です。ボクは割と、お二人が幸せになると思って言ってるんですよ? っていうか、あんまりうじうじしてると殿下がプッツンしますよー? そうなっても知りませんからー』

「……そんなわけないだろ」

 テアナの考えはよくわからない。血が繋がっていることを知っているはずなので、本気で言っているとしたらきっと価値観がズレているんだなと思う。というか殿下の従者だしある意味当然だ。

 いくら綺麗に取り繕っても私は表に出てはいけない存在だし、出たとしても、殿下と結ばれることはあってはいけない。双子の兄妹で、この国の王女で、この国の大魔導師なのだから。

「終わったかい?」

 ノックもなしに殿下が部屋に入ってくる。後ろにはテオバルトが仏頂面で控えている。

『終わりました』

「ありがとう、テアナ。あとはテオにやらせるから呼ぶまで下がっていいよ」

 テアナは頷き、退室するかと思いきや、何か小さくノートに書いて、破って私に押し付けた。

 何かと思い、一礼して退室するテアナを見送りながら紙切れを覗き込む。


『ま、そーいう気がないならいいと思いますけど。それなら周りの気持ちに気づいてやってくだせぇ。具体的にはテオとか』


 ……どういうことだろう?

 よくわからないがテオバルトが私に言いたいことでもあるのだろうか。今度聞いてみよう。

「テアナがよく言葉を書くなんて珍しいね」

 紙の内容を見る気はないのか、殿下はくすくす笑ってテオバルトに目で指示を飛ばす。

「ま、テアナも気まぐれな子だからね。おいで、エル」

 意地でもエスコートは受けない、絶対に。差し出された手を無視して殿下の部屋へと歩みを進めると後ろで殿下がくすりと笑うのが聞こえた。


テアナは喋る(?)と残念おっさん系女。次回は兄がもっと気持ち悪い。そろそろテオも出番が増える(予定)。

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