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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
3章騎士と魔導師の行進曲
41/48

からかわれているらしい(マルク視点)

マルク・グリーベル視点。


 例の一件以来、外に出たくなくて有休を使って引きこもっていた。

 しかし、部下たちはなぜか心配して見舞いだのなんだので押しかけ、しばらく放っておいて欲しいのにも関わらず毎日のように誰かがやってきた。

 それはもう鬱陶しい以外の何者でもなく、食事の時以外誰とも会話をする気になれず、屍のように過ごしていた。

 そんなある日、部下たちが部屋の外から呼びかけがあった。

「グリーベル先輩―。シクザール様がいらっしゃってますよー」

 来客、それもシクザール殿とあっては会わないわけはない。思わず浮き足立ったが鏡に映る自分がだいぶみっともない状態であることに気づき、急いで一番まともな服を引っ張り出して髪を手でどうにかごまかして出てみれば――


「ほら、マジで出てきた!」

「マジで噂本当なのかよー」

「馬鹿っ! からかいすぎんなよ!」


 騎士たちの冗談だった。

 浮き足立ってきちんとした格好で部屋から出た瞬間、数人が吹き出して笑い、数人が苦笑していた。そんなものを目の当たりにし、すっと自分の中で冷めていく音がはっきりと聞こえた。

 そして、近くにいた騎士を自室の扉に叩きつけた。


「そのふざけ腐った根性叩き直してやる。全員ツラ上げろ」


 扉は金具が外れ、綺麗に可動部分が床に落ちると同時に騎士も音を立てて倒れる。

 慌てて逃げようとする騎士どもに部屋にあった木剣を投げつけ、行動阻害をし、そのまま廊下の窓に蹴り飛ばして外へと吹き飛ばし、残った愉快犯にも『軽く』躾をしてやった。

 そんなこんなでふざけたことをした騎士たちを全員叩きのめしたりするとどうやら半数が数日医務室にこもりきりになったらしいが自業自得だ。一番不満なのが悪魔よりも恐ろしい『魔人副団長』なんて一部で呼ばれているらしい。

 そしてまた不名誉すぎるあだ名が増えたりして有休を使い切ったがまだ出たくない。団長にも色々言われたが仕事をする気になれない。

「君ねぇ……うちの切り札なのにそんなでどうするんだい。本当にメンタル弱いね……」

「ほっといてください……」

「はははっ、まあ苦労してるみたいだし? 今度いいもの送るよ」

 呆れたように首を振る団長を追い返し、それから数日経ってまた騎士たちがやってきた。



「グリーベルさん。シクザール様をお連れしました」

 もうその手には釣られない。部屋は荒れきっており、脱ぎ捨てた服が散らばっている。

「グリーベルさん! シクザール様がお見舞いに来てくれましたよ! 出てきてください!」

 うるさい。

「そーっすよぉ! シクザール様がいらっしゃったんすよー!」

 また騙す気か。

「だからそろそろ引きこもるのやめましょう! シクザール様に笑われますよ!」

 もういいから。

「マルクせんぱーい!! もうからかいませんからぁー!」

 …………。

 しばらくぎゃーぎゃーうるさい声が扉の向こうから聞こえてくる。

 ――うるせぇ!!

 飛び起きて扉を開けようとするがまだ壊れたままだったことを思い出し、取っ手を回しても開かないため騎士たちに当たってもいいやという気持ちで扉を蹴り飛ばした。





「うるせぇ!! いい加減にしろよてめぇら!! 人が優しくしてりゃつけ込みやがっ――」


 扉を開けてしばし硬直する。

 そこにはなぜか本当にシクザール殿がいた。

「…………」

「お久しぶりです、グリーベル殿。思ったより元気そうで安心しました」

 見慣れた仮面。特に感情が見えない様子で話しかけてくる。

 一方自分は思考がまとまらない。

「…………」

「大丈夫ですか?」

 大丈夫じゃないです。

「……………………すみません死にます」

「え」

 急いで部屋へ駆け込み縄を探して輪をつくる。

 が、騎士たちが部屋になだれ込んで総出で動きを封じてきた。

「放せ!! 死なせろ!」

「ダメです! あなた死んだらどれだけ損害になると思ってるんですか!!」

「死んじゃだめっすー! あ、お前首吊り縄奪え!!」

「がってん承知!!」

「放せぇぇぇぇぇぇ!!」

「先輩! シクザール様も困ってますよ! 落ち着いて!」

 そう言われてはっとする。が、もう醜態を晒しまくっている今この世に生きていてもいいことなんてないのではないか。あ、だめだ、死にたくなってきた。

 結局、心配して中に入ってきたシクザール殿が困惑していたため、落ち着かないと申し訳なくなり、渋々だが騎士たちの言うとおり大人しくシクザール殿を招き入れる。

「ファイト!」

「しばらく人は近づけないようにしますから!」

 変なことを言い出した騎士たちに一瞬首を傾げたが意味を理解し、近くにあった置物を投げつけてやった。が、かわされてしまった。そのまま全力で逃走され、二人きりで残されてしまい大変気まずい。

「……えっと、お久しぶりです」

「……はい」

 気を使うような声がすごく居づらい。シクザール殿には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 すると、シクザール殿が思い出したように言う。

「グリーベル殿って、思ったより荒っぽい方ですね」

 先ほどの騎士たちとのやり取りのせいだろうか。そんな印象を持たれてしまうなんて。確かにどちらかというえばそういう場面で遭遇したことはあまりない。

「えっ!? あ、いや……」

 もしかしてああいうのはやっぱり嫌いだろうか……。ヴィンフリートのこともあるし、悪印象になってしまったらどうしよう。

「……げ、幻滅されました?」

「は? いえ、ちょっと意外だと思いましたけどグリーベル殿もあんな喋り方をされるんだなーって思って。ちょっと親近感湧きました」

 口元には僅かに笑みが浮いている。よかった、悪印象は抱かれていないらしい。

「ぶ、部下にだけです……その、指導のときに気合を入れるとつい……」

 それでもやはり、改めて言われると気恥ずかしいというか照れくさいものがある。

「いいと思いますよ? 普段しっかりしていらっしゃいますし」

 なんとなく、表情というか声から察するにヴィンフリートと比べられている気がする。比較対象がちょっとひどい気がする。

 シクザール殿が物珍しそうに部屋のあちこちに視線を向けている。視線が床の服とかに当たっていることに気づくと無性に恥ずかしくてベッドの下に押し込んで笑ってごまかした。あとで掃除しよう。

「騎士団に復帰されないのとお伺いしましたが」

「……あ、いえ……その、自分に自信がなくて」

「自信?」

 脳裏によぎるのはあの時、彼を傷つけ、浅ましい考えを抱いてしまった愚かな自分。

「……あの日、あなたを傷つけてしまいました。それに、早とちりでフィアンマ殿の部下を攻撃したこともあります」

 顔が見れるかも、なんてことを考えたとは言えないがこれも本音ではあるので嘘は言っていない。

「未熟だな……と。善悪とまではいいませんがその場の正しい選択をできない自分が恥ずかしくて……」

「そんなことありませんよ!」

 すると、シクザール殿がはっきりとした声でそれを否定する。

「グリーベル殿は副団長の中でも特に真面目な方ですし、いつも苦労を背負いすぎなんです。私はグリーベル殿のこと、応援していますから」

「……シクザール殿……」

 その言葉だけでも救われそうなくらい嬉しい。が、その続きが私にとってとんでもない爆弾だった。


「それに、グリーベル殿がいないとなんだかさみしいですよ」


 こんなこと言われたら、引きこもれるはずないじゃないか!

「……そう、言っていただけるなんて……身に余る光栄です」

 赤くなるのを誤魔化そうと顔を逸らしてしまう。やっぱり気持ち悪いな、自分……。

「いい加減いい歳ですし切り替えないといけませんね……」

 立ち上がり、気持ちを切り替えるために拳を握る。

「お手数おかけしました。明日からはきちんと自分のするべき仕事に従事します。周りにも迷惑をかけてしまった……」

 情けない八つ当たりとか。

「大丈夫ですよ。グリーベル殿は人気者ですから」

 からかい半分の部下もいるから素直にうなずけない。あいつら、たまに私を面白い玩具かなにかと勘違いしてるんじゃないだろうか。

 それはともかく、わざわざ見舞いに来てくれたシクザール殿へ礼を言っていなかったことを思い出す。

「わざわざお見舞いに来てくださって……その、ありがとうございます」

 気恥ずかしくてつい顔を伏せてしまったがシクザール殿の様子を見るに伝わっているらしい。

「でもよかったです。これでメルサーニ殿もお喜びになるでしょう」

「え? 団長?」

 なんで団長が出てきた?


「はい。メルサーニ殿からグリーベル殿へのお見舞いを頼まれましたから」


 ……つまり?


「えっ」


 あの人、私がシクザール殿に見舞われたと喜ぶってわかっているということで。


 まさか、想像以上に例の噂が蔓延し、もはや事実として認識されている――!?


『はははっ、まあ苦労してるみたいだし? 今度いいもの送るよ』


 まさか、あの時言っていたいいものって、まさかシクザール殿のことじゃ……。

「……団長、が……」

 あの人のことだから本人はともかく面白がって私がシクザール殿に片思いしてるなんてふざけた噂を黙認どころかわざと広めてるに違いない! どうりで噂の流れが速いと思ったら!!

「ぐ、グリーベル殿? 顔色がよくないですが大丈夫ですか?」

 ぐるぐると思考が回り続け、1つの結論に至る。


 そうだ、あの人殺そう。


「……ああ、はい……大丈夫です」

 近くにあった剣を手に取って団長がいるであろう執務室を目指す。


「ちょっと団長殺してきます……」


 あの人も!! 人の気持ちを弄びやがって!! 私のことをなんだと思ってるんだ!! 見舞われたくらいで復帰する単純なやつだと思ってんのか!! ええ、単純だよそうですよ!!

「落ち着いてください! まだ本調子じゃないなら――」

「違うんです、あの人殺さないと――」

「グリーベル殿ー!?」

 シグザール殿に手を抑えられるがやはり魔導師。騎士に比べたら非力だ。

「なんで急にそんな物騒なことを!!」

「人の秘密をベラベラとあの人はあああああああああああああああああ」

 これ以上広まって本人に聞かれでもしたらどうしろっていうんだ。

「勘違いしてませんか!? グリーベル殿!? 落ち着いてえええええええええ」


 結局、シクザール殿が騒いだせいで団長殺しは実行できず、復帰してまずするべきことは団長抹殺だと決意したのであった。


早速アンケートに投票ありがとうございます。一部コメントは活動報告で返させて頂きました。一番人気がエルってどういうことなの……。まだまだ受付中なので是非下のほうにある「魔導師様アンケート」をぽちっとしてやってください。

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