喧嘩するほど仲が悪いらしい
くそ、私は悪くない。
「すみませんすみませんすみませんすみません」
ダズが何度も頭を下げてある人物に謝罪している。
「はははっ、いやぁ、元気だね。二人共」
一方、ダズに謝罪されているメルサーニ団長はなんだかとっても楽しそうだ。
「チッ……」
「……」
そして二人揃って地面に座らされている馬鹿は私とヴィンフリートだ。
話は数十分前に遡る。
メルサーニ殿に呼ばれ、白薔薇騎士団に向かう途中だった。騎士たちが修練に励むのを横目に廊下を進んでいくと、何の用があったのかヴィンフリートが自分が向かう場所の方から現れた。
「……」
「……」
互いに無言ですれ違う――と思われたがヴィンフリートが足払いを仕掛け、それをかわしてヴィンフリートの腕を掴む。
「なんの真似ですか」
「は? なんですか? 放してもらえませんか」
あくまでシラを切る。まあ周りに人がいないから証拠もないんだけどさ。
「いえ、今故意に進行を妨害しようとされたので謝罪をしていただきたい」
「貴様に謝る口など存在しない」
「……」
「……」
耐えろ、耐えろ自分。
ここは大人な対応をするんだ。
「騎士の清廉な場に長居するのはやめてもらおうか、化物」
あ、無理。
「いい加減その頭の足りない言動を繰り返すつもりならこちらとしてもそれ相応の対応をさせていただきますが」
「野蛮だな。これだから魔導師は……」
……うん。
もう、無理。
「このクソ騎士いい加減にしろ!!」
「本性出しやがったな化物が!!」
その最中のことはあんまり記憶にない。
でも、お互いに本気でやりあったとは思う。うっかり仮面落ちそうになったり向こうの剣叩き落としたりとそこそこ危なかったりいい感じだったりしたと思う。
まあ、久しぶりに本気でキレたよね。
ついうっかりキレたおかげで周囲が過去最大レベルで壊れ、仲裁しようにも誰も間には入れず、呼ばれてきたダズとメルサーニ殿に止められようやく子供のような喧嘩が終わった。
「ダズ君、そんなに謝らなくても大丈夫だよ。文句はバッケスホーフ殿に言うから」
メルサーニ殿がダズにそう言うがダズは頭をあげる気配はない。
「いえ、シクザールが手を出したのは事実ですので……」
「いやいや、殿下のお気に入りに文句言えるほどの立場じゃないからさ、僕も」
ちくりと嫌味を刺してくる。殿下のお気に入りだから今回は許してやるよということだろう。まあ頭に血が上って暴れたのは申し訳ないので素直に謝っておこう。でも私は悪くない。
「メルサーニ殿。白薔薇騎士団の管轄で粗相を働き大変申し訳ありませんでした。以後このようなことがないようにしますので――」
「いや、君よりも謝るべきなのはそっちじゃないかな?」
顎で示したのは黙りのヴィンフリート。そちらの視線をやると舌打ちされた。本当に露骨だなぁ。
「俺に非はありません」
「……まあ、よく言えたものだね。君がシクザール殿に嫌がらせしたんだろう? 君の評判は今下がる一方なのを自覚しているかい?」
あれ、この人まともなこと言ってるぞ? 殿下といい最近みんな毒気抜けてきてるのかな?
「報奨の件だってどうなるかわからないよ。気をつけるように」
「……」
「あのさぁ、学び舎の子供に言ってるんじゃないんだから返事くらいしようか」
「もうしわけありませんでしたいごきをつけます」
びっくりするほど早口かつ棒読みだった。もはやそこまで嫌か。
「ったく……まあ、この件はまた後でバッケスホーフ殿とも話し合う。シクザール殿はお話があるので一緒に来てね。ダズ君、もう大丈夫だよ戻ってもらっても。ヴィンフリートはとりあえず処罰決まるまで謹慎で」
そんなこんなでメルサーニ殿の執務室。
冷静に考えれば呼び出す必要ってあったのだろうか。立場上対等だし、メルサーニ殿が出向くべきでは……と思いつつ波風は立てたくないのでおとなしく用件を聞こう。
「実は……シクザール殿。先の襲撃騒動から2ヶ月経ったね」
「そうですね」
魔女のことは伏せているが団長格は把握している。が、あえて口にしないのはそれが重要なことではないからだろう。
「あれ以来、グリーベルが引きこもってるんだ」
……え? なんで?
エルは沸点低い




