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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
2章:赤の国の使者
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小話:休日の彼らの談笑

ちょっとした小話



『なあ、聞いているのか?』

「あーうん、聞いてる聞いてる」

 鏡に映るのは自分ではなくコルヴォの不機嫌そうな表情。鏡に互いの姿を写して会話を成立させるこの術、というか魔道具はコルヴォに渡しておいたものだ。水晶で小さい状態でもやりとりできるのだが鏡を使えばはっきりと互いの顔が見えるし質もいい。声がクリアに聞こえるのだ。

 しかし、渡さなければ良かったと若干後悔している。

「それで? 何の話だっけ? お前が童貞捨てたいって話?」

『ちげぇしなんで俺が童貞みたいに言うんだよ』

「おやおや、失礼。童貞くさい顔してるからさ」

『ほんっと失礼だなお前。今話してたのは魔女の――』

「それがさぁ、私魔女の拷問外されちゃって」

『マジかよ使えねぇな』

「で?」

 本題は?と声のトーンを切り替えるとコルヴォは何やら書類の束を3回ほどめくって言う。


 ロット国で魔女に関する伝承や記録を漁ったところ、やはり魔族と関わった女という情報しか出てこなかった。魔王だけでなく、魔族というのには少し引っかかるがどのみち人間とやりとりできる魔族というのはろくでもない。高位の魔族とされる吸血種や夢魔種はまた普通の魔族とは違う特殊な存在だがこれらだって面倒だし、生きてるうちに関わりたくない。


『まあ所詮過去の話。今じゃ知能ある魔族もいないと言われてるからな。魔女が増えるはずもない。が、魔王が復活したなら話は別だ』

「いつの間にか復活した魔王のせいで知能ある魔族が増え、魔女も増え、再び戦争が起こる……ってことだけは阻止したい。公にしたところでメリットはないなぁ……」

『よくて重役だけだな。あちこち流布すると買い占めや別のところで権力争いが勃発するぞ。あと人材が別大陸に亡命したりなんてな』

 過去の戦争でも似たような事例が記録に残っている。やっぱりまだ伏せるべきかぁ。

「こっちでも魔女のこと片っ端から調べたけど資料や記録の類はかなり少ない。……なんかちょっとトチ狂って創作物にも目を通したけど多分違うから……」

『ああ、魔女を題材にした小説か。あの手のは本来の意味で使われていないことが多いからな』

 そう、魔女を題材にした小説は結構ある。しかしそれは魔女本来の意味で使われていない。特にこの世界が舞台でもない、架空の世界の物語だ。

 例えば、魔女は称号の一つで魔法を扱う女のことだとか。

 例えば、魔法を使って悪しきを挫く正義の存在だとか。


 んなわけねーだろと。


 所詮魔女は魔女。魔族側を選んだ人間の敵。

 なに夢見てるんだか。

「とりあえず引き続き互いに情報収集かなぁ」

『だなー。ったく……この連絡取り合うの面倒だしお前うちの国くれば?』

「そんな『今日俺んちで飲まね?』みたいなノリで亡命提案されても……」

 連絡を取り合うと三回に一回は提案される。正直やめてほしい。

『だってなー。お前ロット向きだと思うんだよ』

「実力主義だっけ? まあ言いたいことはわからなくないけどさ……」

 完全なる実力主義を謳うロット国は実力があれば誰でも受け入れられる。ゆえに、スパイであろうと入れる。

 最初に聞いたときはなんだそれふざけてんのかと思ったものだが実力主義は徹底しており、コルヴォを筆頭とした中枢を治政する者は誰もが頭が飛び抜けた実力者で、彼らに敵対することは死を意味している。そもそもスパイなんてする気力が沸かないんだとか。

 うん、やっぱりよくわからないし怖い。

『大丈夫だって! お前なら文句言う奴皆殺しにすれば陛下だって気に入ってーー』

「お前なにさらっと物騒なこと言ってんの!? しないよ? 絶対にロットいかないよ!」

 ロット怖い。改めてそう思った。

『あれ? 旦那様何してるんです?』

『フレーズ、あっち行ってろ』

『えー? あ、エルさんだー』

 鏡にフレーズが写り、にっこりと笑う。相変わらず微笑みの似合うおっとりとした子だと思う反面、フレーズの詳細を後にコルヴォに語られ、震え上がったものだ。



 フレーズはロット国でも最初から奴隷という特殊な立場だった。ロットの奴隷は敗者や賭け勝負で賭けられた人間。フレーズの母親が当時の夫に勝負の賭けに使われ、妊娠中であったことからお腹の子供も奴隷として数えられた。それがフレーズであり、最初から確固たる身分のない存在。

 だが、フレーズはそのまま朽ちるわけではなかった。ただひたすら強さを求め、母と自分を買い戻し自由になるために誰よりも修羅に堕ちた。剣奴として上り詰め、わずか10歳で大人とも張り合う幼い剣士に成長した。母は奴隷といっても下働きであり、フレーズとは違った方法で日々自由になるために必死で働いた。

 が、自由一歩手前で母親はフレーズを化物と罵り、自殺。持ち物である奴隷という身分である以上誰かの奴隷を殺すのも、自殺するのも違反である。そのため自殺した母親の分のペナルティを背負ったフレーズが心を病んで闘技場で戦う相手を次々と殺し続けた。母だけが心の支えで、母のために戦っていたというのに、強くなりすぎたゆえに母に拒絶されてしまった。そのことがフレーズを更に追い詰めたのだろう。

 日に日に増していく凶暴性に剣奴の主たちも頭を抱えた。

 そんなとき、コルヴォがフレーズを見初めた。

 コルヴォは15歳ほどのフレーズを見て、そのぞっとするほど狂気を孕んだ瞳と軽やかな身のこなし、そして薄汚れているが失われない美しさに惹かれ、フレーズを買い取ろうとした。

 が、フレーズはそれを拒否。自分は闘技場で敵を殺し続けたいと。そんなふうに言われてコルヴォも驚いたのか頭を抱えた。

 自由になりたいならまだ方法はあるのだが、まさか殺し続けたいなんて言われるとは。

 そして、コルヴォは強硬手段に出た。


『俺と1対1で戦って俺が勝ったらお前は俺のものな。お前が勝ったら俺を殺していいよ』


 フレーズは特に悩むことなくそれを受け入れた。彼女はどこか慢心していたのだろう。狭い闘技場という世界で勝ち続けたフレーズは外の世界の強者というものを知らなかったのだから。

 結果はコルヴォの圧勝。めでたくフレーズを引き取り、丸洗いして着せ替えしてとにかくたっぷり『教育』して今現在に落ち着いたという。


 どこの小説だよお前ら!!と内心思ったが事実は小説よりなんとやら。

 まあそれならフレーズと婚約するのに揉めたというのもわかる。生まれた時から奴隷だと本来申請する戸籍が存在しない。一度戸籍を作っていれば解放後にどうとでもなるのだから。

 そんなわけで目の前でバカップルがいちゃつき始めたので鏡を叩き割るかこの通信を終わらせたい。

「切るぞ」

『あ? なんで不機嫌なんだよ。さては相手がいないからってイライラしてるな? 独り身は辛いなぁ?』

 ぶち殺してやろうか。

『フレーズ、ちょっと向こうで待ってろ』

『ほえ? はーい』

 フレーズが離れて扉が開け閉めする音が聞こえる。すると、コルヴォが心なしか小声で言った。

『で? 相手は誰だ?』

「は?」

『お前のだよ。えーっと、魔導師のダズだっけ? あいつ?』

「ダズにーさんがなんだよ」

『お前ら付き合ってたりしてないの?』

「ない」

 にべもない一刀両断にコルヴォが呆れたようにため息をつく。

『なんだよ……まさかマジで兄となわけ?』

「そんなわけないだろお前喧嘩売ってるの?」

『んだよ面白くねーな……』


 だいたい、なぜ恋愛という方向に結びつけるのか。

 ダズにーさんにだって失礼だしかわいそうだ。殿下に関しては悪いとかはないけど。


 ……今度、みんなの前でダズにーさんとはそういうのじゃないってはっきり言ってみるか。そうしたら周りも変なこと言わないだろうし、ダズにーさんだってそのほうが嬉しいはず。







 ――その頃の城下町。


「うっ……!?」

「どうした?」

 私服姿のダズとテオバルトが席に座りながら食事をしている。

 急に頭を抱えだしたダズにテオバルトが不思議そうに尋ねるとダズが真っ青になりながら顔を上げる。

「い、今……ものすごく俺にとって困るというか嫌なことが起こりそうな予感が……」

「……お前本当に大丈夫か?」

「う、うん……きっと気のせいだと思う」

 テオバルトは身分こそ一応貴族なのだが平民に馴染むような姿でダズも同じように平民らしい安物でシンプルな衣服をまとっている。

 二人は身分こそあるがそれなりに親しい間柄でこうやってたまに食事をして近況を語り合ったりしていた。

「……はあ」

「お前も大変だな。魔導師は苦労するだろ」

「そっちほどではないよ。殿下の従者ってそりゃ待遇も名誉もあるけど……」

「……言うな、それ以上は」

 ダズはテオバルトがどうして従者なったかまでは知らない。テオバルトにとっては知られたくない過去であるからだ。深く聞かないがいつか話してくれたらな、とは思っている。

「ま、お互い叶わない恋を同じ相手にしてる者同士がんばろうぜ」

「……なんのことだか」

「はいはい、相変わらず素直じゃないくせにごまかすのは下手だな」



 そんな他愛もないやり取りを交わし、それぞれの休日は過ぎていくのであった。




テオバルトの話はまだ先なのでなんで従者になったのかは伏せますが一応伯爵家の三男坊です。ダズは平民。グリーベルも貴族だけどちょっと特殊。ヴィンフリートは平民。グリーベルはそのうち作中で詳しい話が。

……あれ、グリーベル出番多いな!?

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