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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
2章:赤の国の使者
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変化はしませんでした







 それからは忙しい日が続いた。

 コルヴォの相手をしつつ捕えた魔女と“お話”をしなきゃいけないので実質睡眠時間が半分以下になった。

 あと、例の事件が微妙に伝言ゲーム式で尾びれ背びれがついて誇張されており、それにも頭を悩まされている。


 曰く、シクザールが侵入してきた魔導師の洗脳を片手で弾いて無効化したとか。

 曰く、シクザールが侵入者を罠に嵌めて格の違いを思い知らせただとか。


 片手で弾ける訳無いだろ何言ってんだ、とかくだらないつっこみをする気も起きず、魔女の噂が広まらないようには尽力したのだが、そうなるとますますシクザールすごいという噂が広まり、収集がつかなくなった。そして代わりに、騎士の評判が落ちた。

 おかげで、ヴィンフリートから更に睨まれるようになった。最近は時と場所すらお構いなしでいい加減鬱陶しい。

 そんなこんなで、コルヴォの滞在期間が終了し、別れの時が訪れる。


「んじゃ、またな」

「二度と来んな」

 面倒だから、という意味が伝わったのかコルヴォは苦笑する。

「ああ、そうだ、ちょっと耳貸せ」

「ん?」

 手招きされ近寄ると耳元に心地よい低い声が流れる。

「もし行くとこなくなったら俺の部下にでもしてやるよ」

「……行かねぇよ」

 なぜこんな勧誘まがいのことをするのかはわかっている。そして、続く言葉も予想できた。


「お前は早く、あの王子から離れたほうがいい」


 その意味も、理解しているつもりだ。


「あいつはお前を壊すし、お前はあいつを狂わせるぞ」


 でも、離れる気はない。

 だって、私はいい子で、殿下のそばにずっといないといけないから。


「……まあ、気が変わったら連絡入れろよ」

 コルヴォに渡した連絡用の魔道具でいつでもやりとりはできるようになった。もちろん、国を裏切るつもりはない。個人的なやり取りは続けるつもりだ。

「じゃあな」

 こうして、コルヴォはウェイス国を去った。

 が、私はまだやることがある。







「はーい、ご飯だよー」

 全く優しくない小馬鹿にした声。オートミールを掬ってそれを口元に押し付けるが彼女は食べようとはしない。

 魔女は黙ったまま視線を逸らす。身体はあちこちボロボロで治してない。服ももう布切れ同然なので今度適当な布巻かせるか。

「……食えよ」

「……」

 捕えた魔女はいつもこんな調子で食事をろくに摂らない。これにはなにも入ってないのになぁ。

「はあ……」

 詳しいこと聞いてるのに全く喋ってくれない。頑固だなぁ。

「喋ってくれないと怒るよー?」

「…………」

 喋る気はないらしい。


 しょうがないなぁ。


 まだ温かいオートミールを魔女の顔にぶっかけて壁に突き飛ばすとさすがに魔女は声をあげた。言葉にはなっていない。

「ぁっつぅ……」

「なんだ、声出るじゃん」

 この牢屋は私や登録した魔導師以外の魔力の働きを阻害するように術を施してある。魔女に魔法は使えないし、手足も拘束しているので動くことも基本できない。

 壁に寄りかかる形で起き上がった魔女追撃の蹴りを入れる。うめき声は出せるのに面倒だなぁ。

「かっ……ひ……」

「ほら、声出るんだから言え。お前の主は誰だ。目的はなんだ」

「……」

 だんまり決め込むのはいいけどこっちだって暇じゃないんだからさぁ。

 仕方ない。一昨日もやったアレやるか。

「えっと、エル」

「うん? どうしたのにーさん」

 アレの準備をしていると、後ろで見ていたダズが気まずそうに声をかけてきたので魔女を放って一度ダズに近づいた。

「何?」

「いや、その……その拷問の仕方はどうかと思うんだ……」

「え? どの辺が?」

「なんていうかこう……うん」

 目を覆われてしまった。何か問題があっただろうか。

「お前も自覚ないけど相当アレだよ……まごう事なき殿下の妹だよ……鬼畜だよ……」

「だから何が?」


「そろそろ魔女死ぬって!! イラつくのわかるけどお前完全に悪人にしか見えないから!!」






 周囲曰く、そろそろ魔女が死にそうなので一旦拷問は取りやめになり、今後は私が拷問するのは控えることになってしまった。なにがいけなかったんだろう。

 まあ殺してしまったら手がかりなくなるし仕方ない。

「というわけで、魔女拷問はダズにーさんたちがやるようです」

「周りが止めるってどんな拷問してたのさ……」

 若干引いた目のエーリヒ殿下。なんだろう、私がおかしい人みたいにみんな言いやがって。

 今は殿下との内密のお茶会中で、服装は魔導師のローブだが仮面は外している。

「拷問方法ですか? まず――」

 身振り手振り交えて解説していると殿下からストップがかかった。そんなにひどいだろうか。

「……君はどんどん女の子らしさがなくなっていくね……」

「そうですか?」

「いや……まあ……」

 気まずそうにそらされる。拷問一つでこんな扱いを受けるなんて心外だ。

「食欲なくなった……」

「私が外道なんじゃなくて周りが軟弱なんですよきっと」

「今聞いた限りだと相当外道だから。鬼畜だから。魔法で割と限界までできるとはいえ……」

 うーん、もう少し優しさを持ったほうがいいのか。アメとムチってやつ。

「わかりました。次はもうちょっと慈悲をもって接します」

「……エルの言う慈悲があんまり信用できないんだけど」

 みんな私のことなんだと思ってるんだ。

「……そういえばエル」

 殿下の声音が変わったことに気づき、気分を切り替える。おそらく雑談ではない。

「デーニッツ爺からの連絡。もう少し帰れないらしい」

「……そうですか」

「定期連絡は来ているらしいから無事だよ。ただ、気になることがあるらしいからまだ調べてるって。捕えた魔女の件はダズに一任する、と」

 待って、デーニッツ爺様私に一任してくれないの。まさか爺様も私のこと鬼畜外道と思っているんじゃ……。帰ってきたらなんでか聞こう。

「何事も、ないといいんだけど……」

 爺様のことも、これからのことも、そう思わずにはいられない。

「何かあっても、エルは僕を守ってくれるでしょ?」

 そう、揺るぎない信頼を殿下は向けてくれる。

 約束した。


「はい、お兄様。必ず私がお兄様を守ります」


 例えそれが、いつか歪みになる関係だとしても、離れるわけにはいかない。





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