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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
2章:赤の国の使者
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話し合いしました






 難しい話なのでフレーズは研究所の一室でお茶菓子を食べて待ってるように伝える。

 そして三人で盗み聞きをされていないことを厳重に確認して、先程まで何があったのかをダズに説明した。

「なるほどな……。しかし、魔女ねぇ……」

 半信半疑、といったところだが、相当の人数を操ったことも踏まえて考えると嘘っぱちというわけでもないだろうとダズも思ったのだろう。


「……にしても原初の魔法か。つまり、魔女の罪過、ってことだよな」


 原初の魔法。それはかつて魔王との戦いによって生まれた魔法の呼び名の一つ。


 そもそも、魔法と魔力は人間にはないものであった。しかし、魔王の侵攻により、世界は一見して変わらぬが、魔力によって汚染され、魔力を持つ子供が生まれるようになった。当時、魔力を持ち魔法を使うのは魔王やその手下の悪魔だけであり、各地で悪魔の子と子供が殺されたりもしたし、魔力のある子供を魔王軍との戦いで囮として道具同然に使われたりとひどい扱いを受けていた。

 そんな中、人間を裏切って魔王に心酔し、人を逸脱した存在がいた。それらは魔女と呼ばれ、人間に最初の魔法をもたらしたと言われている。凶悪で非道な魔女は魔王討伐時に討たれほとんど記録は残っていないものの、原初の魔法、魔女の罪過としていくつか存在したと歴史に記されている。

 ちなみに、魔王や魔女を倒すことはできたものの、汚染や残った魔族の驚異がなくなったわけではない。疲弊した国々が魔族に対応しきれずにいたほどには。


 その原初の魔法が復元されたというのならばかなりの驚異だ。今回、運良く効かないものに当たっただけで、その魔法効果は凄まじい。

「どこでそんな魔法を研究していたかは知らないが……原初の魔法による事件が他にも起きたら大変なことになるな」

 コルヴォが険しい顔で呟く。その通りだ。原初の魔法はこれ一つではない。結界をすり抜けた魔法もおそらく原初の魔法と見て間違いないだろう。

「ていうか、俺としてはお前が一番怖い」

「は? なんで?」

「今回はよかったものの、お前が何かの拍子に魔女側についたらお前のその魔力で原初の魔法を扱われるかと思うとぞっとする」

 ああ、そうか、女だし使えるのか……嫌だなそれ。

 原初の魔法の使用条件は不明な部分も多いのだが、わかっているのは悪魔と交わった女ということ。コルヴォにはおそらく使えないだろう。

「原初の魔法かぁ……ロストマジックと同様に興味はあるけどね……」

 ロストマジックと原初の魔法は違うものだ。

 魔族の残党に苦労していた頃、ある一人の魔導師が国を覆う結界を張った。人々に安らぎを与えた魔導師を民衆は尊敬し褒め称え、魔導師の地位が向上していったのだ。それ以来、少しずつ魔導師が増え、魔法を重要視されるようになったが、やはり魔導師を憎む存在も多かった。悪魔の子と思っていたやつらが突然崇められているように映ったのだろう。魔導師を嫌う者はあの手この手で魔導師をけなそうとした。

 やれ、悪魔が内側から人間を支配しようとしているだの、悪魔が人間を嘲笑っているだの。まあよくそんな風に言えるものだと思うものまで多種多様に。

 結果、魔導師たちの多くは不当な扱いを受けて殺されたりして、当時の資料も処分されている。時が経つにつれ評価が高まるかつての魔導師も多くいるし、残した資料の解析もされいているが、処分された資料にあったものの術式や触媒などの情報は失われ、実質ロストマジックとなっている。中にはとても有用なものがあるのだが……嫌魔導師派はいつの時代もろくなことをしない……。

「頼むから人間に反旗を翻すのはやめてくれよ? お前を敵に回すのは面倒この上ない」

「生憎と、そんな暇も野心もないから」

「まあ、エルにはなくても、今度こそ女でも効く洗脳魔法を使ってくる可能性だってあるしな」

 黙っていたダズが唐突に有り得そうで怖いことを言い出す。

「うちもデーニッツ爺さんが戻ってきたら色々考えないとな」

 魔導師団長のデーニッツ爺は別の仕事でここにいない。何をしているかは知らないが今は早く帰ってきてほしい。

「そういえば……フレーズ、従者っていうけどそんなに強いの?」

「下手したら魔法なしの俺に勝つくらいには強い」

 お世辞なしのまっすぐな賞賛に思わず目を丸くする。

「女の立場が弱いのによく従者にできたね」

「ロットはその点わかりやすくてな。実力主義だ。フレーズは文句言うやつ片っ端から始ま……納得させたから」

 なんか不穏な言葉が聞こえたぞ。

「まーそれでも問題は多いけどな。たっく……あいつ嫁にするまでにどれだけ根回ししたと……」

「大変だなぁ……」






 ん? 今なんつった?


「嫁? 誰が誰を?」

「俺がフレーズを嫁に」

「……えっ」


 というか旦那様ってそっちの意味かー!?


「え、ちょ、じゃあ夫人じゃん!?」

「ああ、婚約なだけでまだだぞ?」

「婚約者じゃん!!」

「だからめんどうだから城下町で待ってろって言ったんだよ」

「違ぇよ!! もてなさないといけない相手じゃん!!」

「公式発表してねーし」

「しろよ!!」

 コルヴォとやりとりしてると疲れる……。

 まさかぽんぽん衝撃の事実投げつけられるとは思わなかった。

「実力主義っつってもフレーズはちょっと面倒なやつでな。各方面に根回ししたり陛下と交渉したりしてようやくこぎつけたんだよ。ま、今回俺の暗殺理由ではないと思うけど恨みは買ってるからな、こういうことでも」

「暗殺理由ねぇ……。大魔導師ってだけで割と充分な理由だと思うけど」

 その場合、どちらかというと国外からの刺客になるだろうが、大魔導師というだけで狙われても仕方ない。嫌魔導師派でも過激なやつは殺したいほど憎んでいるだろうし。コルヴォに関しては、フレーズとの婚約やフィアンマ家のお家騒動とか諸々の理由が重なっているのだろう。

「自称魔女の計画としてはウェイスの騎士に俺を暗殺させるか、お前に俺を殺させてか、ってとこなんだろうなぁ。とすると国家間の対立煽りか?」

「ありえるなぁ。となると考えられるのは3つ?」


 1つ、ロットがウェイスへ攻める口実作り。

 2つ、ロットとウェイスの交易に亀裂を入れる。

 3つ、ロットの大きな戦力であるコルヴォを削ぎつつ、シクザールを失墜させる。


 ざっと考えてもこれだけ浮かぶ。益があるとすればロットの過激派かあるいは第三勢力。

「……これ上に同報告する?」

「隠してもいいことないから全部言う」

「だよねぇ……まあ公表云々は上に任せればいいか」

 そんなことをコルヴォとダズと考えていたら、魔道具による殿下からの呼び出し命令が届いた。




ダズ「あの、俺場違いじゃ」

コルヴォ「え、なんで?」

エル「気にしないでいいよ、こいつだし」

ダズ(……気にするんだよなぁ……)

コルヴォ「あと敬語いらないよ」

ダズ(喋りづれぇ……)

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