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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
2章:赤の国の使者
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先走りました(マルク視点)



 ようやく追いついてその現場を見て戦慄する。

 シクザール殿とフィアンマ殿が侵入者に迫られている!!

 ヴィンフリート何してるんだ!と思いつつ、剣を不審者へと投げ、近づこうとして、己の失敗を悟った。

 シクザール殿が侵入者を庇い、前に出て自分の投げた剣がシクザール殿の頭に命中し、衝撃で彼の仮面の一部が砕けた。

「し、しししししシクザール殿!?」

 仮面が割れ、そのまま後ろに倒れそうになったシクザール殿をフィアンマ殿が支えて受け止める。落ちた破片から察するに顔の半分が見えるだろう。


 ……今なら顔が見える?


 しかし、そんな邪念をすぐに消し去ったのはフィアンマ殿。自分の上着をシクザール殿にかけてかつぎあげてみせた。

「グリーベル殿。侵入者だと思っているそれは私の従者です。誤解をさせて申し訳ありません」

「はっ!? えっ!? じゅ、従者!?」

 それならあの異常なまでの反応速度や身体能力を活かす戦いをしたヴィンフリートとやりあえるわけだ。

 だが、侵入者だと思って自分は何をした?

 頭の中で巡る自分のした乱暴な行動にどんどん血の気が引いていく。あ、胃が痛くなってきた。これ自分クビかな。降格かな。

「彼は私が魔導師の研究所に連れて行きます。気絶してしまった以上、この魔女を自称する女をどうするべきか決めかねますし」

「そ、そうですね……こちらも不始末を上に報告する必要があるので……」

 想像以上に情けない声が出た。いやそこは客人にそんなことさせられないと言って運べよ自分。

「フレーズ。その女頼む」

「はい、旦那様」

 気絶しているよくわからないぐるぐる巻きの女を抱え、少女はフィアンマ殿についていく。

 それを見送るしか、今の自分にはできないほど頭がパンク寸前だった。




 頭痛と自己嫌悪で死にそうだ。

「えっと、グリーベル殿……」

「ヴィンフリート……私があそこに現れるまで、いったい何があった……?」

「あ、はい。実は……」


 ヴィンフリートの見た一連の流れ。魔女を名乗る女。操られたと思ったシクザール殿が術を退け魔女を捕縛。実はフィアンマ殿の従者だった侵入者の少女と情報共有。そんな中、私の剣によりシクザール殿が怪我を……。


「……つまりだ」

「はい」

「……死んでくる」

「はい……はいっ!?」

「辞表書かなきゃ……」

 白薔薇騎士団の執務室に向かいながら鬱々とした自分の未来を想像する。

 よくて自分の降格……悪くて一族郎党処刑か……。

「はは……もう終わりだ……私はどのみち終わりだ……」

「ぐ、グリーベル殿、大丈夫ですよ! 向こうだって侵入して紛らわしいことしたんですし……」

「そんなことじゃない……」

「は?」

「シクザール殿に怪我を負わせてしまった……」

 客人の従者を守ろうと咄嗟に庇ったシクザール殿。そんな彼に怪我をさせてしまった。これだけでもう自分がみっともなくて泣けてくる。

 殿下のことだ。許すとも思えない。

「死のう……」

「グリーベル殿落ち着いて……」


 しばらく欝状態に陥ったグリーベルをヴィンフリート含む、騎士たちがなんとか励ましたものの、いまいち効果はなく、結局、しばらく出勤拒否をするという世にも珍しい事件が発生するのだが、シクザールはまだそれを知らなかった。






 魔導師の研究所。ダズはエルとフィアンマの二人を待っていたのだが、予想もしてなかった帰還に目を丸くする。

「ふぃ、フィアンマ殿! シクザールはいったい――」

 なぜか顔を上着で隠しながら担がれているエル。それを抱えて苦笑するフィアンマ。そして、それにとことこついてくる少女。そして少女がなぜか引きずっているぐるぐる巻きの女。

「あー、いや、ちょっとした事故で仮面割れちゃって……とりあえず頭打ったみたいだし看てやって」

 そう言って、抱えていたエルを手渡され、ダズはエルの顔を確認する。たしかに仮面の左半分がなくなっており、顔がわかる。額も痕があり、なにかぶつかった衝撃で仮面が割れ、気絶したのだろう。

「い、いったいどんな勢いで何がぶつかれば仮面が割れて気絶するんだ……」

「グリーベル殿が投げた剣」

「あー……あの人の力で投げた剣……あー……仕方ないか」

 ひとまず人のこないであろう部屋の一室に寝かせて治療を施す。エルほどではないがダズも治癒魔法が扱える。

「それで、そちらの少女はどちら様ですか フィアンマ殿」

「ああ、こいつは俺の従者。フレーズだ。不法侵入して城内を混乱させた元凶」

 責めるような口ぶりに少女は縮こまって俯く。

 すると、エルが辛そうだがわずかに声をあげ、ゆっくりと目を開ける。

「……あれ、ダズにーさん?」

「エル、大丈夫か?」

「……うん、多分……」

 まだぼんやりとしているのか声に覇気がない。

「…………魔女は?」

 魔女、という言葉にダズが険しい表情を浮かべる。

 基本的に魔女というのは今現在において本当の意味で該当する者はいない。なので魔法を使う女を魔女と侮辱するために使われる蔑称のようなものだ。

「ああ、そこに転がしてる。騎士に引き渡してもよかったんだけどお前の近くに置いといたほうがいいだろ?」

 フィアンマが指さしたぐるぐる巻きの女。それを見てエルは安堵したように息を吐いた。

「うん……騎士だと魔法に対応できないし……」

「えっと……できれば俺にもわかるように説明して欲しいんだけど……」

 困ったように頭を抱えるダズ。それを見て、エルは苦笑しながら魔女を地下の檻に入れ、魔法を何重にもかけて逃げられないようにし、殿下に連絡を入れてからダズを含め、フィアンマと話をし始めた。




この後グリーベルは引きこもった(多分)

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