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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
2章:赤の国の使者
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やられました






 女はくすくすと袖で口元を隠しながらこちらを見てくる。

「あらあら、怖い怖い」

 魔力弾を撃ち続けるが女はそれを全て躱すか無効化してくる。

 声には出さないが今にも舌打ちしたくなる苛立たしさに駆られ、女を睨む。

「この周囲に結界を張った。逃げられはしない。降伏しろ」

「え~? やぁーよ」

 甘ったるい猫撫で声。コルヴォも困ったように頭を掻きながら耳打ちしてくる。

「俺動いたほうがいい?」

「いや、相手は操作系使ってくるだろうし離れないで」

 なにかの間違いでコルヴォが操られたらと思うとぞっとする。

「お前の目的は?」

「あらぁ? もうわかってるでしょ? コルヴォ・マーゴ・ケイト・フィアンマ。邪魔だから死んで」

 コルヴォははっと鼻で女を嘲笑い見下すように言う。

「あいにく、お前程度の女に殺られるほど未熟じゃない。他人を操るしか脳がない女じゃ俺は殺せねーよ」

 煽るなぁ、と思ったが実際そのとおりだ。コルヴォと手合わせして実感したがこの化物を殺せるのはなかなかいないだろう。魔導師だから毒とかも効果薄そうだし。

「うふふ。そうね、あたしじゃ殺せないわ」

 すると、女は逆上した様子もなく、微笑みながら右の手袋を加えて取り外す。

「私が直接殺す以外にいくらでもあるのよ?」

 女が動くとわかった瞬間、コルヴォよりも前に出て二人分の結界を張り迎撃態勢に入る。

 女は床を蹴りこちらに突進するように向かってくる。あと少しで結界に触れる――そう思った瞬間、ピシ、と嫌悪感が襲いかかる。

 内側をえぐるような不快感にくらりとし――いつの間にか女が目の前にいた。


 ――結界をすり抜けた!?


 そう思うと同時に腹部に鈍痛がはしる。

「がっ――!?」

 そのまま横薙ぎに殴り飛ばされ、芝生の上に転がり、呼吸が乱れた。

 拳自体はさほど驚異ではない。確かに痛かったが致命傷どころか重傷にすらなりえない。勢いよく飛ばされたものの、肉体を魔力であらかじめ強化しているからだ。

 なのに、なぜ、こんなにも体中におぞましい嫌悪感が這い回るのか。


「『ピリ プラ パロラ パラリ パパラ ペラ プリ ポロ パラリ ポロ』」


 不気味なトーンで紡がれる独特の言葉。どこか遠くに聞こえるコルヴォの声。

 やばい、完全に油断した。近接戦闘だってできなくないのに魔法使いだと思って完全に油断していた。コルヴォの様な戦闘タイプなら迫ってくることも想定に入れておくべきだったのに。


「『パパラ ペラ プリ パラリ ピル ン リリリ ン プル ルルル パラリ ポロ』」


 なんとか立ち上がろうとする私を阻止した女の手が首に触れる。



「さあ! あたしの人形になりなさい――!」


 桃色の閃光が弾け、身体に直接流れ込む魔力を感じた。











 グリーベルはシクザールに指示された場所へ向かう途中、こちらに迫ってくる二つの気配を察知し、グリーベルは走りながら剣を抜く。

 二つの気配のうち覚えのない気配の方。そちらに集中し、まっすぐ走る。


 曲がり角の外角――。


 曲がり角をそのまままっすぐ突き進み、すれ違いざまに斬りつけ相手の動きを止め、互いに視線が絡み合う。

 苛立ったような表情。斬れたのはどうやら腕のほんのわずか。薄らと血が滲む程度でなんの阻害にもなっていない。

「ヴィンフリート。手をかけすぎだ」

「ぐ、グリーベル殿……」

 珍しく怒り心頭のグリーベルの姿にヴィンフリートの声が震えた。

 侵入者にかける言葉もなく斬りかかり、とっさにヴィンフリートは危険だと判断してその場から跳んで避ける。

 不審者の少女も当然避けたが、叩きつけるように振られた剣が空振り、地面に亀裂が入った。

「ひっ!?」

 少女が図太い侵入者と思えないほど恐怖と驚きの混じった声をあげる。ヴィンフリートも(避けて正解だった……)と思いながらグリーベルを見た。

(笑って、る……)

 苦労人で胃に穴を開けるような彼からは想像もつかない嗜虐的な笑み。獣染みた動き。別人だと言われた方が遥かに説得力が増す。

 そのままグリーベルは剣を少女に向かって『投げ』、飛んできた剣を避けた少女に重い蹴りを食らわした。

「がっ、かはっ――」

 グリーベルは攻撃を止めず、そのまま少女の襟首をつかんで地面に叩きつけると横薙ぎに蹴って壁に激突させた。

 叩きつけられた少女は喀血しており、深手を負ったように見える。

「グリーベル殿!」

「ヴィンフリート、うるさい。まだ終わっていないだろ」

 剣を拾い上げて少女の髪を掴んで顔を上げさせる。わずかにうめいた少女は意識があるようでグリーベルを睨みつける。そんな少女にグリーベルは喉元に剣を突きつけ淡々と言葉をぶつける。

「貴様は何者だ」

「わた、し……は……」

 呆然と尋問を見ているヴィンフリート。ある意味当然の対応なのだが、グリーベルがここまで激しいことをする人間だとはにわかに信じがたく……というか若干恐れていた。

 少女が何かを口に仕掛けた瞬間、先ほどシクザールとグリーベルが別れた辺りから桃色の閃光が奔るのを三人は目の当たりにする。

「なん――」

「旦那様!!」


 少女が焦りを見せながらも一瞬閃光に反応してわずかに隙を見せたグリーベルを弾き飛ばし、閃光の方へと走り去る。ヴィンフリートが一瞬反応が遅れてそれを追おうとするが、弾き飛ばされたグリーベルを放置していいのか悩み、彼なら構ってないで追え!と言いかねないと判断して少女を追いかける。




 先程よりも早く駆ける少女を見失わないようにヴィンフリートは走り、たどり着いたのは庭に通る通路。

 まず目に映ったのは追いかけていた少女と見知らぬ男。

「旦那様!!」

「フレーズ!? なんでお前ここに――」

 次に見えたのは彼らよりも奥にいる見知らぬ女と、その女の前に倒れ伏すシクザールの姿。


「あっはははははっ! 最強と謳われる大魔導師シクザール! もうあたしの手駒! さあ、あなたの手でフィアンマを殺しなさい。滅しなさい。ずたずたに引き裂いてやりなさい!」

 よろよろと不安な足取りでシクザールが立ち上がる。が、くらくらと目の焦点が定まっていないのかその場からは動かない。

「あらぁ? ちょっと魔力多すぎたかしら。ま、馴染めば従順になるでしょ」

 パチンと指をならしてにやりと笑う。すると一瞬で正気じゃない目をした騎士たちがコルヴォ、少女ことフレーズ、ヴィンフリートを取り囲むように出現する。

「フィアンマはこいつら程度で殺せると思えないしぃ、目撃者と邪魔者を狙いなさい」

 その命令で騎士たちがヴィンフリートとフレーズに襲いかかる。

 ヴィンフリートとフレーズはどちらとも騎士たちを殺しはしないが動けなくなる程度に攻撃をしてどうにかしのいでいる。が、手加減していることと数が多いことが重なって劣勢になっている。コルヴォにも襲いかかる騎士はいるがコルヴォは二人よりは余裕のある様子で騎士たちをいなしていく。

「……シクザール。お前、いいかげんにしろよ?」

「無駄よ! あたしの原初の魔法は『男には』絶対効くんだから!」

 得意げに語りだす女にコルヴォは「あー……」となぜかばつの悪そうな声を発しながらシクザールをじっと見てため息をつく。

「で、お前はどこの回し者?」

「あらあら、教えるわけない……と言うべきなんだろうけど、冥土の土産に教えてあげる」

 髪をかきあげ、妖艶に微笑んだ女は声高々に叫んだ。


「あたしは魔女!! フィアンマの後継者を暗殺するよう我が主に命じられた桃色を司る魔女ラペーシュ様よ!」












「うん、もういいよ。聞きたいこと聞けたし」



 ドスッ、と魔女ラペーシュの体が崩れ落ち、操られていた騎士たちも次々に倒れていく。


「な……ん、で……?」

 ラペーシュが震える声で自分を攻撃した人物――シクザールを睨んだ。





「うん……えっと、操られてはいないかな……」


コルヴォ(あっ……あいつ操られたふりして……)

エル(やっべぇ……他人の魔力のせいで酔いそう)

コルヴォ(違った)

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