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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
2章:赤の国の使者
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手合わせすることになりました




 魔導師の研究所から歩いて数分。白薔薇騎士団の訓練場には熱心に騎士たちと手合わせをしているグリーベルがいた。

「お前たち! 動きが遅い!! それでも白薔薇騎士の精鋭か! 私から一本取ることもできないのか!」

 普段とは違う真剣な様子。とても胃を痛めて倒れる人物とは思えない。

 少し遠いところでそれを目にした私たちはもっと近づこうと訓練場に入った。

「白薔薇騎士団……副団長のマルク・グリーベル殿ですか」

「騎士団まで把握しているのですね」

 よそ行きの口調にお互い(こいつ気持ち悪い猫かぶりだな)と思いながら近くの騎士に声をかける。

「そこの君。悪いけどグリーベル殿を呼んでもらえないかな」

「し、シクザール様!? しょ、少々お待ちください!!」

 騎士にしては小柄な体格の青年は慌ててグリーベル殿の元へと駆けていく。すると、グリーベル殿がこちらに気づき、はっとしたように硬直して相手にしていた騎士を置いて駆け寄ってきた。

「し、シクザール殿!? どうしてここへ――……う、後ろの方はまさか」

「はい。ロット国の大魔導師フィアンマ殿ですよ」

 今にも卒倒しそうな顔色に申し訳なくなってきた。

 だって、白百合に行ったらあの馬鹿が面倒起こしても困るし、コラロドフ殿がいてもあの人は関わりたがらない人だからやっぱり面倒だし、どっかのイジェスタは前回のこともあってか大人しくはなったけどでもやっぱり自分の身のことを考えれば関わりたくない。

 となるとどうしてもグリーベル殿のところがマシなんだよなぁ……。

「そ、それで……魔導師様であるフィアンマ殿がどのようなご用件で――」

「グリーベル殿。私と手合わせしていただけませんか」

 コルヴォの突然の提案にグリーベル殿だけでなく私もうっかり目を見開く。何言ってんだこいつ。

 本人の目は真剣そのものなのに、表情はどこかにこやかで不気味だ。

「……他国の要人である貴方に怪我をさせてしまうかもしれないのでできれば――」

「おや、貴方は私が貴方より弱いと言うおつもりですか。“獣”の貴方の方が、戦いを望んでいると思っていたのですが」

 すると、グリーベルの瞳がわずかに揺らぐ。その意味はわからなかったが、獣、という単語でなにやら彼の中で変化があったらしい。

「……手心を加えないほうがよろしいでしょうか」

「当然でしょう? 私は貴方の本気が見たい。ああ、でも私が魔法を使うのはいささか卑怯ですし、私は少し手を抜かせてもらいます」

「別に構いませんよ。その“程度”の魔法くらい、使われても」

 え、なんでこんな殺伐としてるのこの二人。

 聞き耳を立てていた騎士たちが人をこっそり呼んでいるのがわかる。副騎士団長と他国の大魔導師の手合わせだ。当然見てみたいと皆が思うのだろう。

 ……できれば白薔薇関係者は来て欲しくないなぁ……。





 二人とも準備を終えて、対戦する台に並び立つ。グリーベル殿は普段通りの騎士服の上着を脱いでおり、意外と筋肉質なことが伺えて新発見だ。胃痛で倒れるのに。

 コルヴォも堅苦しい礼服の上着は脱いで、ボタンを少し外したシャツをズボンから出してだいぶ規律を捨て去った格好になっている。

 そして二人はよりにもよって真剣で打ち合うつもりだ。いいのかそれで。仮にも一応他国の要人だぞあいつ。

「ええっと……お互い真剣で本当によろしいのですか?」

 審判である騎士の青年(さっきの小柄な彼)も不安そうにしている。

 しかし、二人揃って――

「こっちのほうがやりやすいですから」

「フィアンマ殿が真剣がいいと言いましたから」

 このザマである。

 まあ魔法もあるならコルヴォ圧倒的に有利だし、接待も兼ねてグリーベル殿もちゃんと手を抜くだろう。……抜くよね?

 野次馬というか見学の騎士と、数人令嬢が顔を見せていた。二人共顔も地位もいいし、令嬢だってお茶会の話のネタにもってこいなんだろう。

 幸い、どっかの馬鹿と変質者は来ていない。そっちは別の仕事なんだろう。団長殿二人も別件で留守だ。

 二人が剣を構える。しん、と静まり返った訓練場に風が吹き抜ける音だけが響いた。


 ――刹那、二人が消えた。


 はっとした瞬間、二人の剣が火花を散らしぶつかり合っていた。先に動いたグリーベルの切っ先はコルヴォの右肩。しかし、コルヴォも予測していたように避け、更にその勢いを利用してカウンターのように剣の腹でグリーベルの剣を握る手を打った――かのように見えたがグリーベルはコルヴォに足払いを仕掛けようとし、効果があまりないこと察して一度距離をとった。

(最初、目で視認できなかった……規格外すぎるだろ)

 見学の騎士と令嬢もぽかんとしており、未だ続く殺陣のようなやりとりに困惑していた。

 二人の攻防があまりにも演技染みているほど完璧な動きなのだ。

 そして、一番驚いたのがグリーベルの表情。

(笑って、る……?)

 少しでも気を抜けば負けるであろう戦いにおいて笑う。それがあのグリーベルだと思うと違和感が拭いきれない。コルヴォも楽しそうだが、彼はまだなんとなくわかる。しかし、普段温厚なグリーベルを知っているから余計に違和感があった。

 コルヴォはどちらかといえば速さで翻弄しているが、グリーベルの動きはまさに獣染みていて、荒っぽい動きが見えた。しかし、それが悪いとか、弱いとかではなく、強い獣が狩りを楽しんでいるようだ。


 勝負の幕引きは意外にもあっさりとしたものだった。コルヴォがグリーベルの剣を弾いて喉元につきつけたところで審判から制止が入り、コルヴォの勝利ということで終わった。


「さすがですね、グリーベル殿。お噂通りの人物だ」

「いえ、大したものではありませんよ」

「そうですね。“次”やるときは、手を抜かないでくださいね」

 何か意味ありげに笑顔でコルヴォは言う。グリーベル殿はどこか不機嫌そうにしたかと思うとすぐに笑顔になってこう返した。

「そうですね。魔法を使った“本気”のフィアンマ殿と是非」

「…………」

「…………」


 だからなんで殺伐としてんの。



殺伐(仲良し)

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