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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
2章:赤の国の使者
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ぶっちゃけました



 一目見てわかった。他人の数倍の魔力を持つと。明らかに他者とは一線を画す存在だと。

 黒い髪と黒い瞳。一見するとまだ未成年にも見える若々しさと凛々しいたくましさを備えた美丈夫だ。服装は魔導師らしからぬ堅苦しい礼服。赤い家紋と国の代表としてのロット国の紋章が刻まれているそれはどちらかというと騎士を連想させた。

「ようこそお越しくださいました。フィアンマ様。私はシクザールです」

「お初にお目にかかります。シクザール様にお会いできるなんて光栄ですよ」

「こちらこそ。噂は常々伺っています」

「どうぞ、コルヴォとお呼び下さい。シクザール殿と呼んでも構いませんか?」

「ええ、もちろん」

 こちらのやりとりを眺めながら文官たちはコルヴォに頭を下げて去っていった。魔導師の中に入っていくのは気が引けたのだろう。

 ちらりと、コルヴォは文官たちがいなくなったのを見てため息をつく。

「堅苦しいのはお嫌いですか」

 そう尋ねるとコルオヴォは苦笑した。

「いえ、他国ですのでやはり緊張するというか。こんなに魔導師殿総出でお迎えしていただけるとも思っていませんでしたし」

 総員、並んで出迎えたのだがどうやら緊張させてしまったらしい。本当にそうだか知らないが。

「もうしわけありません。以後気をつけますので」

 仮面をつけたままだがコルヴォもこちらが苦笑しているのは読み取れたのだろう。

 ふと、握手をしていないことに気づき、手を差し出す。

「お近づきの握手を」

 するとなぜか不思議そうにコルヴォは首をかしげる。しかし、差し出した握手には普通に笑顔で対応し――手が触れ、険しい顔で凍りついた。

 瞬間、手を振り払って私を睨みつけてくる。理由が分からず呆然としていると彼が先に、声を震わせながらも言葉を発した。


「なんで女なんだ……!!」


 その刹那、魔導師たちが一斉に杖を、刃を、コルヴォに向ける。

「全員下がれ!」

 一応他国の要人に刃物を向けるわけにはいかない。過剰に反応する方がまずい。不幸中の幸いだったのは彼に付き人がいないことだろう。もしかしたら隠れている可能性もあるが。

「コルヴォ殿。何か勘違いをしているのでは?」

「……悪いがお前が女だともう確証はついている。そうやって隠すつもりなら今すぐ本国に戻って報告しても構わないんだぞ?」

 それはつまり、話次第では黙っていてくれるともとれる。

 さて、どうしたものか。なぜバレたのかもよくわからないし、そのへんは知っておきたい。

 何より、相手は大魔導師だ。若くてもこの国で張り合えるのは自分くらいだろう。

「……ふむ、まあいいでしょう。コルヴォ殿。できれば二人で話がしたいのですがよろしいですか? それでしたらお話しましょう」

 眉がわずかに動く。二人で、というのがあまり気に入らないらしい。しかし、それくらい譲歩して欲しいのだが。

「いいでしょう。誠意があるだけマシですね」

 嘲笑うコルヴォ。心配そうな同僚たち。

 どうあっても、平穏に終わりそうではなかった。





 二人で話す、ということもあって接客用の個室で向かい合って座る。さて、何から話すべきか。

「……とりあえず、君が女であることを隠す――いや、確か公式では男と言い張ったことはなかったな?」

「そうですね。誤解してくれた方がありがたいのでそのまま男という風潮を利用したのは事実です」

「しかし女であることを公表しないということはそれなりに理由があると見ました。その部分を隠すというなら私はあなたを信用しません。脅しているととっていただいても結構」

 こいつ相手にごまかすのは得策じゃない。ここにいるのは魔法を使って確認した限り誰もいない。防音結界も張ったし盗み聞きされることもないだろう。

「では、お話しましょう。どうか他言無用で。こちらとしてもあなたを信用して話すことをお忘れなく」

「内容によります」

「私の本当の名前はエーリカ・フェアデルベン・アイゼンシュタット。エーリヒ殿下の実の妹です」

 そう言って仮面を外す。殿下の顔を見た後だから彼は目を丸くしてこちらを見てきた。

「……双子、ですか?」

「ええ、その通りです」

「……悪魔の子、というわけですか。確か王妃が嫌魔導師派でしたね」

 そこまで知っているのには驚いたが話が早くて助かる。

 魔力があることと、双子は忌み嫌われる存在。それが見事に重なったからこその現状。

「私は王族から外され、魔導師団長に引き取られる形になりました。元々この顔ですから存在を悟られないように表に出ないようにしてたのですが……」

「誤算だったのは有名になりすぎた、ということですね」

 用意していた紅茶を口にするコルヴォ。あまり音を立てずにカップを置いてため息をついた。

「……なるほど。確かに、一時期王妃の錯乱や、双子の流産などいくつか噂はありましたが……」

「まあ、私が正体を隠すのは様々な要因が重なって隠し続けるというハメになったので……今明かしても混乱を招くだけですから」

「そうですね。我が国ロットは間違いなく食いつくでしょう。シクザール殿が女性で、エーリヒ殿下の妹君とあれば、複数の候補を用意して国に取り込もうとするのは間違いない。現に、男であると思っている現状でも我が国はシクザール殿をどうにか婿として取り入れたいと考えていますし。というか今回も数人それなりの候補の見合い写真が積んであります」

 さらっと言ってはいけないような裏事情暴露しやがった。

「というわけで、あなたの正体は胸の内にとどめておきます。この命と、私の誇りにかけて約束します」

「へぇ、意外と忠義心は薄いのですね」

「いえ、個人的な問題もあります」

「と、いうと?」

「私――いえ、俺、結婚する予定なんですよ」

「はあ……? それで?」

「ご存知のとおり、我が一族は魔力が遺伝する一族です。シクザール殿の相手として真っ先に槍玉に挙げられるでしょう。はっきり言います。あんたみたいな性格の悪い女は死んでもごめんです」

「……喧嘩を売りたいのか仲良くしたいのかはっきりしませんか?」

 こいつ、どこをどう取って性格悪いと断言しやがった。

「だいたい、俺は一夫多妻制が嫌いなんです。俺は今の恋人だけを妻にするつもりなので、あんたが表に出てきても迷惑極まりない。ま、俺にその手の話題が降りかからないであろう、男のままでいてくださいよ」

「もちろんですよ。しかし、そろそろ男のふりをするのも限界かと。あなたにも一瞬で見破られましたし。というかなぜわかったのですか? これでも案外バレていなかったのですが」

「ああ、それは俺が重度の女嫌いだからです。あんたと握手した瞬間、鳥肌が立ったのでこいつ女か、とわかったのですよ」

 ああ、だからすっごい嫌そうな顔してたのか。

 珍しい事例とはいえ、そんな形でわかってしまう場合もあるのかと思うとやはり他人と関わるべきではないのかもしれない。現に、他国の大魔導師などという普通ならバレたらまずい相手にバラしてしまったのだから。

「……あなたみたいな人が何人もいても困りますが、そういう人がほかにもいるかもしれない。なので、できれば協力したいのですが」

「いいですよ、別に。ま、俺程度じゃたいしたことできないと思いますけどね。俺は研究者というより戦闘方面担当ですから」

「いえ、大魔導師のツテがあるだけでも案外使えそうじゃないですか」

「……やっぱり性格悪い女だなお前」

「お前も口悪いし意地の悪い野郎だよ」

 いつの間にか軽口を叩けるようになっていた。この方が気が楽だし。

「あー、やっぱり俺は堅苦しいの無理無理。そもそも今回の訪問だって俺はしたくなかったし。陛下がめんどくせーことばっか俺に押し付けるせいで」

「へー、お前、忠義心薄いなホント」

 自然と軽口がぽんぽん出てしまうあたりなんだかんだで相性はいいのかもしれない。コルヴォは心底うざったそうに言う。

「別に俺は国に対してどうも思ってないしな。ああ、そうだ。お前のトップシークレット聞いちまったし、聞きたいことあるなら教えてやるけど」

「んー……じゃあ、フィアンマ家が事故でお前以外死んだっていうのは?」

「ああ、あれ嘘。俺が殺した」

 まるで「そこにあったパンを食べたぞ」とか言うくらいさらっと言いやがった。

「……お前、さらっととんでもないこと言うな」

「いや、老害どもうぜーから事故に見せかけて殺してやっただけだし。あと俺が一応後継の筆頭とは言え候補者もいたから邪魔だったし」

 少し聞いたことを後悔した他国のお家事情。恐ろしい。

「闇を聞いてしまった……」

「というかそもそもそれに協力したのは陛下と殿下だしな。だから俺はあの人らに頭上がんねーの」

「ロット国って脳筋国家だと思ってたのに真っ黒じゃねーか……」

 武の国ロット。こざっぱりした国かと思いきや案外真っ黒でした。

「そりゃ陛下も頭固くてプライドだけは無駄にある老害どもが邪魔だったみたいだしな。俺の方が扱いやすいからってことだろ。それに、この国だって似たようなことはいくらでもあるさ」

 自分の国でもそういうことがあるから笑えない。

「じゃあ、これでも渡しておく」

 そう言って適当に差し出したのは魔道具としては一般的な媒体に用いられる水晶玉。

「んー? ああ、映像通信か」

「一目見てわかるとはさすがだな……」

「まあ、お前ほどじゃないにしても一応大魔導師扱いされてるしな」

 むき出しのそれを受け取ったコルヴォは観察するように手のひらの中で転がしてみる。

「ふーん。まあもらっておく。俺も何かあったときに利用させてもらうわ」

 手の中でふっと消えた水晶玉。恐らく異次元倉庫にでもしまったのだろう。

「さて、そろそろ個人的な内緒話はやめて堅苦しいやりとりに戻るとするか」

 肩を回して深くため息をつく。というか気づいたら第一ボタン外していたのを直しているし、本当に堅苦しいのが嫌いらしい。生粋の貴族のくせに。

「で、これからどうする? お前様に魔法の資料用意したが」

「いらね。つーかどうせ俺使わないし」

「じゃあ数日どうするんだよ……」

「見たいものはある」

 ふと、目を細めたコルヴォはなんでもないように言った。


「騎士の訓練見せろ」


 その数分後、喧嘩してる私とコルヴォに気づいたダズが止めに入り、渋々訓練場に案内することとなった。

 なんでよりにもよって魔導師に騎士のところへ案内させるんだよ。





別作品のケイトとは名前が同じなだけで一切関係ないです、こいつは。

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