でかけたら絡まれました
当日。城内はばたばたしており、警備の騎士たちや、何をするかはわからないが対応のために分館たちも走り回っているようだった。
自分はというと、ようやく資料がなんとかなったので城下町におりてちょっとした買い物をしようと考えていた。
時刻はまだ午前10時。こちらで対応するのは13時からなのでそれまでは余裕がある。てっきり陛下と殿下の謁見に付き合わされるかと思いきやどうせあとで嫌というほど関わるのだからいいと言われた。いいのだろうかそれで。
そんなこんなで城下町。すでにロット国の大魔導師の噂が流れており、彼の話題で持ちきりだった。特に、ご婦人方が色めき立っている。まあ、噂では美青年ともいうし、何より名門貴族だ。気になるのは当然かもしれない。
ちなみに自分は城下町におりるときも仮面とフードをつけた不審者スタイルである。一応顔なじみ(隠れてるけど)にはシクザールだとわかるので通報されたりとはしない。まあそこそこ有名人扱いだし大丈夫だ。
目的地はというと行きつけの素材店だ。
そろそろ個人的に研究したい魔道具に使う媒介や魔物の素材。これらは様々な方法で手に入れているが、城下町の専門店を利用する場合や、直接納品依頼を出して予算で買う場合などだ。あとついでに昼食も済ませたい。元々城下町のあっさりした食事が好みなので城での無駄にこった料理は面倒なのだ。ダズが作る料理などは美味しいのだが彼に負担がかかるし。
ふと、嫌な気配がして探知魔法をこっそりと発動させる。
この魔法は敵意や悪意などを強く発する相手、つまりマイナス感情を誰かに抱く者を見抜くものだ。一度目を閉じ、再びゆっくりと前を見据える。視界には赤く彩られた人間が4人ほど映る。どれも自分に対するものではないが明らかに害意を抱いているのがわかった。
(さて……誰に対してかな)
ここまではっきりとわかる悪感情にはさすがに辟易する。自分でなくとも、嫌な気分だ。
そして何が憂鬱かというとちょうど自分が向かっている店の付近にその気配がたむろしているのだ。見なかったことにしたい。
しかしなにもしていないので手を出すわけにもいかないし証拠もない。
とりあえず普通に店に入るか……。
平然を装って店に入るとさっそくガシャン!と物が割れる音が聞こえてきた。
(あーあ……無視して帰れば良かった)
店の中で女の子が男二人に絡まれている。どうやら瓶を割った音だったらしく、足元に砕けた破片が落ちていた。
「放してください!」
「ったく、威勢のいい――」
全部聞くのも面倒だし、いいか。
「邪魔」
ようやくこちらに気づいた男たちが何か言う前に喉を掴んで黙らせる。同時に催眠魔法も仕込んだので男たちは一瞬で眠ってしまった。
「さて、外に放置しておけばいいか……」
意識を失った男たちを床に落とすと女の子が目を丸くする。
すると奥から見慣れた少年が出てきた。
「あわわわわわわ!! エルさんお久しぶりです……!」
「ルーカス? その様子だと怯えて隠れてたな……?」
彼、ルーカスはこの店のバイトでたまに一人で店番を任されているのだが臆病な少年だった。茶髪と青い瞳という特徴のない容姿だがまだ幼いからか可愛げがある。たしか今13歳だったかな。
「ご、ごめんなさいぃぃ……」
「ま、しょうがないさ。あ、ところでこのメモに書いてる素材ある? あるものだけほしいんだけど」
「は、はあ。少々お待ち頂けますか?」
そう言って、メモを持って店裏に引っ込むルーカス。
その間に、眠った男たちを店の外に放り出しておく。ドサッと鈍い音がしたがまだ起きる気配はなさそうだ。
店内に戻ると少女が何か言いたげにしていたので近寄ってみると先程までぼんやりしていたと思えないほどはきはきとした声をあげた。
「あああああ、あ、あの! 助けてくださってありがとうございます!」
少々どもりながら何度もお辞儀をする少女はそのたびに長い髪をばっさばっさと揺らしている。自分とはまた違う色合いの金髪と海のような青い瞳。文句のつけようがない美少女だ。
「わ、私フレーズと申します! よ、よかったらお礼にお茶でも――」
「あ、そういうの間に合ってるので」
なんだか面倒な流れになりそうなのでやんわりと断っておく。ちょうど、奥からルーカスが戻ってきたのでそちらに向かおうとする――が
「お、お願いします! どうか! というか道を教えていただけませんか!!」
服を掴んで懇願される。あれ、お礼はどこいった。
ルーカスもよくわからないと言いたげに首をかしげる。そりゃよくわからないだろうな。自分もわからない。
「いや……どこに行きたいのか教えていただければ地図書きますが」
「お願いします! お茶!! お願いしますー!」
なぜお茶にこだわる。
「……わかりました。では、買い物が終わったら」
「は、はい! あ、すいませんこれ弁償しますね!」
さっき割ってしまった瓶を示してルーカスに頭を下げる。ルーカスも困惑していたが素直にその商品の値段を告げ、困ったように箒を持ち出す。中身が液体だったため再利用は難しいだろう。
少女、フレーズも何やら素材を買って店を出ると、やたら楽しそうにこちらを見て微笑んだ。
「美味しいお菓子のあるお店、教えていただけますか? 私がお金出すので」
「ええ、まあ……」
昼食も兼ねていたしあそこでいいかと頭で店への道を絞込み、彼女を案内した。
名前?なんのことかな




