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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
1章:王城狂想曲
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お説教されて

兄がやっぱり気持ち悪いです(もはや恒例)




 失敗した。


「さーて、エル。説明してもらおうか?」


 やべぇ、しくった。


 殿下に呼び出されて何の用事だろうとか甘く考えて伺ったら椅子に固定された。テオバルトが座った瞬間に縄で縛り上げるものだから思わず驚いたが、すぐに殿下の表情を見て悟ったのだ。

 完全に怒っている。

 テオバルトは何も言わず部屋から出ていく。少しは助けろ!という意味で睨むと目を逸らされた。あいつ、本当に私のこと嫌いだな。一応魔法を使ってどうにかできるのだが、それをやると更に怒りそうなので大人しくしておこう。

 にっこりと、擬音すら見えるその完璧な殿下の笑顔。腕を組んで威圧する様子と表情が完全に一致していない。

「あ、えっと、ですね」

「言い訳は無駄だからね? テオに調べさせたから」

 なら言わせる必要もないじゃないか。と、言い訳したら痛い目を見るのは必至なので渋々今回のあらましと、ずっと黙っていたイジェスタとの悶着も説明した。

 説明中、目がすっと細められたり、眉が動いたりとほとんど表情は変化していないのにとても動いていた。

「……なるほど、イジェスタ、ね」

「また暴走するかもしれないですし、団長殿も何やら怪しんでいるようですから、あまり関わらないようには――」

「つまりエルはあいつらを処分して欲しいわけだね?」

「そうですつまり……………………ん?」

「とりあえずイジェスタは適当に他にも罪状でっちあげて処刑か……メルサーニは実家が面倒だしそこまで物証もないから――」

「ちょ、待って! 待ってください!」

 笑顔でさらっと恐ろしいことを企て始める殿下に冷や汗が止まらない。暴君とかそんな次元ではなくなる。

「多少の謹慎処分で結構です! 近いうちに騎士団の方から報告だってくるでしょうし!

「……僕のエルに手を出そうとした男に慈悲なんて必要ない」

 椅子で身動きがとれないことをいいことに、殿下が顔を近づける。

「ここ数日まともに応じてくれないし、寂しかったんだよ」

「……わ、私にも別件で仕事が」

「エル」

 まっすぐとこちらを射抜く、自分と同じ色の瞳。真剣な、いつからかだいぶ低くなった声で私に囁く。


「僕のたった一人の愛しい愛しい君。エルのためなら、僕は愚王にでも、暴君にでもなってあげる。でもエルは優しい子だから、僕のお願いを聞いてくれるよね?」


 甘い脅迫。

 苦い懇願。

 痛い執着。


「……もうしわけありません、“お兄様”。以後気をつけます」

「うん、いい子いい子。まあ例のイジェスタの件は他の大臣も交えて父上と相談するよ。我が国の大事な魔導師へ手を出したんだし」

 一瞬で、執着に狂った男から国の事を考える王子の顔へと戻る。

 その切り替えが恐ろしい。いつか、それすらなくなったら、どうなるのだろうと。


「……“お兄様”」

「なぁに、エル」

「私、これからどうなるんでしょうね」

 落ち着いた殿下が改めてゆっくり話したいと言い出してテアナを呼び出し、お茶会の準備を始めた。そしていつも通り、無駄にびらびらしたドレスも着せられる。

 そんな中、ふと前々から疑問だったことをこぼす。

「私、そろそろ男だと偽ることも限界だと思うんですよ。年齢とか。理由としては複数ありますがまず第一に結婚のことですね」

「ああ……なるほどね」


 殿下も決して私が誰かと結婚したいと思っているとか勘違いはしていない。

 仮面で顔を隠していても、なぜか女性に言い寄られてしまうのだ。時期魔導師長だと勝手に噂も広まっているし、是非うちの婿に、見合いを勧めてくる貴族たちが後を絶えない。正直、年齢的には婚約者がいてもおかしくないとはいえ、一応平民という身分ということになってるし、それでどうにか断っているが、これがあと3年でもしたら恐らくその言い訳はどうしようもないだろう。

 平民といえども、これだけ国内外問わずに名が知れ渡ったのだ。そのうち政略的な意味合いも含まれてくる見合いも舞い込んでくるだろう。


 では、女と明かしてしまえば?


 実はそれが一番厄介なのだ。

 万が一女だと公表したとしよう。偽っていたことを詰問されることも置いておくとしよう。まず、他国から『王族の姫として責務を果たすべきだ云々』とか屁理屈並べて王族の長男から申し込まれでもしたらアウトだ。断りきれない。次男とかならまだともかく、次期国王になる相手を無碍に断れない。他国はシグザールであり、王族の姫という自分をどうにか手駒にしたいと考えるであろうから。

 一番厄介なのが他国の魔導師長級の魔導師や大魔導師と呼ばれる人たちからの見合いだ。王族とはまた違う理由で断りづらい。実は、女魔導師の数が少ないため、どうにかして魔力を遺伝させることはできないのかという研究が一向に進歩しない。なので、魔導師的に考えるならば、母体として最高の素材であり、どうあっても利用したいと望むだろう。

 なので、魔導師たちが国王と話し合い、魔力を遺伝させる術を研究したいという名目で私を娶りたいなどと言い出せばあの手この手で迫って来るに違いない。

 まあ、元はといえば男尊女卑のこの世の中が女魔導師を増やすことができない原因であって私は悪くない。魔力のある女は魔女、魔物であるというデタラメな迷信のせいだ。もちろん、魔導師たちはそんなこと一切思っていない。むしろ、女魔導師をどうにかして確保したいとすら思っていることだろう。

 しかし、私の実例を含めると、王城にメイドや使用人以外で女を働かせるのはあまりよく思われない。女王だと過去に実例はないし、文官にも女は基本いない。

 女は国を堕落させる。

 誰の言葉だったか、やっぱり昔の人を含むおエライ方々は視野が狭い人も多いなと思う。

 そのおかげで魔導師の悲願である、魔力の遺伝が叶わないし。


「まあ、そんな感じで、私の結婚とかもありますし、どうするのかと」

「んー。いっそ僕が娶りたいのは本当に山々なんだけど」

「いや、あの、真面目な話をしてるんですよ、殿下」

 つい殿下と言ってしまったが本当に真剣なことなのだ。茶化さないで欲しい。

「まあ、クソジジ……父上とも話してはいるよ。先日もロット国の姫君との縁談が来たし。一応どうにかお断りしたけど、向こうも引き下がらないだろうし」

「ロットとかまた面倒なところから……」

 苛烈で情熱的。そんな武の国ロット国は優秀な魔導師を欲している。

「なんでも、近いうちにロット国の大魔導師が外交で訪れるそうだ。また詳しいことが決まったらエルやデーニッツにも伝えるけど、くれぐれも気をつけて」

「……ロットの大魔導師ですか」

 思い出して少し困ったように私は表情を歪める。

 武の国でも数少ない魔導師であり、この大陸で恐らく“唯一”魔力遺伝体質の一族。歴代当主は炎に関する魔法に長けた魔導師で、恐らく、魔導師家系としては最大級の規模を誇るだろう。魔導師家系は遺伝しないことからあまり長く続いた試しがない。

 一応調べたところ、女性が生まれにくいらしいので、女性の見合いは来ないとは思うが……。

「気を付けはしますよ。ですが相手も大魔導師。あまり出し抜けるとも思えません」

 仮にも一応、自分と同列の魔導師だ。こちらのほうが自分の地とはいえ、相手も何か弱みを探ってくるだろう。

 特に、素顔不明という奇特な自分の経歴を考えれば。

「……やっぱり失われた魔法の研究ですかね」

「ああ、前に言っていた姿変えの魔法かい?」

 ロストマジック、失われた魔法は現在再現できない魔法として魔導師たちの研究のメインだ。

 姿を変える魔法はその中の一つ。できることなら自分の姿を男のものに変えるか、顔を変えたい。しかし、いまだにうまくいかない。動物で実験したところ、ネズミをリスに変えようとしたら内臓から破裂した。

「あれさえどうにかなれば……」

「……エルは好きな相手いるの?」

「は? いませんけど」

 特に悩むこともなくそう伝えると、殿下は心底嬉しそうに微笑む。

「そっか。君を好きな相手は多いだろうに」

「……私のことを好きになる人なんて、“お兄様”くらいしかいませんよ」


 こうして久しぶりのお茶会の時間は過ぎていく。




 想う者たちもまた、自分の心を制し、明日を夢見る。




 それぞれの、思惑を、抱きながら。



ちなみにイジェスタに万が一にも可能性はありません。あいつに可能性があるならまだヴィンフリートの方が可能性大です。

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