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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
1章:王城狂想曲
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迫られて





 早朝。最終チェックを終えた魔道具を梱包して白薔薇騎士団の下へと向かう。

 一度作ったこともあり、特に目立った不備はなく、直接団長のもとへと向かう。さすがに私相手に妨害する勇気はないのか遠巻きに見ている騎士たちが挙動不審だ。

 ふと、団長のいる執務室へ向かう唯一の道に誰かが立っていた。


 銀髪で紫色の瞳を持つ神秘的な容姿からは想像もできない内面を持つ男。

 ミゲロ・イジェスタ。白薔薇騎士団副団長であり、ある意味関わりたくない相手。


「おやおやシクザール殿。納品が遅れると聞いていましたが」

「なんとか作り上げたので納品に来ました。ご満足頂けたら幸いです」

「さて、欠陥品ではないことを祈っておきましょう」

 めんどくせぇ、こいつ。

 昔はこんなやつではなかったのだが“あの一件”でうざい性格になってしまった。いや、昔からある意味さほど変わっていないが。

「それでは、私は団長殿の元へ向かうので――」

 流してしまおうと横切ろうとしたのだががたいのいい長身に遮られて抜けることができなかった。くそ、背の高いやつはこれだからムカつく。縮め。

「……」

「……イジェスタ殿。そこをどいてくださると嬉しいのですが」

「私の言うことを聞くならばどいてやらんこともない」

「ほお。いったいどのような内容ですかね」


「魔導師を辞めて私のものになれ」


 ……こいつぅ、何言ってんだぁ?


 ちょっと頭が理解を拒否しているせいで言葉が出てこない。つまりこいつはやっぱり……というかまだ諦めてなかったのかよ!?

「……私に男色の気はないのですが」

 やんわりと拒否したがイジェスタは鼻で笑った。

「安心しろ。私がみっちり教え込んでやるから。私好みだしな」

 セクハラだ! セクハラなうえに変態だ!!

 さっきから嫌な汗が止まらない。もちろん頷くという選択肢はないが知り合いにこんな変態がいるのかと思うとぞっとする。男色を否定するつもりはないが仕事の関係者にこういった形で迫るか普通。

「えっとですね、大変申し訳ないのですが少々口調を変えさせていただきますね」

「は?」

 前置きはした。さあ、言ってしまえ。


「ざっけんなよこの変態ゲイがあああああああああああああ!!」


 納品するブツはしっかりと守って、私は渾身の回し蹴りをイジェスタの頭にぶちかました。

 綺麗に入った蹴りは予想もしていなかったのか、吹っ飛ばされて壁に頭をぶつけている。

「ぼ、暴力的だな! 相変わらず貴様は!」

「うるせぇ! そもそもお前がそんな気色悪いこと言うからいけないんだ! そういう性癖のやつにだけ迫ってろ!」

 いや、自分も相当おかしいことしてる自覚はある。恋愛対象は男だけど寄ってくるのは女性だし。

「今回先に手を出したのは貴様だぞ! 報告して――」


「何を、報告するというのかな? イジェスタ」


 穏やかな声。しかし、なぜか末恐ろしいものを秘めたその声の主はよく知っている人物だった。

「グリーベル……お前今日非番じゃ」

 まだ痛む頭をおさえながらイジェスタは言う。

「非番ではあるがやることがあったのでね。ちなみに、私はお前がシクザール殿に迫って蹴られるところを一部始終見ていたよ」

 見られていたのに気付かなかった。グリーベル殿はその辺さすがというべきか。か弱くても副騎士団長。

「いやぁ、まさか誇り高き副騎士団長の片割れである君が男色家だったとはね。その点は気にしないが嫌がる相手に迫るのは騎士としていかがなものだろうか」

 なぜかずっとニコニコしているグリーベル殿が怖い。もしかして怒っている?

「それに、私情で騎士たちを動かしたことも確認済みだ。昨日の騎士たちも君に買収されたらしいね? おもしろいことを聞いてしまって私は笑いが止まらないよ、ハハハハハ」

「……待てグリーベル。違」

「君の弁明は後で聞かせてもらおうか。グリーベル殿が団長に納品をしたあと団長も交えてこの件は全て報告しよう」

「……」

「まあ悪くて副団長解任か……よくて謹慎だろう。私も同僚にそんな酷な真似はしたくないからな。ハハハハハ」

 なんだか怖いがここまで楽しそうなグリーベル殿は初めて見た。

「ああ、シクザール殿。身内の馬鹿のせいで大変ご迷惑をおかけしました。後日改めて謝罪に伺いますので……」

「いえ、お気になさらず。できればイジェスタ殿が二度と関わらないで頂けたら――」

 グリーベル殿がなぜかイジェスタを強く押さえつける。逃亡防止はわかるがなんだか力の入り方がちょっと怖い。あとで個人的にお礼をしておかなければ。

「それでは、また後で」

 とりあえず、団長殿に納品してこなくては。

 というか、色々聞きたいこともあるし。




「失礼します」

「やあ、早かったね。グリーベル殿」

 飄々とした様子で椅子に腰掛ける男。フィリップ・メルサーニ。あまり関わりたくない相手の上位にランクインしている。温和な笑顔の裏には色々謀略を巡らせていそうで、エーリヒ殿下も警戒している。……自分の臣下を警戒するっていうのもどうなんだろう。

「さっそくですがご依頼の魔物を探知する魔道具ですが……テストも済んでいるのであとは扱い方を使用者に覚えてもらえば大丈夫です」

「はー、さっすがシクザール殿。昨日ぼうが……壊れたから納期伸ばしたっていうのに次の日届けてくるとはね」

 今妨害って言いかけなかったか。つまり知っていたなこいつ。

「……今回のご依頼の件、イジェスタ殿の仕業ですね」

「正解。あいつがやたら短期で依頼するようなことを言うからおかしいと思ってたんだ。まあ、グリーベルにあいつの同行探らせて正解だったね。嫌魔導師は結構だけど表立って迷惑なことされたらかなわないし」

 切り捨てる気満々だこの人。

「というか、押し倒せばー?ってアドバイスしたの僕だし」

 諸悪の根源じゃねぇか。

「――脱がせたら男色家のあいつのことだし正気に戻るかと思ったんだけどね」

「……おっしゃる意味がわかりませんが、以後、彼による脅迫行為、もしくは嫌がらせ行為が見られた場合殿下に進言させていただきますので」

 こいつのことが嫌いな理由はここだ。まるでこちらのことを見透かしているとでも言いたげにカマをかけてくる。

 好意的ではあっても、味方だとは限らない。

「それでは、イジェスタ殿の件はまた後日。次の遠征の際にはお気をつけて」

「ああ、そうだね。君も体に気をつけて」

 足早に執務室から出てふうっと息を吐く。

 これだから騎士団とは関わりたくないのだ。グリーベル殿やバッケスホーフ殿みたいな人ならいいんだけど……。

 そんなないものねだりをしても仕方ないのでとりあえず眠気もあるのでおとなしく自分の部屋に戻ることにした。



 ――それで終わってくれればよかったんだけどなぁ。



わぁい、モテモテだー(白目) なお、グリーベルの株はどんどんあがっていくけど恋愛対象ではないという現実。がんばれグリーベル。

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