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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
1章:王城狂想曲
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壊れて





 騎士団へと納品に魔導師3人が向かってから一時間後、研究所に騎士の一人がやってきた。

「シクザール殿はいらっしゃいますか?」

「シクザールなら今眠ってますが」

「では起こしてください。火急の要件です。白薔薇騎士団の修練場にくるようにとグリーベル殿からの言付けです」

 せっかく眠らせたエルを起こしたくないと、ダズは顔をしかめる。騎士はそれだけ伝えると帰っていった。このまま無視してもいいんじゃないかと考えたが、相手がグリーベルだし、と思ってエルを起こすために部屋へと向かう。

「エル、起こして悪いけどちょっといいか?」

 ノックするが返事はない。そりゃあれだけ徹夜したあとの睡眠だ。起きるわけ無いだろう。

「仕方ない。俺が代わりに……」

「……なに?」

 ぎぃ……とゆっくり扉が開く音と同時に、煩わしそうに目を細めるエルが顔をのぞかせる。

「寝ろ寝ろ言ってたのに起こすの早くない……?」

 目をこすりながら言うエルに罪悪感を抱きながらもダズは言う。

「悪い……なんかグリーベルさんが呼んでるらしくてさ。火急の要件だってよ」

「ん……わかった。支度する……」

 扉を閉めて着替えている音や仮面の準備などの音が聞こえる。それらが一通り終わると仮面をつけていながらもむすっとした様子のエルが出てくる。

「んで、どこ……」

「白薔薇の修練場だって」

「あっちね……なんだろ……」

 声も表向きの男声に変え、ややふらついた歩き方をしつつもしっかり目的地に向かおうとするエルを見て、ダズは少しばかり心配したが相手がグリーベルだということを考えて大丈夫だろうと判断し、背中を見送った。





 呼ばれたから来てみたけどこれはなんだろう。

 地面に正座させられた騎士四人と魔導師三人。

 騎士団の修練場は明らかに魔法攻撃による跡で抉れていたり焦げていたりとひどいことになっている。騎士たちに目立った外傷はない。同じく魔導師たちもだが修練場とそこに近い控えが座るであろう休憩席がめちゃくちゃになっていた。

「……グリーベル殿、これはいったい」

 退院したばかりでまだ胃が万全でもないのにも関わらず駆り出されたグリーベルを哀れに思いながらも事情の説明を求める。

「実は……」


 要約すると、私の部下(というか後輩なだけで同僚)が騎士団長に頼まれていた魔道具を届けに来たところ、修練場にいた騎士たちに難癖をつけられたらしく、魔導師の一人が火炎魔法で攻撃してしまい、彼らが取っ組み合いの喧嘩、魔法と剣の応酬になり、修練場はめちゃくちゃ。通行人が慌てて通報。騎士たちが白薔薇騎士団員だったため副団長のグリーベルが。そして魔導師たちにはなぜか私が呼ばれたということらしい。

 ちなみに、今回のことに関して私は非常に怒っている。

 なぜなら、届ける途中だった魔道具が修復不可能レベルに破損してしまったからだ。あってはならない。納期は一応明日ではあるが、一日やそこらでなんとかなるものではない。連日徹夜の作業を思い出すと頭痛がしてくる。

「……私の魂込めて作った魔道具が……」

 使ったわけでもないのに壊れるなんて無慈悲すぎる。

「ああ……中心部の魔力炉から術式まで全部ダメに……」

 意図的に壊したとしか思えないほど完璧に壊れた魔道具を拾い上げ、全身が震えるのがわかった。その原因は今ここにいる反省しているとは思えない魔導師たちと騎士ども。

「この魔道具の素材を売っただけで平民が何ヶ月食べていけると思っているんだ……」

 それだけの高価な素材を惜しみなく使ったというのに、全部ダメにされてしまっては倍の費用になる。もはや怒りを通り越して呆れてくる。


「……さて。ベンヤ、ヘルマン、カール。お前ら……覚悟はいいな?」

 仮面で騎士やグリーベルには全ては伝わらない。しかし、慣れている魔導師三人は名を改めて呼ばれて震え上がった。

「エルさん! 違うんですこれは!」

「黙れ言い訳するな、カール! 最初に手を出したのはお前だな!」

「エル様、その――」

「ベンヤ、お前はその後便乗したのだろう! 止めに入れ止めに!!」

「……」

「ヘルマン、黙っているのは結構だがお前もなぜ止めなかったと見た。お前も自重しろ!」

『でも』

 三人が口を揃えて言い訳をしようとするものだからついかっとなり怒鳴り声をあげてしまう。

「でも、じゃない!!」

「し、シクザール殿。その、一度落ち着きましょう」

 グリーベル殿に止められて一度、説教を中止する。しょぼくれてはいるが、魔導師三人に反省の様子は見られない。

 いい大人がなにしてんだ。

 そういえば、彼らがエル、と呼んでしまっているが、まあこれだと本名だと思うより愛称だと思うだろうし、何よりエルだけじゃ男ともとれなくもないので大丈夫だろう。というか私生活でもエル、としかあまり呼ばれないんだよなぁ……。エルナって最後に呼ばれたのいつだっけ。

「……そいつらがエルを馬鹿にした」

 ヘルマンがぼそりと言い訳を呟く。ああ、なるほど。だからといって許されると思うなよお前ら。そんなことより魔道具破損の方が重要事項だ。

 一方、騎士たちもあまり反省しているように見えない。それもそうだろう。だいたいこういったいざこざで騎士たちが反省している様子は見たことがなかった。もちろん、魔導師たちにも同じ事が言えるが、騎士たちは殊更そう見える。

「で、いいか、君たち」

「はーいはーい、わかりました~」

 絶対にわかっていないであろういい加減な返事でグリーベルの説教を受ける騎士たち。これじゃ近いうちにまた揉め事が起こりそうだ。グリーベル殿には胃薬を渡しておこう。

「じゃあ、お互いに謝罪でこの1件は終わりということで」

 そうグリーベルが諭すように言う。まるで幼い生徒を嗜める教師みたいだ。


『誰がこいつらに謝罪なんか!!』


 そしてこいつらは本当にガキそのものだ。

 騎士四人、そして魔導師三人が口を揃えて謝罪を拒絶する。やっぱり反省していない。

 頭を抱えるグリーベルだが、対照的に私の怒りは爆発寸前だった。

「……そうか……そんなに反省する気がないのなら」

 あくまで声は穏やか。異空間に閉まってある杖を取り出して私は微笑んだ。

「よーし、全員そこに並べ。反省しないなら体に教え込んでやる」

 何か言う前に七人全員の体を僅かに宙に浮かして地面に叩きつけた。重力系の魔法は滅多に使わないのだが、今回はさすがに笑って済ませられない。

「いいかお前ら。遊びにきて馴れ合っているのか知らないけど喧嘩ごときでどれだけこっちが迷惑被ると思っているんだ。納期に間に合わない、わざわざ仲裁のために呼び出される、挙句の果てに謝罪を拒否とかふざけてるのか? しばくぞ」

 男声ではあるのだが、比較的優しげに明るく話していたのにも関わらず、最後の一言は本気の低音である。彼ら叩きつけられた程度では怪我はしていないようで少し痛そうにしている程度である。

「今すぐお互いに謝罪しろ。そしたらすぐ終わらせてやる」

「誰が!」

 即答。しかも全員心変わりしていないらしい。

「じゃあ吹っ飛べ」

 七人の体に浮遊魔法をかける。彼らの体が不自然に浮き上がり、逆さ吊りになったり修練場内をぐるぐると浮いている。それぞれ悲鳴が聞こえてくるが自業自得だ。死にはしない程度だし。

「グリーベル殿、すいません。流石に私、我慢の限界です」

「ああ、いえ……正直私もそろそろきてたのですっきりしますね」

 グリーベルから了承を得たため、更に重力で押しつぶそうと杖を一際高く掲げた瞬間――


「なにしてやがる!」


 明確な殺気。掲げた杖を後方へと向けると投擲用のナイフが地面に音を立てて落ちた。集中を乱したからか、魔法は途切れてしまい、重力から解放された七人が地面に落ちて息を荒くしている。

「……またお前か」

 邪魔した奴はやはりというかここにいるはずのない白百合騎士団副団長ヴィンフリート。今にも剣を抜きそうに怒っている彼はまっすぐとこちらへ近づいてくる。

「魔導師……何をしていた」

「罰と説得です。双方謝罪をしようとしないので」

「こんな罰があるか! お前ら行け!」

 一応副団長であるヴィンフリートの声に反応して騎士たちが逃げていく。やや歩き方が不安定だが魔法で浮いていた弊害だろう。

「……で、ヴィンフリート殿が代わりに説教を受けて下さるのですか?」

「はぁ? 魔導師なんぞに説教されるか。早く騎士の領域から出て行け」

 仕事で来てんだよこっちは、とキレそうになるのをぐっと堪えて穏やかに取り繕う。

「そうですか。というかヴィンフリート殿は私に命令する権限なんてありませんよね? 貴方の副騎士団長としての権限は私には効力がありませんよ?」

「調子に乗るなよ化物」

 ぷちっ。

 はっきりと、何かが切れた音とともに、私は杖を振りかぶった。

 それと同時に、ヴィンフリートに風魔法による強風が直撃し、ヴィンフリートはよろめいた。

 攻撃が目的ではない。だからこそ害の少ない魔法を選んだのだが、ヴィンフリートはそれだけで顔をしかめて、魔物を睨むように視線を向けてくる。

「そちらこそ、調子に乗らないでいただきたい。分を弁えられないお子様と相手をしていると疲れる。グリーベル殿。団長殿に魔道具の納品について二日伸ばして欲しいと伝えてくれませんか?」

「二日、で大丈夫ですか? 団長にも掛け合って――」

「いいえ、二日で。二日以内に『私』が直接持っていきます」

 心配そうに尋ねるグリーベル殿にわずかに荒んだ心が癒される。いい人だなぁ、本当に。身分もあるのになんでいい相手がいないのか不思議なくらいだ。今度、令嬢でも紹介しようか。

 忌々しげに睨んでくるヴィンフリートに見向きもせず、伸びている魔導師三人を魔法で引きずりながら壊れた魔道具を抱えて研究所へ戻る道へついた。

「では、グリーベル殿。よろしくお願いします」


 離れたところでこちらを観察している一対の瞳に、気づかないふりをして。




ちょっと間空くかもしれません。それぞれの大魔導師たちの番外編書いてみたいなぁ。

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