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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
1章:王城狂想曲
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徹夜して



 とりあえず、急いで作業場に戻り、手の空いている魔導師を呼んでいる間に素材となるものをかき集める。

 素材の不足はなし。問題は魔力回路の設計と遠征に用いることから長期運用を考えた魔力消費をできるだけ少なくしたものが望ましい。そして、なにより小型。

「まず、魔力量の多い魔導師はこの媒介に魔力をありったけ注いで。その間に君たちは試用運転に使う型。できるだけ小さく、これくらいの大きさで作っておいて。あとそっちは今から術式組むからそれの手伝いして」

 大雑把にだが指示を飛ばすと各々役目を理解して持ち場につく。自分もしっかりやらなければと仮面を外して、結っている髪を上の方でくくりなおし、前髪をピンで留めて、作業モードに入った。

 まず、普通の紙におおまかな術式を書き、それを見直してから修復を重ね、最適化していく。小型で広範囲の魔物を索敵しなければならないため、術式は複雑かつ小さくまとめなければならない。数式と魔法文字による魔法陣と術式が複数候補に挙がるが、組み合わせもしっくりこない。

「パターン1のやつ、こことここを手直しして。パターン3と4はこの余計な部分削っておいて」

 少し厚めの魔力を通しやすい紙、魔力紙にパターン2の術式と魔法陣を書き込んでいく。特殊インクはゆっくりと染み込んでいき、僅かにだが魔力に反応して薄く光る。

(にしても、一週間って絶対嫌がらせだよね……)

 団長のメルサーニ殿は仮にも一応親魔導師派だ。とすれば間違いなく、彼が一枚噛んでいる。

(イジェスタめ……信用を落とすのが目的か……)

 副騎士団長のイジェスタはどこかの馬鹿副団長と違って表立って魔導師を攻撃しない。静かに裏から魔導師を貶めていく陰険なやつだ。

 どうせ団長をうまいこと言いくるめてこんな無茶な期限をつけたのだろう。しかし、あの団長も団長で何考えているかわからない人だからなぁ。

 とりあえず、できるだけ頑張ろう。一週間、七日後には納品だが、納期前日には納めておきたい。

「よし、制作一日目。期限まであと七日!」

 気合をいれて目の前の作業に取り掛かるエルはこの時はまだ、元気な姿だった。










 制作二日目。期限まであと六日。


「魔力の変換……術式が……そう、ミズリラ鉱石を……」

「おい……エル大丈夫か? 徹夜だろ?」

 血走った目で術式を書き込んでいるエルを研究室で見つけたダズは一瞬驚いて呆れたように目をつぶる。

 床には多くの術式候補や基盤が散らばっており、徹夜に付き合わされた魔導師が数人眠りに落ちている。

 机には筆とペンがごちゃごちゃ置いてあり、インクも数種類あるが、エルはそれら全てを的確に使いこなす。

「あー、うん、へーきへーき」

「一度寝ておけって……」

「間に合わないよ、そんなことしたら」

「お前負けず嫌いだなぁ……」

 騎士団、というよりイジェスタに負けまいと死力を尽くして魔道具を作ろうとしている。実際、魔導師団の中で魔道具作成が一番得意なのはエルだ。というか魔導師団で一番優秀なのは恐らくエルだろう。デーニッツ爺はもちろん凄腕だが、歳が歳なのでエルに最強の座を譲り渡すだろう。それでも彼は優秀ではある。

 そんなエルが徹夜して死ぬ気で作らないと期限に間に合わない魔道具作成だ。ほかの魔導師では役者不足だろう。

「カール、今メモに書いた素材全部揃えて持って来い。すぐにだ」

 足元で寝ていた魔導師をたたき起こしてメモを渡す。そのメモに書かれている内容を見て魔導師ことカールは青くなった。

「ちょ、これ全部超レア素材――」

「金なら無意味にあるからそれ使っていい。すぐに集めてこい。城下町の店になかったら殿下に私の名前で素材いただけるようにしろ」

 集中していると言葉遣いが粗雑になるエルを見てダズはため息をつく。

「お前の悪い癖だぞー……。もうちょっと丁寧な言葉遣いをだな」

「うるさいなぁ。口調にまで気を使ってられないよ。くっそ……イジェスタめぇ……」

 なにやらうまくいかない部分があるのか失敗した紙をぐしゃぐしゃにしてゴミ箱に投げ捨てる。しかし、既にいっぱいだったゴミ箱には入らず、すぐそばに小さな音を立てて落ちた。

「つーかさ、エルってあのイジェスタさんとなんかあったのか?」

 ぴたり、とエルの動きが止まる。先程まで恐ろしい程早く術式を書いていた手も完全停止し、ぎぎぎ、と擬音でも聞こえてきそうなほど緩慢な動きでダズのほうへと振り返った。

「な、にも……ないけ、ど」

「おい棒読みやばいぞ。まあ深く追求はしないけどさ……」

 あからさますぎる反応にダズは呆れる。

 というかイジェスタは元々嫌魔導師派ではなく、中立だった。しかし、いつからか露骨に魔導師を追い詰めるような言動が増え、嫌魔導師派と認識されている。

(まあ確かに色々あったよ……)

 だけどこの嫌がらせもどきはきっとそれは関係ないと信じたい。さすがにそこまで公私混同しないだろう、あいつは。




 制作三日目。期限まであと五日。


「安定しない安定しない安定しない安定しない安定しない安定しない」

「エル、寝ろ。おかしいテンションになってる」

 ブツブツと同じ言葉を繰り返しながら充血した目で基盤を睨むエル。

 術式候補は決まった。型に使う素材も準備した。しかし小型という縛りのせいでうまく動作せず、安定しない。

「そうだ……空き部分を詰めて……いや、それでも足りない……伝達部分を……」

「寝ろ!!」

 ダズの説教も左から右へ流れていくエルに、寝るという選択肢はなかった。




 制作四日目。期限まであと四日。


「っしゃああああああああああああ!! 魔力伝達確認完了!! あとは探知機能のチェック……これが最大の問題だ……」

「寝ろ」

 ダズは無駄とはわかっているが睡眠を促す。しかし、やはりエルは聞いていない。

「魔物に反応するように、ってなぁ……テストができないし、一度結界の外に出るか」

「三徹したやつが魔物のいる場所へ行こうとするな寝ろ」

「テストにいくから二人ほど魔導師借りるね」

「こら!! 寝ろって言ってるだろ!!」

 ダズの制止も聞かず、エルは転移魔法で部下二人とともに結界の外で魔物に対する効果確認に向かった。




 制作五日目。期限まであと三日。


「……人間に対する誤作動……魔物と人間の決定的な違い……」

「寝ろ。本当に寝ろエル」

「……逆に……そう、魔物の……」

「寝なさい!!」

 



 制作六日目。期限まであと二日。


「誤作動は……どうにか……あとは……魔力消費を抑えるためのこの媒介……あはっ、あははははははははははは」

「寝ろって言ってるだろ!! 殿下にチクるぞ!!」




 制作七日目。期限は明日。



「できたああああああああああああああああああああああああああ!!」


 そんな叫び声とともにエルはぱたりと倒れ、ダズに寝室へ連行された。魔道具はほかの魔導師たちが説明書とともに添えて今日中に届けに行くことになった。

 時刻は早朝。納期が明日の夜だということを考えると十分余裕ある完成だ。昼頃には魔導師たちが届けにってくれるからとダズに言われて睡眠をとることになる。

「ふふふ……これでイジェスタに勝ったな……」

「何勝ち負けを勝手に言ってるか知らないが無茶しすぎだ。お前の代わりはいないんだ。休めよ?」

 ベッドに寝かされて、寝入るまで見張るつもりなのかベッドの横から動いてくれない。

「……見られてると寝れない」

「そんなことはないだろ。何日寝てないと思ってんだお前」

 制作開始から完成まで寝てません。

「ほら、こうすれば寝れるだろ」

 ダズは子供をあやすように頭を撫でてくる。その瞬間、昔のやりとりを思い出す。




『ほら、エル。泣かないで。俺がそばにいてやるから』




 小さい頃、悪夢にうなされていた私を慰めようとずっと頭を撫でてくれたダズ。あの頃からちっとも変わってない。

「ダズにーさん……私ね、もう悪い夢見ないよ?」

「それはよかった」

「うん……だからね……もう子供扱いしなくていいよ……」

 とぎれとぎれになる言葉。眠気がずっしりと襲ってくる。

 瞼がゆっくりと落ちて、ダズの姿が見えなくなり、意識が夢へと移る間際、ダズの優しい声が聞こえた。


「おやすみ、エルナ」



連日の徹夜、ダメ絶対。良い子はマネしないでください。イジェスタとの確執はまた別の機会に。次回はダズ視点。

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