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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
1章:王城狂想曲
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話をされて




 帰りたい。



「シクザール様。こちらのお菓子はゲルブ国から取り寄せた――」

「シクザール様。よければ後日、ご相談を……」

「シクザール様。素敵ですわ……ご結婚のご予定は」


 両隣、正面を令嬢に囲まれて軽いハーレム状態。

 なんで仮面つけてるのにモテるんだよ、と何度も思ったが大半はパイプを繋いでおきたいと考えている父親からの命令での行動だろう。

 王城の一角にあるお茶会をする場所で、見事に捕まり、令嬢たちから質問攻め、褒めちぎりを繰り返されて胃が痛い。

(私一応女だから嬉しくはないんだよなぁ……)

 迫って来るのはどれも貴族令嬢ということもあって美しく着飾ってはいるが、だからといってときめいたりはしない。むしろ申し訳なくなってくる。

「シクザール殿ほど素敵な殿方はいませんわ」

(ごめんなさい女です)

 とは言えず、「ははは……」と乾いた笑い声しか出ない。最近は本当に親の命令で擦り寄ってくるのかと思うくらいに熱い視線を向けてくる。

 誰か助けてくれないかなぁ……。

「あの、申し訳ありませんが私はそろそろ――」

「つれないことを仰らないで。もう少しお話しましょう?」

 お願い、聞いて。

 そんな願いが通じたのか、お茶会の場にひとりの女性が現れた。

「こんなところにいらっしゃったのですか」

 凛とした声がお茶会を遮る。

 ルチアーナ・ボウォーデン。金髪は見とれるほどの美しさ。赤い瞳はルビーのように煌めいており、大半の人間が彼女を美しいと言うだろう。子爵令嬢で、ある意味有名人の彼女を見て令嬢たちはむっとしたような表情をほんの一瞬だけ浮かべる。

「シクザール様。件のお約束ですが」

「あ、ああ! 申し訳ありません。ただいま参ります」

 約束、と言われても心当たりはない。連れ出すための方便だろう。この状況から抜け出せるのならと即座に頷いた。

 令嬢たちにやんわりと先約があると断りと入れてルチアーナ嬢を連れて魔導師団の相談所へと足を向けた。

「ありがとうございました、ルチアーナ様」

「いいえ、お困りのようでしたし。相変わらず人気者ですね」

「私としては興味がないので控えていただきたいのですが……」

「あら、シクザール様ともあろうお方がご結婚されないと仰る?」

 クスクスと笑うルチアーナ嬢を相談室へと招き入れ、少し固めの椅子に座らせてお茶を出す。椅子もお茶も安物でとても申し訳ないのでやはり早いうちに相談室の備品を高級品に変えておこうと心の中で決心した。


 魔導師団の相談室は魔法による相談解決を目的とした、なんでも屋みたいなものだ。個人情報を漏らさないよう、最新の注意を払って相談しに来る貴族の大臣もおり、なかなかに忙しい。主な相談は体調不良や恋愛相談、生活のことに関する些細なことが多い。たまに、重い話を持ってこられるときはどうしようかと頭を抱えるがこれも仕事の一環である。ここ最近で一番困った相談は「白百合騎士団の友人が俺の彼女を寝取ったんだがどうしよう」と半泣きで迫ってきた白薔薇の騎士だろうか。いや、本当にこれはどうすればいいんだと。ちなみにその時は新しい出会いを勧めてやろうと、いい出会いが訪れるまじないをかけてやった。あまりまじないは使いたくないが、彼があまりにも哀れすぎたし、この類のまじないはいわゆる気休め程度だ。確実に出会いが訪れるわけでもない。しかし、その数日後に相談に来た騎士が笑顔で「元カノよりかわいい彼女ができました!」と報告しに来てお礼とばかりに実家から送られてきたという食材を大量に置いていった。相談所は無償で行っており、『基本的には』金銭のやりとりはしないことになっているので、個人的な謝礼をしたい人たちは現物で感謝を示してくれることもある。相談内容が魔道具の依頼だったりするとさすがにいくらか頂いてはいるが。

 まじないは魔法とはちょっと違うものではあるが、一般人や何も知らない者には魔法と同じように見えるという。呪いと紙一重、というかある意味同種のそれ。このまじないをかけてほしいというのも相談室に来る人間には多い。特に相手を惚れさせるまじないがいいとかいう無茶ぶり。……というかまじないの上位互換に相当する自分で作った魔法もいくつかあるのだが、これも使いたくないため滅多に出さない。少し前に、不妊で悩むとある貴族夫婦に懐妊のまじないをしても効果がなかったのでひっそり開発していた懐妊を促す魔法を、何が起こっても文句は言わないという約束でかけたことがある。ちなみにその後無事懐妊して、もうすぐ第一子が生まれるらしい。


 さてさて閑話休題。


 ルチアーナ嬢はここの常連だ。やれまじないをかけろだの、魔道具を作ってくれだの、そういったものではなく、本当に愚痴混じりの相談だ。

「またお父様が早くいい男を見つけて結婚しろと仰るんですの」

「お父様も早くルチアーナ様に幸せになって欲しいのですよ」

「私は結婚などしませんわ。好きな殿方は未だかつていらっしゃったことはありませんし、お見合い相手もつまらない方ばかりですもの」

 貴族令嬢にしては珍しい考えのルチアーナ嬢。実は先日彼女の父親から「娘が結婚しようとしなくて困っているのです」という相談を受けたばかりでたいへん気まずい。

 とりあえず、好きな相手でもできれば結婚する気になるだろうと、出会いのまじないと恋愛のまじないをかけてくれと父親から頼まれているので、本人にバレないようにこっそりとまじないをつけておく。本人も相手がいないからする気がないのだからいい相手が見つかれば少しは考えが変わるかもしれない。一番の問題は平民に惚れた場合だが、父親曰く「この際誰でもいいから結婚してくれないと後継が」と真剣に言っていたのでそのへんの責任は取らないとあらかじめ言ってある。

「シクザール様だってわかってくださるでしょう? 結婚の煩わしさ」

「いや、まあ……しかしルチアーナ嬢。貴女は一人娘ですし、後継は貴女しかいないのですよ?」

 ボウォーデン家は確か二人目が生れず、彼女しか子供がいない。生まれないのは仕方ないにしても、たった一人の後継者がこうだとどうしようもない。

「いざとなれば養子をとればいいのですわ。貴族なんて面倒です」

 気持ちはわかる。すごくわかるのだが、生まれてしまったのが貴族ならばその責務を果たすべきだろう。そんなことを言えば自分は王族なのだが……。

「……煩わしいですわ」

 ぽつりと呟くルチアーナ嬢。彼女は彼女なりに思う事があるのだろう。しかし、彼女ももうすぐ19歳。婚約くらいはしていないといきおくれてしまう。

「シクザール様は殿下にお仕えできればそれでいいのでしょう?」

「そうですね。殿下がいなければ、私なんて、意味のない存在ですから」

「あらあら、そんな風に卑下するようなものじゃないでしょう、あなたは」

 お茶のおかわりを注ぐが、やはり安物はよくないと再確認する。近いうちに保存のきく茶菓子と一緒に揃えておこう。どうせ自分の懐には意味不明なまでに大金がある。魔法の特許やその他の魔道具による儲けでそのへんの貴族より金持ちなのだが、いかんせん、育った環境のせいか、あまりそういったことに頓着しないため、ワンテンポ遅れて気づく。

 すると、相談室の裏口の方から魔導師が自分を呼ぶ声がして、ルチアーナ嬢に断りを入れて何事か確認しに行く。

「どうした?」

「すいません、ちょっとこちらを見てもらってもいいですか?」

 渡されたのは白薔薇騎士団の印がはいった封書。グリーベル殿かと思いきや意外なことに団長のメルサーニ殿からだった。

 内容は魔道具の開発依頼。納期は一週間後。内容は広範囲の敵探知機能を持つもので、事細かな注文が記載されている。

 というかこれ、拒否権がないらしい。

「一週間か……」

 さすがに一週間でこの内容のものは厳しいが、なんとかなるとは思う。とりあえず、今すぐに作業に取り掛からないと。

「すみません、ルチアーナ嬢。早急に手をつけなければならない依頼が入ったので申し訳ありませんが本日は……」

「あら、お仕事お疲れ様です。私はこれでおいとましますね」

 気を使ってくれるのか機敏な動きで席を立つ。本当は送っていきたいのだが……

「送ってくださらなくても結構ですわ。せっかくですし、こっそり着替えて城下町を探索でもします」

 それを堂々宣言されても困るというか、さすがに止めたい。が、自由気ままな彼女を止められるわけも無く、去っていく彼女を見送って、ため息をついた。

「ボウォーデン様の気持ちがわからなくもないな……」

 結婚もしない、相手もいない。そんな一人娘がこんなだから不安にもなるだろう。

 彼女にいい出会いがあることを願って、作業場へと向かった。



女性にやたらモテるエルことシクザール。城下町で素顔の想像図とかこっそり売られてたり。

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