表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
1章:王城狂想曲
15/48

恋に落ちて(ヴィンフリート視点)


 俺はヴィンフリート・クリューガー。白百合騎士団副団長を務めているが、特殊な事情が込み入っていて、正直副団長になるべきではなかったと思っている。

 団長――バッケスホーフさんの推薦があったからこそ、自分はその位置にいる。

 城下町の守衛騎士だった自分は白百合騎士団の遠征に参加することになったのがそもそもの始まり。遠征先でまだ誰も倒せるはずかないと言われていた魔物を倒したことが評価され、強さだけで昇格してしまった。元々空きのあった白百合騎士団の第二副団長。都合がいいとばかりにあてがわれ、あれよあれよという間に副団長になってしまった。

 元々王城勤めの騎士ではなかった自分が平民の男が憧れる仕事第一位の白騎士になれたことが奇跡に近いのに、副騎士団長なんて大役、あんなことがなければ一生関わることはなかっただろう。

 遠征先で副団長としての基礎を色々叩き込まれ、遠征中に就任なんて前代未聞だがなってしまったのなら全力でやりきろう。そう思っていた。



 あの魔導師を知るまではな!!



 シクザール。魔導師団でもかなりの有力者。仮面をつけて素顔を晒すことのない奴は不気味で近寄りがたい。

 奴を見るだけで吐き気がしそうになる。生理的嫌悪とやらだろうか。

 とにかく俺は魔導師が嫌いだ。悪魔のように魔法を使う人間を外れているとしか思えないあいつらをどうして重用するのか。理解に苦しむ。

 やつにワインをかけた祝賀会後、白百合だけでなく、白薔薇騎士団の団長と副団長全員で叱られた。

「ヴィンフリート! お前はなんてことをしてくれたんだ!」

「いやぁ、クリューガー君すごいねぇ。いっそ三周回って尊敬するよ」

 白薔薇騎士団の副団長、グリーベル殿と団長のメルサーニ殿。

 グリーベル殿は顔色が真っ青で今にも倒れかねないように見える。

「いいか、そもそも祝賀会であのような蛮行は――」

「グリーベルは話が無駄に長い」

 そう言ってグリーベル殿を遮るのは白薔薇騎士団の副団長イジェスタ殿。

 二人は仲があまりよくないらしく、同じ騎士団でも対立気味らしい。

 グリーベル殿は好意的な中立派。イジェスタ殿は口数の少ない嫌魔導師派。メルサーニ殿は本音が見えないが一応親魔導師派。そんな騎士団長たちとは対照的に、白薔薇騎士団に所属する騎士は嫌魔導師派が多く、グリーベル殿の胃痛の原因なのだ。噂ではイジェスタ殿が騎士たちを巧みに言いくるめて嫌魔導師派を増やしているとも言われている。

 一方、白百合騎士団は団長バッケスホーフさんが親魔導師派。副団長のコラロドフ殿が魔導師と関わりたがらない中立派。そして俺自身が魔導師嫌いなので嫌魔導師派ということだろう。

 見事なまでに割れている。

 呆れたようにため息をついたコラロドフ殿が俺を睨んだかと思うとバッケスホーフさんに言う。

「まあ、これでクリューガーの立場が危ういですね。ただでさえ平民がどうのとか言われているのにあんなことをしでかすなんて」

「それなんだよなぁ。ヴィン、反省しているか?」

「全く」

 はっきり言い切ったら軽く殴られた。グリーベル殿が視界の隅で胃を痛めているのが見える。

「よりにもよってシクザール殿に喧嘩を売るなんてクリューガー君は大物だよ。いやもう、勇者! 僕には真似できないね! すごいよ! なんで生きてるの?」

 爽やかにメルサーニ団長は貶してくる。この人性格悪いって聞いたな、そういえば。

「魔導師なんて全員ゴミですよ」

「いやはや、言い切るねぇ。ほかの魔導師に言うのはまだともかくあのシクザール殿すらゴミ扱いとはさすが期待のクリューガー君。他国の大魔導師とも並ぶあの彼が恐ろしくないの?」

「別に」

 魔導師は嫌いだが恐れているわけではない。生理的に受け付けないだけだ。

「とにかく、ヴィンの処遇を決めないとな」

「俺は悪いことしたと思っていません」

 バッケスホーフさんの声を遮って言うとグリーベル殿が軽蔑の眼差しで見てくる。

「ヴィンフリート……君はもう副団長なんだよ? 公の場で過ちを犯したんだ。君個人の感情論でどうにかなるようなことじゃない。けじめが必要になってくる。それでもわがままを言うようであれば私は君を副団長として認めるわけにはいかない。――斬るよ」

 グリーベル殿の声は真剣そのもので、迫力が今までのとは段違いだ。メルサーニ殿も笑顔でそれに相槌をうっており、イジェスタ殿も鼻で笑っている。

「まあ所詮クリューガーが処罰を受けたところで白百合の問題だ。白薔薇まで巻き込まないでいただきたいね。あの化物の怒りを買いたくないからな」

 嫌魔導師派ではあるがさすがに今回の件は騎士団が不利だと見ているらしい。白薔薇は関係ないとイジェスタ殿は言う。

「団長、魔導師シクザール殿がお話したいと」

 部屋の外から騎士の声が響く。ちょうど話し合いの中心人物からの手紙にバッケスホーフさんは緊張した面持ちだ。

「きたか……ヴィン。最悪死ぬ覚悟はしとけよ」

「団長。彼はそこまで過激ではないでしょうが」

 あくまで真面目に言うバッケスホーフさんにコラロドフ殿がツッコミを入れる。

「失礼します。突然訪問して申し訳ありません」

「いやいやこちらこそ。部下のせいで……ですがあまり重い罰は。せめて謹慎で」

「そこまでされなくても結構ですよ。対してこちらも困っていないので、謹慎で仕事が滞るよりもきちんと職務を全うして頂ければそれで」

 一瞬、イジェスタ殿とシクザールの目があったようだがイジェスタ殿が目をそらして何も言わないのでシクザールも何も言わなかった。

「申し訳ありませんシクザール殿。こちらが悪いというのに……」

「いえ、グリーベル殿が気に病む必要なんてございません。悪いのは公衆の面前で個人の感情そのままワインを人にかけるという暴挙に出た者が悪いのですから。まあもちろん貴族の方々はあまり快く思われないかもしれませんね! いえ、私には関係のないことでした、失礼」

 いちいち言い方が嫌味っぽくて癇に障る。気にしてんじゃねーかよこいつ。

 そんな感じで俺のお咎めは厳重注意で済んだのだが納得はいかない。




 魔導師の分際で偉そうにしているやつが気に食わない。城下町でも人気があるとは聞いているがあんなののどこがいいんだ。令嬢たちも仮面をしているというのに素敵などとか言ってるし理解に苦しむ。この前貴族の令嬢たちの会話を偶然聞いてしまったのだが……


「クリューガー副騎士団長って怖いお方ですね」

「先日の祝賀会、主役といえどシクザール様にワインをかけたとか。乱暴な方ですわ!」

「それなのにシクザール様は寛大な……。やはりお父様も仰ってた通り、時代は魔導師様ですわ」


 あの野郎が褒め讃えられて俺が陰口を叩かれるのは心の底から納得いかない。

 というかあいつなんでか城下町でも令嬢たちにも素敵な方扱いされてるんだ。あんな陰険っぽいのに。というか女々しい感じが癇に障る。

 脳裏に高笑いをしながら俺を見下すシクザールの姿が浮かぶ。きっとそうやって俺を嘲笑っているに違いない。

 イライラすると心が荒む。

 ふと、城で迷ったときに入り込んだ壁に囲まれた庭のような場所を思い出す。

 着地に失敗してしばらく気を失って目を覚ましたらまるで妖精のような可憐な美少女がいて心臓が止まるかと思った。

 誰にもここのことを言わないでと言われ、何か事情があるとは思ったが、結局祝賀会にもそれらしい令嬢はいなかったし、いまだ正体不明のままだ。

 エーリヒ殿下と同じ金髪。どことなく似ているように見えるがこの国ではよくある顔だったりするのだろうか。色々考えてもそれらしい答えは思いつかない。







 グリーベル殿の見舞いにいったらムカつく奴がいて更にイライラする。

 どうしてあいつは俺の前に出てくるのだろうか。また下手なことすると周りがうるさいし自重しているつもりだが内側に貯まるばかりで発散できない。

 城下町で酒でも飲もうかと考えるがあることを思い出した。

(そういえば、あの庭にあの子はいるだろうか)

 未だに忘れられないほど強く印象に残っている。もう一度、会いたいな。

 そう思ったら自分の足はあの庭の方角。

 それとなく騎士たちに庭のある場所には何があるのか聞いてみたが、そもそもそこには壁なんてないらしい。

 記憶を頼りにたどり着いた場所は間違いなく壁があるのだが……。

「幻覚だったわけでもなさそうなんだが……」

 庭のことは伏せながらこの場所を調べても庭どころか壁があるという情報はない。

「考えても仕方ないか」

 掴めそうなところがない真っ平らな壁なので助走をつけて『登って』みる。

 今度こそはと足元に気をつけて飛び降り、しっかりと踏みしめた。

「よ、っと……。着地成功」

 顔をあげると期待半分だった少女がそこにいた。

「……あ」

 思わず顔が赤くなるのがわかる。らしくもない。少女は特になにも言わない。警戒しているのだろうか?

「あ、あの……お前、なんでこんなところにいるんだ?」

 お前、なんて失礼なこと言ってしまった。もしかしたら高貴な令嬢かもしれないのに。

 しかし少女は気に留めず穏やかに言った。

「私はここに住んでいるのよ」

 そうは言うがここってつまり――

(城に住んでる、ってことか? 庭に住んでるとも思えないし……いや城に住むっておかしくないか?)

 広義の意味で捉えるならば城には騎士寮や医師の常時勤務用部屋がある。もしくは魔導師寮か。しかしこのどれにもこんな少女はいなかったはず。

(もしかして本当に妖精だったり……)

 なんてバカなことも考えるが妖精や精霊のたぐいなら自分に見えるはずもない。

「あなたはどうしてここに?」

 少女の質問になんて答えようか悩む。いや、会いたくなったとかそんなこと言ったら引かれないだろうか。女性とのやりとりは苦手だ。

「王城にまだ慣れなくて……この前は迷って、壁をよじ登ったらここに落ちてしまったんだ」

 改めて言うと間抜けだな、自分。

「そう。でも今日はどうして?」

「いや、その……」

 正直に答えていい、だろうか。嘘をつくのも彼女に申し訳ないし。

 すると上目遣いで少女は言った。

「ねえ、教えて。私騎士様のこともっと知りたいの」

 これで頷かない男なんているのだろうか。

 覚悟を決めて恥ずかしさをこらえながら彼女へ言葉を向ける。

「……おま……いや、君に会いたくて」

 言ってから自分が相当恥ずかしいやつだと思った。しかし本音だし嘘をつくよりはマシだ。

 しかし、少女からの答えは悲しいものだった。

「あら……それは困るわ」

 本気で困っているような表情に思わず絶望しかける。いや待て、冷静になれ自分。

 彼女がどうして困るのか考えてみろ。誰にも言って欲しくないということはきっと何か秘密があるんだ。つまり一緒にいるとなにか不都合なことがあるのだろう。

 しかしそれは彼女が心底嫌というわけではないはずだ。つまり誰にも言わないことを誓約すれば……本当に嫌われている場合は潔く諦めるしかないが。

「だ、誰にも言ったりしない! だから……」

「本当? よかったぁ。絶対に秘密よ?」

 嬉しそうに笑顔を浮かべる少女にドキドキする。愛らしいその様はずっと見ていても飽きる気がしない。これが恋というものか――!

「その……秘密にするから、また会いに来てもいいかな……」

 これくらいのわがままなら許してもらえないだろうか。

「ええ、もちろん。でも本当に内緒よ?」

 口に指を当てる仕草も、すべてが可愛い。というか何もかも可愛く見える。恋をすると人は病気になってしまうというがまさに自分は病気かも知れない。

「あ、ああ。約束する。騎士の誇りにかけて!」

 少女のことはまだ何もわからない。名前さえ知らない。少女のことをもっと知りたいと俺は思う。

 もしかしたらとんでもない秘密があるかもしれないけど、俺はきっと受け入れてみせよう!

「っと……忘れてた! 俺これから会議あるんだった。今日は帰るよ!」

「そうなの。お仕事ご苦労様。私、いつでもここにいるわけじゃないけど、また会えるといいわね」

 また会えるといいわね。そう言われて性懲りもなく心が浮き足立ったのがわかる。

「そうなのか。わかった。でも楽しみにしてる」

 冷静に言ったつもりだがドキドキしているのがバレているかもしれない。そんな照れ隠しも含めて俺は助走をつけ、壁を走りながら登った。入ってきた側に着地して、全速力で会議室へと向かう。

 会議室に向かう途中に部下である騎士たちと何度かすれ違ったがそれに声をかけられても聞こえないフリをして走り抜ける。

 勢いよく会議室の扉をあけ、中にいた副団長たちがわずかに驚く。

「遅いぞ、ヴィンフリート。……おや、なんだか嬉しそうだね?」

 グリーベル殿が俺の顔を見て不思議そうに言った。

「えっ、あ、あれ? そ、そんな風に見えますかね!?」

「落ち着け。全く……会議だっていうのに浮かれるなんて」

 小姑のようなことを言っているグリーベル殿だが、そんなの気にならないくらい、俺は喜びの中にいた。

 また、彼女に会いに行ける。

 疑問は尽きない彼女だが、こんなにも心躍ることはなかった自分にとって、幸せすぎるほどの初恋だった。


いつもより少し長め。いつもこれくらい書けよって思っているんですけどね……。ヴィンフリートの様子を見ていると無知は罪っていうのがしみじみ思いますね……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ