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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
1章:王城狂想曲
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侵入されて



 結局、ダズに料理まで作ってもらい、一緒に食事を摂った。

 その後、ダズは用事があると言ってすぐにどこかへと行ってしまったので部屋で一人残された私はしばらくぼんやりとしてみる。

 今できそうな実験も特にないし、本を読む気にもならない。さて、どうしようか。

「……みんなに会いにいくか」

 秘密の庭にいる精霊のところへと向かう。まだ完全に陽は落ちていないがそろそろ精霊たちも出てくるだろう。

 いつもどおり秘密の抜け穴を使うが、魔導師服ではなく、いわゆる寝巻きだ。理由としては、あのヴェンフリート・クリューガーがまたあの庭に現れ、魔導師服の状態で見つかったらまずいからだ。仮面をしていたとしてもしていなかったとしても、危険すぎる。

 なので開き直って寝巻きと素顔である。

 庭に入る際、少しだけ警戒しつつ様子を伺うが特に人影はなし。それを確認してから庭に立ち入ると、精霊たちがこちらに集まってきた。

『エル! いらっしゃい! こんな時間に珍しいね』

「ちょっと、ね」

『あら、エル怪我してる! 大丈夫?』

「……ああ、これ? いいのいいの」

 精霊たちの心配をかわしつつ設置されている椅子に座る。

 静かなもので、草花の香りが心地よい。一年中、精霊の加護か魔法の影響かで花が何かしら咲いているこの庭。意識してみるとこの庭を作った人物はやはり大物なんだろう。

「……ここの秘密も解明しなきゃね」

 構造もそうだが魔法式などわからないことがたくさんある壁をじっと見つめる。

 すると、なぜか壁のふちに蠢く影が見えた。

「……あれは」

 徐々にあがってくるその影は壁の内側に降りて音を立てて着地する。

「よ、っと……。着地成功」

 なぜ当然のようにここに入れているかはさておき、また侵入してきたそれは紛れもなくヴィンフリート・クリューガー。不機嫌を絵に描いたような顔ではなく、極めて楽しそうな笑顔だ。

「……あ」

 こちらの姿を見てなぜか顔を赤くしたヴィンフリートは伺うように声をかけてくる。

「あ、あの……お前、なんでこんなところにいるんだ?」

 それはこっちのセリフだよ。

 そう言いたいのを堪えつつ、あらかじめ考えていた言葉を告げる。

「私はここに住んでいるのよ」

 間違ったことは言っていない。しかし「ここ」という範囲がどこかを示していない。勝手に想像して勝手に勘違いされても困るが嘘をついてもボロが出るし喋ってしまうわけにもいかない。

「あなたはどうしてここに?」

 こちらかの質問には少し悩んだ素振りを見せながらヴィンフリートは答える。

「王城にまだ慣れなくて……この前は迷って、壁をよじ登ったらここに落ちてしまったんだ」

 馬鹿かこいつ。

「そう。でも今日はどうして?」

「いや、その……」

 ものすごーく嫌な予感がするがあえて追求する。

「ねえ、教えて。私騎士様のこともっと知りたいの」

 言っていて自分で吐きそうなセリフに頭が痛む。なにが騎士様だ、なにが。

「……おま……いや、君に会いたくて」


 ふーざーけーるーなーよー。


 全力で吐きそうなのを抑え、罵倒が出そうなのを飲み込みながら引きつった顔を見せないように取り繕う。

「あら……それは困るわ」

 本当に困る。というかこいつ今すぐ抹消してやりたい。が、それをするわけにもいかないので穏便にことを運ぶしかない。最悪記憶を消すという手段もあるがそれはリスクが大きすぎる魔法なので今するべきではない。

「だ、誰にも言ったりしない! だから……」

 そうか、誰にも言わないのか。なるほど、じゃあ利用してみようか。

「本当? よかったぁ。絶対に秘密よ?」

 自分の猫かぶりな演技に吐き気がしそうだがこういうところは兄妹だなんて考えてしまう。猫かぶりの仕方がそっくり。

「その……秘密にするから、また会いに来てもいいかな……」

 図々しいなこいつ。

「ええ、もちろん。でも本当に内緒よ?」

 バラしたら本当に始末してやる。

「あ、ああ。約束する。騎士の誇りにかけて!」

 嬉しそうなヴィンフリートはどこか子供のようだ。ヴィンフリートには私はどう映っているのか気になるところだ。というかエーリヒ殿下と顔が似ていることに何も触れてこないがまさか気づいていないとか……いやそんなはずないか。

「っと……忘れてた! 俺これから会議あるんだった。今日は帰るよ!」

「そうなの。お仕事ご苦労様。私、いつでもここにいるわけじゃないけど、また会えるといいわね」

 さりげなくここに来ても会えない可能性を示唆するがヴィンフリートは全く気にしていないように微笑んだ。

「そうなのか。わかった。でも楽しみにしてる」

 そう言って、なんと助走をつけ、壁を走りながら登ったヴィンフリートは一瞬で壁のふちまで到達し、飛び降りて姿を消した。


「……なんだあの身体能力」

 姿の消えたヴィンフリートを確認した途端、つい素で喋ってしまう。化物並みの身体能力にさすがにドン引きだ。

「さて、あいつの目的もはっきりはしないが……まあ危険な感じはしなかったし、あいつが侵入できる原因も探りつつ適当に相手するとしますか」

 ただ、これからシクザールとして相手するときに思い出してイラつきそうなのが気がかりだったが、なんとかなるだろう。



次はヴィンフリート視点です

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