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不憫な魔導師様は自由になりたい?  作者: 黄原凛斗
1章:王城狂想曲
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見舞われて(マルク視点)





 私の名前はマルク・グリーベル。先に言っておく。私は男色家ではない。

 白薔薇騎士団第一副団長として私は魔導師のシクザール殿と交流があった。といっても、部下たちの揉め事の仲裁に、お互いが顔を合わせるといったようなものだが。

『グリーベル殿も大変ですね』

 そう言って苦笑するシクザール殿。仮面のせいで完全に表情は読めないがなぜかとても魅力的に見えた。


 もう一度言う。私は男色家ではない。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 シクザール殿のことを思い出してつい、顔が赤くなった自分が恥ずかしくなり、机の上でもんどり打つ。騎士団の事務処理真っ最中に叫びだしたものだから部下もぎょっとしている。

「私は正常、私は女性が好き、私は男色家じゃない……」

「あのー……グリーベル副団長、大丈夫ですか?」

 小隊長格の部下が声をかけてくる。心配そうにするこの男は騎士団でもいわゆる可愛らしい顔立ちの男だ。

「……よし、君には何も思わない」

「は、はあ……?」

 自分の正常さを再確認。私は男が好きなわけではない。

 騎士団は現在、騎士団の長、団長。その補佐、副団長。中隊の指揮をする中隊長。そして小隊長とだいたいこのような階級が存在する。他国ではまた違うらしいがこの国では一人一人の騎士を尊重するため、細かい位はあまり重要視されていない。

 それでも、副団長という立場はそれなりに武器になる。

 そして、私にとっては自分を苦しめる足枷にもなる。

「ヴィンフリートがなぁ……」

 最近白百合騎士団の第二副団長になった後輩はとにもかくにも魔導師を敵視している。

 先日は祝賀会でやらかして以来、かなりきつくお叱りを受けたが、反省しているように見えない。謹慎処分も視野に入れたが当のシクザール殿が「そこまでしなくても」と言ったので、今回はこれ以上のことはしないということになった。

 だがしかし、私個人としては厳罰に処したほうがよかったのではないかと思っている。

(ただでさえ険悪な魔導師団の重鎮に喧嘩をふっかけ、対立を浮き彫りにさせるなんて……。というかそれ以上にシクザール殿に申し訳ない)

 どうしてもこういった考え事をするとシクザール殿が浮かんでしまう。

『グリーベル殿』

 紛れもなく男性の声。身長が低いからまだ女性の可能性が……とか思っていた自分がいた時もあった。あれだけ間違いなく男声を出されては男だと認めざるを得ない。

 でもいちいち仕草に目がいってしまう。女性的というわけではないが……なぜだろう。

「はぁ……うっ、ゲホッゲホッ!」

「大丈夫ですか、副団ちょ――」

 部下が私の状態を見て絶句する。

 咳き込んだ際、口元を抑えた手が血でべったりと汚れていた。

 思わずまじまじと手のひらを見つめて、なんだか自虐的に笑ってしまった。

「……ふっ」


 とうとう胃に穴があいたか……。


「副団長!? おい誰かタンカもってこい!! グリーベル副団長が倒れた!! 吐血した!!」

 人を呼ぶ部下の声を聞きながら、私の意識は一度途絶えました。








 ええ、見事に病院ではないですが入院です。医師団のいる医務室でしばらく療養することになりました。

「……はははは……ふははっ、はははは」

 騎士団副団長が心労で胃を壊して入院。

 なんだかもう笑えて仕方がない。

 団長や部下たちが見舞いにきたのはいいが、だいたいの原因は彼らであるため、なんだか素直に喜べない。

 食事制限もされているので、本を読むか、寝ているかの二択。体が本格的に鈍りそうだ。

 そんな中、意外な来客があった。

「グリーベル殿、お久しぶりです。お加減はいかがでしょうか」

「……シクザール殿?」

「ええと……医師団の仕事を奪うのもアレなので、魔導師団は特に派遣する予定はありませんが、必要とあればいつでもお呼び下さい。あと、こちらは個人的な見舞いの品です」

 意外すぎる。彼は果物の入った籠と何やら他にも見舞いの品を持ってきてくれているようだ。

 起き上がろうとしたがやんわりと寝ていろと制され、大人しく寝たままで彼と言葉を交わす。

「すみません……わざわざ見舞いに……」

「いえ、お気になさらず。いつもご迷惑をおかけしてますから」

 申し訳なさそうに言うシクザール殿は気遣ってくれているのか、いつもよりも声音が優しく感じられる。本当に、彼が女性だったらなぁ……。

 って何を考えているんだ私は!

「健康祈願・病気平癒のお守りです。私のお手製ですから効果は保証しますよ」

 そう微笑んだシクザール殿。彼のお守りは貴族の間でも話題になり、かなりの価値がある代物だ。それを、わざわざ私のために作ってくれたのかと思うと顔が赤くなるのを隠しきれない。

「ありがとうございます。大切にしますね」

 どうにか言葉を搾り出すが、動揺しているのがバレていないだろうか。

 彼は仮面の下で微笑んでいるようで、つい顔を逸らしてしまう。

 ――私は男色家じゃない男色家じゃない私は男色家じゃない。

「あまりいてもお邪魔でしょうし私はこの辺で……」

 私が顔を背けたからだろうか。遠慮して退室しようと立ち上がるシクザール殿を思わず引き止めてしまった。

「えっ、あ、その……もう少しお話しませんか?」

 乙女か私は。

「私は特に用事もないので構いませんが……お体に障りませんか?」

「ええ、食事は制限されてますけど、会話は特に問題ありませんから」

 断られる覚悟だったが、彼はあっさりと承諾してくれた。

「そうですか。それではどんなお話を――」

 彼の言葉を遮るように、何かが彼めがけて飛んできた。もちろん、彼は咄嗟に結界を張ったのかぶつかるようなことはない。投げられた花束は床に落ちてくしゃりと歪んでしまった。

「なんでお前がここにいる……!」

 憎々しげな声と鋭い眼光。なぜ、このタイミングで彼が来てしまうんでしょうか。

(あぁ……タイミング悪いなぁ)

 ずかずかとベッドに近づいてきたヴィンフリートはシクザール殿を一瞥するなり不快感を顕にした顔で言う。

「出て行け魔導師。グリーベルさんの気分を害する」

 いえ、君のほうが正直私の病状が悪化します。

「あの、ヴィンフリート……彼は僕の見舞いに来てくれたお客様だよ? そういうことを――」

「グリーベルさんは黙っててください」

 私の意見は無視かこいつめ。

「ああ……胃が……胃がぁ……」

 胃も悪化するが、何よりシクザール殿に申し訳ない。

「相変わらず弁えない小僧ですね。まあ、グリーベル殿の体調に免じて、私は帰ります。グリーベル殿、失礼します」

「二度と顔を見せるな!!」

 シクザール殿が去る直前に、枕元にあった果物をヴィンフリートが全力で投げつけたが、結界によって遮られ、音を立てて床に落ち転がった。

「ヴィンフリート……君はいい加減にしたらどうかな……」

「何がですか。グリーベル殿の寝込みを襲いに来た不届きな魔導師を追い払ったまでです」

 真顔で言い切ったヴィンフリートのまた胃がキリキリとしてくる。どうしたらこいつは……。

 枕元にあったシクザール殿のお守りを見て、ヴィンフリートは不快そうに顔を顰めたが、さすがにそれには手を出さなかった。もし手を出したら叩き斬ってやる。

「……噂は本当なんですか?」

「噂?」

 自分に関する噂って何かあっただろうか。医師の許可を得て飲み物を口に含む。変な汗をかいたせいで水分が足りない。

「グルーベル殿があの魔導師のことが好きだという……」

「ぶふっーーーーーーーー!?」

 思わず飲み物を吹き出してしまった。私はどこの芸人だ。

 驚いたヴィンフリートがそばにあった手ぬぐいで拭いてくれるが、それどころじゃない。

「な、ななん、なんですかその噂は!!」

「騎士団の一部と城下町で噂になっているらしいです。なんでも、グリーベル殿があの魔導師を見る視線が熱を帯びているとかなんとか……」

「ないないない!! 断じてないっ!!」

 なんということだ。そういえば最近部下たちから「俺は、応援……し、しますよ……!」とか意味不明な励ましを受けた気がするがこれか。

 はっ! これをシクザール殿が聞いたら……?


『気色悪い。まさかグリーベル殿が男色家だったなんて……失望しました。金輪際私に関わらないでください』


 そ、それだけは嫌だ! そうだ、いい友人でいるのに、噂で気分を害してしまったらシクザール殿の立場も危うい。早めに揉み消さないと……。

 最悪な脳内劇場が繰り広げられている中、ヴィンフリートは頭を掻きながら遠慮がちに呟いた。

「……相手が魔導師でなければ、男でも応援はしますけどね」

「止めろ!! 男なら止めろ!! そもそも私は男色家じゃない!! ちゃんと女性が好きだ!!」

 ああ、なんて説得力がないんだ自分。

「というか、グリーベル殿が仮にももし、あれを好いていたとしても無理でしょう」

「は?」

「だって、あの魔導師、殿下とデキてるんでしょう?」

「……………………えっ」

 衝撃的すぎて頭が追いつかない。誰と誰が、なんだって?

「殿下はやたらあいつを気に入っているらしいですし、二人でいると距離が近いだの、殿下がやつを寵愛してるだの……グリーベル殿より噂の数が圧倒的に多いですね。特に一部のご婦人と、城下町の人間の間で。」

 まあ、確かにあの二人にはそれっぽい空気はあるが、シクザール殿の性格からしてそれはないはずだ。……ないよな?

 しかし、もしかして自分は男色家だと思われてる上に、殿下とシクザール殿に横恋慕する哀れな男扱いされていたのか……。

 その事実を認識したとたん、色々なものが違って見えるようになる。というか視界が回っている。

「グリーベル殿? グリーベル殿!! 誰か! グリーベル殿の容態が!」


 その後、若干悪化した胃のせいで、入院が延びてしまい、噂に更に尾ひれがついてしまうのはまた別の話。





絶対バレるだろって変装だけどバレないお約束に則り、エルも全然バレていない不思議。マルクことグリーベルは男色家じゃなくて無意識にエルのことを女だと気づいて好きなのですが声が男なため男だと思い込んで色々悩んでます。こんな彼ですが戦闘狂という意外な一面が。

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