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魔導師様はため息をつく

 ファルベ大陸にはかつて、魔王の侵略により魔族が蔓延っていた。人間たちは死力を振り絞り、魔王を倒すことに成功したが、残った魔族を完全に殲滅することは叶わなかった。

 現在、いくつかの国が存在するこの大陸は結界によって守られ、魔族の攻撃を防いでいる。

 その魔法による結界を重要視されるようになった昨今、魔導師の立場がかつての使い潰しではなく、兵力の誇示としても扱われるようになり、世界はゆるやかに変化していた。

 魔力や魔法の才能は遺伝しない。生まれた時から備わっている力でかつては悪魔の落し子とまで罵られていた。

 そのため、現在でも魔導師を差別する人間は後を絶たない。


 そんな大陸のある国、中立国家ウェイスにはある魔導師がいた。


 仮面の魔導師、シクザール。


 歴史にも名を刻んだ大魔導師。


 そして、その時代に最も振り回された不憫な人間だ。







 今日も王宮魔導師シクザールは白塗りの仮面をつけている。


 この貴族や大臣、有力な魔導師や騎士たちの集まる舞踏会に仮面をつけることを許されるのは『彼』だけだった。

 つまらなそうに窓の外を眺め、『彼』は心の中でため息をつく。窓に映る礼装は魔導師の礼装のため、ローブと大仰な魔導衣。決して踊るわけではないので動きづらいそんな華やかな舞踏会でローブのフードを被り、仮面をつける人物……。怪しすぎて彼にしか許されないだろう。

 そんな『彼』の様子を見て、貴族たちは囁き合う。『彼』が仮面を許される理由についてだ。


 ――曰く、あまりにも醜悪な顔で見るに堪えないからとか。

 ――曰く、過去に大火傷を負ってしまい、人に見せられない肌だとか。

 ――曰く、素顔がバレると各国に影響を与えてしまうほどの人物かも知れないとか。

 ――曰く、仮面収集癖があるとか。


 よくもまあ、そんな風に噂が尽きないものだとシクザールは思う。仮面をつける理由は『王家からの勅命』だからだ。確かに、顔がバレると多少面倒なことになるのは間違いない。

 だが、好き好んでこんな仮面をつけているわけではないことをいい加減理解して欲しいが説明するわけにもいかず、噂の一人歩きを黙認していた。

 すると、このウェイス国の第一王子が令嬢たちに囲まれているのがシクザールの視界に映った。


 エーリヒ・トロイメライ・アイゼンシュタット。


 この国の『たった一人の王位継承者』のエーリヒ。淡い金髪に、サファイアのようなきらめく瞳。妖しい魅力たっぷりの甘いマスクは女性たちの視線を釘付けにするだろう。華やかな雰囲気を纏うエーリヒは女好きとの噂が絶えない。しかし馬鹿なことをやらかすほど頭は弱くないので最低限のそういった教育のみしか彼には経験がないはずだ。

 なぜ王子のことに詳しいかというと、シクザールはエーリヒから直々に指名された専属魔導師だからである。


(わざわざ人前で指名するなんて……相変わらず何考えているんだか)


 王宮魔導師として城に勤めるシクザールは、この国で最強の魔導師と認識されている。他国にもその名は響いており、影響力は強い。強い魔導師を抱えることで国の力を示しているのだ。

 しかし、シクザールは王宮魔導師としては階級を持っていない。あくまで通常の魔導師ということになっている。理由は色々あるが、『階級をつけるとめんどうなことになる』と国王は言っていた。

 現魔導師長デーニッツ爺は今すぐにでもシクザールに魔導師長を継いで欲しいとほぼ毎日のたまっているが、王が認めない限りそれは許されない。

 そんな階級がないことを逆手に取り、エーリヒは自分専用の魔導師として指名したのだ。王も難色を示したが表に極力でないことで許しを得た。

 専属といっても特別なことはない。傍付きの騎士のように従者として必要があれば付き従うだけだ。最も、シクザールは別件でしょっちゅう呼び出されるのだが。


 まったく……非常に迷惑な話だ。


 舞踏会はこれから盛り上がるであろう。しかし、シクザールはあまり騒がしいところが好きではなかった。

 ひっそりと、気配を消しながら舞踏会から抜け出し、中庭から秘密の通路を通って自分だけの秘密の庭に出る。

 かつて、国王に教えてもらった、エーリヒと自分しか知らない秘密の庭。

 夜だからか、精霊たちが輝いて幻想的な景色を作り出す。本当に小さな、この庭で、シクザールのために。


 シクザールは仮面を外し、フードを取り払う。


 宵闇に舞うのは淡い金髪。仮面の下の隠された瞳は宝石のような蒼。その顔は憂いに満ちてはいるものの、それすら『彼女』を美しく見せる要因にしかならない。


「第一王位継承者、か……」


 精霊に囲まれながら彼女、『エルナ・シクザール』は嘆息した。


 この国最強の魔導師。


 彼女のかつての名は『エーリカ・フェアベルゲン・アイゼンシュタット』。


 存在しない、この国の第一王女。


 大人たちによって抹消された、エーリヒの、双子の妹だった。



ジャンルを恋愛かファンタジーかで真剣に悩みましたがとりあえずファンタジーにしました。こちらの更新はまったりなのでそれでもよければお付き合いください。

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