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ロストマーブルズ  作者: CoconaKid
第十一章 危険な真実
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 キノと会えなくなった突然の状況に、ジョーイは絶望していた。

 嘘だと思いたいが、ノアならアメリカへ連れて帰る事も容易いことだろう。

 自分の力ではどうする事もできない無力さに、ジョーイは打ちひしがれた。

「桐生ジョーイ、たるんでるぞ。前に出てこの問題を解いてみろ」

 突然当てられ、ジョーイは我に返り、思いつめたまま立ち上がった。

 数学の授業は退屈で、この先生とも相性が悪く、いつも目の敵にされる。

 黒板の問題を見つめ、暫し無言になっていた。

「さすがのお前でも、この問題は難しかったか」

 授業態度の悪い自分のためだけに、わざと難しい問題を選んで黒板に書いたのだろう。

「答えられないのなら、そのまま立っておけ」

 先生は、嘲笑いながら得意になっていた。

 ジョーイは黒板に向かい、チョークを手にすると、すぐさまその問題を解きだした。

 黒板に殴り書きをする音が、静かな教室一杯に広がった。

 ことりとチョークを置いて、手を叩きながら自分の席に戻りドサッと座り込んだ。

 先生は持っていた本と何度も見比べ、声を詰まらせていた。

「よし、今日のところは良くできたみたいだな…… そしたら次、行くぞ」

 バツが悪いように、荒々しく黒板けしを振り上げ消していく。

 ジョーイは正解しても嬉しくともなんともなかった。

 数字や計算は見れば、すぐに答えが導き出される。

 今まで、得意なことくらいにしか思わなかったが、この時、重く圧し掛かっていた。

 遺伝子操作──。

 ジョーイは自分の手のひらを見つめ、何度も握ったり開いたりしていた。 

 放課後になると、シアーズの方から姿を現し、顎を一振りして『ついてこい』と指図された。


 心配するトニーに見守られ、ジョーイは後をついて行く。

 シアーズは背が高く、がっしりとした体躯の持ち主だった。

 威厳に溢れ、誰も刃向かえない雰囲気がある。

 自分の父親も堅物と聞いていたが、こんな風に歩くのではないだろうかとシアーズの背中を見て、想像していた。

 何も知らなかった無邪気な子供の頃は、父親を尊敬していたはずだった。

 その陰で、倫理から外れたことを平気でしていたと思うと、鉛を飲まされたように心が重くなっていた。

 シアーズは父親の事について、何を話すというのだろう。

 ジョーイはそのときを静かに待っていた。


 シアーズが立ち止まった先には、生徒指導室と記されたドアがあった。

 先にシアーズが入り、ジョーイは静かに後をついて行く。

 部屋は、空気の流れがなく、圧縮された重みがあった。

 どこか息苦しい。

 シアーズは窓際の教師用に用意されたデスクの上に、軽く尻を当てるように腰を落ち着けた。

 ドアを閉めた後、ジョーイはシアーズに近づくが、少し距離を空けて突っ立った。

 窓から差しこんだ明るい光のせいで、逆光し、シアーズは黒い影のようになっていた。


「(さて、何から話していいものやら)」

 シアーズはもったいぶる様で、またじらしているようにも思えた。

 だが、こんな日が来るとは思わなかったのだろう。

 それは観念したように、諦めの吐息を吐いていた。

「(俺も何から聞いていいのか分からない。俺は何をまず知るべきなんだ? そして先生は一体何を知っているというんだ?)」

「(そうだな。まずは君の父親の事だな)」

 やはり、全ての元凶がそこにあるというべき、ジョーイの父親の事ははずすことができないようだった。

「(お前の父、ロバートは、立派な科学者だとまず言っておこう。そして研究熱心であり、努力家でもあった。そのお陰で遺伝学では誰もが成し遂げられなかったことをやり通した)」

「(それが遺伝子操作ということなのか)」

「(さあ、私は詳しいことまでは知らない。だが、この世の中、皆が知らない研究がされて、そしてそれがとてつもない大きなプロジェクトとなることがある。例えばだ、超能力を研究していたとして、それが使えるようになったとしたらどうなると思う?)」

「(スーパーヒーローになるか悪人になるかのどっちかだろう)」

「(ジョーイらしい面白い答えだ。そうだ、誰よりも優れた才能を発揮して力を持つことで最強となることだろう。ロバートはそういう人間を生み出すように命じられたんだ)」

「(一体誰に?)」

「(国家だ)」

「(それって、国を挙げてそういう人間を作ろうとしていたってことなのか)」

「(国家機密でそういう人間を生み出し、更に英才教育をさせ、超天才エリート集団を作りあげる。そして国のためにいろんな方面で活躍してもらうんだ。小説の世界の話だけじゃない。技術はどんどん進んでいる。倫理に反してクローン人間もそうやって知らずとすでに作られているのかもしれない)」

「(そんな、それじゃ人間を材料として実験してるだけじゃないか。失敗することだってあるだろう)」

「(そうだ、失敗だってもちろんあるだろう。人間として機能してない場合とかな)」

「(その時はどうするんだよ。失敗したからといって殺して捨てるのか。人間だぜ)」

「(そこが、FBIが関与してくるところなんだ)」

「(どういうことだ?)」

「(その処理の方法……)」

「(どういう風に?)」

「(そうだな、一つの例として言うなら臓器提供だ。しかしこれはあくまでも噂として聞いて欲しい。極端な例としてだ。私も真相を知っている立場ではない)」

 ジョーイは言葉を失った。

 あまりにも恐ろしい話に耳を塞ぎたくなる。

「(分かっている、それが人間として許されない行為という事を。だが、そのお陰で他の人間が救われる。そうなると目を瞑る輩が出てきてもおかしくない。そしてその部分は国を挙げて隠し通されているとしたら、国全体が目を瞑ったこととなってしまう。だが国がどこまで関与してるかは私も実際は知らない。もしかしたら国は知らないかもしれない。その部分は常に闇に葬られる。そしてそれが実際に行われていることなのか私も分からない。そういう話は信憑性に関係なく 噂になりやすい)」

「(そんな、なんてこった。それじゃFBIのギーはその真実を暴こうとしているのか)」

「(彼はそんな負の部分の噂を聞いて一人で捜査している。上の者はそれを知っていて好きにさせているんだ。本気に捉えずにただの都市伝説と思う者もいるし、真実を知っているものは絶対に表ざたにならないと分かっているからな。だが、遺伝子操作の件についてはもしもという事がある。その時のためにと、ロバートは研究のためとは言え、人道に外れる行為を悔やみ、良心の呵責から国家と特別な取引をした。真実が漏れたとき、自分が一人で罪を被ると言った。そのためには姿を消し行方不明と世間に知らしめ、できるだけ真実が闇に葬られる形をとったという訳だ。そうすることで、ギーのように疑いを持った人間は、ロバートが主犯者だと思い込むように仕向けたんだ)」

「(国家と取引をしたと言ったが、一体なんのメリットがあるんだ)」

「(それはジョーイとお前の母親を守ることだ)」

「(俺と母さんを守るために。それで離婚して行方不明になっただと)」

「(そうだ。お前をこのことに一切関与させないことにするために、そして、父親が何をしていたか、ジョーイの記憶から消すためにもアスカも一緒に姿を消さなくてはならなかった)」

「アスカ!」

 知りたかった情報が飛び出し、ジョーイは叫んでしまう。 ジョーイの鼓動が早くなり、目を見開いて驚いていた。

「(当時、ジョーイはアスカと英才教育を受けていた。ジョーイの能力も目を見張るものだった。だが、ロバートは自分の息子をこの件から切り離したかったんだ。ジョーイには普通の子供として過ごして欲しかった)」

「(そんな、俺だけが特別扱いだったってことじゃないか)」

 ギーが言っていた事がここでようやく意味を成した。

「(あの時、故意に家を爆発させて全てをリセットさせた。何もかも吹き飛ばすことで、ジョーイの記憶も一緒に吹き飛んだということだ。私も側に居たからあの時のことは良く覚えている。ぬいぐるみを渡したのはこの私だからな)」

 ジョーイはよろよろとよろめき、側にあった椅子に腰を掛けた。

「(それじゃアスカはどこにいるんだよ。ちゃんと生きてるのかよ)」

「(残念ながらアスカは死んだよ。殺されたんだ)」

 シアーズは目を伏せた。

「(どういうことだよ、殺されたって。あの爆発で犠牲になったってことなのか)」

「(そういうことになる)」

「(なぜそこまでしなきゃならなかったんだ)」

 シアーズは急に黙り込んだ。

 まだ何か言えない秘密があるのか、それとも辛くてそれ以上話せないのか、シアーズはアスカについてはそれまでだと示唆していた。

 ここで黙られては先に進めない。

 ジョーイは質問の内容を変えた。

「(まだ知りたい事がある。FBIのギーがモルモットと呼んだキノや彼女の兄と名乗るノアは、遺伝子操作された人間なのか)」

「(さあ、それは私にはなんとも言えない)」

「(ここまで俺の父親がやっていることを喋っておいて、なぜそれは答えられないんだ)」

「(なぜなら、遺伝子操作されなくてもすでに天才と呼ばれる人間が自然に生まれることがあるからだ。そういう人間も選ばれて一緒にこのプロジェクトの英才教育を受けさせられる。その施設に入れば、誰が遺伝子操作されたかそうでないか、ごく一部の関係者以外わからなくなるんだ。そして私はこれに関与していても詳しいことは知らない人間であることもわかって欲しい。だが一つだけはっきり言えるのは、ジョーイ、お前は歴としたロバートとサクラの遺伝子だけを受け継ぐ子供だ)」

「(俺は遺伝子操作されてないと?)」

「(そうだ。お前は本当に天才と呼ばれる人間なんだ。それもそのはず、ロバートとサクラも優秀だからな。そんな子供が生まれてもおかしくない)」

 ジョーイはもう何も言えず首をうな垂れた。

 その時、ドアをノックする音が響いた。

 シアーズが許可をして、ドアが開くと、そこには白鷺眞子が立っていた。

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