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ロストマーブルズ  作者: CoconaKid
第十章 告白と悲しみ
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「どうしたんだ、キノ? あれ、あの犬、ツクモじゃないのか。隣に居る奴は誰だ?」

 キノが見ている方向をジョーイも見れば、訓練中と書かれた布をまとったラブラドールの犬と男が前から近づいてくる。

 そしてキノの前であざとく立ち止まった。

 ツクモもかしこまってその男の隣に座った。

 薄暗い電灯に照らされた男の顔は、初めて会った気がしない。

 見覚えがあるその男の顔は、ジョーイを厳しい目つきで睨んでいた。

「キノ、遅いじゃないか。こんな時間まで何をしていたんだ。心配するだろう」

「ごめんなさい」

「ところでその隣に居る奴は誰なんだ?」

 知っているくせにわざとらしく訊かれると、キノは目の前の男が憎らしくなった。

「こ、この人は……」

 キノが言う前にジョーイが背筋を伸ばし、礼儀正しく自己紹介する。

「俺は、ジョーイといいます」

「キノの友達かね。すまないがキノには近づかないでくれるか。悪い虫がついては困るのでね」

「ノア!」

 そんな言い方はやめてと怒りをぶつけたいのに、名前を呼ぶだけしかキノにはできなかった。

「さあキノ、帰ろう」

 二人を引き裂こうとする冷たい声だった。

 キノは困惑し、どうすることもできないもどかしさで、泣きそうな目をジョーイに向けた。

 おそらくこれが最後かもしれない。

「ジョーイ……」

 ありったけの気持ちを込めて名前を呼んだ。

「キノ、ツクモを連れて先に帰ってなさい」

「でも」

「いいから帰りなさい」

 キノは言われるままに、ツクモを連れて歩きだす。

 そして振り返ってジョーイを悲しげに見つめた。

 暗くてジョーイからは見えなかったが、キノの瞳は涙で溢れていた。

「さて、ジョーイだったね。私はノア。キノの兄だ」

「お兄さん?」

 ノアは全くハーフの風貌がない。

 だが日本人というよりも、アメリカに住んでいるアジア人という雰囲気があった。

 そして以前にも見たことがある。

 威厳に溢れ、背筋を伸ばし、きびきびとしている。

 背がすらりと高いだけに、目の前に立たれると圧迫された。

 そのとき、ジョーイははっとした。

 初めてキノと会ったときに、電車で見かけた人物だと思い出した。

 あの時は眼鏡を掛けていたが、確かにこの男だったとはっきりと思い出した。

 ノアは嫌味な笑みを浮かべ、ジョーイに冷たく当たる。

「ああそうだ。しかし、キノの兄として育ち一緒に住んでいるが、血は繋がってないということも伝えておこう」

「えっ? 血は繋がってない?」

「いずれ私達は結婚することになっていてね、申し訳ないがキノには金輪際近づかないでくれるかい?」

「ちょ、ちょっと待って下さい。それってどういうことですか」

「君には関係ないってことだ」

 先ほどまで恋だの、青春だの現を抜かしていた気分が一度に吹き飛び、突然の悪役の登場に、ジョーイは困惑した。

 ノアはジョーイがどう思おうとお構いなしに、無視をして踵を返した。

 ノアとキノは生活を共にしてきたので兄妹という立場は強い方だった。

 この場合、兄と名乗っても全く罪はない。

 そして血は繋がってないことを強調し、婚約者だと仄めかしたのは、ただジョーイを牽制しただけだった。

 大げさに言った方が、効果が高い。

 意地悪く言うことで、キノにも思い知らせる意図もあった。

 そんな事情など全く知らないジョーイは一人取り残され、ショックでその場に立ち竦む。

 だが訳の分からないこの状況に納得できなかった。

「すみません。直接キノと話をさせて下さい」

 ノアを追いかけジョーイは食い下がった。

 ノアは立ち止まり冷徹にあしらった。

「キノのことは忘れたまえ。どうせ敵わぬ恋だ。忘れるなら早い方が傷も浅い」

「だから、キノと話がしたいんです」

「君もしつこいな」

 邪険にされて、ジョーイは腹を立てノアを睨む。

 ノアを無視して突然走り出し、キノを追いかけた。

「ジョーイ、やめるんだ!」

 ノアの言葉など関係なかった。

 ジョーイはメイン道路へと続く連絡橋の階段を駆け下り、犬と一緒に前を歩いているキノを目指す。

 キノは大通りから右に曲がり、人が集まる広場へと向かっていた。その先にキノの住むマンションがあった。

 ジョーイも同じようにその後をつけて右に曲がったときだった。

 ツクモが前屈みになり、歯をむき出しにして威嚇体制を取って唸っていた。

 キノはその場に突っ立って、目の前の人物を恐ろしげに見ている。

「あれは、ギー」

 ジョーイが立ち止まって驚いていると、後ろからノアが現れ、キノの側に駆けつける。

 そしてツクモに命令をして何事もなく去っていこうとする。

「(盲導犬って凶暴だったんだな)」

 意味ありげにギーが呟いても、ノアは完全に無視をしていた。

「(おい、待てよ。お前達の存在は俺は疾うに気がついているんだ。ジョーイに接触するのも何か意図があってじゃないのか。モルモットさん達よ)」

(ギーは何を言ってるんだ? それにモルモットってどういうことだ?)

 ジョーイはギーの言葉の意味がわからない。

 ノアはギーが何を言おうと無視し、キノを守るように歩いていた。

 ジョーイはキノを追いかけたくとも、ギーがそれを邪魔し前に立ちはだかった。

「(よっ、ジョーイ)」

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