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ロストマーブルズ  作者: CoconaKid
第九章 騒がしい周り
43/62

 時計が五時を過ぎようとした頃、クラブはお開きになった。

 女生徒達はジョーイに未練を残しながら「また来て下さい」と握手を求めていた。

 少し疲れが出ていたジョーイは、適当に返事をして、軽く促す。

 トニーのように、社交的になるにはまだまだ抵抗があった。

 眞子だけが教室に残り、後はそれぞれ帰っていく。

 ジョーイ、トニー、キノそしてリルとこの四人は固まって廊下を歩いていた。

 リルはふとブレザーのポケットに手を入れ、はっとしたように叫ぶ。

 ずっと握り締めていたハンカチが見当たらない。

「あっ、私、忘れ物した」

 リルは教室目指して走って戻っていってしまった。

 その隙に、ジョーイはキノに問いかける。

「なんでリルを連れて来たんだ」

「放課後、廊下で偶然会って睨まれたから。あのままじゃ後味悪くて、それなら私から友達になればいいかなって思って」

「だけど、朝、二人で俺の腕引っ張りあいしてたじゃないか」

「ああ、あれね。なんかああしたら楽しいかなって思って、ちょっと調子に乗ってしまったの。ごめんね」

 遊ばれてたと知ると、ジョーイは呆れて言葉も返せず絶句した。

 そこにトニーが首を突っ込んできた

「一体何を話しているんだ。キノとリルがジョーイを取り合いした? あのリルって子はジョーイが好きなのか。だけどあの子、どこか普通の女の子の雰囲気と違うよな」

「まあな、ちょっと変わってるって言えば変わってるかな。人のこと言えないけどな」

 ジョーイも同じ部類だと言わんばかりに、苦々しい顔つきになっていた。


 リルはその頃、開いた教室のドアから、そっと中を覗きこんでいた。

 眞子が窓際で外を見ながら、耳に手をあて英語で話している。誰かと電話をしているようだった。

 入りにくい雰囲気がして、戸口でまごついてしまった。

 立ち聞きするつもりはなかったが、断片的に、眞子が話している会話から知ってる単語が聞こえてきた。

 なんとなくジョーイについて話しているように思えた。

「あら、何か御用?」

 人の気配を感じた眞子は強制的に電話を切り、振り向いた。

 訝しげにリルを見て、様子を伺っている。

「あの、忘れ物して」

 リルが辺りをキョロキョロと見回せば、部屋の隅にハンカチが落ちていた。

 それを拾い、すぐさま教室を去ろうとすると、眞子が話しかけてきた。

「あなたキノとは親しいの?」

「えっ?」

「だって、キノが連れて来たお友達でしょ」

「いえ、友達とまでは…… どっちかって言うとライバルかも」

「ライバル?」

「いえ、なんでもありません」

 リルはさっさと部屋から出て行こうとした。

「待って」

 眞子は、咄嗟にリルを引き止めた。



「リル、何してたんだ? 遅いじゃないか」  

 やっと戻ってきたリルに、ジョーイは愚痴を垂れるも、リルは思いつめたように口を一文字にして、キノだけを見ていた。

「キノ、ちょっと話がある」

「どうしたの、リル? 私が無理やりクラブに連れて来たこと怒ってるの?」

「おいおい、とにかく早く帰ろうぜ」

 またよからぬ事が起こる予感がして、ジョーイは二人を引き離そうとした。

「ジョーイ達は先に帰っていて」

 リルはジョーイを突きはね、無理やりキノを引っ張って、連れて行ってしまった。

「おいっ! リル」

 ジョーイの声は届かず、二人は姿を消してしまった。

「女同士の話でもあるんじゃないの?」

 トニーがお気楽に言うも、ジョーイにはそうは思えなかった。

 「まあ、いいじゃん、帰ろうぜ、ジョーイ」

 トニーはジョーイの肩を抱き、歩き始めた。

 ジョーイも、それに促されて歩くが、馴れ馴れしく寄り添われたトニーの手を思いっきり振り払った。

「知らない奴が見たら、誤解するだろうが」

「いいじゃん別に、そういう仲なんだから」

「あら、どういう仲なの?」

 後ろから急に声を掛けられ、二人は振り返った。

「あっ、眞子ちゃん~」

 トニーの鼻を伸ばした声が間抜けに廊下に響く。

「二人は仲がいいのね」

「そんなんじゃなくて、俺が一番好きなのは、眞子ちゃんだけだからね」

 眞子はクスッと笑った。

「ほら、早く帰りなさい。そろそろ学校が閉まる時間よ」

 タイトスカートで強調された腰を振り、眞子はスタスタと前を歩いていった。

 そのセクシーさに参るように、トニーは口笛を一吹きし、そして尻尾を振るようについていってしまう。

「おい、トニー」

 誰からも邪険にされたようで、ジョーイは廊下に寂しく一人取り残されていた。

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