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ロストマーブルズ  作者: CoconaKid
第八章 思いつめた心
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 キノが向かったその先の道路際に、白いセダンの車が停まっていた。

 ノアが運転席に前を見据えて無表情で座っていたが、その隣の助手席にも、厳しい表情の男が座っている。

 その二人の存在を確認すると、キノの表情は固く、心はどっしりと沈んでいく。

 恐れと苛立ち、そして逃げたくなる気持ちに立ち向かい、躊躇いながらその車の後部座席のドアを開けた。

 そこにツクモを先に乗せ、後から自分も暗い表情で乗り込む。

 助手席に座っている男と面と向かうのが苦しかった。

 ドアを閉めると、ノアがエンジンを掛け、そして行き先も告げずに車は動き出した。

「(そんな顔をしているところを見ると、悪いことをしたと分かっているようだな。しかし子供野球の試合鑑賞は楽しんだみたいだね。それとも隣に居た彼とのおしゃべりを楽しんだのかな)」

 助手席に座っていた男が前を見据えたまま、英語で静かに語った。

 キノは黙って窓の景色を見つめていた。

 その男には逆らえないはずなのに、黙り込むことで精一杯の抵抗をする。

 助手席に座っていた男はため息を吐いた。

 そこには呆れた気持ちも入っていたが、多少同情する部分もあるため、それ以上話すのが躊躇われた。

 しかし、指導者として敢えて厳しくする。

「(キノ、よく聞きなさい。勝手な行動は慎むんだ。もうこれ以上ジョーイに接近してはいけない。ジョーイの記憶を刺激してなんになるというんだ。ジョーイは確実に過去のことを思い出している。そして当然アスカのことも。アスカはもう死んだんだ。それは君も分かってることだろ)」

「(でも、シアーズ先生……)」

 キノは振り返ったシアーズの目を懇願する思いで見つめた。

 ノアが運転する横で、シアーズは冷静に話を進める。

 学校では教師だが、この二人の前では組織のボスのように振る舞っていた。

「(ジョーイは今日のカウンセリングで変化が見られたそうだ。真須美が報告してきたよ。そしてノア、どうして勝手な行動の手助けをするんだ。リルとかいう生徒を巻き込んだそうだな)」

「(あれは、FBIのギーがキノを罠に掛けようとしたから、キノを守るにはああするしか……)」

 ノアが答えにくそうにしてるとキノが庇った。

「(あれも私の責任です。ノアが考えたことではありません)」

「(あの日、キノがジョーイから夜桜祭りに誘われてそれを阻止するために私に報告したまではよかった。ジョーイを無理に居残らせてキノとの接触を避けた。あのまま放って置けばそれで済んだことだった)」

「(でもジョーイに危険が迫っていたのを、無視することなどできませんでした)」

「(だからといって、関係ないものを巻き込んでどうする。それが却ってキノが手を回したことになるとギーが気づかないとでも思うのか? これ以上こじれる前に、キノ、アメリカへ帰りなさい。君には次の仕事が待っている)」

「(シアーズ先生、もう少し、もう少しだけ普通の高校生でいさせて下さい)」

 キノは恥を忍んですがった。

 必死に頼み込むキノの声を肩越しに聞きながら、ノアは黙って運転をする。

 助けてやれないもどかしさでハンドルを持つ手に力が入っていた。

 シアーズはノアにも影響が出ていると気がつく。

 この先に抱く不安はシアーズも未知のものであり、しっかりと管理する立場ながらどうしていいものかと困惑しだした。

 自分に置かれている立場と、それに係わる者達の心情を考えると自分自身も心苦しくなってきた。

 つい苛立って声を荒げてしまう。

「(これでもキノの願いは受け入れたつもりだ。できることなら協力してやりたいが、事態はそうは行かなくなった。キノはどういう立場なのか自分で分かっているはずだ。このままでは真実はいつか暴かれジョーイが傷ついてしまうんだぞ。そしてジョーイの父親も危険に晒される。それでもいいのか)」

「(もちろんそれは一番避けたいことです。だけどその前に私はもう少しだけジョーイの側に居たいんです。今離れればもう二度とジョーイに会えません。決して危険なことはしないと約束します。だから……)」

 キノはしつこくすがった。

 シアーズは返事に困り、代わりにため息を吐いた。

 キノの一歩も引かない意気込みに、シアーズも負かされていた。

 それに押されて、その気持ちを汲み取ってやりたくなる。

 自分が係わってきたことに対しての罪滅ぼしもあったのかもしれない。

 しかしそれがもっと危険な道へと進んでしまうとわかっているだけに、はっきりとは言えなかった。

 あくまでも曖昧に、シアーズらしからぬ弥縫策を講じる。

「(キノ、いつでも去れる準備をしておくんだ。その覚悟で一日一日を大切に過ごすことだ。私が次に帰れと命令した時は逆らえないことを覚えておきなさい)」

「(それじゃ、あと少しここに居てもいいんですか)」

「(キノが思っているあと少しとはどれくらいの期間を意味しているのかは私には分からないが、それはキノ次第ということだ)」

「(はい)」

 滞在期間が延びたとはいえ、キノは素直に喜べなかった。確実にジョーイとは離れなくてはならない。キノはそのために自分が何をすべきかもう答えを出していた。

 アスカのためにも。

 そしてそれが折角許可してもらえた滞在期間を更に短くすることになると思いつつ、それでもすでに覚悟を決めていた。


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