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ロストマーブルズ  作者: CoconaKid
第七章 見えてきた変化
36/62

 試合終了後、聡が自信あふれた笑みを浮かべて、キノの側にやってきた。

 キノは遠慮なく聡を抱きしめ「おめでとう」と祝福する。

 聡は少し頬を赤くして照れくさそうにしていたが、拒まずに素直に受け入れていた。

「お前、すごいな。見直したぜ」

 ジョーイも称賛した。

「ふん、こんなの当たり前さ」

 聡の生意気な態度に、ジョーイは引っかかるも、結局のところ憎めなかった。

 そこにツクモが聡の足にじゃれ付きだした。

「そっか、ツクモも一緒に喜んでくれてるんだね」

 聡はツクモを荒っぽく撫ぜだした。

 その時喜んでいたはずのツクモの尻尾の動きがピタッと止まり、耳が微かに動き、大人しくなった。

 キノはそれに気が付き、辺りを見回した。

「ちょっとトイレに行って来る」

 キノは校舎側に走って行ったが、ジョーイはこのとき気にも留めなかった。

 キノが居なくなると、改めて聡はジョーイを頭の先からつま先までじろりと見渡す。

「あんた、ハーフ?」

「俺はジョーイだ」

 キノの前では少しは大人しくしていたが、ここからが聡の本性発揮といったところなのかもしれない。

 ジョーイも負けずと上から目線で聡を見つめる。

 背が低い分、聡は少し劣等感を抱いたが、気を取り直して胸を張った。

「まあ、なんでもいいけどさ、キノは俺のもんだから」

「はっ?」

「だからあんたがキノと同じハーフでちょっとその、かっこいいかもしれないけど、それでも俺だって、早く大きくなってかっこよくなるんだから、負けないって事だよ。わかんないのかそれくらい」

 宣戦布告しているつもりだった。

 ガキの癖にませてたが、正直に気持ちを伝えるところは子供らしくて好感が持てた。

 ジョーイは長年作動してなかった喜怒哀楽のスイッチが入ったように、聡を見て笑ってしまった。

「なんで笑うんだよ」

「いや、俺もなんで笑ってしまったのか分からないくらいだ。信じないかも知れないけど、俺、普段笑わないんだぜ」

「そんなこと知るか。でもキノを取るなよ」

 はっきりと子供らしい意思表示に、ジョーイは益々微笑まずにはいられなかったが、返事は曖昧にしておいた。

「キノのことがそんなに好きなのか?」

「うん。大好き。でも今日はなんであんな眼鏡かけてるんだろう。普段は掛けてないのに」

「えっ? 眼鏡掛けてない?」

「うん。あんなの掛けてたらなんかダサい。キノは運動神経も、頭もいいし視力もいいはずなんだけど、もちろん顔だってかわいいのに、あれじゃ折角の魅力が台無し。もしかして原因はお前か? でも眼鏡なんか掛けてなんの意味があるんだろう」

 聡の言葉にさっきまで抱いていたほんわかムードが、一編に飛んでしまった。

 ジョーイはもっと聞きたいとばかりに、たかが小学生の聡にムキになって質問した。

「他にもキノについてなんか知ってることあるのか」

「他に? そういえばキノは一杯色んな言葉知ってるみたい。計算も数を数えるのも早い。集めていたカードを落としたことがあって、それらを拾っていたら、全部で55枚あるねって言ってびっくりした。ほんとにそうだったから」

「なんだって!?」

「キノって本当にすごいんだ。女なのにバッティングセンターで時速150kmの球を簡単に打つんだよ。あまりにも軽々と打つから、それで俺が声を掛けたのがきっかけで仲良くなったんだ。でもキノと一緒にいると驚くことが一杯あった」

 聡が話している側でツクモが鼻をクーンとならし、体を摺り寄せて頭を撫ぜることを催促しだした。

「なんだよツクモ甘えだして」

 聡がツクモに構っている間に、ジョーイは言葉を失って立ち竦む。

 そこにキノがこっちへ戻ってくる姿が目に入った。

 その姿を冷静に見つめてジョーイは思い出す。

 床に転がしたビー玉を、一瞬のうちに数える遊びをしていた光景。

 予めビー玉の数が分かっていたよいうより、やはりあの時アスカは一瞬で数を数えたんだろうか。

 そして自分も同じように人よりも早く数が数えられる。

(やはりキノはアスカなのか?)

 その答えが知りたいとばかりに、ジョーイは真剣にキノを見つめた。

「なあ、キノ……」

 ジョーイが話しだそうとしたとき、聡が先にキノの前に立って遮った。

「キノ、今から俺んち来いよ。おばあちゃんも喜ぶし、遊びに来いよ」

「ごめん、今日はこの後ちょっと用事があるんだ。また今度ね」

「ええ、まさかこいつとどっか行くとか言うんじゃないだろうな」

 聡はキーッとジョーイを睨む。

「違うよ」

 キノは何か変化が起こったように、さっきの元気が飛んでいって力なく笑っていた。

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