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ロストマーブルズ  作者: CoconaKid
第七章 見えてきた変化
34/62

 キノの眼鏡は、確かに初めて会った時、似つかわしくないとジョーイも思っていた。

 黒ぶちで、フレームの部分もまん丸に近く、年頃の女の子がかけるような眼鏡ではない。

 眼鏡を掛けているキノは、何かの動物に似ているとジョーイも思ったもんだった。

 眼鏡の形をどうこういうのは、どうでもよかったが、この時聡が言った『なんで今日はそんな変な眼鏡掛けてるんだ?』という部分が気になる。

(だったらいつもはどんな眼鏡をかけてるんだ?)

 それを聞こうとした時、キノの方が先に声を掛けてきた。

「ここで突っ立ってるわけにもいかないから、あっちに行こうか」

 保護者達が折りたたみ椅子やゴザを用意して散らばって座っている場所を指差して、そっちに向かって歩いていった。

 キノは持っていたトートバッグから用意していた敷物を出して地面に敷いた。

 ジョーイに座るように手を差し伸べる。

 どうしていいか分からないままに、ジョーイはぎこちなく腰を掛けた。

 キノも一人分の距離を開け座ると、その間にツクモが入って来た。お陰で二人の間の緊張感が和らいだ。

「ジョーイ、お腹空いてない?」

 バッグから布に包まれた何かを取り出し、そして結び目を解くと二段の重箱のようなものが顔をだした。

「お、お弁当?」

 ジョーイは目を白黒させてこのシチュエーションに驚いている。

「うん。野球鑑賞しながら何か食べ物があったらいいかなとか思って作ってきた。ツクモ、少し後ろに下がって、ゴーバック」

 真ん中に座っていたツクモは命令どおりに動き、二人の後ろで賢く座る。

 ジョーイの目の前に置いた重箱の蓋を開けると、中から色とりどりのおかずと海苔やゴマをつけたおにぎりが出てきた。

「す、すごいや」

 感嘆するジョーイの声に、キノも笑みを浮かべて満足していた。

 お箸を渡され、ジョーイは戸惑うまま一口食べると、自分がいかにお腹が空いていたか思い出した。

「美味しい?」

 心配してキノが覗き込む。

「うん、美味いよ。ありがとう」

 ジョーイの言葉に安心すると、キノも一緒に食べだした。

 二人して仲良くお弁当を食べている後ろで、ツクモが黙って見守っていた。

 言葉なく、ジョーイはもぐもぐとキノが用意してくれたお弁当を口にしていたが、なぜこんなシチュエーションになっているのだろうと、考えれば考えるほど不思議に思えてきた。

 それよりも何より、これってデート?

 そういう思いが一番強かったように思えた。

 また自分らしからぬ感情が芽生えてくる。

 なぜかそれが心地よく、ほのぼのと楽しい気分にさせてくれた。

 そしてグラウンドで、ユニフォームを着た選手達が整列し、帽子を脱いで挨拶を交わし試合が始まる。

 あの聡は外野手でセンターにいた。

 周りが拍手や掛け声で騒がしくなっている。

 キノも聡が心配だとばかりに見守っている様子だった。

 ジョーイも折角誘われたので、ここは聡のいるチームを応援することにした。

 子供達の野球の試合と言えど、試合をしているものたちは一生懸命なのは理解できるが、周りの保護者の方がより一層力が入っているように見えるのは、親心というものなのだろう。

 そんな情景を見ていると、ふと過去に父親とキャッチボールをした記憶が蘇る。

 嬉しそうにボールを投げていたのは父親の方だった。

 あの頃の無邪気だった自分がこんな風に育ってしまい、父親に対して何の感情も抱かなくなってしまうとは、想像もできなかったとなんだか悲しくなってきた。

 普通ではないことを受け入れると早川真須美に言い切ったものの、こんな風になって生まれてきた自分には何か意味でもあるのだろうかと、やはり心の迷いは拭えなかった。

 ぼーっと試合を見ていたが、ちょうどツーアウトのときに、センターフライがあがると聡がしっかりとそのボールを受け止めた。

 キノが突然大きな声を上げ、それを褒め称えて拍手を送っていた。

 ジョーイはキノの意外な面を見たと少し圧倒されたが、すぐに真似をして同じように声を出した。

 その場のノリに合わせる自分の方が、びっくりな行動だったかもしれない。

 この後、二人で顔を見合わせて微笑んでしまう。

 妙に照れて、恥かしかったが、お互いの顔を見てるうちに楽しくなり、次第に慣れが生じてくる。

(今日は思うままに、感じるままに過ごしてみよう)

 ジョーイはキノの側に居ることで、抑えていた何かが飛び出てくるようだった。

 一回の表が終了し、聡はグランドを走りながらキノの方向を見ているのがわかる。

 キノにしっかりと自分の姿をアピールしている様子だった。

「あの子、聡だっけ。なんだかはりきってるな」

「うん。聡君はいつも一生懸命頑張る子なの。お母さんを早くに亡くして、お父さんも仕事で忙しくて、いつもおばあちゃんが面倒みてるんだけど、とてもいい子に育ってる」

 知らない人に向かって「バカ」と言えるのが、いい子かどうかはさておき、家庭環境の複雑さに自分と同じ匂いを感じていた。

「そっか。でもなんだかキノに懐いている感じだな」

「バッティングセンターで知り合って、なんか意気投合しちゃったって感じかな」

「へぇ、バッティングセンターにも行くのか。そういえば、教わったこと全部やってみるって言ってたけど、コーチでもしたのか」

「えっ、そんな大げさな。ちょっとしたアドバイスだよ。ボールを良く見るとか、腰をもっと低くとか。基本的なことかな」

「キノは野球が好きなのか?」

「好きっていうより、体を鍛えるための趣味程度よ」

「へぇ、スポーツ得意なのか?」

「得意って言うよりも、ストレス発散に近いものがあるかも」

 そんな会話をしている中、聡のチームがヒットを打ち、誰かが一塁に走り出た。

 そして次は聡の打順だった。

「聡君! 頑張って!」

 またキノが声を張り上げた。

 おどおどとした消極的なイメージだったキノが、このとき全く別人に見えてくる。

 知り合いが出ているからいつになく興奮しているだけなのだろうか。

 ジョーイはキノの姿にギャップを感じて圧倒されていた。

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