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ロストマーブルズ  作者: CoconaKid
第四章 秘密、真相、謎解き
20/62

 ジョーイが家の鍵を開け、ドアノブのレバーに手をかけた時、一瞬動きが止まった。

 ギーの言葉が頭によぎっていた。

『真相を知るチャンスかもな』

 母親が出張でいないことを知っていたギー。

 母親が居ないことが真相を知るチャンスとは一体何のことだろうか。

 ジョーイは邪念を捨てるように、ドアを力強く開けて家の中に入った。

 まだトニーは帰ってきていない。

 誰もいない静まり返った部屋。

 すっかり薄暗く、視界のはっきりしない靄の中にいる気分だった。

 靴を脱ぎ、二階の自分の部屋に行こうと階段を上りかけたときだった。

 手すりに手をかけたまま体は停止する。

 ギーの言葉が更なる靄を作り、頭の中まで入り込んできた。

 それを取り除きたいがために、ジョーイは一階にある母親の部屋に向かった。

 引きドアをスライドさせるとそこだけ唯一畳がある和室だった。

 電気をつけると、箪笥や小さいちゃぶ台があるだけの飾り気のないシンプルな空間がくっきり現れる。

 普段も入ることなくいつも素通りな場所だが、ギーの言葉で突然に秘密が隠されているように思えてならなかった。

 母親といえども、黙って留守中に部屋に入るのは気が引けたが、ジョーイは息を飲み辺りを見回す。

 まず箪笥の引き出しを開けると泥棒になったような気分がした。

 やはり気が引けてすぐに閉めた。

 箪笥の上には自分と母親が写った数年前の写真が、木でできたフレームの中に入れて飾られていた。

 写真に写っている母親と目が合うと、益々良心の呵責が強くなる。

 なんとも後ろめたい気分でやるせなかった。

 今度は押入れの前に立ち、躊躇いながら襖をスライドさせた。

 上の段は布団があり、下の段には収納入れのようなものが入っていた。

 反対側もチェックするが、段ボール箱やジャンクっぽいものが押し込められているだけで、変わったものはなさそうだった。

 その中の箱に手を出し、軽く手前に引いてみるが、あまりにもそれは容易い動作だった。

 もし隠したいことがあるのなら、こんな分かりやすいところに無造作に置いておくだろうか。

 ジョーイは中身を確かめることもなく元の位置に戻し、押入れの襖をそっと閉めた。

 結局後味が悪くなっただけで終わってしまった。、

 そして箪笥の上に飾ってあった写真立てを手に取り、母親には直接言えない分、写真に向かって「ごめん」と謝った。 

 それをまた戻そうと置いた時、ばたっと後ろに倒れてしまった。

 後ろの支えの部分をしっかりと固定しようと手にとったとき、その部分が弾みでパラッと外れてしまい、中の写真がずれてしまう。

 きっちりきれいにはめ込もうと、一度裏を取り除いたときだった。

 写真が二枚入っていたことに気がつく。

 後ろに隠れていた写真を、ジョーイは手にとって見つめた。

 そこには自分の母親、サクラを真ん中に挟んで、ジョーイの父親、そしてもう一人見知らぬ男性が笑顔で写っていた。

 写真は古ぼけているが、その中の三人は若々しく、学生のようだった。

「大学時代の写真だろうか。ダディと母さんが一緒に写ってるのは分かるが、もう一人のこの男は誰だ? なぜこの写真を隠すようにここに飾っていたんだろう。母さんの若き忘れられない思い出でもあるのだろうか」

 思わず口をついてしまったが、これについてはそんなに根深く疑問に思うこともなかった。

 家の爆発の事故以来、過去の産物も吹っ飛び、唯一残った写真があるとしたら大切にしたいという思いはジョーイにも理解できた。

 それが青春時代のものなら隠すように飾っていてもおかしくもない。

 初めて見る写真。

 若かりし頃の両親の姿を暫くじっと見つめていた。

 そして視線は見知らぬ男へと移る。

 その男は髪も髭も長く、色的にもライオンのようなたてがみに見えた。

 サングラスを掛けているので、はっきりした顔はわからないが、がっしりとした体躯でかっこいいワイルドな魅力ではあった。

 その反対側の父親は対照的に誠実で真面目腐った堅物に見える。

 ジョーイの目は寂しげにそれを捉えていた。 

「そういえば、俺のダディってこんな顔だったな。ずっと見てなかったから忘れてた。俺に会いたいとも思わず、一体どこで何をしているのやら」

 ジョーイ自身も今更会っても何も言うこともないと、次第に冷めた目つきに変わっていった。

 ジョーイの記憶には、泣いていた母親に気遣うこともなく、黙って去っていった父親の後姿が残っていた。

 子供心ながら何か重大なことがあったと感づいていたが、あのとき母親が見せた悲しい表情が離婚を物語っていたのだろうと思う。

 そして自分たちは捨てられた──。

 一方的に父親が悪いという見解なために、父親に会いたいなどと母親の前で言ったことはなかった。

 そしてそれはいつしか口にしてはいけないとまで思うようになった。

 あれを境に父親に会うこともなくなったが、その後にアスカが消え、そして家が爆発した。

 あれからジョーイ自身、変わってしまったと自覚している。

 一体あの時何が起こったのだろうか。

「もしあの出来事がギーの仄めかした真相に関係していることなら、それを母さんは隠しているというより、辛い思いを忘れたいために言いたくないだけなのじゃないだろうか」

 ジョーイは写真を元に戻しながら、慎重に箪笥の上に飾った。

 探ろうという気持ちは疾うに失っていた。

 FBIが探ってるのは家が爆発したことでの事件性であり、自分自身には関係ないこと。

 そんなことに自分が利用されては困ると、ジョーイは母親の部屋を去った。

 だが、渡された大豆の謎だけはどうもすっきりとしない。

 どんなクイズ番組の問題も答えてきたジョーイにとって、与えられた課題を解けないのは癪に障った。

 謎を解くぐらいなら問題ないだろうと、大豆の件だけは心に留めておいた。

 ジョーイはこのとき、まだ物事を軽く捉えすぎていた。

 ギーの登場で、この日は大豆のことを考えながら夕飯を作る羽目になってしまった。

 玄関先でにぎやかな声がすると、トニーがダイニングエリアに現れた。

「なかなかすぐに帰れなくてさ、すっかり遅くなっちゃった。おっ、嬉しいね。ご飯がすでにできてるなんて。いい妻を持ったよ」

「馬鹿! 早く手を洗って着替えて来い」

「でも、なんかすごくヘルシーな献立だな。豆腐料理? 豆料理?」

 ジョーイは大豆のことを考えすぎてわざわざそれにまつわる食材を買ってきて作ったのだった。

 冷奴、厚揚げ、アゲの入った味噌汁、納豆、豆の煮付け、豆サラダがテーブルに置かれていた。全て大豆に関係している。

「不服なら食うな」

「いえ、そんなことはありません」

 トニーは急いで服を着替えて食卓についた。

 物足りない気もしたが、空腹が食を進ませ、ガツガツと食べだす。

 しかし、納豆だけは無理だと、ジョーイの方へ押しやった。

「なあ、トニー、大豆と聞いたら何を想像する?」

「は? そりゃ、豆腐、醤油、味噌、豆乳…… それから、豆まき? 鬼、節分! でもなんでそんなこと聞くんだ」

「大豆見てたら、奥深いなと……」

 ちらりとトニーに目をやり、ジョーイは反応を気にしていた。

「時々変なことに拘る癖がある奴だと思っていたが、今度は大豆がテーマかい。それで今日の夕飯がこれなのか」

「俺、そんなに変なことに拘ってるか?」

「ああ、ジョーイの拘りは異常だぞ。例えば風呂場のシャンプーの位置。俺が動かすと必ず元に戻すだろ。しかも同じ向きにして。本を並べる順序もそう。必ず 元の本棚の位置に戻す。俺なんてたくさんありすぎて順序なんて覚えてないから適当に入れても、ジョーイは並べ替えるんだよな」

「そんなの普通じゃないか。きっちりと整理整頓してるだけだよ。お前がだらしないだけだ」

「市販の食べ物でもそう。原材料が何かきっちり見る。今回の大豆もヘルシーとかの文句に煽られて拘ってるんだろ。何かと世界でも大豆ブームだからね。それとも他に何か理由があるのかい?」

 拘ってると言われむっとしそうになったが、ジョーイにはトニーが別の方向で捉えてくれている方が都合がよかったので、そういうことにしておいた。

「その通り、大豆はヘルシーだ」とジョーイは箸で煮豆を一粒つまんだ。

「そりゃ、繊維質、植物性たんぱく質、イソフラボンとか体にいいもの一杯詰まってるのは分かってるけど、今日はこれでいいとしても、毎日これじゃ俺は嫌だからね」

「イソフラボン……」

「どうした、まだ何か拘ってるのか? もしかしてダイエットとか更年期障害とかいうなよ」

「お前よくそんなことまで知ってるな。しかし俺がそんなことがあるわけないだろ」

「だったら大豆の何に拘ってるんだよ」

 トニーは夕食に少し不服ながら、空腹を満たすためにひたすら食べていた。

 ジョーイはその後何も言わずに、味噌汁をずずーっとすすった。

「あっ、そうだ。今日キノに会ったぞ」

 ジョーイの口から味噌汁が吹き出そうになる。

「おい、汚いじゃないか。気をつけろ」

「どこで、会ったんだ」

「英会話ボランティアで一緒だった」

「えっ?」

「俺も、彼女を見たとき、思わず『オーマイーガーッド』だった。教室では個人的に話すことができなくて、挨拶するだけで終わったんだけど、その後一緒に帰 ろうとしたら、誰かが迎えに来てるからっていって急いで帰っていった。そしたら本当に車に乗ったとこ見ちまったよ。誰が運転してるか分からなかったけど、 ありゃ、男だな」

 ジョーイは言葉を失ったまま、トニーを見ていた。

「やっぱりハリウッド女優だけあって、周りは派手なんだろうか。益々興味湧いちゃうね。ん? どうしたジョーイ。驚いた顔して。やっぱりお前も気になるんだろ。ジョーイにしては女に興味を持つのは珍しいけど、キノは不思議なことやるだけに特別だよな」

「特別……」

 ジョーイはその言葉を繰り返すと、特別な重みを感じて体が緊張していた。

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