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ロストマーブルズ  作者: CoconaKid
第三章 アスカに惑わされて
13/62

 もしかしたら、駅のホームでキノと会えるのでは……

 そんな淡い期待を持ちながら、ジョーイはホームへと続く階段を一段一段緊張して降りていた。

 しかし、キノの姿はそこにはなかった。

 前日、キノが座っていたベンチに近寄り、そこで飛び散ったビー玉の光景を思い出す。

 他にも探せば落ちているんじゃないかと辺りを見渡せば、本当にきらりと透き通った光を放つ丸いものが目に入った。

 ベンチの足元に隠れるように、透明のビー玉が一つ転がっていた。

 キノの置き土産のような気がして、ジョーイは手を伸ばし迷いなく拾った。

 それを指でつまんで目の前にかざし、光に向けて中を覗いてみる。

 別に変わったものは見えないが、過去に同じようにしてアスカと覗きあったことを思い出した。

 ここでもキノとアスカを混同してしまう。

 しかし、電車が入ってくるお知らせのメロディがホーム全体に流れると、あっさりと現実に引き戻された。

 電車がホームに入るのを眺めながら、ジョーイはそのビー玉をポケットに入れた。

 それはキノに近づく口実になる。

 上からポケットに触れ、ビー玉の膨らみを感じ取りながら、そして電車に乗った。


 乗り換えの駅に着いて降りても、目はキョロキョロとキノを無意識に探していた。

 そんな時、人がひっきりなしに通る慌しい連絡通路で、後ろから自分の名前を呼ばれた。

 キノかもしれないと期待して振り返る。

 だが、それはキノではなく、代わりにグラビアの表紙を飾りそうな完璧な笑顔があった。

 詩織だった。

 またややこしいのに捕まってしまうのかと思ったが、この時、ふとキノの痴漢撃退の話が聞きたくなって、つい自分から走り寄ってしまった。

「嬉しい、私のこと覚えていてくれてた。無視されたらどうしようかと思った。今日はキノちゃんはいないの?」

「あのさ、ちょっと時間あるか?」

「えっ、それってデートのお誘い?」

「違うよ、聞きたい事があるんだ」

 ハキハキと物怖じしない詩織の態度は、正々堂々とした気持ちよさがあった。

 そして何よりあっさりとして男っぽい。

 ジョーイに出会って喜んでいたものの、明らかに黄色い声で騒ぎ出す女生徒達とは違っていた。

 二人は一度改札口を出て、駅の外に向かった。


 乗り換えする大きなターミナル駅だけあって、駅がビルとなっている。

 この辺りは町の中心部分のようにデパートや映画館など娯楽施設が集まっていた。

 詩織がスターバックスを指差し「ここでいいよね」とあっさり決めたので、ジョーイは軽く頷く。

 二人がコーヒーを手に入れテーブルにつくと、美男美女のとてもお似合いのカップルに見えるのか、店の中で注目を浴びていた。

「で、私に聞きたいことって?」

 詩織は軽くコーヒーをすすり、あくまでも自然体でジョーイと接する。

 それが話しやすい雰囲気を醸し出し、ジョーイも遠慮することなく質問をぶつけた。

「キノの痴漢撃退の話を詳しく教えてくれないか」

 詩織はまたゆっくりとカップに口をつけてコーヒーを飲んだ。

 そして口の中が温まった空気を、ため息混じりに軽く吐き出した。

「なんだ、キノちゃんのことか。ちょっとがっかり。私のことかと思ったのに」

 それでも詩織は笑顔を忘れなかった。

「でも、なんでまたそんな話を?」

「とにかく知りたいんだ」

 詩織は先に理由を聞くが、さっさと話さないことにジョーイは少しイラつき、カップを手にして乱暴にコーヒーを飲んだ。

 詩織は苦笑いになりながら、また一口コーヒーを口にしてから口を開いた。

「ハイハイ、ちゃんと話しますよ。えっと、あの時、春休みで友達と遊びに行ってた帰りの電車の中でのことなんだけど、夕方の通勤ラッシュが始まったときで、 つり革をつかんで立ってたら急に背後でもぞもぞしだしたの。人が一杯いたけど、まだすし詰めな程ではなかった。でも気のせいなのかはっきりわからなくて、 自分で後ろを見るのも怖かったから、隣にいた友達に助けを求めたの」

 ジョーイは真剣に聞いていた。

 詩織は映像を頭に浮かべて思い出しているのか、斜め上辺りに視線を移した。

「そしたら友達は私の斜め後ろに背を向けた同じ学校の男の子がいるって言い出したの。そいつが怪しいって」

「同じ学校の生徒? で、そいつが本当に犯人だったのか?」

「はっきりとした証拠はわからなかったけど、その男子生徒は私に触るだけの根拠はあったって訳」

「根拠?」

「私のことに好意をもっていたから」

「でもタイプじゃなくて詩織は相手にしなかった。それでその男子生徒は満員電車で詩織に触ろうとしたってことか」

「私の方をちらちら振り返っていたらしくて、友達がその男子生徒と目が合ったの。それで慌てた態度だったから、友達が痴漢って叫ぼうって言ったんだけど、 そんな態度だけで証拠がなくてもし違ったら私怖くて、それで困ってたの。でもまだもぞもぞが続いていて、どうしようかって思ってたとき、突然どこからとも なくキノちゃんが倒れてきたの。そのお陰で注目を浴びて、さらにキノちゃんが『大丈夫ですか』って大きな声で言ったから、てっきり機転をきかしてくれて痴 漢から助けてくれたように思ったの」 

「なんでそう思ったんだ」

「だって、普通ぶつかったらまずは『ごめんなさい』って言うと思うの。それにいくら電車が揺れたっていっても、あれだけ派手に普通倒れてこないもん。みん なこけそうになったらどこかで足を踏ん張ったりするでしょ。ほら、あれと一緒よ。車が暴走して人を轢いたとき、ブレーキの跡があるかないかくらいわかるで しょ。あの時も私の位置をずらすように力入れて押された感じだった」

 ジョーイは感慨深く一口コーヒーを含みそれを思量して飲み込む。

 詩織の解釈が正しいとばかりにコクリと頷いた。

 そしてコンビニの事件も仕組んだことだと固まっていった。

「そっか、話してくれてありがとうな」

 詩織もコーヒーを一息つくように飲んだ

 そしてここからが本題とばかりにジョーイを見つめた。

「で、なぜこの話を聞きたかったの? キノちゃんについてなんか調べているんでしょ、ねぇ、探偵さん」

「いや、そんなんじゃない」

 ジョーイは落ち着かずにコーヒーをすすった。

「フフフ、嘘をつくのがへたくそね。というより、あなたは嘘をつけない人だ」

「まだ昨日会ったばかりなのに、俺の何がわかるというんだ」

「そうね、言葉を交わしたのは昨日が初めてね、でも私はあなたのこと以前から知ってたわ。私がなぜ昨日あなたに会って喜んだと思う? ずっとあなたと話をしてみたかったのよ」

「俺を口説いたところで無駄だから」

「そんなのわかってるわよ。だから話したかった」

「はっ?」

「あなたはうちの学校の女生徒の間でも結構話題に上るのよ。それにファンクラブがあるのも知らないでしょ」

「ファンクラブ? なんだそれは?」

「よく、女の子からキャーキャー騒がれるでしょ。あれはあなたのファンクラブの人たちよ」

 ジョーイの目はまさに点になっていた。

 その表情がジョーイに似つかわしくなく滑稽で面白く、詩織はクスッと笑っていた。

 またコーヒーを飲み、落ち着いたところで話し出す。

「でもあなたは女の子に騒がれても絶対に有頂天にならない。むしろ雷を落とすように睨み付けて攻撃する。そんなことしても彼女たちには無駄だけど、私はあ なたの毅然とした態度が気に入ったという訳。私があなたと話してもきっと不快感をまず表すだろうなって思うと、確かめたくってさ、だから昨日あなたがその 通りにしてくれたから想像したとおりの人だって思ったの」

「俺は陰で馬鹿にされてるってことか」

「あら、違うわ。彼女たちは純粋にあなたに憧れてるだけよ。それに私はあなたのこと馬鹿になんてしていないわ。あなたが実際どういう人か知りたかっただ け。あなただって、今私にキノちゃんのこと聞いているのは彼女に興味をもったってことでしょ。直接か間接かの違いだけでなんら私と変わらないと思うんだけ ど」

 ジョーイは息を漏らすように「うっ」と呻き、言葉を失った。

「やっぱりストレートに気持ちが顔に表れちゃうね、ジョーイは」

「それで、俺と話してその後どうするんだい。ファンクラブとやらに報告かい?」

 ジョーイは開き直ったとでもいうように、残りのコーヒーを全部飲み干した。

「やだ、私はただジョーイと話したかっただけで、この後のことがあるとしたら、私はあなたの友達になりたいくらいだわ」

「俺と友達?」

「そう、もちろん下心つきでね」

「えっ?」

「友達として普通に接して、そこから私のこと気に入ってくれたら嬉しいなってこと」

「お前って変わってるな。堂々とした潔さに感心するくらいだ。でも友達か、悪くないかもな」

 ジョーイは詩織のサバサバした性格に脱帽だった。

「イエー! これで友達成立っと。ところで、一体キノちゃんのこと調べて何をするつもり?」

「いや、そ、それは別に」

「ん? もしかしてジョーイもキノちゃんに不思議なことされたんじゃないの? それで気になっているとか? あの子ほんと不思議なところあるもんね。実はキノちゃんのことについて聞かれたの、ジョーイだけじゃないんだ」

「えっ、他にも誰かキノのことについて聞いたのか」

 ちょうどその時、詩織の携帯電話の音楽が鳴り出し、話は中断してしまった。

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