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ロストマーブルズ  作者: CoconaKid
第二章 気になる女の子
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 ──俺、もしかしてキノに会うことで緊張してるのか?

 自問自答してみる。

 ジョーイの胃の痛みの原因はキノなのか。

 夢を見たことでキノを非常に意識し始めた自分。

 それはアスカとキノを重ね合わせてしまい、キノを見る事で益々アスカをイメージすることを恐れているのか。

 何をそんなに深刻に悩む必要があるというのだろう。

 いつもの自分を取り戻すべく、深く深呼吸をしてみるもの、辺りを見回して首の動きは過敏になっていた。


 通勤ラッシュで駅の改札口をひっきりなしに人が流れていく。

 ジョーイとトニーもそれに紛れて流されるようにホームへ向かった。

 トニーの行動もいささか落ち着かない。

 前日のコンビニの事件が気になってるのか、キノを見つけようと辺りを見回して探している。

 女性に声を掛けるのを全く躊躇わないトニーだから、キノを堂々と探せるところがジョーイには羨ましく思えた。

 ジョーイは探そうにも普段の自分の姿にふさわしくないと、どこかでストップをかけてしまった。

 無理に探すまいと、首は油の切れたブリキのようにぎこちなく動かなかった。

「アイツ、先に行ったんだろうか。見かけないな」

 電車がホームに入り込むのを見ながら、トニーが残念そうに呟いた。

「またそのうち会うだろう」

 ジョーイは本心を気づかれずに素っ気無く返事を返したつもりだったが、階段を走って降りてくるのではと頭を掻くふりをして首を動かし、階段方面をちらりと見つめた。

 電車の扉が開き、降りる客は少なく、乗車する客がどっと乗り込み、車内はすし詰めとなる。

 電車が動き、つり革を持ち暫く揺られていると、また違和感を覚え、斜め横から視線を浴びている気分になった。

 そっと首を動かして気になる方向を見ようとすると、視界に入った全員の視線が一斉に返ってきた。

 目が合ってジロジロ見られて耐えられなくなり、また前を向いた。

 結局は物珍しさのあまり、誰かがジョーイを無意識に見ていたということなのだろう。

 監視されているなどと時々妄想することがあるが、これも自分の外見が物珍しく、注目を浴びるからだと結論せざるを得ない。

 それでも気に食わないことには変わらなかった。


 乗り換えの駅に到着し、気だるく降りて溢れる人の中に混じっていた時だった。

 すれ違いざまに前日のストーカーの姿を見つけ、はっとする。

 トニーの目の前、何事もなく見てみぬフリをしたが、何気ない顔で自分の学校に向かっているストーカー野郎になぜかムカついた。

 複雑な感情を抱えながら、ジョーイは惰性で学校を目指して歩いていた。

 無愛想な顔で校門の手前に来た時、つい軽く舌打ちしてしまった。

 生徒指導の一環で、教師のシアーズが生徒達に英語で声を掛けていたからだった。

 シアーズは同じようにトニーとジョーイにも「グーッモーニン」と挨拶をするが、その目はどこかジョーイを厳しく見ていた。

  二人は面倒はごめんだと無難に答え、そのまま去ろうとするも、シアーズはジョーイを呼び止めた。

「(ジョーイ、相変わらず笑わないよな。あと一年で高校生活も終わりだろ。もっと青春を楽しめよ)」

 余計なお世話だった。

 シアーズはジョーイが気に食わないのか、顔を見る度につまらない小言を言う。

 ジョーイは不快感を抱きながらも、鋭い目つきをシアーズに向けた。

「(そうそう、俺みたいに楽しめって言ってるんですけどねぇ)」

 トニーが相槌を打つように気軽に話す。

「(お前は遊びすぎだ。身をわきまえろ)」

 シアーズはそれを一蹴し、トニーに呆れた目を向けた。

「(ハイハイ、肝に銘じておきます)」

「(それからトニー、話がある。昼休みにでも来い)」

「(ハイ、了解しました)」

 トニーはおふざけで手のひらを額に当てて敬礼していた。


 いくら担任とは言え、お節介なことまで口を挟むので、ジョーイはシアーズが好きではなかった。

 他の生徒にはしつこく口を出してるところを見たことがない。

 シアーズもジョーイのような生徒は扱い難いのか、何か嫌味の一つでも言わないと気がすまないらしい。

 それなのに、母親は学校の先生だからということで、何かあればシアーズを頼れという。

 男親がいないだけに、こういう存在が必要だと思い込んでいるように思えた。

 迷惑極まりなかった。

「なんか、お前呼び出し喰らったけど、シアーズの奴、うるさい奴だぜ」

 気持ちのはけ口を求めるようにジョーイは小言を呟いた。

「まあな、何かとうるさいのは分かる。でも俺はあの人には頭が上がらないし、それにきついこと言われてもそんなに嫌でもないんだ。呼び出されたのもなんか理由があってのことだと思う」

「トニーがそんなこと言うなんてなんか意外だな」

「そうか。あいつさ、頭いいし、年も40過ぎの割りに若く見えて顔もいいだろ。完璧すぎて返す言葉がないんだよな。だから言うこと素直に聞いてしまうんだ」

 シアーズは確かに精悍で貫禄もあり、男の目から見てもかっこいい部類だった。

 日本語も困らない程度に話せるが、その他にも数ヶ国語話せるらしい。

 だが性格はネチネチしていると思うと、ジョーイは素直に認められなかった。

 ふてくされた顔をしていると、トニーは苦笑いしていた。

「そういえば、気難しいところはジョーイと共通するところがあるかも。似てるところがあるからお互い気が合わないんだろうね」 

「一緒にするな」

 ジョーイが苛立っていても、トニーは気にせず気持ちを切り替え、出会った友達に気軽に声をかけていた。

 女好きのトニーは女性ばかりに声をかけているだけではなく、アメリカ人らしい積極的な行動派で社交性にも長けていた。

 ジョーイと違い、先入観なく自然に人と接し、友達の輪を広げ、学校の先生までもトニーと親しい。

 次々とトニーを慕って、皆気軽に声を掛けていく。

 そしてそれを受け入れ、ボディタッチを加えて楽しそうに話すトニーの姿。

 そんな様子を見ていると、自分はどこか人間性が劣っているとジョーイは感じてならならなかった。

 コンプレックスを刺激され、先ほどのシアーズのことで気分を害してることもあり、面白くないと目の前の光景から目を逸らしてしまった。

 自分が人と違うと思ったのは、決してハーフの外見だけが理由ではない。

 小さな子供の時から既に違和感を抱いていた。

 同じ年頃の子供と遊んでいてもしっくりこない。

 そして傲慢な自分の態度に気がついたのも、その頃だったように思う。

 ただ、アスカだけはジョーイを理解し、唯一気が合った友達だった。

 幼い子供同士だったのに、二人ともどこかませて大人びていた──そんな気がした。

 それともやはり全ては自分が作り出した幻影で、それを信じ込もうとしてそのような記憶を勝手に植えつけただけなのだろうか。

 自分の記憶すら信用ならない。

 しかし、例え幻であったとしても、アスカという存在はジョーイにとって一体何を意味するのか。

 この時もジョーイの頭の中にキノの顔がアスカとして現れていた。

 考え事をしている時に、突然肩を叩かれ、飛び上がるほどハッとする。

「おい、ジョーイ。どこ行くんだ。俺たちの校舎はこっちだぞ。前が見えないほどそんなに苛立ってるのか」

 トニーに何を考えていたかなど説明できる訳もなく、ジョーイは適当に返事してその場を誤魔化し、先を早足で歩き出した。

 トニーは何も言わないが、ジョーイの後姿を見ては溜息をつき、静かに後をついて行った。

 この日、あの夢を見たことでジョーイの心のバランスが崩れ、次々と要らぬ感情を抱く羽目となっていった。

 自分らしくないと分かっていながらも、構内を歩く時、キノの姿を無意識に探していた。

 学年が違えば会う機会も少ない。

 あとは放課後また帰りが同じになるのを期待するしかなかった。


 新学期の始まりは、自己紹介や授業の方針の説明など、本格的に勉強する雰囲気はまだ皆無に等しかったが、三年生となると、お気楽さが軽減する。

 進路が関係してくるため、何をやりたいのかしっかりと見極めて進学を決めろと、どの先生も受験を匂わせたメッセージを送っていた。

 ジョーイは全く何をやりたいのかイメージすら浮かんでこない。

 本人のやる気のなさとは裏腹に、成績だけはどの難関大学も目指せるほどのレベルだというのに──。

 希望する大学に入りたいと熱望し、努力する学生がいる傍らで、ジョーイは望んでなくても世界トップレベルの大学に喜んで迎えられそうだった。

 学校の授業は電卓で計算するようなものに思え、授業態度は覇気がなくいつも冷めていた。

 やるせなく、空虚に満ちた学校生活。

 この日もいつもの繰り返しのごとく、時間だけが過ぎていった。


 今夜の夕食の事を考えながら帰り支度をしていた時、トニーが声を掛けてきた。

「よっ、ジョーイ。俺これから眞子ちゃんに会いに行くんだけど、お前もいくか?」

「眞子ちゃんって誰だよ」

「インターナショナルじゃない方の一般生徒の英語の先生。英会話クラブの顧問もしてて、俺ゲスト出演頼まれちゃった」

「ちゃん付けで呼ぶほどいつの間に親しくなったんだよ」

「いや、まだ会ったことないんだけど、昼休みシアーズに声かけられただろ。あれ英会話のボランティアの話だった。英会話レッスンを手伝ってくれるネイティブな発音する生徒はいないかってシーアズが眞子ちゃんに持ちかけられて俺が選ばれたということだ。はっははは」

 トニーは得意げになっていた。

「俺は遠慮しとくよ。声かけられてないし」

「そう、卑屈になるな。まあシアーズもジョーイだけじゃなく、他の生徒には声を掛けにくかったんだろう。その点俺はこういうの得意っていうのか、天性というのか、適役ってことだ」

「いいから、さっさと行けよ」

 ジョーイがしっしと追い払うようなジェスチャーを交えると、トニーはスキップ交じりで教室を出て行った。

 呆れて椅子に座ったまま大きくため息を吐いたジョーイだったが、その直後突然がばっと立ち上がった。

 ジョーイにもやるべき事があった。

 ──アイツを探さないと!

  キノの事だった。

 突然に火がついたように、慌てて教室を出て行った。

 それはジョーイにはとても珍しい行動だった。

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