本の少女(3)
あの本をリュックに入れて部屋を出る。門を出た。アパートの裏を回って神社の角を曲がり、川沿いに。
そこから橋を渡ると住宅地が広がり、左に行くと公園がある。
と言っても結構前からある公園で老朽化した遊具は錆びて使えずもう、…誰も近付かない。なんでも、昔その公園で自殺した女の幽霊がでるのだとか。
しかし、来年には取り壊して駐車場にする計画が始まる。
そんな公園の正面にあるのが、俺のバイト先〈田邊書店〉。
現在の建物はそんなに古そうには見えないが、田辺さんのひい御祖父さんの代からずっと此処で本屋をやっている。田辺さんのお父さんから古い本を専門に扱うようになったという。
「…戦争で、皆亡くしたからね…。生き残ったのは僕と妹だけだったんだ。」
その妹さんも一昨年 病で亡くなってしまったらしい…。
「だから、独りで寂しくてね…。岬君が 来てくれて本当に嬉しよ。」
「そんな…。」
『ありがとう。』
何もかも全て温かく 包み込んでしまいそうな笑顔で田辺さんは俺に言った。
「だから、危険にさらしたくないだ。」「えっ?」
危険?と訊こうとした瞬間に誰かに声を遮られた。
『そうです、命狙われますよ。これから。』
…んっ?
誰だ!?
田辺さんも目を丸くしている。
「ココですよ、ココ。」
また声が聞こえた。 少し高めの可愛らしい声。
「この本の中ですよ ー!」
まさか…
コヨミさんからもらった緑の本?
「そうです。」
「っ…!?」
思わず本を見た。
「私を…というか、この本に触れてる時はご主人の考えはお見通しなのです。」