本の少女(2)
「…岬君。」
そんな事がある訳ない、と言い切れないのは昨日の女と女の言葉が杁夜の頭の中に引っかかっているからだ。
「な、何かの冗談ですよね!田辺さんも人が悪いなぁ~…」 アハハと無理に笑っても、虚しく店内に響いただけだった。
「岬君、ちょっと見ててごらん。」
そう言うと田辺さんは開いていた頁に手をかざした。
田辺さんがスッと手をスライドさせると 羅列されていた異国の文字が日本語に変わった。
「っ…!?」
―…ていた。月に照らされてキラキラと光る水面。湖の水を少女はそっと掬うと それを口に含んだ。 …―
小説のような文章が並べられている。
「この本にはね、魔術が眠っていると言ったけど、正しくは 魔法使いの魂が閉じ込められているんだ…。」
哀しそうに田辺さんは目を伏せた。
そしてゆっくりと本を閉じる。
「魂…?」
杁夜は復唱した。
「そう、魂。元は人間だった彼等が自ら魔力を宿そうとして 失敗した。」
「魔法使いに、なろうとしたんですね…。」
杁夜はだんだん田辺の言う事があまり冗談とは思えなくなってきた。
「それで、少しは僕の話を信じてくれるようになったかな… ?まぁ、こんな事簡単には信じられないだろうけどね。」
「…いいえ。信じます、とは完全に言えませんが田辺さんがこんな真剣に話して下さった事をただの冗談や空想だとは思えません。」
「岬君…!」
田辺は嬉しそうに笑った。
「ただ、…まだ信じきれない部分がありますが。」
「そうか…なら、まずこれからの話をしよう。徐々にこちらの世界を知ってもらえばいい。」
「はい…。」
こうして杁夜はこの本を知る。
ここからが、世界の 始まりだった―